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かいほうの章
第六十二話:祝賀パーティーにて
しおりを挟むクレアデス解放軍の結成式とお披露目の祝賀パーティーが催されている離宮の会場にて。
総指揮を担うロイエンのところまで挨拶に出向いていた慈達がテーブルに戻って来ると、隣のテーブルのパークス達が何やら微妙な雰囲気になっていた。
解放軍の各部隊長達のテーブルに顔見せと挨拶回りに出る前は楽しそうに飲み食いしていたのが、今は静かと言うか、どんよりしている。
「どうしたんだ?」
「ん? ん~、ちょっとなぁ」
パークスが、ちらりとシスティーナを横目に見ながら言い淀む。
普段は勇ましい甲冑姿を見慣れているシスティーナは、今日は上品なドレスを纏っているのだが、その表情は翳り捲っていた。
「システィーナさん、何かあった?」
「いえ……すみません、少し注意を受けまして」
「いや、注意じゃねーだろアレは」
システィーナが申し訳なさそうにポツリと答えると、パークスが盛大に溜め息を吐きながら呻くように言った。
すると、彼等と一緒に挨拶回りに出ていた兵士隊と傭兵達がうんうん頷きながら追随する。
「何か絡まれたんですよ、元近衛兵の従者とかいう奴等に」
「クレアデス人の内の事情だからってんで俺等も口噤んでましたけど、あれただの僻みでしょ」
詳しく聞いてみたところ、解放軍の各部隊長の一部から、システィーナに対して批難めいた言葉を向けられたのだという。
解放軍に参加しているのは殆どがクレアデスから避難して来た民だが、各部隊長にはクレアデスの元軍人も多い。
その中には、王都アガーシャから王族と共に脱出して、パルマムまで落ち延びた者達の生き残りも居た。その彼等から、システィーナが勇者部隊に所属している事を咎められたらしい。
「私が今の立場に居られるのは、シゲル殿に取り入った結果だと見做されているようでして……」
パルマムで王族や民を護れなかったばかりか、クレアデスの騎士で在りながらオーヴィスの勇者に媚びを売り、武勇と栄誉を騙る不徳者――そんな事を言われたそうな。
「要は、女を武器にして出世したって思われてるのさ。で、それが気に入らねぇって話だな」
システィーナは色々濁そうとしたが、パークスが面倒くせぇとばかりにぶっちゃけた。
「なんだそりゃ? 玉砕覚悟でパルマムの奪還に挑んだり、レクセリーヌ姫の保護と救出にも貢献した事とか知らないのか? そいつら」
勇者部隊にシスティーナが所属しているのは、慈が彼女の実力を見込んでレクセリーヌ姫と直接交渉をおこない、引き抜いたのだ。システィーナには何ら批難される謂れなど無い。
「つーか、その言い掛かりだと勇者に対しても侮辱になってるよな?」
相手は分かってるのかな? と、慈はアンリウネ達に視線を向ける。慈の言わんとする事を理解してか、セネファスとシャロルが目に剣呑な色を浮かべながら告げた。
「抗議でもいれとくかい?」
「もし、今パークス様が仰ったとおりの意味合いの言葉でシスティーナ様を侮辱した場合、シゲル君とその後見である大神殿、ひいてはオーヴィス国への侮辱とも見做せますね」
また、慈のシスティーナのスカウトにはレクセリーヌ姫も同意しているので、姫君が認めたシスティーナの勇者付きに対しても暴言を吐いた事になり、不敬を指摘できる。
周囲で聞き耳を立てていたクレアデス解放軍側の関係者が、顔を青くしている。システィーナは慌てて慈達の抗議入れに待ったを掛けた。
「い、いえ、流石にそれは……」
本当に極一部の者が宴の席で戯れ言を口にしただけなので、勇者様の手を煩わせるほどの事では無いからと、システィーナは大事にしたくない旨を訴えた。
「本当に? 酔っ払いの戯れ言だと割り切れてる?」
「も、もちろんです。私はシゲル殿に仕える事を誇りに思っていますから」
同郷の人間から投げ付けられた心無い言葉に、傷付いた気持ちを我慢していないかと問い詰める慈に、システィーナは『大丈夫です』と気丈に振る舞う。
とはいえ、つい先程までどんより翳った表情をしていたのは確かなのだ。
慈としては、これから大きな作戦に参加するに当たって味方との不和は解消しておきたいのだが、仲間の全てが皆仲良しこよしでいられるわけではない事も理解できる。
とりあえずここは、騒ぎにしたくないシスティーナの気持ちを尊重して、相手方への抗議入れは保留にしたのだった。
その後は特に問題も起きず、祝賀パーティーは恙無く終わった。クレアデス解放軍と勇者部隊の面々は、明後日の出陣に備えて英気を養う。
神殿の自室に帰って来た慈は、宝具入れの鞄を下ろしながらふいに虚空へ問い掛けた。
「で、どうだった?」
「ただのやっかみ」
隠密を解いて姿を現したレミが答える。システィーナの話を聞いた時、慈はレミに合図を送って、件の『近衛の従者』を探りに行かせていたのだ。
レミが探って来た情報によれば、システィーナに絡んでいたのは嘗てパルマムの街で全滅した、クレアデスの近衛隊に仕えていた従者の若者達らしい。
クレアデス解放軍の中では、小隊長として歩兵部隊の一つを指揮する立場に就いている。
彼等は、超エリート集団の近衛隊に仕えていた自分達を差し置いて、格下だったアガーシャ騎士団のシスティーナが、女だてらに勇者の特別な部隊に重用されているのが気に入らない。
「――って感じだった」
「ふむ……一応、目は付けておくか」
慈は、基本は放置でいいが、この先、進軍中もシスティーナにちょっかいを掛けて来るようなら締めるという方向で、この問題を処理するのだった。
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