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63:祝いの酒
しおりを挟む「マティ兄さん、元気そうでなにより。
目も腕も治したんですね。よかった。
ますます父上にそっくりだ。さ、座ってください。
結界は施していますよ。もっと早く来てくださるかと思っていたんですが、
あの赤い塊は力になってくれなかったんですか?」
セサミナはマティ兄さんと昔は呼んでいた。
兄上なんて形式ばったときだけだ。
「なにを言ってる?赤い塊?」
「・・・最初から話しましょうね。マティ兄さんもそのために来てくれたんだ。
兄さんが剣士になりたかったように、わたし、いえ、僕は学者になりたかった。
母も応援してくれてましたよ。母方の実家は研究者が多いんですよ。
それなのに、3番目の兄、リップルが病死した。
これは、ま、病死というか、血殺しの反動をもらったといっていいでしょう。」
「血殺し?誰を?」
「兄さんをですよ。」
「!」
「マティ兄さんは何も知らなすぎる。母方の援助がなかったからかもしれないが、
石のことも力のことも知らない過ぎる。無知は罪ですよ?」
「・・・・」
「父上はあなたを領主に据えたかった。
あなたの母君の出自がはっきりしなかったから公には言わなかったですが。
リップルは気付いていたんでしょう。
気に入らなかったでしょうね。リップルの母君共々ね。
で、石の力を使った血殺しを行った。後で調べた分かったことですが、
かなり周到に用意していたみたいです。
なのに結果は自身が病死。
リップルの母方の一族はそれはそれは悔しかったと思いますよ?
それからは事あるごとに兄さんを殺そうとしていた。物理でね。
おかしいと思いませんでしたか?
領主の息子なのにやたらきな臭い辺境へと配属される。
でも、あなたは死なない。当然ですよ、父と僕が守っていたんですから。
20歳になってこの家の保護下から離れる。
この家の名のもとで守れていたのに、完全に離れれば守れなくなる。
腕に怪我でもすれば剣士はあきらめるだろうと安易に
酒に酔わせ、砂漠に連れて行った。目と腰を負傷してしまったのは
申し訳なかった。父上も後悔しながら亡くなった。
タロス殿の庇護下にいてくれたのは願ってもないことだったんですよ。
これで守れると。タロス殿は父の古くからの友人です。
あなたに様子はタロス殿から聞いていました。父が亡くなり、僕が領主になった。
タロス殿も亡くなった後は、定期的に見張りをさせてました。
名目は目障りな兄上の監視ということで。」
なにも言えなかった。
なにも知らなかった。
私は皆の庇護下のもと、たとえ負傷したとしても安穏に生きていたんだ。
「もっと早く謝りたかった。申し訳ないと、砂漠に連れ出すことを言ったのは
僕なんです。純粋に守りたかったわけではない。
兄さんだけが、自分の思い通りに生きていくのが悔しかった。
領主にはなりたくなかった。学者になりたかったんだ。
なのにあの日兄さんは嬉しそうに父と酒を飲んで、未来に思いを馳せていた。
許せないと思ったんだ。あれだけ守られていたのに、少し痛い目をみればいいと。
でも、あんな大きな爆裂が起こるなんて思わなかったんだ。
ごめんなさい。ごめんなさい。」
顔を両手で隠しながら泣いていた。
長い沈黙が訪れる。
「はぁ、・・・しかし、状況が変わりました。
王都の力ある院の長にリップルの一族が就任しました。
リップルの母君も権力を有してます。また、兄さんに手を出し始めるでしょう。
この国から出てもらうほうが安全なのですが、立場上、あなたをかばうことはできない。
立場は向こうが上になったんですよ。辺境にいる兄を差し出せと言われれば、
そうするしかない。」
「・・・問答で母の名を聞いたのは?」
「名を言ってもらえれば、それは南の、今は敵国になってる出身だと決めつけて
それを理由に追放できた。」
「・・・火をつけたのは?」
「勝手にどこかにいったことにしたかった。弟に火をつけられて国を出たと。
あんな火であなたが死ぬわけがない。あなたは石の扱いにはたけていた。
それに横に赤い塊としか認識できなかったけど
誰かいてましたよね?」
「!!見えていたのか?」
「領主が石の力に影響されてどうするんですか?
