128 / 148
しゅうそくの章
第百二十七話:ルナタス攻略戦
しおりを挟むルナタスの街は先の戦争時代より以前からそこそこ発展しており、比較的高い建物も多い。街を囲う防壁は王都の城壁に勝るとも劣らず、大きくて頑強。
征服戦争の初期にあっさり陥落したのは、奇襲に加えて戦いが始まる前から内部に多数の敵が入り込んでいた為だった。
十分な戦力を揃えた上で護りに入れば、難攻不落の要塞と化す。
「ラギ様、左翼が崩れそうです。このままでは戦線を維持できません」
「ちっ、後詰めを救援に当てろ! 一度下がって仕切り直しだ!」
そんなルナタスの街を果敢に攻めているのは、決起軍勢力の中でも規模、戦力共に中心的な役割を担って来た武闘派魔族組織、ラギ族長が率いるタイニス家一族の部隊であった。
独立解放軍の到着を待たず交戦に踏み切ったのは、ルナタスの街にヒルキエラからの援軍部隊が入り始めた為。
相手の防衛体制が整う前に叩くべきというラギ達の主張が全会一致で支持された。
「正面、敵軍退いて行きます!」
「ぁあ? 何でこのタイミングで退く」
「範囲攻撃を狙っているのかもしれません。警戒を」
ルナタスの正門前の戦いは概ね拮抗していた。
ラギ族長の部隊が一当てしている間、後方には穏健派魔族組織の部隊や、レジスタンス組織の部隊がそれぞれ陣を敷いて戦況を窺っている。
彼等は、ラギの部隊が防衛部隊を打ち破れば街に突入して制圧の援護を。護りを崩せず退却するなら、その撤退を支援するべく待機していた。
「敵魔術士隊に範囲殲滅魔法の兆候!」
「!っ 全隊下がれ! 全力で後退だ!」
「後方の待機組にも退避指示を」
「過縮爆裂魔弾、接近!」
「姿勢を低くして障壁を全開にしろ! 爆風を逸らせ! まともに受けるんじゃねーぞ!」
一発放つのに熟練の魔術士が数人で協力して行使する範囲殲滅魔法が、ラギ達の部隊上空で炸裂する。
凄まじい多重爆発を何とかやり過ごし、すぐさま再攻勢を仕掛けようと考えていたラギだったが、続けて飛んで来る複数発の過縮爆裂魔弾に目を瞠った。
「こいつを連発する――? まさか、第一師団が出張って来やがったのかっ!」
過縮爆裂魔弾のような特殊な範囲殲滅魔法を扱える部隊は、魔族軍の中でもあまり多くは無い。
ましてやこの魔法での飽和攻撃が可能な部隊となると、第一師団所属の魔術士部隊の中でも、フラーグ将軍が率いる精鋭支援大隊くらいしか考えられない。
「ガーイッシュ家のじじぃか! あの目立ちたがり屋め」
「ラギ様、フラーグ将軍の部隊は全員が過縮爆裂魔弾の劣化版を使いこなします」
複数人で制御する過縮爆裂魔弾をベースに、フラーグ将軍が編み出した個人で扱える爆裂系の攻撃魔法。
範囲殲滅魔法の劣化版と謂われているが、その威力は本物だ。何よりも厄介な特徴として、通常の攻撃魔法並みに連発出来る手数の多さがある。
ばら撒き型のプチ範囲攻撃。
効果範囲自体は然程広くは無いものの、れっきとした範囲攻撃なので普通に魔法障壁で防ごうとすると思わぬ方向からダメージを喰らう。
死角に入り易く、足元まで落ちて来て時間差で炸裂したりするので、氷槍や火炎弾のように逸らして弾いたり、一方向からの攻撃にのみ耐えてやり過ごすという手が使えない。
かといって全身を覆うほどの障壁など展開すれば、強度不足で破られたり、そもそも魔力消費が激し過ぎてまともに戦えなくなってしまう。
「使って来ると思うか?」
「使わない理由がありません」
ここで退く事を躊躇するラギ族長は、答えを分かっていながらも側近に問い掛けると、迷う事なく撤退すべきと進言された。
「ちっ 仕方ねぇ、一旦退くか」
先の戦争時代から、ルナタスの街を担当していたのは第二師団だった。慎重派で防御に偏った第二師団が相手なら、ラギの部隊の突破力で防衛網に穴を開けられる。
しかし、ヴァイルガリン直属ともいえる魔族国最強軍団の第一師団。その精鋭部隊を相手にするとなれば、ラギ達は互角に戦えても、味方の部隊が壊滅するほどの損害を被り兼ねない。
ルナタスの攻略で躓くわけにはいかないと、全軍に撤退指示を出そうとしたその時、街の後方から新たに騎獣隊が現れた。
「何だ? 街の方から打って出て来たのか?」
「あれは……っ 遊撃歩兵小隊です!」
「なにっ」
第一師団に所属する有名部隊の一つ、『精鋭遊撃歩兵小隊』。そのあまりの素行の悪さから、同師団内の味方からも眉を顰められる悪名高き部隊である。
近接戦闘に特化した斥候部隊なのだが、彼等が任務に加わると敵方に対してとはいえ必要以上に犠牲が出る。
わざと一般民を巻き込むような戦術を好み、街の施設や建造物を無闇に破壊する上に、当然の如く略奪も行う為、拠点などの制圧任務からはほぼ必ず外されるようになったほどだ。
そこまで傍若無人に振る舞っても第一師団の精鋭部隊で居られるのは、それが許されるだけの実力を備えているからに他ならない。
「奴等は不味い! 後ろの連中を直ぐに退かせろ! 俺達が足止めする!」
「ラギ様、彼等は後方の部隊を狙っています」
遊撃歩兵小隊はラギ達の部隊を大きく迂回しながら、後方の味方部隊の中で最も戦力の弱い、人間のレジスタンス組織の部隊に向かっていた。
