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昨日は食べすぎたので本格的に鍛錬をしたい、
と、愛しい人が言う。
「マティス師匠!よろしくお願いします。」
そう呼ばれるのならば、やらねばなるまい。
サボテンの森まで移動し、そこから始める。
が、先に準備だ。
食べるもの、植物の世話、
それと露天風呂も作っておく。
軽石があればすぐに作れるようになった。
水を通さないようにお願いすればいい。
「そういえば、コットワッツの砂漠では影縫いはできないね。
やっぱり、砂のなかに蜘蛛の糸というか、それ関連の成分が
紛れ込んでるからなのかな?」
そうだろうな。
しかし、それを確かめようというかと思ったがそれ以上は何も言わなかった。
「あんまりさ、マトグラーサに行きたくないけど、
渓谷に行ったときに、ああ、なまこ狩りにね。
そのときにちょっとだけ砂漠に行こう。
そこで、砂漠石と、磁石、蜘蛛の糸、砂玉、鉱石類、
それをちょっともらっておこう。うん、ちょっとだけ。」
「わかった、ちょっとだけな。」
「うん、ちょっとだけ。」
おそらく根こそぎ、すべてだ。
それから鍛練を始めた。
剣、槍、拳と。棒術はしない。
基礎鍛錬、実践、基礎の繰り返し。
彼女が確実に強く強靭になっていく。私もだ。
「これで終わろう。」
「はっ、はっ、スー、ハー。はい、マティス師匠。」
ワイプは師匠と呼ぶ。私はマティス師匠だ。少し気に入らない。
それに気付いたのだろう、彼女はふふ、とだけ笑った。
「さ、マティス。お風呂入って、すっきりしよう。
それから植物園の手入れをして、ご飯を作ろう。
今日はなにがいいかな?やっぱりおこたで鍋かな。
寒い時期は毎日でも大丈夫。
それとも、街に行ってみようか?トックスさんは街の食事がおいしいって。
ティータイの街で食べたことないしね。」
「そうだな。いい頃合いだ。では街に行こう。」
「うん。」
どうせなら、トックスと一緒に食べようと、
トックスの家に移動する。
街の店にいることはないそうだ。
「トックスさーん!トックスさーん!」
家の前で呼ぶと、かなり経ってからどたどたと出てくる。
「おう!旦那!奥さん!どうした?」
「一緒に街にご飯食べに行きませんか?おすすめの店を教えてください。」
「そうか、そんな時間か!いまな、あの羽毛を使った服を作っていたんだよ。」
「お!早速ですね?いい感じですか?」
「もちろんだ。布団も作った。また、あの羽毛を調達しないといけない。
あれはどうやって?ああ、それは飯をくいながら話そう。まってろ!」
街に行く道中で、大道芸人青いアヒルの話をした。
「なるほどな。しかし、なんで、歌と踊りだけでみな動けなくなるんだ?」
「今度歌うよ?いま、やるとマティスがダメになるから。
いまもおなかに力を入れてるしね。」
思い出して、噴き出さなくなっただけ成長したと思ってほしい。
案内された店はゼムと来たことのある店、
ゼムが出資している店だ。
「あのお肉料理はここで作ったのかな?」
「そうだろうな。」
「またおいしいものがあったら、マティス作ってね。」
「奥さんは料理はしないんだな?」
「ふふふふ。もちろん!」
「もちろん、なんだ。俺もだ。」
「うまい人が作ってくれた方がおいしいからね。」
「それは当然だな。」
トックスも料理はしない。
ワイプのように食べるのならおいしいものを求める。
なかに入ると、少し時間が早いのかまだ客はいてなかった。
「あら、今日は早いんですね。
お連れさんも一緒とは珍しい。
あら?あなた?砂漠の!あら!目も腕も治ったのね?」
誰だ?
ゼムの関係者か?会釈だけしておく。
愛しい人はあいさつを大事にするからだ。
「3人だ。適当に頼む。奥でもいいか?
