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59:賢くはない
しおりを挟む月が沈み切るまで、湯に入り、抱き合い
冷たい水を降らせ、彼女の腹が鳴るまで楽しんだ。
材料はあるので、コーヒーとバケットサンドを作り、
彼女に食べさせる。
一息ついてから湯舟を石に戻し、水も砂へと消えていった。
「眠いです。そして暑い。」
外套は脱ぎ、頭からかぶる布を巻く。
「飛んで帰るんだ、抱きかかえてやろう。その間寝とけばいい。」
「マティスは?眠くない?」
「眠くはない。そら、おいで。」
「うん、申し訳ないです。お願いします。」
のそのそとしがみつき、頭をぐりぐりする。
安定する場所があったのか、すーっと眠りに落ちた。
ごおぐるをかけ、飛び立つ。彼女自身も浮いているので重くはない。
すぐにでも戻れるだろう。
動き回る砂トカゲと爆裂音を下に進んでいった。
もう少しでタロスの木が見えてくるころ、
やはり数人の気配がする。来ているようだ。
砂地に降り、かわいそうだが、彼女起こす。
「起きて?愛しい人。」
「・・・うん。おいしい匂いはしないよ?マティスの匂いはする。」
ふんふん、と首元の匂いをかいでいる。
・・・なんて恥ずかしいんだ。
彼女を強く抱きしめ、口づけをする。。
「んぁ、あれ?マティス?どこここ?」
「おはよう。愛しい人。家の少し手前だ。」
立ち上がると伸びをし、首を回す。
「すごくぐっすり寝た。ありがとう、マティス。しんどくなかった?」
「いや、大丈夫だ。家の方でやはり人の気配がする。
・・・8人ほどの気配はする。」
「そういうのわかるんだね。んじゃ、扉君の名演技を見に行こう!」
手をつなぎ、姿と気配を消す。
彼女がまた姿を現した。
「どうした?」
「これってさ、お互いが認識できるようにすればいいんじゃない?」
「・・・なるほど。」
『マティスとわたしはお互いが見える、認識できる。』
「愛の力だね~」
お互いが認識でき合うので、姿が消えているかお互いが分からない。
「2人ともあんまりかしこくはないよね。」
彼女が嘆く。
彼女が賢くないとすれば、世の人々は私も含め皆、愚か者だ。
だが、笑ってしまった。
「はははは、そうだな。2人で賢くなろう。」
「うん。」
ふよふよと上空を静かに進む。
念のためらしい。
扉を中心に7人が取り囲む。
一人木槌を持ち、地面をたたく。
ドゴーン、ドゴーン
一人の男が後ろに控えているものに報告する。
「やはりここだけ音が違います。空洞があるようです。」
「そうか、とっさに隠し持っていた石を使って地下に逃れたかもしれん。
石の力も絶対ではない。力押しすれば現れる!やれ!!」
一斉に木槌を打ち始めた。
ドゴーン、ドゴーン
ドゴーン、ドゴーン
息を詰めて見下ろしていると、
きらりと光が扉下からあふれ、
音もなく扉が開き、バタンと反対側に倒れる。
タロスの木が風もないのにざわめいた。
「皆構えっ!」
皆が剣を構える。
砂ぼこりが舞い、落ち着くと光も薄れていった。
それ以上は何も起きないので、ひとりが中を覗く。
光が届かないのか明かりをもってひとり、ふたりと下りていくようだ。
バタン
扉がひとりでに閉じる。
3人目に降りようとしていた男が挟まれて、
悲鳴を上げている。
先に降りた2人も慌てて外に出てきた。
横で彼女が口元を抑え震えている。
目は糸のように細くなり、笑いをこらえているようだ。
「なにをしているっ。勝手に閉じるな!」
「いえ、扉が勝手に・・・」
近くにいたものが叱責されている。
「その扉は、向こうへ捨てておけっ」
「ハッ」
2人掛りで、井戸の向こうに投げ捨てた。
「・・・さすがだ。」
彼女が小さく呟いた。
「中にいるか?」
「いえ、10段ほどの階段の下は立てるぐらいの区間で、
薬草が散らばってるだけです。」
「そこにいたということか?」
「おそらく。我々の足跡以外に一人分の足跡は有ります。」
「やはり地下に空間を作って隠れたか?
