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epilogue
可愛い息子③
しおりを挟むそれは唐突に起こった。
予想しなかった訳では無かったが、こんなに早く起きるものとは思わなかった。
アイセンレイトが、哪吒であった過去を思い出したのだ。
「ぎやぁぁぁぁぁ~」
泣き叫ぶ声に櫂は跳ね起き、部屋を飛び出した。
勿論、ナディアが後に続く。
怖い夢を見た、なんてものじゃ無い。
絶叫に近い悲鳴が聞こえたのだ。
二人はいきなり扉を開けると目の前の光景に唖然とした。
いや、せざるおえなかった。
今まで大切に大切に育ててきた最愛の息子。
その変わりように唖然とした。
まず外見は、全身が白かった。
黒髪は真っ白に、父に似た黒い瞳は真っ赤に、そして肌は黄色人種のそれでは無く(かと言って白人の其れでも無い)、どちらかと言うと、白子 と言われる類の者に成っていた。
一瞬で総ての色と言う色が、彼の外見から抜け落ちていたのだ。
普通、髪の毛の色が一夜にして白く抜けると言うのは聞いた事が有るが、こんな事は初めてだ。
其れよりも何よりも、アイセンレイトの心がズタズタに壊れていた。
「「アイセンレイト」」
櫂とナディア、息子の名を同時に叫ぶ。
でも、動きが早かったのは、ナディアだった。
大声で泣きながら、息子の名前を呼ぶ。
櫂は落ち着いた『薬師』の目で息子を見てみると、アイセンレイトの心が完璧に破壊された訳では無い事に気付いた。
確かに、哪吒は悪童かも知れない。
けれど最期まで悪童であった訳では無い。
櫂は薬壺から万能薬を取り出し、アイセンレイトに与えると、彼を抱きしめるナディアごとアイセンレイトを抱きしめ言った。
「アイセンレイト、聞こえるか? お前は哪吒では無い。アイセンレイトと言う私達の息子なんだ。過去に囚われるな、レイトっ」
果たして、櫂の言葉にアイセンレイトは答えて来るのか。
簡単には反応しない彼の瞳を見て、櫂は、なお一層ナディアごとアイセンレイトを抱え込んだ。
そんな時だった。
「おとしゃ、おかしゃ、にーに? 」
ルリコウ家の天使、フィリー=トウコ=ルリコウが、パタパタと走り寄って来た。
よじよじと、ベッドによじ登って来てジッと兄を見やる。
そして母に抱き締められる兄の頬を、ペチペチと小さな紅葉のような手で叩きながら、にっこりと笑った。
「にーに、ゆめみた? ふぃーはみたよ。にーにがいなくなるの。ふぃーはやだよ。にーに? 」
そう言って、フィリーはアイセンレイトの瞳を覗き込んだ。
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