いろいろと話があるんだ。料理はすべてまとめて持ってきてくれ。酒もだ。」
「ええ、わかりました。」
「愛しい人?なぜ、その笑いが出るのだ?
その笑顔はあまりよろしくない。」
「ぐふふふふ。いやいや。
マティスは嫁をもらって他国に行く前に、ハゲチャビンに殺されかけたり、
指名手配になったり。
それも解除になって戻ってきたって思われてるのかな?って。
違うようだね。そんなことは知らない。
今、目と腕とが治ってるっていう認識をしたんだ。
情報というのはすべてが正確に、すべてに流れるものではないとおもったのよ。」
「それでどうしてその顔なんだ?」
「いやいや。ね?トックスさん?」
「ああ、なるほどな。」
「ん?トックスもなぜ笑う?」
「旦那は男から見ても見目がいいんだよ。
それで、目と腕がどうのという話は俺も聞いたよ?それが治ったんだ。
しかも、雨の日の前だ。あれだろ?タロスの話も知ってるだろ?
ああ、あんたはそこで世話になってたんだっけ?
女が騒ぐだろうなって話だ。」
「くだらん。」
「そうだろうな。しかし、傍から見ればおもしろいもんなんだよ。
そこで、当事者の奥さんが笑うのは、ま、笑うよな?」
「でしょ?うふふふ。
どんな人が来てもマティスはわたしを求めてくれるってわかってるから
うれしかったの。その笑い。
ああ、嘘でも試したりはしないでね?それはダメだ。」
「試しようがないだろ?あなたしか見えないんだから。」
「うん。それがうれしいの。」
「ふふふ。ああ、なるほどな。私もこの笑いがでるな。」
「そそ。その笑い。」
「なんなんだよ!こっちも笑いがでるな!」
3人で同じような笑い声を出して笑ってしまった。
料理が運び込まれて、これからどうやって羽毛を集めるかの話をする。
イリアスで集めて、こっちに運ぶのが一番いいとか、
樹石の話もあるし、一度セサミナにイリアスに行ってもらうほうがいいとか。
私は出される料理の味を研究しながら聞いていた。
「ああ、砂トカゲ、いまは沼地にいるから沼トカゲか。
それが手に入ったよ。表面がなんだかやわらかいような気がする。」
「お!ほんとか?
あれ、あの毛皮な。いろいろ試したが、砂トカゲの皮裏が一番なんだ。
切れ端でためしたよ。大きいものがあればって思ってた。売ってくれ。」
「とりあえず、使えるかどうか試してみて?
それで必要となったら次回から買って?」
「そうか?じゃ、次からな。やわらかいというのは?」
「砂トカゲ相手にわたしの武器は聞かなかったけど、沼トカゲだと刺さったから、
柔らかくなったとおもうの。内臓もね、変化してたのよ。すごいよね。」
「・・・・違うだろう?奥さんが強くなたんじゃないのか?な?旦那?」
「私もそう感じたぞ?」
「じゃ、旦那も強くなったと。外敵のいない砂漠から沼に来たら、
逆に固くなるんじゃないか?
