遅れた救世主【勇者版】

ヘロー天気

文字の大きさ
46 / 148
はんげきの章

第四十五話:オーヴィス国王との話し合い

しおりを挟む



 大神殿と王宮を繋ぐ廊下の前で大神官と合流した慈は、国王の待つ部屋へ移動する。大神官には御供に上級神官が二人付いていた。
 慈は見かけ上は一人だが、直ぐ傍に隠密状態のレミが居る。そのレミが、こっそり慈の鞄をつついて何かを報せようとする合図をした。
 慈が身体を解す振りをして姿勢を斜めに崩すと、隣に来たレミが耳元に囁く。

「右側の人」

 それだけで意図が伝わった。大神官の御供の片方が、例の会合に出ていたという怪しい上級神官らしい。
 国王と大神官と勇者が内密な話をする席に、御供として同行を許される立場の人間が、魔族側を支援する集団に関わっているという事だ。

(これは、王様と相談し合うだけじゃ済まなさそうだな)

 今夜はとりあえず早急に現状報告をして、一先ずの対策を話し合うつもりだったが、少々予定を変更しなければならなくなった。


 王宮にある特別な会議部屋に通された慈達。部屋にはアヴィス王と側近の他、護衛騎士の姿もある。入室して挨拶を済ませると、錚々たる顔触れを集めての込み入った話という事で、王は人払いをしようとする。が、慈が待ったを掛けた。

「出来れば信頼出来る騎士なり兵士を、もう何人か追加でお願いします」
「うむ? それは構わぬが……」

 重要かつ内密な話をすると聞いていたのに、人目を多くする意図が分からないと訝しみながらも、部屋には新たに騎士が追加された。
 防諜と警備を厳重にした、密談専用であるこの部屋はあまり広くない。その為、甲冑を着込んだ幅のある騎士達が四方の壁際に並び立つと、圧迫感が凄かった。
 ちなみに、一番スペースを取っているのは宝具の詰まった鞄を背負っている慈だったりする。
 中央のテーブルで国王と側近、慈(と見えない従者レミ)、大神官と御供の神官が向かい合う。話し合いの準備が整ったところで、慈は唐突に切り出した。

「国家の上流層に、魔族側と通じている勢力が居ます」

 前置きもすっ飛ばしていきなりの爆弾投下。王と側近が目配せで何かの意思疎通を行い、壁際の騎士達は思わずといった様子で身じろぎして甲冑を鳴らす。
 少しざわついた空気の中、王の側近が訊ねた。

「あー……勇者シゲルよ、それは我が国の貴族の中に裏切り者が居る、という事かね?」
「そうなります。実は神殿関係者の中にも居ます」

 慈が答えると、アヴィス王が目線で大神官に真偽を問い、大神官は重々しく頷いて肯定した。今回の密談の詳しい事情を聞かされていなかった御供の神官が、驚いた表情で大神官を振り返る。
 その片方――レミが指摘した上級神官は、驚愕の表情の中に別の感情が交じっていたが。

「なるほど、これは確かに由々しき話だな」

 アヴィス王が溜め息を吐きながら呟き、側近は咳払いで気を取り直すと、引き続き話を進める。

「その裏切り者は、判明しているのかね?」
「ある程度は」

 慈がそう答えながら、ちらりと視界に捉えた例の神官は、ひたすら顔色が悪そうだ。

「実は昼間にフラメア王女とお会いしまして、その時に有効な判別条件を教示頂きました。今からそれを実践して見せます」

 そう言って立ち上がった慈は、宝剣フェルティリティの刀身を半分ほど露出させた。

「裏切り者にだけ反応する勇者の刃を放つんで、当たれば確実に死にます」

 フラメア王女のところでやった、『魔王ヴァイルガリンの人類侵攻に加担する者』という条件で勇者の刃を放つ態勢に入る。部屋内にいる者達の間に、動揺とざわめきが一気に広がった。
 勇者の刃を使った判別法は、最後の手段にすべきとシャロルが主張していたが、今回は燻り出す相手が明確なので例外だ――と慈は判断した。

