いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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65:祝儀

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ゼムの店に戻ると、おかみさんが出迎えてくれた。

「ご無沙汰しております。おかわりありませんか?」
 「ほんとお久しぶりですね?あら?目はよろしくなったのね?まぁ!素敵!
今の時期ちょうどいいわね。素敵な娘さんを紹介させてくださいな。」
「テシアナ、また、お前はそうやって世話を焼こうとする。
マティスにはもう決まった相手がいるんだ。しかもその嫁を砂漠に置いてきてる。
家がないのに!!ささ、急いで、いまからいうものを準備するんだ!
時間がないんだ、月が昇るまでに砂漠に戻らないと、さ、お前たちも、店はいいから、
これらを集めろ!!」

セムは店に入るなり店のものを使って品物を集めてくれた。
おかみさんは

「まぁ、この時期にもう契を交わしているなんて、なんて素敵。
お祝いをしなくてはね。素敵!」

一人で舞い上がるように奥へと入っていった。

「ゼム、俺も少し街で買出しをしてくる。
これを金に換えてくれ。」

小さな海峡石を3つほどゼムに渡した。
このままでも金と同等に品物が買えるが、少しでもゼムの稼ぎになればいい。
「おい、なんだこれは?・・・ああ、もういい、何も聞かないよ。
・・・ああ、色は薄いが形はしっかりしている。いい石だ。
これでどうだ?」

思っていたより4割ほど多い。

「ゼム、祝儀は十分もらってる。商売をしてくれ。」
「なにを言ってる。祝儀は関係ない。
これは商売だ、色なんか付けていない。今は海峡石が高騰している。
お前さんもここ数年収穫できてなかったろ?
これをどこで手に入れたかは聞かないが、よそで出さなくてよかったよ。
王都の奴らに目を付けられる。」
「そうか。ゼムが損をしていないんならいいさ。
少し出てくる。かまわないか?」
「ああ、嫁さんに何か買ってやれ。こんな日常品ばかり買って帰ったらどやされるぞ?」
「ああ、そうだな。なにか喜ぶものを買って帰ろう。」
「ははは、いい顔で笑うな。よかった、よかった。さ、行ってこい。
すぐに荷は集まる。そうだ、白磁のカップだな。それは買うなよ?」
「ああ、ありがとう。」
「ははは」


なにか甘味か?飲んだことない酒か?
いや、なにか、きれいなもの?
彼女では作れないもの?

いろいろ考えながら街を歩く。
領主の息子として街を歩いたことはない。砂漠に出てからだ。
それもだいぶたってからだ。

後ろをつける気配が1つ。


「独り言なんですが、
辺境のトカゲが街にゼムの店に来たら見張るようにと。
火をつけられ、街を離れるためにきっと準備をするだろうからと。
あの部下にいったらどうなるんだろう?
出来のいいあの部下はきっと先を読んで襲いかかるでしょうか?
そしたらどんな報告をしてくるだろう?楽しみだ。」


別れ際にセサミナは楽しいそうに小さな声でいった。
本当に出来のいい部下だ。ちゃんとついてきている。

石鹸屋、本屋、飴を売っている雑貨屋、年に数回の客を覚えているのか、
皆声を掛けてくる。

「あら、珍しい。この時期に買い物なんて。
それに、目と腕が・・・どこの色男かと思ったよ。
いつものかい?取ってあるよ?」
「ああ、ありがとう。今回は多めに買うよ。
嫁を貰ってね。国を出るんだ。いままでありがとう。」
「ああ、そうなのかい?そう、よかった。それがいいよ。
お嫁さんは?」
「砂漠で待ってる。」
「そうかい、そうかい。ちょっとおまち。これと、そうだね、これを。
祝いだよ。ああ、よかったよ。タロスさんも喜ぶ。
雨の日の前に嫁を貰うのはよっぽどの甲斐性持ちさ。さ、これをその幸せもんのお嫁さんに。」

「寂しくなるな、本を定期的買ってくれる客は少ないんだ。
商売あがったりになるよ。」
「領主が学校を作ってるそうじゃないか?そこで売れるんじゃないか?」
「ああ、あれな。通う子供が少ないから売れないよ。張り切って仕入れたんだがな。」
「今度子供たちが皆通うような仕組みを作るって噂だったぞ?」
「ん?そうなのか?それはいい話だな。あんたの嫁話よりかな。
 さ、それでもめでたい話だ、これを祝いに。異国の風習や食べ物が載ってる。
こいつも売れないやつなんだ。国をでるんだ、役には立つだろう。もらってくれ。」 

「いいときにきたな、新作を作ったんだ。あんたが気に入れば売れるからな。
・・・そうか、嫁をな。そのなりになってここで嫁探しされちゃ、タロスの再来で
男どもが血の涙を流すところだったよ。さっさと決まってよかったさ。
国をでたらこの飴は食えねえぞ。あるだけ買っていけ!」
「ああ、そうするよ。嫁もこの飴を気にいっているんだ。」
「そうかそうか、なかなかいい奴じゃないか!俺のこの飴を気いる奴に
悪人はいねえのさ!!」
「ははは。あと、嫁にな、なにか買って帰ろうと思ってるんだ。
何でも自分で作ってしまうんだが、なにか自分ではつくれないようなものを送りたい。」
「ほぅ、それは難しい注文だな。そもそもそれを俺に聞くってのが間違いだ。」
「・・・そうか、すまない。」
「いやいや、まて、そんなに落ち込むな!なっ?
 そうだな、飴以外でだよな?・・・お、これは?最近仕入れたんだ、なんでも・・・」

ずいぶんと大きな荷物になった。
ここで鞄に入れるわけにもいかず、なんとかゼムの店に戻った。
みなが、嫁を貰ったこと、国を離れることを喜んでくれた、そのほうがいいと。
皆知っていたのだろう。
何もせず砂漠にいる兄。監視するだけの弟。
何もしないのなら新天地に行けばいい。
私はなぜ、この国にとどまっていたのだろうか?


ゼムの店の前には幌馬車が1台止まっていた。
「さぁ、こいつが注文の品と祝いの品だ。
この駱駝馬もだ。可愛がってやってくれ。」

生き物はまずい。しかし、この荷物を人力で運ぶのは無理だ。

「ありがとう。ゼム。街の皆からも祝いをもらったんだ。
国を出ることもそれがいいと。すまない。
みなに心配をかけていたようだ。
もう、行くよ。待ってるんだ、迎えに行かないと。」
「そうだ、早く帰ってやれ。嫁さんによろしくな。」
「マティスさん、これはお嫁さんに。必要なものだから。
渡してあげて。きっと喜ぶわ。」
「おかみさん、ありがとうございます。
ゼム、これをもらってくれ。」

3つの海峡石で十分すぎるほど買い物ができた。
もう、この小さい石はいらないだろう。
残りの石が入った小袋をゼムに渡した。

「これは、こんなに?だめだ、これはもらえない。」
押し返そうとするが、それを制した。
「領主の力になってくれ。」

「・・・ああ、わかった。これは預かろう。
俺も商人だ、ただでは物は売らないし、もらわない。
きっといいように使うさ。そして、さらに大儲けだ!!」
「そうだ、さすが大商人だ。そうしてくれ、ありがとう。」

砂漠の端に住んでる前領主の息子は
領主になった弟のもとではいろいろ確執もあったんだろう、
嫁を貰って国を出たらしい、そのほうがいいさ。
領主も肩の荷が下りたというもんさ

こんなうわさが流れるだろう。

国を出るのは本当だ。
嫁をもらったのも。


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