それこそ、大型の動物もいるんだから。」
「大型?どんな?」
「愛しい人は見たことないか?サイより少し小さいがな、牙がある。」
「え?それがいるの?危ないね。」
「いや、向こうは人がいれば近づかない。人が襲われることはまずない。」
「へー、面白いね。なんていう名前?おいしい?」
「・・・シシという名だ。食べはしない。皮も使わない。」
「シシ?イノシシ?食べないのか。」
「奥さん、食べたいのか?あれを狩って食べるなら豚を狩る。
シシは人は襲わないが、鶏や畑を襲う。人以外何でも食べる。
嫌われ者だ。街外れに集団でいるぞ。ジットカーフでもそうだった。」
「アヒルとは違うんだね。アヒルも人と魚以外食べるんでしょ?」
「そうだな。普段はチャクを食べる。だからチャクを食べる人間は少ないな。」
「ああ、そんな感じなんだ。ここら辺の人ってアヒルはみんな見たことあるの?」
「俺は北で見たことがあるがな。
ジットカーフでもコットワッツでも見たことないな。」
「そうなの?マティスは?」
「私も北の遠征でみた。」
「じゃ、あの歌はダメだね。アヒルを知らないと。」
「愛しい人、たぶんここで歌っても同じだ。アヒルを知っていれば、
もちろんだが、あの歌と踊りが問題なんだ。ぶっ。」
「旦那がそこまで笑うとはな。見せてくれよ?奥さんの舞と一緒に。」
「舞はいいけど、アヒルのはおひねり頂戴ね。あれは芸なんだよ?」
「あははは!そうか、そうか!それは楽しみだ。」
「舞が先だぞ?でないと、愛しい人の舞を堪能できないからな。」
「じゃ、号泣もの、舞、アヒルだね。」
「号泣もの?」
「そそ。故郷の話でね、披露したらマティスは泣いたよ?」
「へー。」
「あれは皆が泣くと思う。」
「でもさ、ま、こっちに合わせて話を変えたから悪いのはわたしなんだけど、
香木に価値があるって知っていれば、さっさと売ってお金にすればよかったって
無知はダメだって話だよね。」
「・・・・。」
「違う?」
「違うな。やはり褒美にもらったもの。
むやみに売ったり燃やしたりしたくなかったということだ。」
「あー、なるほど。そこは改良しようかね。」
「香木?知ってるのか?」
「うん。もらったのよ。いる?」
「いるって、奥さんよ。旦那もわかってない顔してるな。
香木は希少なものなんだよ。俺は若い時に大体の国は回った。
南方のルポイドじゃ、砂漠石より高値で取引される。」
「そうなんだってね。いい匂いだものね。」
「え?嗅いだのか?」
「うん。お風呂に入れた。」
「風呂!!」
「トックス、声が大きいぞ。」
「なんで!なんでそんなことしたんだ!!」
「え?トックスさん、声が大きい。なんでって、故郷のお風呂にね、
入浴剤っていい香りのものをいれることがあるのよ。色がついてたり、
体がよく温まるかとかね。それで、入れてみようかなと。」
「・・・。ああ、だめだ。領主さんが嘆くのがわかる。
それを領主さんに言ってみな?コールオリンの時のように卒倒するぞ?」
「ああ、風呂にいれたとは言ってないが、これはなんだと聞いたら驚いていた。」
「じゃ、あんたたちが香木を持ってるのは知ってるんだな?」
「もちろん。わかんないことはセサミンに聞くようにしてるよ。」
「これからもだ。何かわからないものが手に入ったら、
必ず領主さんに聞くんだ。
それでもわからないものはこっちに聞いてくれてもいい。」
「うん。わかった。で、いる?セサミンにも半分あげたんよ。
それで、うん、まだあるから。」
「・・・くれ。」
「でね?なんかね、暗示にかかりやすいっていうからね、
健康で長生き!っていいながらお風呂に入れたのよ。
火に入れてないよ?」
「健康で長生き!!あははは!!いいな!
暗示というか、その煙そのものが不老長寿の妙薬って言われてるんだけどな。」
「うん。そう思ってるからそうなんじゃないかな?」
「そうなのか?暗示な。
蜘蛛の糸のような?そういえば、ワイプの旦那はどうしてる?
糸がたまったらこっちにくれる約束はしてたんだがな。」
「・・・近いうちにこっちに来るとは言っていた。飴の仕入れだ。」
「飴!あれもうまいな。甘いガム、茶葉のガムもお気に入りなんだ。」
「わたしも作ったの。ザバスさんにはまあまあの出来だって。
今度持ってきますね。
おなかいっぱいだ。お肉は豚と鶏だね。サイは入って来ないのかな?
