隣の席の、違う世界のきみへ【第8回ライト文芸大賞奨励賞】

飾らない大トリ

文字の大きさ
2 / 9

第2話:『星詠みのエトランゼ』

しおりを挟む
 最後の授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響き、生徒たちが思い思いに帰り支度を始める喧騒の中。椅子の脚が床を擦る音、ロッカーを開け閉めする軽い金属音、友人たちとの解放感に満ちたおしゃべりの弾む声。それらが混じり合い、少し浮かれたような放課後特有の空気が教室を満たしていく。

 柳田八雲はいつものようにゆっくりとヘッドフォンを外し、教科書やノートを鞄にしまい始めた。しかし今日だけは彼の胸の内はいつもの静けさとは程遠かった。心臓がまるでリズムを狂わせたメトロノームのようにドクンドクンと不規則にそして大きく脈打ち、指先がコントロールを失ったように微かに震えているのを感じる。手のひらにはじっとりと冷たい汗が滲んでいた。冷たいような熱いような奇妙な浮遊感。彼はこの日のために、いやこの瞬間のために、何度も何度も頭の中でシミュレーションを重ねてきた言葉を、今、口にしようとしていた。

 彼のノートの迷宮には、この数日間、栞への告白に関する思考の断片が、他のどのテーマよりも執拗に書き込まれていた。成功した場合のあり得ないほど楽観的な未来予想図。失敗した場合の幾通りもの拒絶の言葉と、それに伴うであろう心のダメージレベルの予測。最適なタイミング、場所、言葉遣い…。あらゆる変数を考慮し、分岐する可能性を樹形図のように描き出してみても、導き出される結論は残酷なまでに一貫していた。失敗確率、90%以上。彼の論理的思考はそう結論付けていた。

 ふと中学時代の苦い記憶が蘇る。あれは確か技術の授業で、自分が夢中になっていたロボットの設計について、興奮してクラスメイトに説明しようとした時だ。相手のぽかんとした表情。理解できないというよりは、興味のかけらもないという冷めた視線。そして背後で小さく上がった「また変なこと言ってる」という嘲笑の声。あの瞬間、自分の内なる世界と他者のいる現実世界との間には、深くて冷たい溝があるのだと彼は痛感したのだ。自分の「好き」は、他者にとっては「奇妙」で「理解不能」なものなのかもしれない。それ以来、彼は自分の内面を他者に見せることに極度の臆病さを覚えるようになった。

 だからこそ、今回の告白という行動は、彼にとって単なる勇気以上の、過去の自分への挑戦でもあった。どれだけ論理的に分析を重ねても、成功確率が限りなくゼロに近いことだけは冷徹なまでに明らかだった。それでも彼は行動することを選んだのだ。計算や論理を超えた何かが、彼の背中を押していた。あるいは、崖っぷちから突き落とそうとしていたのかもしれない。

 の少なくなった廊下は、傾いた西日が床のワックスに鈍く反射して、長く伸びたオレンジ色の光の帯を作り出していた。空気中には埃と掃除用具の消毒液のツンとした匂い、そして放課後特有の少し弛緩した甘いような気怠いような匂いが混じり合って漂っている。靴箱へと向かう生徒たちの話し声や階段を駆け下りる軽い足音が、がらんとした空間に遠く反響している。その中で、八雲は栞の姿を探した。息を止め、心臓の音を聞きながら。

 いた。彼女は友人たちと昇降口で手を振り合って別れ、一人で校門へ向かおうとしているところだった。夕陽を背にした彼女のシルエットが、柔らかく金色に縁取られて光って見える。風が彼女の艶やかな黒髪を優しく揺らしていた。その光景は非現実的なまでに美しく、彼の網膜に焼き付いた。今しかない。今を逃せば、もう二度とこんな勇気は出せないかもしれない。足がすくむ。逃げ出したい気持ちと、ここで言わなければ後悔するという気持ちが激しくせめぎ合う。

「あ、あの…つ、月山さん!」

 絞り出した声は、自分でも驚くほど上ずり、みっともなく掠れていた。喉がカラカラに渇ききって、まるで砂漠のようだ。心臓が口から飛び出しそうだった。足元がおぼつかない。

 栞が少し驚いたようにゆっくりと振り返る。大きな瞳が、夕陽の眩しさにか、それとも予期せぬ呼び止めに対する戸惑いにか、少しだけ細められた。「柳田くん? どうかしたの?」怪訝そうな表情が、彼の決意を鈍らせようとする。彼女の澄んだ声が、やけにクリアに鼓膜を打つ。

(何か言わないと…! でも、何を…?)

