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第二部:事の始まり
薬師と二匹の龍②
しおりを挟む薬師は、美しい所作で箸を置くと、ご馳走様でしたと、合掌して朝食を終えた。
その途端に、彼のほっこりとしていた表情が引き締まる。
それが嫌だったのか、香燕が即座に湯気の立つ緑茶を彼の前にさささと差し出した。
絶妙なタイミングに、薬師は苦笑する。
白虎に続き、四聖獣はなんでこんなに薬師に従順なのか。
もとい、怖がりんぼなのだろうか。
薬師は差し出された湯飲みに口を付けると、一口すすり、息を吐いた。
「一息付いた所で本題に入るが、向こうの動きはどうなっている? 」
「それは、僕が説明しますよ」
薬師の問い掛けに、浩宇が答えるとそっと箸を置いて彼は薬師を見た。
「先ずは、宵闇の女神様に懸想したと言う男の事ですが、西河領の国守である演 祥啓と言う男です。奴には正妻と愛妾が九人居る色ボケじじいですね。そうやって頑張る割に子供は正妻の子独りきりで、噂では他の妾に子が出来ぬよう、正妻が去勢させたとか…… 」
淡々と話す浩宇に薬師は眉を顰めるがそれも一瞬の事で、
「なかなか気性の荒い奥方なのだな…… 」
と、呟くと、浩宇が首を左右に振りつつ否定的な言葉を放った。
「そう思うでしょう、でも只の女の嫉妬ですよ。正妻は自分の夫を良く知るべきだったんです。祥啓はなまじ顔が良かった上に、それの使い方を心得ていたので、女性を誑し込むのが上手だった。女を妊娠させないと知った途端、生娘から熟女まで喰らい付くし始めたそうです。あ奴には愛妾と呼ばれる女は九人居ますが、味見と称して毒牙に掛けた女達は星の数程居ると有名です」
そう聞いて、薬師は本日二度目の砂キツネと成った。
「それ……、とんでもなく下半身だけで生きてる奴じゃないか。こんな所で飯食ってる場合じゃねぇ…… 、さっさと救出しないと…… 」
「承知しております」
薬師の素が出た所で、浩宇がにっこりと笑む。
瞳に表情を刻まず口元だけで笑んだ浩宇に、香燕は、
「丁度良いタイミングでこんな物がいけしゃあしゃあと届いたんです、薬師様」
そう言って、薬師に一枚のカードを差し出して見せた。
それは招待状。
青龍夫妻に宛てられた、婚約者の御披露目の為の招待状で。
逸れを見せられた薬師は、青龍の意図を正確に読み取ったのだった。
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