ボットも?」
「ボットも時々入るらしいな。ラルトルガから早馬が来るときに。」
「そうか、肉として来るからか。
変な言い方だけど、生きたまま買えばいいんじゃないの?」
「道中の世話で手間がかかるな。税も違うだろう。」
「なるほど。」
「例の毛皮もな、今は不用品ということでこっちに入れている。
こっちで商品にするから税がかからないんだよ。」
「へー、難しいね。」
「さ、そろそろ帰ろうか。ああ、ここは俺に出させてくれよ。
いつもうまい飯を食わせてもらってんだから。」
「ありがとうございます!」
「・・・。」
「どうした旦那?」
「マティス?お礼は言わないといけないよ?」
「ああ、トックス、ありがとう。
いや、外が騒がしい。女か?沢山いる。」
「おお!人気者だね!」
「・・・愛しい人。」
「うふふふ。別にそこに姿を見せる必要はないんだから、このまま帰ろう。
トックスさん、悪いんだけど、わたしたちはこのままドロンです。」
「どろん?」
「あははは!このまま移動で帰りますって意味です。」
「あれか?どろんっていうのか?かまわんさ。
しかし、トカゲの皮は欲しいな。家でまっててくれよ。」
「勝手に入っていいんですか?」
「もちろんかまわんさ。」
「じゃ、先に行ってますね。あ!まだ食べれますか?
ラーメンっていうのあるんですよ?どうですか?」
「お!そういうのは遠慮しちゃいけねぇな。もちろん食べるさ。」
「では、お先に。マティス、行こう!」
「わかった。おいで。」
「ん?運んでくれるの?」
「そうだ。違う場所に出たらいけないからな。
私は台所で、お前は炬燵になるだろ?」
「あはははは!そうだね。じゃ、お願いします。」
愛しい人を抱えて、トックスの家に移動した。
愛しい人がぎゅっと抱きしめるのがかわいいから、
移動は極力私がすることにしよう。
と、愛しい人が言う。
「マティス師匠!よろしくお願いします。」
そう呼ばれるのならば、やらねばなるまい。
サボテンの森まで移動し、そこから始める。
が、先に準備だ。
食べるもの、植物の世話、
それと露天風呂も作っておく。
軽石があればすぐに作れるようになった。
水を通さないようにお願いすればいい。
「そういえば、コットワッツの砂漠では影縫いはできないね。
やっぱり、砂のなかに蜘蛛の糸というか、それ関連の成分が
紛れ込んでるからなのかな?」
そうだろうな。
しかし、それを確かめようというかと思ったがそれ以上は何も言わなかった。
「あんまりさ、マトグラーサに行きたくないけど、
渓谷に行ったときに、ああ、なまこ狩りにね。
そのときにちょっとだけ砂漠に行こう。
そこで、砂漠石と、磁石、蜘蛛の糸、砂玉、鉱石類、
それをちょっともらっておこう。うん、ちょっとだけ。」
「わかった、ちょっとだけな。」
「うん、ちょっとだけ。」
おそらく根こそぎ、すべてだ。
それから鍛練を始めた。
剣、槍、拳と。棒術はしない。
基礎鍛錬、実践、基礎の繰り返し。
彼女が確実に強く強靭になっていく。私もだ。
「これで終わろう。」
「はっ、はっ、スー、ハー。はい、マティス師匠。」
ワイプは師匠と呼ぶ。私はマティス師匠だ。少し気に入らない。
それに気付いたのだろう、彼女はふふ、とだけ笑った。
「さ、マティス。お風呂入って、すっきりしよう。
それから植物園の手入れをして、ご飯を作ろう。
今日はなにがいいかな?やっぱりおこたで鍋かな。
寒い時期は毎日でも大丈夫。
それとも、街に行ってみようか?トックスさんは街の食事がおいしいって。
ティータイの街で食べたことないしね。」
「そうだな。いい頃合いだ。では街に行こう。」
「うん。」
どうせなら、トックスと一緒に食べようと、
トックスの家に移動する。
街の店にいることはないそうだ。
「トックスさーん!トックスさーん!」
