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しゅうそくの章
第百二十六話:ルナタスに向けて
しおりを挟むルナタスの攻略に向かう道中にある集落に立ち寄っていたテューマ達独立解放軍の大遠征部隊は、ベセスホード要塞が正統人国連合の襲撃により陥落したという急報を受けた。
司令部として使わせてもらっている集会所に各部隊長達を集めて緊急対策会議を開いた結果、こちらに向かっているらしいタルモナーハ族長と私兵団には迎えの救援部隊を出す事になった。
大遠征部隊の戦力にあまり影響を出さないよう、信頼出来る人材且つ少数の精鋭部隊として、以前、廃都まで宝具の捜索に出ていたメンバーが選ばれた。
斥候部隊長のカリブをリーダーに調達部隊の狩人チームから若者とベテランの混合部隊を編制。ミレイユ(レミ)に御執心だった若い少年狩人と相方の少女も救援部隊に組み込まれている。
テューマ達指揮部隊と大遠征部隊本隊は、このまま進軍して決起軍勢力と合流し、ルナタスの攻略に参加する方針で決まった。
「じゃあ頼んだわよ、カリブ」
「お任せください。直ぐに出ます」
「ああ……俺もミレイユ隊長と一緒のが良かったのに……」
「ぐずぐずしない、行くわよっ」
レミ推しの少年狩人は、相変わらず相方の少女の尻に敷かれているようだった。
さておき、方針が決まった事で独立解放軍は活発に動き出す。カリブ達救援部隊は準備を整え次第、馬車二台を使って来た道を戻り、タルモナーハ族長と私兵団を迎えに出発。
テューマ達指揮部隊と大遠征部隊本隊は、夜明けと共にこの集落を出てルナタスに向かう。
大きな篝火が焚かれる集落の広場に張られていた野営テントも半分が畳まれ、先行する一部の斥候班が早くも出撃して行く。
村長宅の客間にお邪魔している慈とルイニエナは、出発の時に備えて仮眠に入るのだった。
翌日、お世話になった集落の村長に挨拶をして心付けも渡したテューマ達は、勇者の駆る地竜を先頭に行軍を再開した。
ルナタスには三日後の到着を予定している。
決起軍勢力との合流の際には既に戦闘が始まっている事も考えられるので、即時参戦が可能な体制での行軍を意識していた。
地竜ヴァラヌス二世の荷台から、荒れ気味の道を均す光壁型勇者の刃を放っている慈は、隣に座るテューマとルイニエナも交えて、解放軍の兵士達を投入するタイミングについて相談する。
「俺としては、やっぱり勇者の刃でさっくり片付けて先に進みたいところだけど」
「私もそうしてくれると助かるんだけど、どうしても実績は必要になると思うのよ」
いくら名目上の指導者、担ぎ易い御輿の役割を自覚して担っているとはいえ、簒奪者ヴァイルガリンを下した後は、正統な魔王の後継者として振る舞う事になるのだ。
決起軍の各組織からも認められるよう、『魔王としての力』は示しておきたい。
「そういやテューマちゃんが戦うところ見た事ないな」
「実際、どのくらいやれるのだ?」
「今になって聞くかな~それ」
初対面で清楚な淑女の猫を被っていた印象があったとは言え、当初の計画では宝珠の武具を装備した彼女が先陣に立って解放軍を率いる予定だったのだ。
強大な魔力頼りの面もあるが、相応に戦えるだけの力は持っているという。
「それなら俺とペアで斬り込む演出で……いや、演出ならルイニエナも交ぜた方が面白いか」
「何の話だ?」
訝しむルイニエナに、慈は自分達がこの戦いの中心で在り続ける良い方法を思い付いたと語る。
「俺は目的さえ達せれば誰が牽引役になろうが構わないんだけど、後々スムーズに事を運ぶなら、やっぱりテューマちゃんを中心に添えた方が帰還計画も進めやすいと思うんだ」
「ふむ。力ある穏健派魔族達の協力も得たいという話だったな」
ルナタスの攻略戦で決起軍勢力の面々に独立解放軍の存在を印象付ける方法として、『勇者』と『正統なる魔王の後継者』と『穏健派魔族筆頭の当主代理』が前線で共闘して見せれば――
「かなりのインパクトがあると思うんだけど」
「確かにそれは、中々悪くないかもしれない」
「ああそっか、私達の共闘が知れ渡れば、まだ日和見してる勢力の後押しになるよね」
ジッテ家の当主代理であるルイニエナが、勇者や独立解放軍の指導者と共闘したという事実は、未だ地下で燻っている穏健派魔族に「ジッテ家が反撃に出た」という明確なメッセージになる。
ヒルキエラ国の内外で息を潜めて反抗の機会を窺っている反ヴァイルガリン派の中でも、今回の決起声明に懐疑的で呼応しなかった穏健派勢力を味方に呼び込めるかもしれない。
「俺の帰還計画を進める間だけでも、主導権は穏健派に握っておいて貰いたいからな」
「お前は、そこは本当にブレないな……」
「そうだね。今の決起軍で中心になってる人達って、ちょっと闘争思想寄りみたいだから――」
ヴァイルガリンを倒した後で、魔王の座を巡って内輪揉めを起こさせない。ベセスホードから発した決起声明の通り、テューマを前魔王の正統な後継者として円滑に戴冠させる。
その為には、ほぼ全ての穏健派魔族から容認されるくらいの支持と勢いが必要だろう。
「でも、私達の共闘を印象付けるやり方ってどうすれば?」
戦い前の口上合戦や、参戦時の名乗りで戦場中に声を響かせて告げ知らせるくらいしか思いつかないというテューマに、慈はそれくらいでも十分だろうと考えを語る。
「戦闘自体は俺が中心になるから、二人は俺の傍で適当に目立ってくれればそれで」
攻撃は勿論、防御も勇者の刃で完璧にこなせるので、戦場の目立つ場所で三人固まって動く。要所要所でルイニエナやテューマが演説張りに声を上げれば、嫌でも注目度は上がるだろう。
「それは、実に目立ちそうだな」
「そっか……シゲルの光の中なら安全だものね」
戦場での立ち回り方について、あれやこれやと話し合う。三人で突出して動く場合、指揮部隊と大遠征部隊本隊の扱いをどうするかも考えておかなければならない。
「方針だけ決めておけば、部隊の指揮は私無しでも大丈夫かな」
「ならば、次の休憩地でその辺りを詰めてしまおうか――はぁ、分かってはいた事だが……」
テューマの言葉にそう提案したルイニエナが、溜め息など吐きながら慈を見やる。
「なにかな?」
「いや、お前とゆく戦場は真っ当な戦いにならないと思ってな」
「勝てばよしだ」
大体余所の世界の一般人を巻き込んでいる時点で真っ当な戦いではないという慈の突っ込みに、ルイニエナは深く納得して反論出来なかったのだった。
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