 頭の中が真っ白になりかける。練習した言葉が、うまく思い出せない。八雲はごくりと唾を飲み込んだ。喉元までせり上がってくるような圧迫感を感じながら、練習してきたセリフを、震える声で、しかし言葉の一つ一つを確かめるように紡ぎ出した。ノートに書き込んだどのシミュレーションよりもずっとぎこちなく、不器用に。

「あ、あの、えっと、急にごめん。…その、話したいことがあって…」

「うん…?」

 栞は小首を傾げる。まだ状況が飲み込めていない様子だ。

「つ、月山さんのことが…その…」

 言葉が詰まる。視線が泳ぐ。彼女の困惑した表情が、痛いほど伝わってくる。

「…す、好きです。…俺と、付き合って、ください」

 最後の言葉は思ったよりもずっと小さく、夕暮れの静謐な廊下に儚く吸い込まれていくようだった。自分の声がまるで遠くから聞こえるように感じられた。心臓の鼓動がドクンドクンと耳元でうるさいほどに鳴り響き、自分の浅く速い呼吸の音すらやけに大きく聞こえる。まるで世界から音が消え去ったかのような奇妙な静寂が、二人の間に降りてきた。夕陽の光だけが変わらず二人を照らしている。

 栞は一瞬、本当に驚いたというように、その大きな瞳をさらに大きく見開いた。わずかに揺れた黒い瞳の奥に、純粋な驚愕の色が浮かんだように見えた。彼女の呼吸が一瞬止まったのが分かった。だが、その表情はすぐに深い困惑と、それから、傷つけたくないという優しさとが複雑に入り混じった、申し訳なさそうなものへと変わっていった。彼女は八雲の真っ直ぐすぎる、懇願するような視線から逃れるようにわずかに俯き、白い指先で自分のスカートのプリーツを神経質に弄んだ。その仕草が、来るべき答えを暗示しているようで、八雲の胸を締め付けた。息が詰まる。時間が永遠に続くかのように感じられた。彼女の口が開くのを、まるで処刑宣告を待つ罪人のような気持ちで待つ。

「…あのね、柳田くん…」

 彼女はゆっくりと顔を上げた。その声は、やはり柔らかく、優しい響きを持っていた。だが、その奥には明確な拒絶の意思が感じられた。

「気持ち、すごく、嬉しい。本当に。…びっくりしたけど、そんな風に思ってくれてたなんて、知らなかったから…」

 彼女は言葉を選んでいるようだった。その沈黙が、八雲には拷問のように感じられる。

「それに、柳田くんがいい人だってことも、クラスメイトとして、ちゃんと知ってるつもりだよ。頭がいいのも、何かにすごく集中するところも…。すごいなって思う時もあるし」

(いい人…か)その言葉が、かえって残酷に響く。友人としては、という意味合いが透けて見える。

「だけど…ごめん、なさい。…そういう風には、どうしても、見られない、かな」

 静かに、しかしはっきりと、彼女は首を横に振った。その動きに合わせて、彼女の艶やかな黒髪がさらりと揺れ、夕陽の光を反射してきらめいた。八雲の胸が、ぎゅっと、まるで目に見えない巨大な手で握り潰されるような鋭い痛みに襲われる。息が止まるかと思った。予想していた結末ではあった。ノートの分析でも失敗確率は90%以上と弾き出されていたのだ。だが、実際に彼女の口から、彼女の声で拒絶の言葉を聞くのは、想像していたよりもずっと深く、そして残酷なまでに痛かった。現実の痛みは、どんな精緻なシミュレーションでも再現できない、生々しい重みを持っていた。頭の中が真っ白になり、立っているのがやっとだった。足元から崩れ落ちそうになるのを、必死で堪える。

