いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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90:歓喜

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物理で。
ぽちゃんと、湯の中に沈む。

「え?」

マティスは黙って、石を拾い上げ、手のひらに乗せた。
近くに置いた光のランプから石を取り出し、それをかざす。
光の当たり具合で、青にもマティスの瞳の緑にもなった。

「・・・そうか。」

なにやら一人で納得しているが、なにがなにやら。

「目、大丈夫?痛くない?」

「この石をあなたに。」
「え?ほんとに石なの?ゆってた石?だよね?
光の当たり具合で緑になったり青になったりの?」
「そうだ。
 緑の目の人間はいろいろ謂れがあるんだ。
 良い話は聞かない。
 お前が緑の目を称えてくれたから、うれしかった。
 そして、いま同じ時を生きられると。
 涙が石に変わる話もないわけではない。
 願いがかなった時に涙したらできると聞いたことはある。
妖精の国の話と同じぐらいの与太話だと思っていたが、本当だったとは。
もらってくれるか?」
「もちろん。わたしも赤い石を送らないとね。ちょっとまって。」

砂漠石で鋭利な針を作る。

マティスは怪訝そうな顔をしているが、かまうことはない。

「手を出して?」

そのうえで人差し指に針を刺す。
ぷくりと血の玉ができる。

『固まって石になって。わたしの思いと共にマティスの指輪を飾っておくれ』

血は固まり、マティスの手のひらに落ちた。

「・・・これは石になったのか?血が?」
「うん、たぶん。さ、指輪にはめ込もう。
 と、お風呂の中ですることではないな。上がろうか?
あー、わたしは体と髪の毛洗いたい。あ、お手伝いは結構です。
そいで、ご飯の用意をしていただけていると嬉しいです。」
「ふふ、わかった。量は?軽くか?がっつりか?」
「それは、おとっつあん案件だよ?」
「そうだな、ではがっつり、いろいろつくろう。それでいいか?」
「さすが、わたしのマティス。それでお願いします。」
「ああ、私の愛しい人。ゆっくり入っておいで。」
「はーい。」

食事の用意は任せて、ゆっくり星見風呂を楽しんだ。







新しい扉とやらの意味はわかった。
新しい世界への入口という意味らしい。
あれがそれに当てはまるのかは甚だ疑問だ。
からだの作りが元居た世界とちがうから、
いいとこがなかったからだという。
元の世界でも男にあのようなことをしたことがあるのかと
問いただそうとすれば、知識だけだといった。そこに安堵した。
からだの作りが違うのはわかっている。
なんせ、濡れるんだ。子をなすことができる機会も違う。
妊娠しなければ血を流すというのも恐ろしい話だ。
こちらでそんな話は聞いたことがない。
それが来ないという。
だから体の仕組みが変わり、同じ時間を生きられると。

からだが硬直した。
望んだのは彼女と彼女と同じ時を生きるということ。
たぶんと前置きはされたが、彼女のたぶんは大丈夫のたぶんだ。
ああ、月のない日に石もなく望みが叶う。
涙があふれるのをそのままに、彼女を見つめた。

頬を伝うのが水滴のはずが、
そのまま湯に落ちる。
石だ。
青い石?いや緑か?
光を取り出しかざしてみる。
求めていた石が私の涙からできるとは。

「・・・そうか。」

生まれたときからの緑の瞳のものはいない。

なぜかはわからないが、突然緑になることがある。
両親の瞳の色を受け継いだとしても、突然だ。

何かに固執し、それ以外はなにも関心を持たない。
そういわれていた。
その固執する事柄はさまざまで、廻りの人々に利があることならいいが、
そうでなければ、迫害の対象となることもある。
私が時々緑の瞳になると言われたときに、固執しているのは彼女だと思った。
戻らなくなっても、彼女がいればいい、そしてあの詩を私にくれた。
なにも恐れることはないと、うれしかった。
そして、同じ時を生きられると知って、石を生み出す。叶ったのだ。
その時の思いが石になる。
世に出回っている、求めていた石は誰かの願いの叶った時の歓喜の涙なのだ。
他の人間の涙なぞ、贈らなくてよかった。
自身の涙でできたこの石こそが
彼女に送るにふさわしい石だ。


彼女も自身の血で赤い石を作ってくれた。

どこまでも、私に喜びを与えてくれる。

さぁ、彼女が満足する食事を作ろう。
少し明るい光をだし、彼女の鼻歌を聞きながら、
食事の準備を始めた。



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