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はんげきの章
第四十六話:次の段階へ
しおりを挟む翌日。シャロルとアンリウネは査問会絡みの根回しで訪れた大物貴族を巡って、更なる根回しに奔走し、フレイアとレゾルテは査問会での追加告発準備。
セネファスはレミとリーノを連れて『縁合』との打ち合わせに出掛けた。街で『縁合』メンバーと昨晩の出来事を話して情報の共有を済ませ、途中で抜けたレミは慈と合流した。
「どうだった?」
「順調。初耳だった」
「そっか」
レミの報告で『縁合』が『聖都に潜む魔族派貴族の存在』をどこまで掴んでいたか把握した慈は、レミを迎える為に停めていた馬車を走らせる。
今日はこれから、レミと二人でフラメア王女と対談に行くのだ。
「待っていましたわ、勇者様。それに可愛い密偵さん」
相変わらずのフレンドリーな態度とその胡散臭い笑顔に『あ、やっぱいいです』と回れ右したくなる慈。実際回れ右したが、帰るわけにも行かないので王女との対談の席に付く。
「今、帰ろうとなさいましたわね?」
「気のせいです」
慈は、フラメアのツッコミをスルーしつつ、彼女の背後に立つ人物に目をやった。何だか特徴が掴めない不思議な気配のする人物だ。
レミ曰く、件の屋敷に裏口の仕掛けを使って忍び込んでいた男らしい。
(王女様の密偵かな?)
お茶が用意された後、人払いした部屋で向かい合う慈とフラメア王女。二人の他には互いの密偵が傍に控えているだけという空間。まずフラメア王女が先に口を開いた。
「魔族と通じている方達の存在には、気付いていました」
「……」
しかし、誰が敵で味方か分からないので、迂闊に動けなかったとフラメアは言う。
王宮周りも信用を置けないので父王に相談する事も出来ず、細々と情報を集めながら明確な証拠を掴む機を窺っていたのだ。
「これまでずっと耐え忍んできましたけど、貴方のおかげでようやく反撃に出られますわ」
「反撃?」
「随分長い間、聖都の資源が食い物にされていましたのよ? この際きっちり回収して、利子までしっかり支払わせてやりたいですわ」
「ふーむ……フラメア様の手駒ってどのくらいなんです?」
慈は、割と好戦的なんだなぁ等と評しつつ、フラメア王女が現状で動かせる戦力の規模を訊ねる。
「募集中ですわっ」
「ないんですね」
思わず素でツッコむ慈。
「今も言いましたが、これまでは誰が敵で味方か確証が持てず動けませんでした。だから私の信頼できる部下は実質、彼一人ですわ」
彼女はそう言って後ろに立つ男を示した。しかし今なら揃えようと思えば揃えられる。フラメア王女は、慈が自分の少数精鋭部隊を欲している事も知っていた。
「貴方の力であれば、確実に信頼のおける味方を選別出来ますもの。勇者部隊の設立には私も協力させてもらいますわ」
「それは、話が速くて助かります」
変に含んだ言い回しをせず、必要な内容をストレートに話してくれるので、慈としてはやり易い。フラメア王女に求めるつもりだった人材確保の協力要請という目的は、あっさり達成された。
並行して、今後行われる査問会で魔王軍に加担している者達を告発する計画にも、名前を貸してもらえる事になった。
「貴方は査問会には出ないんですの?」
「出ません」
慈は先の宣言通り、査問会には出席しない旨を明言する。
「どうせ詭弁の応酬と予定調和の弾劾やって終わりだろうし」
結果が分かっているのに顔を出しても意味がないと割り切る慈に、王女は思わず笑いだす。
「うふふふ、確かに、落としどころはもう決まっているみたいですわねぇ」
既に答えが出ている結論ありきの茶番でしかない今回の査問会。
新しい情報が出て来るとは思えないが、不正行為に関わっていた者達の間でも、魔族側と通じていた等と言う話は寝耳に水の者も多いだろう。
嫌疑を掛けられた者達は、自らの保身の為に色々詳しく喋ってくれると思われる。最終的には、慈の勇者の刃による判別で全て清算できる。
魔族派の存在が明らかになったのは少々予想外だったが、元々は勇者部隊の設立に横槍が入らないようにする為の、目くらまし目的の不正告発である。
クレアデス側とはレクセリーヌ王女と諸侯達を交えて話が付き、オーヴィス勢はフラメア王女が率先して慈に協力してくれる事になっている。
後は速やかに人材を揃えて勇者部隊の準備を整えれば、まずは隣国クレアデスの王都アガーシャの奪還に向けて動き出せる。
フラメア王女が言った通り、ようやく魔族軍への反撃に出られそうであった。
「今日は有意義なお話ができましたわ。今後ともよろしくお願いしますね」
「こちらこそ、よろしく」
フラメア王女との話し合いで良い結果を出せた慈は、王女と握手して別れた。
この日の午後に、ベセスホードから護衛騎士と傭兵のパークスが到着した。罪人であるイスカル元神官長とグリント支配人を護送して来たのだ。
一応出迎えた慈は、護衛騎士やパークスを労うと、すっかり憔悴した様子のイスカル元神官長とグリント支配人にも一声掛けておく。
「あんた達が下手を打ってくれたお陰で、人類は助かりそうだよ」
「???」
慈にそんな事を言われて困惑のハテナ顔な二人。実際この二人がやらかしてくれたお陰で、聖都に蔓延る魔族派の存在にこれだけ早く気付けたとも言える。
収容施設に連行される二人を見送り、護衛騎士達とパークスを連れて大神殿に戻って来た慈は、改めて皆を労い、任務の完了を告げた。
慰問巡行は中止になってしまったが、ベセスホードへの訪問は十分に意義ある活動になったと。そして傭兵パークスには、今後設立される予定の『勇者部隊』への参加を打診する。
「まあ、もう決まってる事なんだけど、一応な」
「おおう、いよいよ敵地に斬り込むって訳だな? もちろん参加させてもらうぜ」
ちなみに、ベセスホードに同行した護衛騎士達は誘わない。彼等は王宮貴族の身内ばかりで構成された、無駄に血筋が良いだけの、慈からすれば『お飾り騎士』的な存在だ。
騎士団内ではそれなりに腕の立つ者として、勇者一行の護衛に選ばれた者達ではあるが、襲撃を受けた例の件を鑑みても、流石にあの体たらくでは勇者部隊に入れる気にならない。
(この人等も、少数精鋭で魔族軍に強襲を仕掛けるなんて作戦にはついて来ないだろうしね)
ともあれ、これにて慰問巡行の一団は正式に解散となった。
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