 栞は言葉を探すように少しの間視線を宙に彷徨わせた。何かを言い淀むようにしながらも、彼女なりの誠実さでその理由を伝えようとしてくれているようだった。それがかえって八雲を追い詰める。もう何も言わないでくれ、と心の中で叫びたかった。

「なんていうか…うまく言えないんだけど…。柳田くんが見ているものとか、大切にしているものって、すごく独特で、深いんだろうなって思うんだけど…」

彼女は慎重に言葉を選んでいる。

「…多分、私たち、見ている世界が、少し、違う気がして…。ごめんね、はっきり言えなくて…」

 その言葉は、単なる失恋の痛みよりももっと深く、鋭利な刃物のように、八雲の存在そのものの核心を貫いた。「見ている世界が違う」。このフレーズが、まるで終わらないエコーのように、彼の頭の中で何度も何度も反響した。それは、彼の興味の対象、彼が没頭してきたこと、彼が大切にしてきたノートの内面の世界そのものを、根底から優しく、しかし決定的に否定されたかのように感じられた。自分の世界に閉じこもりすぎているということなのだろうか。彼女には、自分の内面は全く理解不能な、奇妙で近づきがたい、異質なものに映っているのだろうか。中学時代の嘲笑の声が、再び耳の奥で蘇るようだった。

「…そっか…」

 かろうじて、それだけを絞り出すのが精一杯だった。声は掠れ、自分でも驚くほど弱々しかった。

 栞はそれ以上何も言わず、ただ申し訳なさそうに、しかしどこか遠い目をして、八雲を見ていた。その瞳には、同情のような色も浮かんでいる気がして、それがさらに彼を惨めにさせた。

 断りの言葉と共に浮かべた栞のどこか申し訳なさそうな、しかし揺らぐことのない静かな表情。そして彼女がその手に、まるで自分を守る盾のように抱えていた『星詠みのエトランゼ』の単行本の鮮やかな表紙の色彩だけが、やけに強く残像のように彼の脳裏に焼き付いて離れなかった。夕暮れの廊下に立ち尽くす八雲の足元に、彼の影だけが長く孤独に、まるで世界から切り離されたように伸びていた。

 数日間、八雲は失恋のショックから抜け出せずにいた。まるで身体から魂だけが抜け落ちて、空っぽの器だけがそこに在るかのように、何も手につかなかった。授業の内容は右の耳から左の耳へとただ通り過ぎていくだけで、ノートは白紙のままだった。得意なはずの数学の問題も、数字や記号の羅列がただの無意味な模様にしか見えず、思考が空回りするばかり。

 ヘッドフォンから流れる、いつもなら彼の心を静謐な秩序で満たしてくれるはずのミニマルな電子音楽も、今はただ頭の中で反響する不快なノイズのように、彼の意識の表面を滑っていくだけだ。食欲もなく、喉を通るのはミネラルウォーターか味のしないゼリー飲料くらいだった。世界が色を失い、灰色に見え、全ての音はくぐもって聞こえた。

 栞の「見ている世界が違う」という言葉が、まるで解けない呪文のように、彼の思考を執拗に縛り付けていた。彼女の目に、自分は一体どのように映っていたのだろうか。何を考えているのか分からない、何を面白いと感じているのか理解できない、奇妙で少し不気味な存在だったのだろうか。そして、彼女が見ている「世界」とは、一体どんなものなのだろう。彼女があんなにも大切そうに読みふけり、時折クラスの女子と熱心に語り合っている『星詠みのエトランゼ』とは、どんな物語なのだろうか。彼女が心を動かされる世界、彼女が「同じ」だと感じられる世界とは、どんな風景が広がっているのだろう。