頃合いを見て、外に出たということか?」
「夜以外は見張りは2人ついていました。」
「夜に出てこられてはわかるまい。間抜け!!」
「し、しかし、夜に砂漠に出ることは我々だけでは無理です。」
「・・・・仕方がない。領主様には一足違いで逃げられたと報告だ。
遺体が残らなかった時点で調べておけばいいものを・・
貴様らは減棒ものだぞ!」
若い兵が2人小さな声で
「遺体が残らないほどの火力でしたって報告したの自分じゃん。
自分だって月が沈んでから来たくせに。」
と話していた。
「倒れ込んだところにたまたま石があったのか?
緊急用に持っていたのか?
・・・あの時に石はすべて回収したつもりだったが、まだ残っているかもしれん!
探せ!!」
それから、灰と炭しか残っていな場所をひっくり返し始めた。
目が痛くなるほどの灰の中なにもつけずに若い兵たちは
一応探している。あるわけがない。
あったとしても砂漠石は火に弱いと知らないのか?
近くで見ていても仕方がないが、
えらそうな男のすぐ横にいることにした。
この男が作業に加わるわけではないが、灰が飛んでくる。
若い兵もわざとこちらに灰を飛ばす。
ごおぐる付け、鼻と口を布で覆った。
「げほ、げほ、こちらに飛ばすな馬鹿者!!
領主様なぜに、この男にこだわるのだ?わからん!
すべて燃えたとの報告も最初から信じてくださらなかった。
見張りと言い、今日のこの人数と言い、無駄なことばかりなさる。
げほ、げほ・・もういい!!撤収だ!!」
かき混ぜるだけかき混ぜて帰っていった。
こちらも折角風呂に入ったのに灰だらけだ。
「もう、いいぞ。」
完全に見えなくなってから姿を現す。
彼女は扉に向かってかけていった。
「扉君!すごいよ!名演技だよ!
タロスさんの木もあのタイミング!素晴らしい!!
開く演出、わざと閉じての舞台からの退場!!
・・・恐ろしい子!
もうね、全わたしが感動の渦に巻き込まれたよ!!
もう、ロングラン決定間違いない!!」
扉とタロスの木に向かって絶賛?していた。
「はー、久々のエンターテインメントであった。
笑ったね、あいつ。あいつが火をつけたやつだよ。
名前なんてたかな?ハゲビン?なんかそんな名前だったと思う。
間抜けすぎるよね。弟君は部下に恵まれてないね。いや、ある意味使い勝手のいい部下か?
最初から生きてるのバレバレっぽいね。」
「そうなのか?」
「そうでしょうよ。あんな間抜けに見張りと報告をさせてるんだから、
ほんとにマティスを消したかったらもっと賢い部下を使うよ。
血殺しになるって止めた奴とかにね。
あの間抜けに火をつけさせたのは必ず逃げれると踏んでるからでしょうよ。
なのに、遺体も残らず燃えました。見張りは夜以外してます。
ちょっと気になるところがあるので調べます。空間がありましたが逃げられました。
間抜けのなにものでもないだろう?」
「・・・」
「生きてるけど逃げられましたって報告がほしかったのかな?」
「なぜ?」
「さぁ、死んでほしくないし、ここで生きてることもまずい。
そんな事情、思い当たる?」
「・・・」
「とりあえず」
灰だらけの扉を”きれい”にすると、同じ位置に置いて
がばちょをした。
「さ、もう一度お風呂に行こう。
実はさっきからおトイレに行きたくて困ってたんだ。あ!」
彼女は井戸の横の薬草を今度はすべて薄くした砂漠石に包み込んだ。
「今度は家をしまうときまでに、もう一度どうにかできないか考えるね。」
扉を開け私を呼ぶ。
「マティス?帰ろう?」
「ああ、帰ろう。」
足跡を消し、扉を閉めた。
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