いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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183:謁見

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明るいといえど月明かりだ。
謁見の館の大広間は我こそはシャンデリアであーる!という
ラルトルガの数倍ある大きさと数でこちらのほうが明るい。
これもガラスなのだろうか?

皆がセサミン達を見て、息を漏らす。
襟と袖口のトカゲの皮が光にあたり、よりよく映えるのだ。
光の当たり具合で、色も変わり素敵になったと思う。

その後ろの悪役夫婦にギョっっと息を呑む。

「ダーリン、この赤はこの光の下では派手みたいだね。」
「そうかなハニー?黒髪によく合っている。
口布を外して、赤い唇に吸い付きたいぐらいだ。」
 「はいはい。」



「謁見者~前へ~。」

この言葉で皆が口を閉じる。
王様が出てきて玉座に座り、その後ろに、王族と呼ばれる人たちが並ぶ。
その近くにすっぽんぽんの妖精が座ったり寝そべったりしている。
小型妖精の時は気付かなかったが、よく見ると、その乳首と臍とおけけがない。
つるんとしている。鼻もだ!で、羽根がある。え?匂いはわかるの?
そうか、エロティシズムとは孔と毛と突起物だ。うん。



セサミンと合流後、小さな控室に案内された。
ここでも露骨に嫌がらせをされている。
セサミン曰く椅子があるだけましですよ?と。


謁見の簡単な説明をしてもらう。
問答のときのようなことがないように。
あれだって、ちゃんと聞いたのに、マティスがいらんことをいうからだ!

で、謁見は領国ごとに呼ばれて、黙って跪く。
そのとき雇われの護衛はしなくていいそうだ。
雇い主を守ることが仕事だし、雇われている間の主は王様ではないからだ。
領主、及び領民はみな王様に仕えているから、礼を取る。
なるほど。
セサミンがこれが嫌で仕方がないようだ。

「あはははは!そりゃ、セサミン、若いって言われても仕方がないよ?」
「姉さん!それはどういう意味ですか!!」
「ああ、怒んないで。だって、そんな膝の屈伸運動だけで、
向こうは納得するんでしょ?してあげなよ?
ああ、べつにルグとドーガーがそんな気持ちでしてないってわかってるよ?
気持ちが通じてるからね。わたしもわかってる。
でも、王様に対しては思ってもないし、向こうもわかってない。
だったらいいじゃん。屈伸運動。いかに優雅に膝を折るか。
そんなことをしたってセサミンの自尊心は傷つかないでしょ?
むやみやたらにしろと言ってるんじゃないよ?
理不尽なときはしなくていい。けど、これってお約束なんでしょ?
臣下の礼って。
かっこよく決めといでよ。優雅にね。
今日は一段とかっこいんだから。
ねーちゃんにいいところ見せて?
ルグとドーガーもだよ?」
「姉さん!姉さん!!その上着でなければ胸にうずもれるのに!!」
「セサミナ!やはりあれはわざとだな!二度と許さんからそう思え!」
「ふん!小心な!」
「あははは!あ、ガムかんどいてね。どんどんきつくなってる。
おまじないも、もう一度かけておこう」

『ちちんぷいぷい、ちちんぷいぷい、痛いの痛いの飛んでいけ!』

痛くないけど、痛くなることはないだろう。
心も体も。
それと必ず剣をもった4人組がどこかの領国を
襲ってくる。お約束というものだそうだ。
たぶん今回はコットワッツが襲われる。

「姉さん、絶対声を出さないで。」




なんの順番かわからないけど、馬車の順番のように
最後のようだ。

わたしたちの前はメジャート領国。
従者が4人減っている。

「メジャート領国 領主ワーサ様、従者12、え?8?従者8名、前へ~。」
領主を先頭に、その後ろに従者が並ぶと
一斉に跪く。
女性はカテーシーだった。

「よく来た。明日はよろしく頼む」
「畏まりました。」

ふーん。よろしく頼まれるからよろしくししちゃうのかな?

この流れが定番。これ以外の言葉は話してはいけないそうだ。
領主と従者はその後立上り、横に並んでいく。

次だ!