くわしくは話せないが、領主という名の力を引き継いでいるんですよ。
今となっては学者になるよりもやりがいがある。
横にいたものは兄さんが話していた赤い塊でしょう?
そういってもらえたからうっすらですが認識できた。
守るように抱きかかえてから兄さんが気を失ったので、
火をつけても逃げれると踏んだんですが?
そのあとすぐにこちらに来ると思っていました。
事情を聞きにね。なのに来ない。
報告には遺体も残らず燃えましたとだけ。
見張りを寄こしても何もないという報告。
地面を探せと言えばやっと空洞があるという。
挙句、逃げたようですと。
アルビン、僕の配下なんですが、間抜けのなにものでもない。
いや、ある意味使い勝手のいい配下なんですがね。」
「ふふふ。」
笑ってしまった。彼女と同じことをいう。
「マティ兄さん?いい顔で笑えるようになったんですね。よかった。
ゼムを介してここに来てくれたことも。
奴は商人なので口が堅い。兄さん、国を出てください。
いままで、辺境に残ってくれていたのは、うぬぼれかもしれませんが
僕、いえ、国を思ってのことでしょ?
大丈夫です。逆に兄さんが、こういってはなんですが、
奴らに付け入る隙を与えてしまう。
王都と辺境諸国は微妙なバランスで成り立ってます。
どちらが上でもなく、対等でないといけない。
いまは王都が上なのです。それを覆していかないと。
石の力に頼っていては王都の思うままです。
便利なのはいい、でも、与えられるだけではダメなんです。
自分で考えていかないと。
学校を作ったんです。子供たちに考える力がつくように。
でも、無料なのになかなか通ってくれない。
子供たちも働き手なんです、勉強よりも家業の手伝いをしてしまう。
それが悪いとわ言わないですが、でも・・・・兄さん?」
弟は自分の考えたこと思いついたことを子供のころから、
熱心に聞かせてくれる。兄弟の中でも仲のいいほうだった。
母がいない分自由な私が剣に夢中になり話をすることもすくなっていった。
上の兄、リップルが病死したと聞いて、そうかと思っただけだった。
葬儀の時の彼の母君が半狂乱だったことは覚えている。
血殺しの反動で死んだのなら、納得もいく。こちらを睨みつけていたことも。
それを暢気に剣士になりたいと言っていた私はさぞかし業腹ものだろう。
セサミナは自分のしたいことと母君の思惑、領主としての仕事、
なにもかもこなしていたんだろう。
私はなんて、もの知らずな幸せ者だったんだろうか?
「セサミナ、ありがとう。私は自由に生きてこれた。お前のおかげだ。
リップルの一族のことはなにも知らなかった。助けてくれていたんだな。
タロスのことも。彼は私を守ってくれていたんだ。知らなかった。
知らないはずだ、知ろうともしなかったんだ。
ただ、お前に恨まれていたとだけ思っていた。
もっと早くお前と話せればよかった。すまなかった。」
「マティ兄さん、ダメですよ、何もかも信用したら。」
「え?」
「さっきのはウソ泣きですよ?いつも騙されますね。
はははは、それに、礼を言われることではないんですよ。
最悪殺してしまってもよかったんですから。」
「・・・」
「はははは、兄さんも考えていかないとだめですよ。
どうして?ではなくなぜ、こうなったのか、考えなくては。」
まさにその通りだ。
だが、嘘かどうか、ダメかダメでないかは昔から見抜ける。
「さ、商人との商談でこれ以上時間はとれません。
あとで、献上の海峡石も用意しなくては。
これは余計なことを言ってくれましたね?
