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かいほうの章
第六十一話:クレアデス解放軍の始動へ
しおりを挟む「構いませんわ」
「ありがとうございます」
フラメア王女と面会した慈はまず、ルイニエナ達を魔族側の協力者として迎える旨を伝えた。
そして、彼女達を神殿と勇者の保護下に入れるに当たって、王女殿下の名前も貸して欲しいと要請したら、秒で了承された。
特にルイニエナの立場、ヒルキエラにおけるジッテ家や、当主カラセオスについても説明したのだが、フラメア王女は――
「なら、その者を次の魔王に推すのも良いですわね」
と、慈達が対魔王ヴァイルガリン戦略の一つとして考えていた、人類との共存が可能な魔王候補を支援するという案に踏み込んで来た。
「ついでに、あなたの諜報網を使わせてくれるなら、私が彼等の後ろ盾に付きますわよ?」
「どこまで調べてるんすか」
各地に散らばる『縁合』を使って構築した情報集積諜報網『包括諜報網』の利用権も絡めて来るフラメア王女に、ついでで取り上げる話題じゃないよねと突っ込む慈。
(本当にグイグイ来るなぁ、この王女様は)
確かに『縁合』がフラメア王女の保護下に入れば、実質的にオーヴィスの後ろ盾を得るに等しい。彼等が目指していた、大国の後ろ盾を得るという目標が実現するのだ。
「まあ、それで活動が円滑になって情報の精度が上がるなら構いませんが」
そんなこんなと、必要な手続きも丸投げでとんとんと話を進めて行き、フラメア王女との交渉を終えた慈は大神殿に引き揚げる。
「シゲル様、よろしかったのですか?」
帰り道、アンリウネやシャロルからは、フラメア王女に『包括諜報網』の利用権まで与えた事で、強い後ろ盾を得た『縁合』が王女寄りになりはしないかと懸念を示された。
「別に。将来オーヴィスで権力闘争やるわけでもなし、問題無いよ」
今後の魔族軍との戦いにおいて、慈達勇者部隊は敵地での活動がメインになる。利害も一致しているフラメア王女の影響力がオーヴィス内で強くなって困る事は無い。
「ただ――先の話になるけど、現魔王を何とかして人類の救済が成ったら、その場で召還の儀式を頼むよ」
帰り道で交わす雑談のような会話の中に、さらりと重要な事を混ぜる慈に、アンリウネ達は一瞬目を瞠る。
フラメア王女は中々のやり手だ。今は慈の行動に理解を示して積極的に協力してくれているが、将来、強力な勇者をこの国や世界に留め置くべく、何かしら懐柔策を打って来るかもしれない。
その時の為に、自身の影響力を高めている可能性がある。
召環の儀式はオーヴィスに帰還せず、遠征先の魔族国でして欲しい。それは、暗にフラメア王女と相対する事になるかもしれないという示唆でもあり、アンリウネ達を俄かに緊張させた。
そして、使命を終えたらさっさと元の世界に還る気である慈のドライさに、少し寂しい気持ちも浮かべる。
(シゲル様と、もっと心を寄り添わせる事はできないのかしら……)
この世界に召喚されて来た――正しくは五十年後の世界から時間を遡って来た時と変わらない、宝具満載の大きな鞄を背負った慈の背中を見詰めながら、アンリウネは小さく溜め息を吐いた。
ルイニエナ達を協力者に迎えて二日後。クレアデス解放軍の編制が整い、勇者部隊との共闘や双方の初陣が公式に発表された。今日はその結成式とお披露目の祝賀パーティーである。
このパーティーには、レクセリーヌ王女の庇護下に入ったロイエンの存在を、公に周知する目的もあった。
元々はクレアデスの軍閥貴族の中に潜んでいた魔族派の工作で、傀儡王朝の神輿に担がれる予定だった、王族の血を引く庶子ロイエン。
クレアデス解放軍の総指揮を担う立場は変わらないが、解放軍共々、以前とは違いクレアデスと人類の為に戦うべく覚悟と自覚を有している。
クレアデス解放軍は凡そ1200人で構成される旅団規模の部隊。その殆どがクレアデス人だ。
離宮に設けられたパーティー会場には、クレアデス解放軍に参加する兵士達の中でも、とりわけ身分の高い者とその親族が集められ、一般兵達は外の会場で飲み食いを楽しんでいた。
