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蜜月
お姫様抱っことバスケット
しおりを挟む話はかなり跳んでいたが、此処で双子人形が消えた所まで戻そう。
そう、薬師とナディアがポツンと取り残された所までだ。
「ナディア、漸く事の全貌が把握出来たよ……。はぁ、見事に騙されたな。んっと、マジで悔しいな……。あのやろう、次に会ったらぶん殴ってやる」
さも悔しそうに美麗な顔を歪めるのは、どちらかと言うと櫂である。
薬師として其処に立つならば、彼の顔色も眉の一つでさえも、動きはしないだろう。
何事にも動じず、感情も無いかのように装う。
けれど此処には、彼の番のナディアしか居ない。
だから彼は、薬師として取り繕らわなかった。
ナディアがくすくすと笑う。
「櫂は、余程あの方がお好きでしたのね」
「まあね。数少ない理解者の一人だ。今もこれからも……。ナディア」
「はい」
「決めたよ。この身体を捨てる。魂まで糧にしてやる気は無いが、身体くらいならくれてやる。此処には、関わり合った者が居る。お前も此処に捕らわれの身だ。この世界を身体にして世界そのものに成ってやる。世界樹を創る。その為の一歩、ナディア、俺の子を産んでくれないか? 」
そう、ナディアに問うた彼は薬師だった。
もう、迷いも嘆きも彼には無いように彼女には見えた。
そんな彼の決意に、ナディアは少し顔を赤らめつつ頷いた。
「わたくしは貴方の番ですし、世界で一番お慕いしている方です。その貴方様がわたくしを所望して下さるのならば、わたくしは本望でございます。今も昔も貴方だけですわ…… 」
ナディアはそう言って顔を赤らめた。
ナディア、一世一代の『勇気を振り絞った告白』であった。
── ううっ~、二度と言えない。恥ずかしすぎて死ぬっ、しにますっ ──
なんて、モノローグをぶち込む所は、変わらずナディアらしくて微笑ましい。
言いながらぼんっと全身真っ赤に染めるので、つられて薬師も耳辺りが赤くなるのはご愛嬌か。
彼にしてはかなりレアな表情である。
ふふっ、と上品に薬師が笑う。
櫂の時の所作とは大違いだ。
まるで別人格かと思いたくなる彼の態度にナディアはますます赤くなった。
「あぁ、そうだ。ナディア、申し訳有りませんがこのバスケットを持っていてくれませんか? 」
そう言ってバスケットを手渡す薬師の態度は些か強引で、ナディアも目を丸くして逸れを受け取った。
そして薬師は徐に、ナディアの膝裏辺りに腕を差し込んで、彼女を抱え上げた。
嫌、訂正だ。
抱え込んだと言うのが適切だろう。
所謂、お姫様抱っこと言うモノであった。
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