いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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81:ゴムのパンツは危険

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彼女が起きないようにそろりと寝床から抜け出す。
やはり気づくのか、私がいなくなると、彼女は丸く小さくなり
頭をぐりぐり枕に押し付けながら再び寝入った。

パンはうまくできたと思う。
小麦と、乳酪と卵と少しの砂糖、塩を混ぜ、
少し温めた窯で発酵、ふくらみ成型してもう一度焼いた。
窯が賢い。説明すれば的確に温度を調整してくれる。
何も知らない人間が見れば、窯と話をする危険な人物に見えるだろうが、
そんなことはどうでもいい。

ハムと目玉焼きとサボテン。
青菜がないと言っていたが、サボテンで十分だ。


パンの香が漂う頃、彼女が起き出した。
気配がうごく。感情もわかるのか?なんだかうれしそうだ。


うまそうに食べる顔から、なにか深刻な顔になる。
まずかったのか?それとも何かあったか?



--おいしい~
---おやつにも食べたい


---できんよー、できん、できん

---オコノミヤキとか?

---ソースがないな
---んー、、どうしようかな

---卵と牛乳は買えるだけ買わねば
---草原に行くのもいいかもしれない


また、彼女の心が聞こえる。
黙ってるのも悪いので、そういうと、
私が考えていたことも聞こえていたと、自分と同じ考えだったと言ってくれた。
うれしい。


「----駄々洩れなのはいかんよ!君ぃ!!」

うるさかった上官のような物言いをする。
深く考えるとわからないと、大丈夫だといったが、
私の大丈夫は詐欺師の常套句とまでいわれた。
ひどい言われようだ。
それでも、彼女お得意のま、いいかとなり、
ラーゼム草原へ行くという話になった。
ゼムにはこっそり会いに行こう。人にどう思われたもいいが、
ゼムにはちょっと恥ずかしい。

昼に食べたオコノミヤキはうまかった。
肉の代わりに海の幸、エビを入れるのもいいらしい。
魚の干物、カツオブシがないのをひどく落胆していたが、
茸の話でものすごく興奮していた。食への貪欲さが可愛らしい。

それでも、動物を捌く作業は見たくないらしく、
部屋でごむを作るという。

枸櫞を3つほど持っていった。なにに使うんだ?
間食か?
なんでも食べ物に結び付けるなというが、ほかに何がある?




捌いて米詰めもおわり、後は焼くだけにして、
運動場に”移動”した。
そういえば、彼女は当初、急に消えたりしたが、
気配を消し窓から出てとかではなく、上空に”移動”したといっていた。
理屈無しに移動はできていたんだ。やはりすごいな。


鍛錬を始める。
片手で使っていたため、短めに持っていたが、両手が使えるようになったため、
本来の型をおさらいしていく。
左の腕の筋肉はまだ追いついていない。

基礎鍛錬から型取りと繰り返し繰り返し体に教え込む。
空が飛べようが移動できようが最後は体力だと、
筋肉は裏切らないといっていた。
素晴らしい考え方だ。
あの流れるような動きも教えてもらいたい。

彼女のほうに気が行くと、
絶賛するものから悪だくみを嬉々として考えているものなど、
目まぐるしく変わる。
かなり集中しているようなので、邪魔をせず、
おのれの鍛錬を黙々とこなしていった。


ひとしきり汗を流し、湯を浴び、台所へと戻る。
窯に入れればすぐに焼けるだろう。
スープはチーズを作った後にで水分で作ってみた。
コクのあるまろやかなものになった。
食後の甘みは、あのチーズと木苺をつぶして混ぜて冷やしておく。

彼女ではないが、乳は何としてでも大量仕入れをしなければならない。

そろそろ、いいかと彼女を呼びに作業部屋まで行く。

作業中は扉は開けているので、覗くと、
彼女は裸だった。


「・・・何をしている?」
「ぎゃ!!!」
「落ち着け!ふくらますな!」

また、飛ばされたらかなわない。
彼女も慌てて、上着を被る。下も履け!

「・・・何をしていた?」

「え?なにって、ゴムがうまくできたからね、
おパンツと下ばきにゴムを入れてたの。
ほら?こんな感じ!」

下着と下ばきに手を掛け、ぐんと伸ばす。
手を離すと元に戻った。
「?」
「これがゴムですよ、ゴム。」
しろい糸をグングン伸ばしす。

「ここのゴムは白いままでよかったよ。
ね?便利でしょ?」
「そうなのか?よくわからない。」
「え?そう?パンツとかズボンをひもで結ばなくてもいいんだよ?
面倒でしょ?」
「ひもで結ぶことが面倒とは思わない。そういうものだ。」
「ふむ。あとで、衣類みんな貸しな!!改造してやろう!」
「そうか?よろしく頼む。」
「んで?休憩?」
「いや、今、19時だ。晩飯の時間だろう?」
「え?もう?すごい、休憩なしだったよ。
そういえばいい匂いもする。」
「ここは黒い実の匂いもするな?使ったのか?」
「うん、もらったオイルに混ぜたの。」
「オイルに?あの薄い樹液だと、オイルが薄まらないか?」
「ちょうどいい感じになったよ。使うとき香を付けるんでしょ?
どんな感じのもで付けるの?」
「あのオイルに漬け込むんだ。花ビラとか、香りのする草とか。
樹液は聞かないな。」
「漬けるのか、なるほどね。だからあの瓶の口は広いんだね。
でも、いい感じになったから、今度使うね。」
「使うのか?今度?どうして?いらないだろ?」
「くふふふふ、いいんだよ、こまけーことは!」

