いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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402:同業者

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「な、なんだい?」
「ふふふ、あたりということですよ。
実はわたしたち、
コットワッツのトックスさんから新作のコートを仕入れてたんですよ。
イリアスの港町、フエルトナに向かう途中で強盗に襲われましてね、
大半は投げ捨てて命からがら逃げたんですよ。
でも、何着はあります。ここで商売するには5リングいるそうですが、
良ければ、魚のコートとセットで、見てみますか?
イリアスの村で一着だけ青は売りましたが、なかなか評判がよかった。
その方からカメリの油のことを教えてもらったんですよ。」
「・・・レタンのヘレーナ?」
「ご存じなんですか?そうです。村長さんのご母堂様です。
良くしていただけました。
その時持っていたものを一番多くお買い上げ頂いて。」
「そう。ちょっとその話はあとだよ?」

残念、買ってくれるかと思たんだけど。
ヘレーナさんと友達なんだろうか?

「えーと次は、これも聞かれてもどっちでも。
わたしたちはピクトにも向かう予定です。
ピクトのことをわかる範囲で先に教えてもらえばと。
こっちであるものが、向こうでは重宝されているとか?
そういうおいしい話を。」
「それも1銀貨だ。」

ということは、そんなに貴重な話でもないってことだ。
商人なら知っているってことか。

「お願いします。」

「ピクトとは仲が悪い。これは知ってるね。
砂漠の真ん中で権利を主張し合っている。
ダカルナではピクトの悪口、ピクトではダカルナの悪口を言えば
大抵商売はうまくいく。」
「じゃ、ダカルナで仕入れたものはピクトでは売れない?」
「違うよ。ダカルナではこの価値は分かっていない。
だから安く仕入れた、ピクトの皆様には真の価値がわかるだろう、
っていうのさ。商売人は実は仲がいいのさ。
だからこっちでピクトで仕入れた、この価値が分かるのは
ダカルナの皆様だけって商品はピクトに行けば
さらに安く買える。皆知ってることだが、
一般人は行き来がないから、買うのさ。」
「なんというか、それはおいしい話。」
「そう答えれるんならあんたも立派な商人だ。」
「ありがとうございます!」
「ふふふ。で、なにがいいかだね?
定番は塩だ。一番安いもの。ほんとは一番まずいんだが。
その味に慣れているんだろうね。試しに高いものを味見させても
安いほうがうまいという。間抜けな話だ。」

それは好みだろう。
3種類買わないといけないな。

「あとは、ウリだね。
こっちではそこから化粧水を作る。向こうでも化粧水は売れるよ?
これは、中が悪いとか関係ないから。
それで、その実も向こうは買うんだ。
こっちから運べば、干乾びるだろ?それでも買う。
水につけて腐らすそうだ。匂いがひどい。
そのあとは水筒として使っている。
その水筒はこっちでも買えるよ。あの臭いがしないのなら、
多少高くなってもこっちでは作らないで買うほうがいい。」

へちまかと思ったけど、ひょうたんなんだ。

「が、今の時期はないからね。やはり塩だね。
あとは、これはなんとも言えない話だが、砂漠側の村で糞尿がなくなるそうだ。
業者が回収するまえになくなるらしい。
ま、これは話題だね。向こうで話せばそれなりに受けるだろう。」

糞尿泥棒か。師匠に報告だ。
マティスが頷いている。

「えー、では最後。これはこちらで防音を掛けます。
わたしたちが聞いたこともご内密に。」

握り拳より少し小さい石を出した。

『これから先話す内容はこの部屋の外には漏れない。』

こう言えば、この部屋から外には漏れない。
聞こえないではなく、漏れないのだ。
女将はこんなことがあったということもできないだろう。
わたしたちは石に縛られないから関係ない。