うちにも王都からの監視はあるんですよ。
まぁ、いいです。
兄さん、この国から離れてくれさえいれば、あとは知らぬ存ぜぬが通せる。
僕がが次に王都に行くのが、次の合わさりの月の日の後です。
それまでは、どうとでもなるが、それ以降ではダメなんです。
いま、火が出てそのまま行方不明となってます。
そのままどこかに逃げたんだとうわさも流せます。
王都で問答があってもそう答えることができる。
合わさりの月の日までに国を出てください。」
「わかった。そうしよう。
礼を、したい。聞いた話だから、役に立つかどうかはしらない。
その学校な、子供たちを通わすには食事を提供すればいいそうだ。
栄養価の高い食事。それで体も健康になり、一食分の食事を稼ぐ時間が
浮くのだからその時間を勉強にあてることができるらしい。」
聞いた話をそのままセサミナに話した。
「ああ、にいさん、マティ兄さん、なんて事だ!素晴らしい!
ありがとう、兄さん。」
昔のように、些細なことでも喜んでくれる。
ああ、彼女に少し似ている。
「それと、グラスを1つ貸してもらえるか?」
セサミナは不思議に思いながら、備え付けの飾り棚から
グラスを1つもってきた。
「どうするの?兄さん?」
昔に戻ったのように聞く。
バッカスの石を取り出しあの時飲んだ酒を注ぎ入れる。
海峡石、しかものこの大きさで紫のものを取り出したことに驚き、
さらにそこから液体を注ぐとさらに驚いていた。
「お前が領主になった祝いもできなっかったからな。これを。」
おどろきながらも、飲んでくれた。
「ああ、あの時の酒だ。あれ以降父と僕はこの酒を飲むことはなかった。
すべて処分したんですよ。思い出すから。
ありがとう兄さん、素晴らしい祝いの酒です。」
海峡石のことより、酒が出ることよりも、
祝ったことを喜んでくれた。よかった。
「では、父上にこの酒を飲ませてやってくれ。」
石をセサミナに握らせた。
「記憶のある酒がでる。バッカスの石と呼んでいる。
バッカスというのは異国の酒の神の名だそうだ。」
「こんな大きな海峡石、しかも紫色で酒が出るなんて、これをどこで?」
「商人との商談なんだろ?領主様に献上だ。ありがとう、セサミナ。」
「マティ兄さん、あなたはいつも僕を助けてくれる。学校のことも。
この石があるだけでどれだけの力が手に入るか。」
「うまく使ってくれ。赤い塊もお前のことは褒めていた。優秀な統治者だと。」
彼女は怒るだろうか?彼女のものなのに。
おいしいものを作って許してもらおう。
別れを告げ、馬車で待っていたゼムのもとへといく。
「おお、話は終わったのかい?ずいぶんすっきりした顔している。」
「そうか、そうだな。いろいろ解決したんだ。あの海峡石はセサミナに献上した。
どこからか聞かれたら、流れのもの知らずがもってきたと。
それで献上したと話をあわしてくれ。」
「おいおい、本当に献上したのか?ま、持っていても仕方がないぐらいだったからな。
さあ、戻ろう。小麦と米、布地、後はなにがいる?祝いは何がいい?」
「ああ、そうだな、布を染める染料は有るか?それと香辛料。甘味、砂糖も。
あとはなんだけ?野菜、チーズと卵と乳、ブラシにを作る原料。コーヒーもだ。
それと祝いは白磁のカップが欲しいな。」
「ははは、それはいい。用意させてもらう。それで、嫁はどこの人間なんだ?街にいるのか?
まさか王都にいるとか?」
「いや、砂漠でまってる。迎えに行かないと。それと、この国を出ることになった。」
「なんだその話は?領主様と話も解決して、嫁ももらって、なのに国を出るのか?」
「ああ、いろいろあるんだ。話せば迷惑がかかる。国を出るということだけしか話せない。」
「それ領主様も知ってる話か?いや、聞くまい。こういう話は知らないほうがいいだ。そうだろ?」
「ああ、そうだ。」
「寂しくなる。あの家はどうするんだ?」
「そうか、知らないのか?家はなくなった、燃えたんだ。」
「なに?どうして?火の不始末か?」
「セサミナに火をつけられた。」
「なんだって?おい!どういうことだ?」
「あはははは、おかしいよな。」
「笑いことじゃねぇぞ。それで、嫁も今、砂漠で待ってるって、何やってるんだ?
早く迎えに行かねえと。」
「そうだ、早く迎えに行かないと。急いで荷物の用意もしてくれ。」
早く、早く彼女を迎えに行かないと。
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