ものすごく悪い顔をして笑っている。
あまり深く聞かないほうがいいようだ。

「そうか、飯は?米詰めが焼きあがった。
もうすぐ食べれるぞ?」
「ほんと!ちょっとシャワー浴びてくる!!」
風呂に向かって走っていった。
移動はしないのだな。

では、台所に戻って用意をしよう。





米詰めは、色よく焼けていた。
腹からナイフを入れると、程よく膨れた米が出てくる。
玉葱と炒めて詰めたものだ。

油の代わりに乳酪を塗り焼いた。
皮があめ色になっている。

大きな皿にそのままのせ、目の前で切り分けた。

彼女の興奮度がすごい。
いままでで一番だ。
グロテスクな部分はこちらに移し、
食べやすい足と腹の肉、米を入れる。

「さ、召し上がれ。」
「ありがとう、すごいね、こういの食べるの初めてだよ!
こう、スプーンですくって?一緒に?
 うーまーいい!!おいしい!お米うまい!これをおかずにご飯が食べれる!!」
「お前の言うご飯は飯のことではなく米のことか?」
「あー、ご飯、そうだね、このお米をね、これだけ炊くの、白ご飯。
炊き立てはさらご飯ってよんでたな。」
「さら?」
「そう、まっさらのさら。お米はまだあるの?炊いてみるよ。」
「米も小麦もある。炊く?炒めるとか煮るではなく?」
「うん、あー、おいしいね。骨の周りの肉がうまい。
これ、手でもって食べてもいい?マティスはあれだね、上品だよね、食べ方。」
「そうか、好きなようにたべればいい。こういうのは手で食べても問題ない。」
「ちゃんとしたところではちゃんとできるよ?いい年したおとなだもの。
でもこれは上品に食べたはいけない!がっつくべしだよ?」
「そうだな、気に入ったのか?」
「うん、トカゲのしっぽとランク争いだね!この肉をまた狩りに行こう!」
「夜が長い間に行こうか。虫よけの草も探せば有るだろう。
森を縦断しただけだから、まだまだ森は広い。」
「うん。狩りつくさないとね。」
酒も程よく進み、食後の甘みも出す。
これまた、興奮度が高かった。




風呂に入った後に着る服を出せというので
比較的ゆったりとしたものを出す。

腰回りを手で撫でながら小さな声でなにかを頼んでいる。
ごむを細い棒にくくりつけ縫い付けているのか作業を進めていた。
下着をいじるなんて夫婦のようだ。
夫婦なのだ。早く雨の日が来てほしい。

「はい、これ。下着はいいから、これはいてみ?」
受け取り、下ばきを脱ぎ渡されたものを履く。
腰廻りが伸び、履き切るとぴたりと縮まった。
「おおお!なるほど便利だ。」
「そうでしょ?でもね、ゴムのズボンは危険なんだよ?」
「危険?」
「そう、ひもで縛ったときは、おなかいっぱい食べて、
 あ、ちょっときつくなったなーってわかるでしょ?
 ゴムはさ、伸びるからどんどん食べてしまう。ストッパーなしなんだよ。」
「ん、うん?ああ、なるほど。そうならないようにすればいいだけではないのか?」
「はぁ、ここにお間抜けがいるよ、、、できるんならこの世にデブはいないよ!!」
「・・・そうか、そうだな。ゼム年々腰回りが大きくなっていった。
 ひもで調整することもなく新調していたよ。なるほど。」
「そうだよー。明日はわたしも鍛錬付き合うね。動きやすい服も作ったんだ。」
「そうか、またあの舞が見れるのか、あれは実戦できないのか?」
「んー?どうだろ?相手を想定してしたことないからね?手合わせしてくれる?」
「ああ、喜んで!」
「・・・喜ぶんだね。じゃ、今日はお風呂に入って早くねるべ。」
「・・・寝るだけか?」
「・・・いや、そこらへんは臨機応変で。」

風呂でも寝床でも可愛らしかった。
ゴム入りの下ばきは脱がせやすい。
心の声が聴けるのは
聞かなくてもしてほしいことが分かるが、
彼女の声で聞きたい。

彼女は覚えてやがれと言いつつ眠ってしまった。
新しい扉をとかいっていたが、扉君をまた作るのだろうか?







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