「おや?やっと本筋かい?なんの話だい?」
「剣のマティスと赤い塊の懸賞金の話を。お女将さんが知る範囲で結構。」
「・・・20リングだ。」
「それは内容に寄りますね。あとでもう一度交渉しても?」
「いいだろう。
あんたたちはイリアスの櫓宿で聞いたんだね?
こっちから流れした話だ。櫓宿同士、情報のやり取りは大事だからね。
先に聞くよ?どこまで聞いた?それ以上の話がなければ、
金を出す意味がないだろう。あたしもそれは知ってるって言われるのは嫌だからね。」
「剣のマティスに10万、これは生死を問わず。
赤い塊に30万。いけどりで。
どこの誰が掛けたかはまだ分からない。真贋も不明。ですね。」
「こっちで出した話だけだね。
誰が出したかは最後まで分からないのは当然だ。
これの話をまずしようね。剣のマティスという名は知ってても
あまり詳しくは知らないだろ?
剣のマティス、これはコットワッツ、領主セサミナの兄だ。
ずっと険悪だったのさ。それが最近和解した。
コットワッツ変動で砂漠石が取れなくなった。
次の産業を探さなければいけない。それを狙うものも出てくる。
だから兄弟げんかしている場合じゃないんだ。
セサミナは領民を思うニバーセルで一番の領主だ。
兄を手元に置くのが得策と考えたんだろう。
事実、道中は護衛を引き受けている。
ニバーセルで行われた武の大会でもいい成績を残した。

剣のマティスの名はまたここグラシオル大陸に知れ渡ったんだ。
あたしでも知っている。40年近く前だ。
誰も彼も、どこからか剣のマティスの話をしていたね。
うそかほんとかわからない話。はは!
え?例えば?
そうだね、道を歩けば両脇には男の屍、後ろには女の行列。
遠征に行けば、成人前にもかかわらず、必ず女が10人ほどそばにいたそうだ。
その年に成人になるものは年明けから正々堂々と
娼婦通いができる。毎日違う家に通ったそうだよ?
が、雨の日前に砂漠に投げ出されたからね。
それまで通っていた女どもが15人。大いにもめたらしい。
妻になったのは自分なはずだってね。
が、片目片腕になり、領主に毛嫌いされている兄に誰も見向きもしない。
マティスは砂漠の片隅で生きていたのにだ。
大分たってから街に出入りするようになったが、皆が知らぬふりをしていたそうだ。

なのに、大会ではそんな様子は見られなかった。
それはない。片目片腕は確かな話だ。
だからセサミナが砂漠の石をすべて使ったって話もある。
しかし、それができるなら皆がそうするだろう。
そこで出てくるのが赤い塊だ。
これはマティスの妻だと言われていたり、老人だという話もある。
実際に赤い塊として大会に出ていたのは女だ。モウと名乗っていたそうだ。
しかし、ニバーセルのメジャート、ナソニールの湿地を
コットワッツが買った時にそばにいたのは
赤い服を着た老人2人だ。
この2人は、いや一人は驚くべき石使いだそうだよ。
あっという間に国境に塀を作ったそうだ。
メジャートの領主が後であれは誰だと問い合わせたらしい。
コットワッツは赤い塊と名乗るものだと答えている。
あたしはこの話とマティスの妻と混同していると思っている。
どちらにしろ、同じ赤い塊と名乗るんだ。
そのマティスの妻でも生け捕りにできれば
話は聞けるだろ。だから生け捕りだ。

剣のマティスとそのそば近くにいる赤い塊。
生死を問わずマティスが10万、生け捕りで赤い塊が30万。

これには続きがある。
2人とも生きて捕まえることが出来たなら
100万だ。

だってそうだろ?
それほど凄腕の剣を持っているなら、死ぬわけがない。
それほど凄腕の石使いならマティスを死なすわけがない。
赤い塊だけが捕まることもない。
2人で一緒だ。すばらしい剣と石が手に入る。