家の前で呼ぶと、かなり経ってからどたどたと出てくる。
「おう!旦那!奥さん!どうした?」
「一緒に街にご飯食べに行きませんか?おすすめの店を教えてください。」
「そうか、そんな時間か!いまな、あの羽毛を使った服を作っていたんだよ。」
「お!早速ですね?いい感じですか?」
「もちろんだ。布団も作った。また、あの羽毛を調達しないといけない。
あれはどうやって?ああ、それは飯をくいながら話そう。まってろ!」
街に行く道中で、大道芸人青いアヒルの話をした。
「なるほどな。しかし、なんで、歌と踊りだけでみな動けなくなるんだ?」
「今度歌うよ?いま、やるとマティスがダメになるから。
いまもおなかに力を入れてるしね。」
思い出して、噴き出さなくなっただけ成長したと思ってほしい。
案内された店はゼムと来たことのある店、
ゼムが出資している店だ。
「あのお肉料理はここで作ったのかな?」
「そうだろうな。」
「またおいしいものがあったら、マティス作ってね。」
「奥さんは料理はしないんだな?」
「ふふふふ。もちろん!」
「もちろん、なんだ。俺もだ。」
「うまい人が作ってくれた方がおいしいからね。」
「それは当然だな。」
トックスも料理はしない。
ワイプのように食べるのならおいしいものを求める。
なかに入ると、少し時間が早いのかまだ客はいてなかった。
「あら、今日は早いんですね。
お連れさんも一緒とは珍しい。
あら?あなた?砂漠の!あら!目も腕も治ったのね?」
誰だ?
ゼムの関係者か?会釈だけしておく。
愛しい人はあいさつを大事にするからだ。
「3人だ。適当に頼む。奥でもいいか?
いろいろと話があるんだ。料理はすべてまとめて持ってきてくれ。酒もだ。」
「ええ、わかりました。」
「愛しい人?なぜ、その笑いが出るのだ?
その笑顔はあまりよろしくない。」
「ぐふふふふ。いやいや。
マティスは嫁をもらって他国に行く前に、ハゲチャビンに殺されかけたり、
指名手配になったり。
それも解除になって戻ってきたって思われてるのかな?って。
違うようだね。そんなことは知らない。
今、目と腕とが治ってるっていう認識をしたんだ。
情報というのはすべてが正確に、すべてに流れるものではないとおもったのよ。」
「それでどうしてその顔なんだ?」
「いやいや。ね?トックスさん?」
「ああ、なるほどな。」
「ん?トックスもなぜ笑う?」
「旦那は男から見ても見目がいいんだよ。
それで、目と腕がどうのという話は俺も聞いたよ?それが治ったんだ。
しかも、雨の日の前だ。あれだろ?タロスの話も知ってるだろ?
ああ、あんたはそこで世話になってたんだっけ?
女が騒ぐだろうなって話だ。」
「くだらん。」
「そうだろうな。しかし、傍から見ればおもしろいもんなんだよ。
そこで、当事者の奥さんが笑うのは、ま、笑うよな?」
「でしょ?うふふふ。
どんな人が来てもマティスはわたしを求めてくれるってわかってるから
うれしかったの。その笑い。
ああ、嘘でも試したりはしないでね?それはダメだ。」
「試しようがないだろ?あなたしか見えないんだから。」
「うん。それがうれしいの。」
「ふふふ。ああ、なるほどな。私もこの笑いがでるな。」
「そそ。その笑い。」
「なんなんだよ!こっちも笑いがでるな!」
3人で同じような笑い声を出して笑ってしまった。
料理が運び込まれて、これからどうやって羽毛を集めるかの話をする。
イリアスで集めて、こっちに運ぶのが一番いいとか、
樹石の話もあるし、一度セサミナにイリアスに行ってもらうほうがいいとか。
私は出される料理の味を研究しながら聞いていた。
「ああ、砂トカゲ、いまは沼地にいるから沼トカゲか。
それが手に入ったよ。表面がなんだかやわらかいような気がする。」
「お!ほんとか?
