いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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403:エビ

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26リングを袋に入れて渡した。
可愛い巾着入り。きゅっと絞れるよ。

「・・・これ、かわいいね。」
「そうですか?端切れを仕入れたんで作たんですよ。
さっきの話に出てきたトックスさんにすこしご指導いただきまして。
評判がよければ売ろうかなって。」

指導というのは縫い方だ。
形はわたしの知ってるものだよ。

「はー。さすがだね。そのトックスっていうのは。
さ、これからちょっとあたしにも話を聞かせておくれ。
もちろん、金は払う。
レタンのヘラーナの話だ。あれはあたしの古い知り合いだ。
油もあたしの紹介で買っている。レタンでどんなものを売ったか教えてもらえるかい?
1リングだそう。」

?なんだろう。友人ではなくて知り合いなんだ。

袋から1リング出すので、
箇条書きのように説明していく。
説明は2人とも下手なのだ。

魚のコート下の上着、コットワッツの新製品、
タオル、ゴム、歯ブラシ。
オイルマッサージのこと。
イリアスの青の上着は売らないでって言われたこと。
強盗の話もした。荷が少ないから怪しまれる。
でも、一通りは無事だったということにした。
大きな背負子を投げ捨てたということだ。


「分けててよかったですよ。」
「あの街道は強盗が出るって有名なんだ。
住人が襲われることはないから、そのままなんだよ。
あんたたちは運がよかった。いや、やはり腕に覚えがあるってことだね?」
「えへへへへへ。」

笑ってごまかす。

「その魚のコート?中の上着?
全て見せておくれ?」
「いえ、ここでは商売はやめておこうと。5リング払っても数がないんで。
ここで、塩を仕入れて、ダカルナの王都で
少し仕入れたイリアスのチーズを売るつもりです。」
「広場で売るから5リングいるんだよ。ここで売ればわからない。」
「あ!そうか!じゃ、見てもらえますか?」

背負子、1つに入るぐらいのものを出していく。
魚のコートは女将さんが着れるサイズで、白と茶。
青のダウンと、薄桃色のも。
あとはタオルと、髪飾り、ゴム、お茶、歯ブラシ。
密封容器もだ。
ハムも少し。


「ヘレーナにはこの組み合わせ?」
「ええ。顔色、肌の色に合わせて選びました。
同じ村で健康的な肌のお姉さんには赤黄色と茶色の組み合わせで。
女将さんは、青より薄桃ですね。
肌色がしろくてきれいだから。青を持ってくると青白くなります。」
「・・・青はダメかい?」
「んー、服の色が顔色に反射すると考えれば、青白く見えます。
紅の色をもっと鮮やかに?そうすれば逆に映えるかな?
組み合わせですね。頬紅って使いませんか?」

紅はあるがチークがない。
アイシャドウも。

「ほうべに?紅を頬にってこと?」
「ええ、やってみましょうか?お湯とタオルで。
ヘラーナさんにやったみたいに。」
「お願いします!!」

なぜか敬語だ。

ここでは狭いからと、火が使えるところに移動した。
お湯を沸かしてタオルを蒸す。
斜めの椅子もマティスが改良してくれる。
2回目なので簡単だ。
2脚の椅子を組み合わせればいい。
2つダメにするがいいかと聞けば2つ返事だった。

後ろの脚を短くして。それが倒れ込まないようにもう一台の
背もたれと足で支える。座面は脚が伸ばせるように。取り付ければいい。
持ってきてもらった毛布で、腰の凹みのところにクッションとして丸めればいい。

オイルと化粧水も持ってきてもらう。
ヘレーナさんも小さな焼き物にいれて、魚の毛の短い皮で封をしていた。
ここでもだ。密封容器が売れるかもしれないね。

同じように始める。
2回目、いや、マティスでも試したので3回目だ。
うまくできたと思う。
化粧水では普段より多めにつけてもらった。
手で、押し込むようにと。
それが落ち着いたら化粧だ。
口紅だけだけどね。
持っている紅のなかでローズ系を。
その紅をトントンと頬に付ける。ここではすべて天然成分だ。
肌に悪いこともあるまい。

