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167:人として
しおりを挟む彼女はまだぐっすり寝ているので、先に米だけを洗って、水につけておく。
大量に炊いたほうがうまいので、大きな鍋を作ってある。
かいせんどんも作らないとな。
カニ身とウニをのせればいいらしい。海の幸を飯の上に載せるだけ。
いくらはなにかはわからなかった。
卵焼きは彼女に作ってもらう。
唐揚げと肉巻きは作っておこう。
あとはおにぎりに合うものは少し味の濃いものを適当に。
米も炊き始めよう。火加減は赤石にお任せだ。
彼女の目が覚める。
私が先に起きて寝床にいないと
私の寝ていた場所に、同じように体を沈め、
少しからだ振りつつ、また少し寝る。
そのしぐさがかわいい。気配だけ感じるが、次回は間近で見たい。
「おはよう。あ、さらご飯炊いてくれたの?ありがとう。
おにぎり作るね。卵焼きも。あ、お茶も。半分は馬組で、半分はお茶にしちゃうね。」
まだ月が沈むには早い。
食の準備だけはしておかなくては。
昨日街で買ったものは、月が沈むと同時に届いているだろう。
よかった。6人の世帯、大食いが大半を占めるので、
補給できてよかった。
ここでの食べ物はうまいことはうまいが、
彼女がいう、もうひと手間を掛ければさらにうまくなるだろう。
喜ぶ姿が目に浮かぶようだ。
ワイプの部屋に戻ると、その本人がいない。
「セサミン!おはよう!ルグとドーガーもおはようございます。あれ?師匠は?」
「姉さん!兄さん!ワイプ様がいないのです。」
「とうとう溶けたんだ、気にするな。」
あいつはいつも攻撃を受けているようで躱しているので
軟体、もしくは水でできているのだ。
それがやっと溶けたんだ。いいことだ。
「溶けてどうするんですか?そもそも溶けません。
院に戻っていたんですよ。ちょっと気になることがありましたので。
この移動は便利ですね。」
戻っていただけらしい。なんだ。そのまま戻れなくてもいいのに。
「そうか!わたしも館に戻ることが出来るんだ!」
「風呂も戻ればよかった!」
「あ!あの時館に戻れば、タオルとごむの試作品はまだあったのに!!」
3人がうなだれている。
そのときに気付かなければどうしようもない。
「師匠はさすがですね。移動をものにしている。
でも、行ったことがないところだとか、知ってるだけだとかはダメだよ?
確実にその場所が思い描けるところかな?」
「では、王都には行けるということですか?」
セサミナが聞いてるが無理だろう?
「んー、確実に思い描ける?ちょっと漠然としたものは無理だよ。
何もない草原とかは大丈夫だけど。
王都のどこかの部屋の家具の配置とか王都の街並みとか思い出せる?」
「我が街、自分の寝室、執務室などは大丈夫ですが、そこは無理ですね。なるほど。」
「次に行ったときによく見ておけばいいよ。なにか特徴を押さえて、
ここに移動できるって感覚をおばえれば
あとは簡単。適当に。最初だけね。自分の足で動こう。」
私も聞いておこう。
「ワイプ?気になることとは?」
「ええ、ここのファンロさん、やたらコットワッツの事情に詳しかったのでね。
資産院に頻繁に出入りしていたのは知ってましたし、
メディングとのつながりもありそうだ。
各領国間での情報の奪い合いは一般的なのですが、そこがちょっと引っ掛かりましてね。
部下に調べるよう指示してきました。ここを出る前には俊足馬で来るでしょう」
「え?もどって部下の人に指示して疑問に思われなかったの?
もう、戻ってきたのか、一人なのか、とか?」
「?それをなぜ疑問におもうのですか?」
「愛しい人、そういう所なんだ、資産院は。
ある意味ダードだけがまともなんだ。人として。」
「・・・なるほど。」
彼女は納得してくれたようだ。
大きなテーブルを出し、そこで朝ごはんとなった。
彼女の作ったおにぎりには何も入っていないものとカニみそが入ったものがあった。
コンブから出汁をとって塩ですこし味付けしたスープがとてもうまかった。
浮いてる卵もうまい。
この食事には緑茶が合う。
みなもうまいといって食べていた。
ドーガーはそのスープだけをもらった水筒に入れてもらっていた。
「この昆布だけでも十分出汁がでるね。
今度茶わん蒸し作ってみよう。」
そんなことをいうものだからワイプがまた食いついてくる。
「それはどのような?」
「甘くないプリン?エビと鶏肉がはいってる。おかずだね。」
「ああ、我が弟子、モウよ。
あなたは王都で暮らしなさい。そしてわたしの食事を作ってください。」
「あははは!作るのはマティスだよ?」
「じゃあ、マティス君も一緒でいいです。」
「嫌だ!!」
「姉さん!わたしもそれが食べたいです!」
「「わたしも!」」
「そうだね。さらご飯と、茶わん蒸しと、お澄ましと。
んー、温泉卵と、あー、てんぷらもできそうか。
そこらあたりで和食っぽくなるかな?
王都でまた違う食材があるかもしれないしね。
うん、次の夕食会は和食だね。楽しみにしてて?
その前に、済ますこと済ましておかないとね。
手合わせはすぐにはじめるのかな?
先に馬組にお茶葉とお水あげて来る。
どこにいるんだろう?」
「ああ、場所は私が確認している、行こうか?」
「うん、連れってて。じゃ、行ってくる。
すぐ戻るね。」
彼女を抱え厩の裏に移動した。
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