「とりあえず首を狙いますんで、身に覚えがあって死にたくない人は伏せるように」

 慈はそう言って、半分抜き身の宝剣を掲げると、刀身に光を纏わせた。壁際の騎士達は、緊張の面持ちで腹に力を入れている。
 謀反の意思など無く、王家に忠誠を誓っている事を自負しているが、噂に聞く勇者の刃はどんな条件で『敵』と判定して斬り裂くのか分からない。
 もしかしたら、王家に対する何らかの『不満の気持ち』に引っ掛かってザックリやられるかもしれないのだ。

「じゃあ撃ちまーす」

 放たれた光の刃が円状に広がる。その瞬間――

「ひ、ひいぃぃ!」

 一人の神官が悲鳴を上げながら頭を抱えて床に伏せた。その姿に驚く他の面々は、光の刃が自分の身体を素通りして行ったのを感じて安堵を覚える。同時に、床に伏せた上級神官に注目した。
 件の神官は、真っ青な顔で震えており、御供の相方や大神官から困惑の目を向けられている。

「シゲル殿、彼は……」
「見ての通りですね」
「……え、いやしかし」

 彼が裏切り者だと指摘されて、相方の神官は信じられないといった表情を浮かべる。

「そ、そんな、まさか……」

 そして意外にも、大神官が一番狼狽していた。それだけこの上級神官の事を信頼していたであろう事が覗える。

「この場で他に裏切り者が居なくてよかったです。王様、ここに居る騎士さん達は全員、信頼して大丈夫ですよ」
「ほほう」

 一応、信頼できる者達で構成された騎士達だが、神の力を振るう勇者からのお墨付きは大きい。彼等は、自分達の忠誠が勇者に明言された事を誇らしそうにしている。

 それはさておき、床に伏せて勇者の刃から逃げた上級神官である。もはや抵抗する気力も無いのか大人しく拘束され、尋問するべく連行されていった。


「……彼は、護国の六神官の教育指導に尽力した若者だった」

 肩を落としながらポツリと呟いた大神官が語る。リーノが六神官の候補になった時、彼女の能力を疑問視する声に対して才能があると説き、六神官に推挙した指導役でもあったらしい。
 召喚魔法陣の構築作業にも携わっていたという。

「なるほど。そうなると魔法陣のミスも怪しいな」
「そういう事……なのでしょうなぁ」

 大神官の話を聞いた慈は、召喚魔法陣が一文字間違っていたチョンボは、魔族派による作為的な工作だったのかと納得する。

(多分、リーノちゃんを推挙したのも――実力不足を期待してってところか……)

 この時間軸に遡って来た時、魔法陣の間違い部分に気付いたのがリーノだった事を思い出すと、何となく因果めいたモノを感じる。

「あの人は、例の会合で神殿の代表みたいな扱いだったらしいです。他にも関わっている人が居るかも知れないんで――」
「ええ、承知しております。後で神殿の関係者を集めて、シゲル殿の審判を受けさせましょう」

 大神殿の掃除に関しては大神官から言質を取った。魔族側と通じている事を知らずに、件の会合に関わっている者達と交流や取引を重ねている人達も、当然居ると思われる。
 繋がりのある人物を芋づる式に摘発するだけでは、思わぬ取り零しや冤罪を招いてしまうだろう。したがって、しばらくは慈の力に頼った判別をしていくしかない。

(こりゃシャロルさんに説明しとかないとだな)

 軽く捕り物も起きた今回の密談。そろそろお開きというところで、アヴィス王が慈に告げる。

「今宵は大義であった。勇者シゲルよ、此度の成果に何か褒美はいるか?」
「では、明日フラメア王女と会えるようお願いします」
「それだけで良いのか?」
「ええ。大事な話をしたいので」

 他は大体、勇者の特権で何とかなっている。救世主の立場でも気軽には会えない王族とのアポが欲しいという慈の要求に、納得したアヴィス王は何時でも面会を申し込めるよう手配してくれる事になった。

 こうして、国王達を交えたこの日の話し合いというか、魔族派の存在告知と燻り出しは、多少の予定変更もあったが、概ね慈が望む形で成功裏に終わったのだった。


しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜

沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。 数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。

チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?

桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」  その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。  影響するステータスは『運』。  聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。  第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。  すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。  より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!  真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。 【簡単な流れ】 勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ 【原題】 『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~

みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった! 無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。 追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

処理中です...