あれ、あの毛皮な。いろいろ試したが、砂トカゲの皮裏が一番なんだ。
切れ端でためしたよ。大きいものがあればって思ってた。売ってくれ。」
「とりあえず、使えるかどうか試してみて?
それで必要となったら次回から買って?」
「そうか?じゃ、次からな。やわらかいというのは?」
「砂トカゲ相手にわたしの武器は聞かなかったけど、沼トカゲだと刺さったから、
柔らかくなったとおもうの。内臓もね、変化してたのよ。すごいよね。」
「・・・・違うだろう?奥さんが強くなたんじゃないのか?な?旦那?」
「私もそう感じたぞ?」
「じゃ、旦那も強くなったと。外敵のいない砂漠から沼に来たら、
逆に固くなるんじゃないか?
それこそ、大型の動物もいるんだから。」
「大型?どんな?」
「愛しい人は見たことないか?サイより少し小さいがな、牙がある。」
「え?それがいるの?危ないね。」
「いや、向こうは人がいれば近づかない。人が襲われることはまずない。」
「へー、面白いね。なんていう名前?おいしい?」
「・・・シシという名だ。食べはしない。皮も使わない。」
「シシ?イノシシ?食べないのか。」
「奥さん、食べたいのか?あれを狩って食べるなら豚を狩る。
シシは人は襲わないが、鶏や畑を襲う。人以外何でも食べる。
嫌われ者だ。街外れに集団でいるぞ。ジットカーフでもそうだった。」
「アヒルとは違うんだね。アヒルも人と魚以外食べるんでしょ?」
「そうだな。普段はチャクを食べる。だからチャクを食べる人間は少ないな。」
「ああ、そんな感じなんだ。ここら辺の人ってアヒルはみんな見たことあるの?」
「俺は北で見たことがあるがな。
ジットカーフでもコットワッツでも見たことないな。」
「そうなの?マティスは?」
「私も北の遠征でみた。」
「じゃ、あの歌はダメだね。アヒルを知らないと。」
「愛しい人、たぶんここで歌っても同じだ。アヒルを知っていれば、
もちろんだが、あの歌と踊りが問題なんだ。ぶっ。」
「旦那がそこまで笑うとはな。見せてくれよ?奥さんの舞と一緒に。」
「舞はいいけど、アヒルのはおひねり頂戴ね。あれは芸なんだよ?」
「あははは!そうか、そうか!それは楽しみだ。」
「舞が先だぞ?でないと、愛しい人の舞を堪能できないからな。」
「じゃ、号泣もの、舞、アヒルだね。」
「号泣もの?」
「そそ。故郷の話でね、披露したらマティスは泣いたよ?」
「へー。」
「あれは皆が泣くと思う。」
「でもさ、ま、こっちに合わせて話を変えたから悪いのはわたしなんだけど、
香木に価値があるって知っていれば、さっさと売ってお金にすればよかったって
無知はダメだって話だよね。」
「・・・・。」
「違う?」
「違うな。やはり褒美にもらったもの。
むやみに売ったり燃やしたりしたくなかったということだ。」
「あー、なるほど。そこは改良しようかね。」
「香木?知ってるのか?」
「うん。もらったのよ。いる?」
「いるって、奥さんよ。旦那もわかってない顔してるな。
香木は希少なものなんだよ。俺は若い時に大体の国は回った。
南方のルポイドじゃ、砂漠石より高値で取引される。」
「そうなんだってね。いい匂いだものね。」
「え?嗅いだのか?」
「うん。お風呂に入れた。」
「風呂!!」
「トックス、声が大きいぞ。」
「なんで!なんでそんなことしたんだ!!」
「え?トックスさん、声が大きい。なんでって、故郷のお風呂にね、
入浴剤っていい香りのものをいれることがあるのよ。色がついてたり、
体がよく温まるかとかね。それで、入れてみようかなと。」
「・・・。ああ、だめだ。領主さんが嘆くのがわかる。