「どうですか?」
「いいわ、これ!」

小さな鏡を持っていたのは驚きだ。

「よかった。イリアスは樹石を使ったお風呂がありますから、
そのときすればとヘレーナさんにはおすすめしました。
こちらでは、湯あみするときに、タオルを湯につけて、
顔に当て、毛穴を開いて油で揉む。
そのまま、流さずに、普段通り、体をきれいにして、
最後に、タオルで拭き取ります。
そのあと、素早く化粧水で、うるおい与えてください。」
「素早く?」
「ええ。せっかく、きれいになった肌、やわらかくなった肌に、
化粧水をはやくしみ込ませたいでしょ?
服を着るよりも先に化粧水ですよ?」
「そ、そうね。」
「いかがですか?
コートと中の上着、まとめてお買い上げで12リング。
ほんとは20リングなんですが、レタンの村長にまけさせられたんで。
同じ金額です。
タオル1枚8銀貨、ゴムは10m1銀貨、歯ブラシは3本で1銀貨。
お茶はとハムは1銀貨ずつおうりできますが、
2銀貨分しかないですね。
密封容器は代が2銀貨、小が1銀貨。
髪飾りはタオル4枚で1つおまけです。
単品なら、2銅貨。3つで5銅貨。」
「すべて買うわ。ダカルナでこの上着とコートはここだけってことね?」
「そうなりますね。ピクトで、仲間と合流できれば、
売ることはできますが。」
「仲間?」
「ええ。荷をなくしたことはトリヘビで連絡済みです。
補充しないとやっていけませんから。」
「あなたたちは、行商を手広くやっているというのね。」
「ええ。わたしたちは足が速いので。それを生かして各地を回っています。
荷を各地で補充出来ればそのほうが安く上がる。
商売せずに、街道をかなりの速さで仲間が運びます。
あの速さなら襲われることも少ないですから。」

嘘八百。

「考えたね。ピクトは仕方がない、
ヘレーナのところで10か。これも、仕方がないか。」
「あの?」
「同じはなしよ?同じ服を着た人が前から歩いてきたら嫌でしょ?
みなが着始めていればいいけどね。
まだだれも着ていないんでしょ?」
「ええ、ダルカナでは女将さんだけになりますね。」

すべてで30リング。
巾着で渡したもの以上に戻ってきた。
巾着は戻らず。よほど気に入ってくれたみたいなので、
あと、2つほど進呈した。

「ありがとう。お礼にいっしょに化粧水を買いに行きましょう。」
「いいんですか?ありがとうございます。」

女将さんは忙しくなるであろう時間に、いっしょについてきてくれた。
あの上着を着ている。
髪飾りもつけている。
魚のコートは来てはいないが、手に持っている。
ミンクのコートを売り込みたい。きっと買ってくれるだろう。
わたしはその後ろについていく。
マティスはなぜか改良の椅子を持たされていた。


「アカッター?いる?」
「ミフィル?鐘が鳴る前に来るなんて珍しい。
ん?それ何?ちょっと!!その肌どうしたの!!」
「んふふふふふ。ああ、この行商。
あたしのお気に入り。油と化粧水を売って。
あんたたち?樽で買えるわね?
ああ、椅子はそこに。ありがとう。
それを客に容器を持ってきてもらって売るんだよ?
樽から出せば、鮮度が落ちるからね。」
「ええ、あの容器がいいと思いませんか?
メジャートの容器屋さんで作ってもらったんですよ。
次に行くとき、専用のものを作ってもらおうかなって。」
「!!それ、できたら持っておいで?いいね?」
「かなり先になりますよ?」
「かまわない。化粧水と油はここで売るんだから。そうだろ?」
「ええ、わかりました。そのときはお願いします。」
「ちょっと!どういうこと?樽で売るなんて!
そんなことはいいわ!その肌色!その服も!」
「いいから!持ってきて!!」