赤い塊は金次第で動くという話もある。
自分たちに100万だすという話が本人たちの耳に入れば
その100万を求めてくるだろう。

だから、こうして聞いてくるものにこうして話をする。
あんたたちが接触できればこのはなしが向こうに届くかもしれないからね。」
「向こうに届く?それほど接触したいなら最初からそうすればいいのでは?」
「そうんなことすれば、偽物がわんさか出てくるだろう。
ルポイドにも出たらしいよ?偽赤い塊が。」
「なるほどね。ティス?どう思う?」
「・・・遠征時の話は嘘だ。15人?これも嘘だな。」
「いや、そんな話は面白おかしく伝わっているだけだから。」
「あ!わかった!もっと人数が多いんだ!それを知ってるんだね?ティス!」
「違う!そんなわけあるか!!」
「あははは!奥さん、からかってはだめだ。
男というのものは変なところで見栄をはるから。
あんたも同じ世代だろ?同じ男で面白くないのはわかるけどね。」
「・・・・。」
「で、どうだい?20リングだ。」
「そうですね。うまくマティスたちを見つけて、
100万のはなしをなぜわたしたちが、いえ、同業者がすると考えるのかが分からない。
それを教えてもらえるなら20払いましょう。」
「あんたたち賞金稼ぎがどれほどの腕があるかは分からないが、
剣のマティスより上ってことはないだろう?上ならこんなところにいないはずだ。
最後の最後で100万の話をすれば助かるかもしれない。
命乞いのネタだよ?」
「わたしたちがやられる前提か。それもそうか。
その話をするものが何人も出てくれば、信憑性もでてくる。
この話を出した御仁はよほど剣と石を欲してるんだね。」
「そういうことだろうね。赤い塊が金にがめついという話が本当なら
飛びつくだろうさ。」
「金にがめつい。そうなんだ。」
「ルポイドの元首からも1万リングせしめたと聞く。
ほっとけば治る病を治したと言ってね。」
「それはがめつい。わかりました。20リング、いえ、25リング払います。
女将の見解を聞きたい。どこのだれが何を求め、どうしたいのか?」
「いいね。あたしはルポイド当たりのはなしを聞いた、
西方諸国の王が出したと思っている。
南諸国もあやしいが、だったら剣いらない。同等の腕は持ってるはずだ。
ま、目障りだっていうものあるかもしれないがね。
剣のマティスと聞くだけで大抵はしり込みする。
それをわざわざつけるんだ。剣を欲してる西方だろう。
ドルガナが売った話だろうね、ルポイドの元首の話は。
なにを怒らせたがしらないが、ルポイドはドルガナからではなく、
この国から石を買うらしい。その腹いせに元首の病の話を売ったんだ。」
「ニバーセル、マトグラーサの砂漠から買ったほうが、近いのでは?
もしくはピクトから?」
「ん?5リングのなかに入れてやるが、特別だよ?
ニバーセルの石が高い。こっちの砂漠の方が安いからだ。
山脈を抜けるための装備を固めたとしてもね。ピクトは数が揃えられなかった。」
「ちなみにいかほど?」
「2倍だ。」
「ああ、コットワッツで石が取れればいいのに。」
「それは仕方がないね。」
「砂が舞い上がったと聞きます。そんな現象ほかでもあるんでしょうか?」
「1リング。」
「はい。」
「ある。砂漠はそういうところだ。空に上がったり、地に沈んだり。
みなそのことを話さないだけだね。こっちはその話が金になるからね。
コットワッツ変動後すぐにダカルナ王はいつもの倍以上の砂漠石を確保した。
ピクト側を超えてまでね。値上がりを見越してるのさ。
いずれニバーセルもダカルナの砂漠で石を買うだろうね。」
「ありがとうございます。」

賞金稼ぎの2人。
そう思わすことはできた。
同業者というのが大道芸人だとおもしろいな。
青いアヒルのことも聞くか?聞けば話が逆に広まる。
やめておこう。

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