その動きに気付いた穏健派魔族組織の部隊が、レジスタンス組織部隊の前に移動して迎撃態勢を取ろうとする。しかし、騎獣隊の機動力を得た遊撃歩兵小隊の突入の方が早い。
さらに、街の方からは追加の範囲殲滅魔法が飛んで来た。
「過縮爆裂魔弾群、接近!」
「くそっ!」
第一師団の有名精鋭部隊が二つも援軍に入っていた。
仕掛けて来たタイミングから察するに、諜報の見落としではなく明らかに第一師団の精鋭部隊である事を隠して街に入ったと思われる。
完全にしてやられた事を悟ったラギ達は、とにかく損害を抑える事を優先して退却を決意した。
「レジスタンスの連中は……まあしゃーねぇな」
決起の象徴である独立解放軍を含めて、人間の武装組織など元々戦力として当てにしていない。穏健派魔族組織もいずれ切り捨てる前提での共闘だが、今はまだ使い道がある。
「全軍に退却の合図を出せ! 穏健派の部隊を援護しながら退くぞ!」
レジスタンス組織の部隊には、悪名高き遊撃歩兵小隊の餌になって貰う。
「よろしいのですか?」
「実際、これが最善だろ」
側近は、あからさまに人間の組織を見捨てる行為は、これから合流する事になる独立解放軍、ひいてはタルモナーハ族長との不和を招くかもしれないと懸念を示す。
だがラギは、最終的にそれら全てを捩じ伏せて頂点に立つ事を目的に動いているのだ。彼等と対峙する時期が多少前後する程度、大した問題ではないと結論付けていた。
「穏健派の連中には、俺達が援護と殿を務めるから、先行して退路を確保するように伝えろ」
そうでも言わなければ、危機的状況にあるレジスタンス部隊から素直に離れないのは分かっている。
穏健派の部隊に伝令を走らせたラギの部隊は、ルナタスの正門前を焼く過縮爆裂魔弾の範囲から逃れると、遊撃歩兵小隊の突撃に浮足立っているレジスタンス部隊と合流した。
「仲間が退路の確保に動いている! もう少し踏ん張れ!」
「すまんっ、助かる!」
ラギの部隊が来た事で、遊撃歩兵小隊は突撃を控えて遠巻きに態勢を整えている。武器を弓に切り替えたのを見て、こちらもレジスタンス部隊に盾兵を並べる陣形を取らせて護りを固めた。
(これでこいつらも少しは持つ)
後はタイミングを見てこの場を離脱する。遊撃歩兵小隊はこちらの追撃よりも、囮にしたレジスタンス部隊の蹂躙を優先する筈だ。
その時、退路の確保に動いていた穏健派の部隊が急停止して、左右に分かれる動きをした。
「何だ? まさか挟撃かっ?」
さらに敵の援軍が来たのかと構えるラギ達だったが、穏健派の部隊はその場で回頭して友軍の到来を告げた。
「味方だ! 独立解放軍が来たぞ!」
穏健派部隊の後方から、地響きと共に現れる一頭の大型地竜。土煙を上げながら疾走する地竜の背中には、宝珠の輝きを放つ白い槍を掲げた少女の姿。
やがて拡声魔法の発現と共に、名乗りの口上が戦場に響き渡った。
「我が名はテューマ! 正統なる魔王の後継者なり! 簒奪者ヴァイルガリンに阿る叛徒共は疾くと去れ!」
0
あなたにおすすめの小説
異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。
数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。
チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?
桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」
その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。
影響するステータスは『運』。
聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。
第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。
すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。
より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!
真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。
【簡単な流れ】
勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ
【原題】
『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』
スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~
みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった!
無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。
追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる