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103:卵
しおりを挟む名残惜しそうにする二人を、みっともないと言われようが引きはがし、
セサミナが目をつぶっている間に、荷を収納しなおし気配と姿を消した。
「兄さん?姉さん?」
セサミナが呼ぶが返事はできない。
領主の力で探ろうとしているが無理なようだ。
「・・・過信するなよ、か・・・。」
セサミナが微妙に凹んでいる。
(どうする?)
(んー、ゼムさん挨拶したいけど、いまはややこしそうだね。)
(雑貨屋に行くか?)
(あ!そうだね。見に行こう♪)
(うれしそうだな?)
(え?そう?そうね、弟もできたし、うれしいよ。晩御飯は3人で食べよう。
なにか、おいしいものを作らないとね。ご飯もさらご飯にしてね。なにがいいかな?)
(お前の料理を出していいのか?かれーとかおこのみやきとか?)
(んー、それでもいいけど、人を招待してふるまう料理じゃないね。)
(セサミナは家族なんだろ?気を使うことはないさ。)
(そっか、そうだね。んじゃ、卵を仕入れないと!)
(そうだ卵だ!あの揺れで割れたかもしれん!急ごう!)
(なんですと!急げ!)
あの2人にどう説明するのかわからぬまま、
ゼムの店をでた。
「すいません、卵ありますか?」
彼女に買いに行ってもらってもいいがやはり目立つ。
目の色を変え、フードをかぶり私が買いに行った。
彼女は横で気配を消し珍しそうに店を見ている。
「いらっしゃい!もちろん卵屋に卵がなくてどうするんだ?
いくついる?」
「いや、あの揺れでどうなったかと思ってね。」
「ああ、すごかったな。最近小さい揺れも何度かあっただろ?
だから、棚を補強しておいたのさ。おかげで、テーブルの上のコップは
落ちたが、あとは無事だ。さすが、俺様ってことさ。」
「さすがだな。小さい揺れはそんなにあったか?」
「ああ、ほかの人はあまり気付いてないが、この商売だろ?
でかいやつが通っただけでも揺れはわかるのさ。
けど、そのゆれとは違う、なんていうんだ?微妙なゆれがあったんだよ。
おかげで卵は無事さ。で、いくついる?」
「ああ、集まりがあってね、できるだけたくさんほしいんだ。
支払いは砂漠石でもいいか?」
「お、もちろんさ。どれだけの大きさの石だ?先に見せてくれ。」
一番小さい石を見せる。
「お、いいね。この棚に20個あるから、それ1つで2段分だな。」
(え?安くない?そんなもん?)
(そうだな、卵は鶏を買えば済む話だが、それにしても安いな)
「いいのか?だいぶ安いようだが。」
「なに。砂漠石が値上がりしているんだよ。どうする?」
(40コ、一日2人で2個。20日分。パン、マヨネーズ、プリン、、、足らんよ?)
(ぷりんってなんだ?)
(おやつの一種。牛乳がないとつくれん。)
(乳か・・・)
「おい?どうするんだ?」
「ああ、ここらで乳を扱っているところはないか?」
「なんだ?乳もいるのか?あんたついてるな!昨日からうちでも扱ってる。これもいるのかい?」
(やった!ここで買い占めてしまおう!)
彼女が小躍りしている。
「草原の民と取引してるのか?ゼムの専売だと思っていたが。」
「そうなんだ、なんでも少し前に乳を欲しがる奴がいたらしくてな、
それで、うちも試しに扱うことにしたんだよ。あんたが、客1号だ。
運搬に気を使うから少し高いし、日持ちもしないし、氷で冷やさないといけないし、失敗したとおもったけど、
あんたが買ってくれるなら安くしておくぜ?」
(乳を欲しがる奴ってマティスのことだよね?)
(そうだな、いろいろ探し回ったみたいだな。)
「ああ、もらおう。どれぐらいあるんだ?」
牛乳は卵の何倍もの石が必要だった。
それはそうだ、冷やさないと腐る。冷やすには氷がいる。
氷は砂糖以上に貴重だ。維持する氷室もいる。
乳の入った樽が5つ。卵が120コ。
小さな砂漠石を5個、もう少し大きい石を3個で取引した。
「いやーありがたいね。んで、どうやって運ぶんだ?
手伝うぜ?」
「向こうに馬車がある。そこまで運んでもらえるか?」
「もちろん、お安い御用だ。」
路地裏に止めた馬車に積んでもらう。
「ん?旦那?馬がいないぜ?」
「ああ、水をのみ行かせてるんだ。ありがとう、助かったよ。
これだけの量はさすがに一人で運べないからな。
これは、別にもらって置いてくれ。」
「いいのかい?ありがてえ!
また、乳を仕入れておくよ。」
(無駄になるよ?当分街にはこないって言ってあげないと!)
「それはうれしいが、当分街には来ないんだ。無駄になるぞ?
今回はおまえの運がよかっただけだ。やめておけ。
冷やす方法を考えてから仕入れたほうがいいぞ?」
「そうだな、ほんと、今回は運がよかった。
なにか冷やす方法を考えてからにするぜ。ありがとな!」
「いや、助かったのはこちらの方だ、ありがとう。さ、店を開けておくわけにはいかないだろう?
馬もすぐ戻る。急いで帰らないとな。それこそ、乳が無駄になる。」
「そりゃそうだ!じゃまた、街に来たときは寄ってくれ!卵はサービスするぜ!」
「ああ」
ほくほくの卵屋は帰っていった。
「いや、無謀だね?売れなきゃどうしたんだろ?牛乳風呂?」
「風呂に入れるのか?乳を?」
「うん、なんかお肌がすべすべになるんだって。でも、後始末のことを考えたらちょっとね。」
「お前はなにもしなくてもすべすべだな。」
路地裏の馬車の中、だれもいない。
彼女を抱きしめ、口づけをした。
「ん、マティス、ここ外だよ?」
「気配はない、少しだけ。」
「ん、ん、もう、少しだけね。」
「マティスさんや、少しだけというのはわたしの解釈と違うようだけど?」
「そうか?少しだけというのは、少量、短い間という意味だぞ?」
「わかっとるわ!!すこしだけなのになんでわたしはマッパで、こんだけ体力を消耗してるの?」
「ん?説明しようか?口づけの後、胸元に唇を這わしながら、下ばきを外すと・「もう!!黙って!!」
「ふふ、すまない。声を我慢する姿がかわいらしくてな。馬車ごと気配は消したから声をあげてもよかったのに。」
(そいうことに力を使うことだけはすぐに物にするのはなんでだ?)
(少ししか抱けなかったから彼女は不機嫌だ。)
「違うぞ?」
「ははは、聞こえたか?さ、馬車ごと収納しよう。卵屋が氷もサービスしてくれていてよかったな。」
「ほんとだよ?雑貨屋さんには寄れないね。もう、セサミンのところに行くでしょ?」
「セサミン?セサミナのことか?」
「うん、セサミン、かわいいでしょ?」
「そうか?うーん、うん、かわいいな。私もそう呼ぶことにしよう。」
「セサミンのところで”がばちょ”しよう。そこで、料理を作って、
用意してもらった部屋で食べようか?家に招待してもいいけど?」
「お前のことがばれるぞ?あいつは私より学がある。」
「隠してもバレるんなら早いほうがいいよ?うそつくのも嫌だしね。
学者馬鹿っぽいから自分でどうにかしようとするんじゃないの?」
「そうか?一個人に手助けするのと領主の手助けするのと規模が違うと、
責任は持てないと言っていただろう?」
「ああ、そうだね。でも、彼は私の力をしってもそれを利用しようとしないんじゃないかな?
自分の力でしたいタイプだよ、あれは。でも、きっかけは欲しいんだろうね。」
「そうか?お前がいいのであれば、かまわない。」
「いいよ、だってお姉ちゃんだもん、わたし。弟はかわいいもんよ。」
「はははは、私たちにも姉はいたがそんな感じはなかったな。」
「そういえば、セサミンは結婚してるの?」
「してるさ、領主なんだ。たしか、妻はまだ2人。子供は2人か。」
「うわ、2人もいるんだ。ゼムさんとこの子供は2人ってゆってたね。ゼムさんってマティスより年上?」
「いや、同い年だ。」
「え?うんと年上かと思ってた。」
「あれは老け顔なんだ。あのまま年をとっても変わらないだろう。」
「あー、そういう人いるね。あ、いかん、また脱線してるよ。とにかく、セサミンのところに行こう。」
「わかった、まずは服を着ないとな。」
「そうだった!!」
2人で身支度をして、館へと移動した。
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