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第二部:事の始まり
薬師十二神将の使い道
しおりを挟む「この婚約者ってのは…… 」
「十中八九、奥方様でしょうね…… 」
問い掛けとも言えない薬師の口調に、浩宇が答えると、薬師は真顔から辺りが凍るかと思われる微笑を表情に刻み、
「ならば、奪還させて頂きましょうね。ふむ、護衛として眷属を九人程見繕いましょうか。とびきり見目の良い男を妾の数だけ……。フフッ、彼等には頑張って妾どもを誑し込んで貰って、奴らの目を逸らして頂きましょうね…… 」
と、言って彼はくつくつと笑った。
青龍と白龍の背筋が粟立つ。
その微笑みは美しく穏やかであるように思われるのに、静謐には程遠く感じられた。
その証拠に、全身鳥肌が立ち冷や汗がブワッと毛穴と言う毛穴から湧き出る。
青龍に白龍、二人はこの時初めて薬師の神気に当てられる意味を知った。
神の怒りに触れたのだった。
薬師の呼びかけに、顕現した九名の神のすざまじい気の力に圧倒されて気を失い掛けた青龍と白龍に慌てて薬師が介抱する羽目に陥ったのは、逸れから直ぐの事であった。
はっきり言って、十二人中九人もこの場所に集えば、青白コンビが卒倒するのは当たり前である。
気を回してあげなかった薬師が悪い。
そう言って諭したのは実は日光であった。
「お前、一体何しに来たのですか? 」
言う事欠いて、こうである。
そして、そんな主に脇侍も負けてはいなかった。
「貴方が十二神将なぞ呼び出したりするからでしょうが。それも九人も呼び出そうとして……。九人目を止めて無理やり帰って来ました 」
「仕事はどうしたのですか? 」
「あの程度、月光独りで事足ります。此方の方が気になると言うものです。さて、薬師様、何がありました? 洗いざらいきっちりと、総て吐いて頂きましょうか…… 」
実はこの中で一番怖いのは薬師では無く日光菩薩では無いのかと、二人のやり取りを見てつくづく思う青龍と白龍であった。
「心得ました、致し方有りませんね……。皆さん、お聞きになりましたね…… 」
そう言う日光の言葉に、8人は、銘々の寛ぎ方の儘で頷いた。
揃い揃った八名は、様々なジャンルのイケメン達だった。
薬師のような綺麗系も居れば、さぞや美しい筋肉の持ち主であろうかと思われる様な男に、可愛い系の男。
知的なインテリ感を漂わせる奴も居れば、スラリと背の高い優男も居る。
ありとあらゆるジャンルのイケメン大集合状態であった。
薬師のどう考えても下世話なお願いでも、嫌な顔ひとつせずに聞いてくれた、出来た部下達なのである。
「フフッ、身の程と言うものを知って頂きましょうね……。頼みましたよ、皆さん。気に入った妾さんが居ればお持ち帰りしても良いですよ。皆さんへのご褒美です。けれど、無理強いはしてはいけませんよ。ね…… 」
そう言ってにっこり笑う薬師の顔は、如来そのものではあったが、空恐ろしかった。
君子危うきに近寄らず、である。
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