それを領主さんに言ってみな?コールオリンの時のように卒倒するぞ?」
「ああ、風呂にいれたとは言ってないが、これはなんだと聞いたら驚いていた。」
「じゃ、あんたたちが香木を持ってるのは知ってるんだな?」
「もちろん。わかんないことはセサミンに聞くようにしてるよ。」
「これからもだ。何かわからないものが手に入ったら、
必ず領主さんに聞くんだ。
それでもわからないものはこっちに聞いてくれてもいい。」
「うん。わかった。で、いる?セサミンにも半分あげたんよ。
それで、うん、まだあるから。」
「・・・くれ。」
「でね?なんかね、暗示にかかりやすいっていうからね、
健康で長生き!っていいながらお風呂に入れたのよ。
火に入れてないよ?」
「健康で長生き!!あははは!!いいな!
暗示というか、その煙そのものが不老長寿の妙薬って言われてるんだけどな。」
「うん。そう思ってるからそうなんじゃないかな?」
「そうなのか?暗示な。
蜘蛛の糸のような?そういえば、ワイプの旦那はどうしてる?
糸がたまったらこっちにくれる約束はしてたんだがな。」
「・・・近いうちにこっちに来るとは言っていた。飴の仕入れだ。」
「飴!あれもうまいな。甘いガム、茶葉のガムもお気に入りなんだ。」
「わたしも作ったの。ザバスさんにはまあまあの出来だって。
今度持ってきますね。
おなかいっぱいだ。お肉は豚と鶏だね。サイは入って来ないのかな?
ボットも?」
「ボットも時々入るらしいな。ラルトルガから早馬が来るときに。」
「そうか、肉として来るからか。
変な言い方だけど、生きたまま買えばいいんじゃないの?」
「道中の世話で手間がかかるな。税も違うだろう。」
「なるほど。」
「例の毛皮もな、今は不用品ということでこっちに入れている。
こっちで商品にするから税がかからないんだよ。」
「へー、難しいね。」
「さ、そろそろ帰ろうか。ああ、ここは俺に出させてくれよ。
いつもうまい飯を食わせてもらってんだから。」
「ありがとうございます!」
「・・・。」
「どうした旦那?」
「マティス?お礼は言わないといけないよ?」
「ああ、トックス、ありがとう。
いや、外が騒がしい。女か?沢山いる。」
「おお!人気者だね!」
「・・・愛しい人。」
「うふふふ。別にそこに姿を見せる必要はないんだから、このまま帰ろう。
トックスさん、悪いんだけど、わたしたちはこのままドロンです。」
「どろん?」
「あははは!このまま移動で帰りますって意味です。」
「あれか?どろんっていうのか?かまわんさ。
しかし、トカゲの皮は欲しいな。家でまっててくれよ。」
「勝手に入っていいんですか?」
「もちろんかまわんさ。」
「じゃ、先に行ってますね。あ!まだ食べれますか?
ラーメンっていうのあるんですよ?どうですか?」
「お!そういうのは遠慮しちゃいけねぇな。もちろん食べるさ。」
「では、お先に。マティス、行こう!」
「わかった。おいで。」
「ん?運んでくれるの?」
「そうだ。違う場所に出たらいけないからな。
私は台所で、お前は炬燵になるだろ?」
「あはははは!そうだね。じゃ、お願いします。」
愛しい人を抱えて、トックスの家に移動した。
愛しい人がぎゅっと抱きしめるのがかわいいから、
移動は極力私がすることにしよう。
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努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
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