「コットワッツ領国 領主セサミナ様、従者2名、護衛2名、前へ~。」

護衛なので、わたしたちの間にセサミン、
後ろに2人が続く。

横目でしか見れないが、セサミンは優雅に微笑を称え、
まっすぐ進んでいく。まぁ、素敵!

3人が跪くと同時にわたしたちは半歩下がる。
腕は後ろ。
これは一番最初に呼ばれた領国が護衛付きだったので真似してみた。
もちろん向こうは6人の護衛、14人の従者。
一番の大所帯だ。

「よく来た。明日はよろしく頼む」
「畏まりました。」

”変動!変動!そのせいで酒がない!”
”返せ!返せ!酒を返せ!”
”酒!酒!代わりの酒は持ってきたのか!”
”なかった!なかった!”
”燃やしちゃえ!燃やしちゃえ!”

妖精がずっと口と思しきものを動かしていたのは
こういうことを言っていたからだ。

(うわー、燃やすって。)
(1体なのに声は複数するな。)
(あれだよ、一つの体に何人かがはいってるんだよ。)
(怖い!)

小型妖精のように馬鹿なしゃべり方をする。
関わりたくないナンバーワンだ。

セサミンが立上り玉座のよこに並んでいるご婦人方に微笑んだのだろう、
声なき歓喜が上がってる。なるほど、セサミンはおば様キラーだな。
わたしもかわいがってしまうわけだ。


(愛しい人はセサミナを。)
(イエッサー)

横の一団に並ぶ前に4人が飛び出してくる。
お約束の襲撃者だ。
しかし、まさしく瞬殺ですね。
一応、わたしはセサミンの前を、後ろはルグとドーガーで守っている。

(前からくるけど、いい?これでどれだけ動ける確かめてみたい。)
(仕方がないな。上着は脱ぐな。)

前に踏み出して正拳付き。
姿を現し倒れ込んだ。石じゃなく自分の力なのね。
そのとき誰かが小さな悲鳴をあげた。
4人はお約束だからいいけど、5人目がいたことに驚いたのかな?

セサミンを振り返ると頷いたので問題なく、黙ってメジャート領国の横に並んだ。
倒れている5人は、どこからか現れた人によって回収される。

”うるさい!うるさい!イライラする!”
”ダメなのに!ダメなのに!”
”だれだ!だれだ!”
”こいつ!こいつ!”
”許さない!許さない!”
”塞いじゃえ!塞いじゃえ!”

え?何を?
妖精がない鼻先がくっつくほどに悲鳴を上げた女の人見つめている。
そのまま女の人は崩れて落ちてしまった。
廻りはうらやましそうにしてる。
(なにあれ?)
(姉さん!しゃべらないで!妖精に選ばれたんだ。)


そのまま気を失った女性を数人の男が運び出している。
異常だ。

「謁見者以上でございます。」
「明日の会合で再び、よろしく頼む。」
領主8人が答える。畏まりましたと。

それだけ言うと王様は退場していった。その後ろに妖精も続く。
王族もぞろぞろ退場。

その後ろ姿をに頭を下げるだけの礼を取り
これで解散となる。

始まる前のようにすぐに廻りは騒がしくなった。
「しゃべっても大丈夫ですよ?」
『セサミナ様?いままでに5人目というのはあったのですか?』
「いえ、初めてです。わたしは気付かなかった。
ルグ、ドーガー?お前たちは?」
「申し訳ありません、まったく。」
「同じです。」
「そうか。」
『セサミナ様、あれは赤い塊を狙った者。腕試しの類でしょう。』

マティスがセサミンのことを様付で読んだので4人が吹きそうになった。
腕試し、か。
謁見の館に入ってからメディングに5000リングもらい損ねたときの気をまとっている。
中途半端に強いものには同じように強いと感じてもらえるそうだ。
護衛仕様です。

「ぶ、ふ。そ、そうですか。とにかく、もうここには用はありません。
館に戻りましょう。」
『また、みなで帰るのですか?』
「いえ、戻りは各自です。」
『変わった習慣ですね。』
「言われてみればそうですね。さ、戻りましょう。」

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