遅れた救世主【勇者版】

ヘロー天気

文字の大きさ
63 / 148
かいほうの章

第六十二話:祝賀パーティーにて

しおりを挟む



 クレアデス解放軍の結成式とお披露目の祝賀パーティーが催されている離宮の会場にて。
 総指揮を担うロイエンのところまで挨拶に出向いていた慈達がテーブルに戻って来ると、隣のテーブルのパークス達が何やら微妙な雰囲気になっていた。
 解放軍の各部隊長達のテーブルに顔見せと挨拶回りに出る前は楽しそうに飲み食いしていたのが、今は静かと言うか、どんよりしている。

「どうしたんだ?」
「ん? ん~、ちょっとなぁ」

 パークスが、ちらりとシスティーナを横目に見ながら言い淀む。
 普段は勇ましい甲冑姿を見慣れているシスティーナは、今日は上品なドレスを纏っているのだが、その表情は翳り捲っていた。

「システィーナさん、何かあった?」
「いえ……すみません、少し注意を受けまして」

「いや、注意じゃねーだろアレは」

 システィーナが申し訳なさそうにポツリと答えると、パークスが盛大に溜め息を吐きながら呻くように言った。
 すると、彼等と一緒に挨拶回りに出ていた兵士隊と傭兵達がうんうん頷きながら追随する。

「何か絡まれたんですよ、元近衛兵の従者とかいう奴等に」
「クレアデス人の内の事情だからってんで俺等も口噤んでましたけど、あれただの僻みでしょ」

 詳しく聞いてみたところ、解放軍の各部隊長の一部から、システィーナに対して批難めいた言葉を向けられたのだという。

 解放軍に参加しているのは殆どがクレアデスから避難して来た民だが、各部隊長にはクレアデスの元軍人も多い。
 その中には、王都アガーシャから王族と共に脱出して、パルマムまで落ち延びた者達の生き残りも居た。その彼等から、システィーナが勇者部隊に所属している事を咎められたらしい。

「私が今の立場に居られるのは、シゲル殿に取り入った結果だと見做されているようでして……」

 パルマムで王族や民を護れなかったばかりか、クレアデスの騎士で在りながらオーヴィスの勇者に媚びを売り、武勇と栄誉を騙る不徳者――そんな事を言われたそうな。

「要は、女を武器にして出世したって思われてるのさ。で、それが気に入らねぇって話だな」

 システィーナは色々濁そうとしたが、パークスが面倒くせぇとばかりにぶっちゃけた。

「なんだそりゃ? 玉砕覚悟でパルマムの奪還に挑んだり、レクセリーヌ姫の保護と救出にも貢献した事とか知らないのか? そいつら」

 勇者部隊にシスティーナが所属しているのは、慈が彼女の実力を見込んでレクセリーヌ姫と直接交渉をおこない、引き抜いたのだ。システィーナには何ら批難される謂れなど無い。

「つーか、その言い掛かりだと勇者に対しても侮辱になってるよな?」

 相手は分かってるのかな? と、慈はアンリウネ達に視線を向ける。慈の言わんとする事を理解してか、セネファスとシャロルが目に剣呑な色を浮かべながら告げた。

「抗議でもいれとくかい?」
「もし、今パークス様が仰ったとおりの意味合いの言葉でシスティーナ様を侮辱した場合、シゲル君とその後見である大神殿、ひいてはオーヴィス国への侮辱とも見做せますね」

 また、慈のシスティーナのスカウトにはレクセリーヌ姫も同意しているので、姫君が認めたシスティーナの勇者付きに対しても暴言を吐いた事になり、不敬を指摘できる。

 周囲で聞き耳を立てていたクレアデス解放軍側の関係者が、顔を青くしている。システィーナは慌てて慈達の抗議入れに待ったを掛けた。

「い、いえ、流石にそれは……」

 本当に極一部の者が宴の席で戯れ言を口にしただけなので、勇者様の手を煩わせるほどの事では無いからと、システィーナは大事にしたくない旨を訴えた。

「本当に? 酔っ払いの戯れ言だと割り切れてる?」
「も、もちろんです。私はシゲル殿に仕える事を誇りに思っていますから」

 同郷の人間から投げ付けられた心無い言葉に、傷付いた気持ちを我慢していないかと問い詰める慈に、システィーナは『大丈夫です』と気丈に振る舞う。
 とはいえ、つい先程までどんより翳った表情をしていたのは確かなのだ。

 慈としては、これから大きな作戦に参加するに当たって味方との不和は解消しておきたいのだが、仲間の全てが皆仲良しこよしでいられるわけではない事も理解できる。
 とりあえずここは、騒ぎにしたくないシスティーナの気持ちを尊重して、相手方への抗議入れは保留にしたのだった。


 その後は特に問題も起きず、祝賀パーティーは恙無く終わった。クレアデス解放軍と勇者部隊の面々は、明後日の出陣に備えて英気を養う。
 神殿の自室に帰って来た慈は、宝具入れの鞄を下ろしながらふいに虚空へ問い掛けた。

「で、どうだった?」
「ただのやっかみ」

 隠密を解いて姿を現したレミが答える。システィーナの話を聞いた時、慈はレミに合図を送って、件の『近衛の従者』を探りに行かせていたのだ。

 レミが探って来た情報によれば、システィーナに絡んでいたのは嘗てパルマムの街で全滅した、クレアデスの近衛隊に仕えていた従者の若者達らしい。
 クレアデス解放軍の中では、小隊長として歩兵部隊の一つを指揮する立場に就いている。

 彼等は、超エリート集団の近衛隊に仕えていた自分達を差し置いて、格下だったアガーシャ騎士団のシスティーナが、女だてらに勇者の特別な部隊に重用されているのが気に入らない。

「――って感じだった」
「ふむ……一応、目は付けておくか」

 慈は、基本は放置でいいが、この先、進軍中もシスティーナにちょっかいを掛けて来るようなら締めるという方向で、この問題を処理するのだった。



しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜

沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。 数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?

桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」  その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。  影響するステータスは『運』。  聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。  第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。  すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。  より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!  真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。 【簡単な流れ】 勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ 【原題】 『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』

スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~

みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった! 無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。 追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

処理中です...