 彼女を理解したい。彼女が「違う」と言ったその「世界」を、少しでも覗いてみたい。その切実な、ほとんど渇望に近い想いが、鉛のように重かった彼の身体を、ゆっくりと突き動かし始めた。失恋の痛みはまだ生々しく胸の奥で疼き、鈍い痛みを放っていたが、それ以上に、月山栞という存在への、そして彼女が見ている未知の世界への強い好奇心と、彼の根源的な探求心が、むくむくと頭をもたげてきたのだ。もしかしたら、彼女の世界を知ることで、自分がなぜ拒絶されたのか、その理由の一端でも理解できるかもしれない。そして、もし理解できたなら、少しは…自分は変われるのだろうか。彼女の「世界」に、ほんの少しでも近づくことができるのだろうか。

 その日の放課後、八雲は、まるで禁断の地に足を踏み入れるかのような、重くためらいがちな足取りで、駅前の大型書店へと向かった。いつもなら迷わず直行する最新の専門書やコンピュータ関連書が並ぶ、静かでアカデミックな香りのする三階のフロアには目もくれず、彼はエスカレーターで二階へ上がり、フロアの最も奥まった、鮮やかな色彩と華やかなイラストで飾られた一角へと、息を潜めるように進んだ。

 そこは、彼にとっては完全に未知の領域――少女漫画の棚だった。普段なら絶対に足を踏み入れることのないその場所に、彼は強い抵抗感と場違いさを感じながらも、栞が持っていた単行本の表紙の記憶だけを頼りに、目的の作品を探した。棚にずらりと並ぶキラキラとした大きな瞳のキャラクターたち、パステルカラーの背表紙、甘い恋のキャッチコピーの数々…。周囲で楽しそうに漫画を選んでいる女子高生たちの甲高い話し声や屈託のない笑い声が、まるで自分を嘲笑っているかのように聞こえ、居心地が悪くてたまらない。鼻腔をくすぐる新しい紙とインクの、いつもとは違う少し甘ったるい香水のような匂いが、彼の緊張と疎外感をさらに高めた。

 そして、ついに見つけた。『星詠みのエトランゼ』。棚の中ほどにひっそりと、しかし確かな存在感を放って並んでいた。栞が持っていたのと同じ、幻想的なタッチで描かれた銀髪の少女と黒髪の青年が寄り添うイラストが表紙の単行本。指先が微かに震えるのを感じながら、周囲を窺うようにしてそっと一冊を抜き取る。表紙を撫でると、つるりとした光沢のあるコーティングの下に、タイトルロゴの金色の箔押し部分の微かな凹凸を感じた。それは、かつて高度な魔法文明が栄華を極めたとされる古王国「ステレイティア」を舞台にした壮大なファンタジーロマンらしい。隣には続刊も何冊か並んでいる。

 彼はとりあえず第一巻だけを抜き取り、まるで盗品でも扱うかのように、誰にも見られないように素早く持ち去ると、早足でレジへと向かった。レジのアルバイトの女性店員は特に気にする風もなく淡々と会計を済ませてくれたが、それでも八雲は自分が場違いな不審者であるかのような強い自己意識から逃れることができなかった。

 自室に戻り、電気スタンドの柔らかく落ち着いたオレンジ色の光の下で、八雲はどこか罪悪感を伴うような、しかし抑えきれない好奇心をもって、その第一巻のページを開いた。少しざらついた再生紙特有の素朴な感触が指先に伝わる。

 物語は、記憶を失い辺境の村で心優しい養父母に育てられた孤児の少女リナが主人公だった。ある日、彼女は自分が王国の最も重要な秘宝とされる「星詠みのペンダント」の正当な継承者であり、その身に古代から受け継がれる強大な魔力を秘めていることを知らされる。

 時を同じくして、王国の支配体制を揺るがす不穏な動き――「暁の蛇」と名乗る謎の組織による暗躍――が活発化し、リナは自身の意志とは裏腹に、様々な陰謀が渦巻く王宮へと召し出されることになる。そこで彼女は、自身の出生に隠された驚くべき秘密と、王国が歴史の影に葬り去ろうとしてきた古代魔法の真実、そして「忘れられた月の民」と呼ばれる伝説の民の悲しい運命の謎に、否応なく迫っていくことになるのだ。