パーティーは立食式で、一応グループ毎にテーブルが別れている。慈達の勇者部隊は人数が少ない事もあって、二つのテーブルに納まっていた。
慈と六神官で囲うテーブル。システィーナと兵士二人にパークスと傭兵二人、それに地竜ヴァラヌスの御者も居るテーブル。
両方のテーブルの間で、時折パンや果物が空中をふわふわと移動している。
「レミ、お行儀が悪いですから、食べながらウロウロしてはいけませんよ」
「ん」
シャロルに注意されて、宙に浮いていたパンがその場でもぐもぐと消失する。相も変わらず、宝珠の外套で姿を消しているレミの仕業であった。
そんなやり取りに苦笑を浮かべた慈は、皆を見渡しながら言った。
「さて、挨拶にでもいこうか」
二班に分かれて会場を巡る勇者部隊。慈と六神官(+隠密中のレミ)は、お披露目されたロイエンと改めて顔合わせに、偉いさん達が集まる一角へと足を向ける。
システィーナとパークス達は、解放軍の各部隊長達が居るテーブルを回るようだ。
ロイエンとそのテーブル周りには、クレアデス解放軍の中でも特に身分の高い指揮官と、関係するクレアデスの貴族達が集まっていた。
慈と護国の六神官が挨拶に来たのを見て、周りの貴族達が道を開ける。
「あ、お久しぶりです、勇者様」
ロイエンが慈に気付いて声を掛けると、周りの貴族達の気配が一瞬硬直した。彼から先に挨拶をした為、この場で勇者の方が格上であると周囲に示す形になってしまったのだ。
この辺り、正式に王族に迎えられたとは言え、心情的にも庶民だった頃の癖がまだまだ抜けないロイエンであった。
「お久しぶりです。この度はクレアデス解放軍の結成と総指揮官の就任、おめでとう御座います」
取り巻き貴族達のねめつけるような視線をまるっと無視して、猫かぶり増し増しに紳士的な挨拶を返す慈。
ロイエンは、自身を囲う貴族達の様子から己の失態に気付いたのか、少し動揺を見せつつも、解放軍の補佐――実質的に総指揮を担う事になる人物を紹介する。
クレアデスの軍閥貴族に列する出自ながら、レクセリーヌ王女からの信頼も厚い将軍。割と大柄で重厚な雰囲気を纏う壮年男性が前に出た。
「お初にお目に掛かる、勇者殿。某はロイエン殿の補佐を務めさせて頂く、元クレアデス宮廷騎士団長、グラドフ・スバチルと申す。以後お見知りおきを」
「勇者の慈です。よろしくお願いします」
無難に挨拶を交わし、顔合わせを済ませる。レクセリーヌ王女の主導で再編成されたクレアデス解放軍は、表向きロイエンが総指揮に就いているが、実際に指揮を執るのは副官のグラドフ将軍である。
今後、遠征先でクレアデス解放軍と作戦を練ったり、方針を決める際は、グラドフ将軍が解放軍側の代表として話し合いに参加する。
「それでは、俺達はこれで」
クレアデス国の王都アガーシャを奪還するまで行動を共にするが、勇者部隊の運用は慈に任されているし、基本的に指揮権も独立している。
道中で街を攻め落とすような戦闘の場面になっても、勇者部隊はクレアデス解放軍側の指示を受ける事はない。
勿論、互いの行動は事前に連絡し合って把握しておく必要はあるが。
本当に顔見せと挨拶だけ済ませて自分達のテーブルに戻る慈に、アンリウネ達はヒソヒソと声を掛ける。
「よろしかったのですか? ロイエン様とも殆どお話できていませんが……」
「うん? ここで話す事は特に無いっしょ」
雑談できる空気でもなかったしという慈の言葉に、アンリウネは「まあ、確かに」と納得する。
「あの取り巻きの前で下手な事を言うと、面倒が増えるからねぇ」
「グラドフ将軍がまともそうな方だったのは良かったですね」
セネファスがクレアデス貴族達の様子を揶揄すると、シャロルが解放軍の副官は話の通じる人そうなので安心できるとフォローした。
彼等と腰を据えて話をする機会は、出撃してからになるだろう。
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