 リナを護衛する役目を負うのはカイル。若くして近衛騎士団長の重責を担う有能だが、心を閉ざした影のある青年騎士。彼は過去に経験したある事件によって深いトラウマを抱えており、他人を容易には信用しない。リナの持つ時に危ういほどの天真爛漫さと時折見せる強い意志、そして彼女が秘める底知れない力に戸惑い、反発しながらも、次第に彼女の持つ純粋さや過酷な運命に健気に立ち向かうひたむきさに惹かれていく。一方のリナも、カイルのぶっきらぼうな態度の裏に隠された不器用な優しさや、彼が背負う深い悲しみに触れ、徐々に心を開いていく。しかし二人の間には、王位継承者候補とその護衛騎士という、決して越えることのできないはずの身分の壁が厳然と立ちはだかる。

 この切なくもどかしい恋模様を縦糸としながら、物語は、王国転覆を企む「暁の蛇」との手に汗握る戦いや駆け引き、登場人物たちの間に生まれる熱い友情と時に訪れる残酷な裏切り、自己犠牲の尊さ、そして失われた古代王国の歴史と魔法の謎を探求するという、重厚で多層的なテーマが、繊細かつ美麗な絵柄で見事に織りなされていた。

 最初は「少女漫画なんて…」という拭い去れない先入観と、栞を理解したいという不純とも言える動機で読み始めた八雲だったが、ページをめくるうちに、そんな思いは完全に吹き飛んでいた。何よりもまず、緻密に練り上げられたステレイティアの世界観の深さに、彼は純粋に引き込まれた。

 歴史、地理、文化、社会制度、そして魔法体系とその制約。それらが驚くほど詳細に、そして有機的に設定されており、物語に圧倒的なリアリティと奥行きを与えている。まるで自分が慣れ親しんだ複雑な設定を持つヘビーなSF小説や、緻密な世界観を持つ海外のファンタジー大作の世界に入り込んだかのようだった。

 複雑に絡み合う登場人物たちの人間関係も、単なる善悪二元論では割り切れない深みと葛藤をそれぞれが抱えており、彼の分析欲を強く、そして心地よく刺激した。そして何より、八雲の心を掴んで離さなかったのは、作中に巧妙に、そして惜しげもなく散りばめられた無数の伏線だった。古代文字で記された予言の断片、登場人物たちが何気なく口にする過去の出来事への言及、背景にさりげなく描き込まれた意味ありげな装飾品や紋章、そしてまだ回収されていない数多くの謎、謎、謎。

 八雲の内側に眠っていた考察癖と分析欲は、これ以上ないほど激しく刺激され、活性化した。まるで複雑なプログラムコードの中に隠されたバグを探し出す時や、難解なパズルのピースが一つ一つ嵌っていく時のように、彼の脳はフル回転を始めた。

 彼は、まるで渇いたスポンジが水を吸い込むように、既刊の全巻を一気に読破し、さらに詳細な設定や作者のインタビューが掲載されているというファンブックや関連書籍を求めて、再び書店や古書店、ネットオークションサイトを巡った。アニメやゲームの攻略・考察で培ってきた情報収集能力と分析スキルを総動員し、彼は『星詠みのエトランゼ』という甘く美しい表層の下に広がる、深く時に暗い迷宮のような世界の深淵へと、自ら喜んで潜り込んでいった。

 失恋の痛みは、いつしかこの熱狂的な没入によって、意識の遠い片隅へと追いやられ、代わりに作品への純粋な愛情と、その謎を解き明かしたいという、彼の本質ともいえる強い欲求が、彼の心を、そして彼の時間を支配するようになっていた。それは彼にとって新たな座標軸の発見であり、同時に、受け入れがたい現実からの甘美な逃避でもあったのかもしれない。彼のノートには、いつしかあの孤独な迷宮の代わりに、『星詠みのエトランゼ』に関する情報が、熱に浮かされたようにびっしりと書き込まれていくことになる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

処理中です...