どうやらここは櫓宿の女将、ミフィルさんの実家だそうだ。
アカッターさんは妹さんだ。

「女は噂話が大好きさ。情報はそこかしこに落ちている。
ここはその一つ。」

樽で買う。小さな樽だ。
油が5リング。化粧水は3リング。
小分けでマグカップぐらいの容器で50杯分。
1杯5銀貨ほどで売れるとか。5倍か。
化粧水は少しでも減ったなら、できるだけはやく売切れとのこと。
劣化があるんだろう。
その話は椅子の運び賃ということで教えてもらった。

油が6、化粧水が3。
そんなに売れないと言われたが、頑張りますとだけ。
収納すれば劣化はしないし、
油は天ぷら油で使えるはずだ。

「塩はどうするんだい?」
「大丈夫ですよ!」
「本人が言うなら何も言わないよ?
塩屋は、この道を進めばすぐわかる。
その先に門がある。この港町ニッケのはずれだ。
誰もいないけどね。そこから王都まで街道がある。
道沿いに進めばいいだろう。
化粧水とチーズは売れるだろう。」
「ありがとうございます。そこでまた何か仕入れてピクトで売ります。
やっぱり誰かに聞いたほうがいいですね。」
「そうだろうね。門番に金を渡して宿屋を紹介してもらいな。1銀貨でいい。
その宿屋で、正直に言うんだ。何も知らないから、一通り教えてくれって。」
「そんなこと言ったら逆に騙されませんか?」
「それをすれば信用にかかわる。それはないよ。」
「そうか。あ!エビ!エビを買えるかわからないけど、港に寄ってみます。」
「ああ、そうなのね。1リング以上出すんじゃないよ?」
「はーい。あの何からなにまですいません。」
「いいのよ。この紅の使い方の代金だと思ってくれればいい。」
「んー、それは女将さんの元がいいからですよ?」
「ふふふ。うれしいこと言うね。」
「え?紅?頬に?」
「あー、うるさいね。じゃ、気をつけてね。あの話も。
あんたたちは行商の方が向いてるよ?」
「ええ、そんな気はします。では!!」

通りを抜け、樽を収納。
エビを買わねば。
港に船が付いた鐘が鳴っている。


よく考えれば、マトグラーサは海に糞尿を捨てている。
イリアス港町フエルトナとダカルナ港町ニッケはそこを大きく迂回しているんだ。
糞尿は海の生き物の餌になる。それをエビが食べる。
そのエビを魚が食べる。
そりゃ海鮮は豊富だわ。
できるだけ離れて漁をするのも納得だ。
じゃ、陸路ならリンゴの森を抜けていくんだな。
次は陸路でイリアスに入るか。



港に船が入ってきた。
取った魚、うん、トドなんだけど、それを仕分けしている。
網にかかったのであろう、エビも外していく。



膜は張ってるよ?当然。
だけど、交渉はマティスにお願いした。

「大漁だな?」
「何言ってる!今日は不漁だよ!
小エビばかりだ。」
「それはすまない。あまり詳しくないんだ。しかし、そのエビは大漁だろ?」
「・・・ああ、これのことな。そうだな。大量だ。
なんだ?行商だな?ここへは初めてか?」
「そうだ。魚を仕入れればいいと思ったが、大きいな。
だけど、その小さいエビは運べそうだろ?ああ、脚は早いんだ。」



「ふーん。脚が速いね。このエビをね。2リングでどうだ?」
「この袋を2つにいっぱいならいな。」
「俺のエビではこの袋一杯にはならない。他の奴に交渉してやるよ。2リングだぞ?」
「わかった。袋にいっぱいだ。上は縛らなくていいからな。」
「わかってるよ!!おーい!」

隣の船に飛び移り、小さな声で話している。わたしには聞こえない。

(なんて?)
(5銀貨でエビ買ってやるといってるな)
(そんなもんなんだね。普段はどうしてるんだろう?)
(3銀貨で肥料か、明日の漁の撒き餌のようだ)
(撒き餌、それはわかるな)
(ただ、この時期はまかなくても取れるようだ。
翌日までおいとくので臭くなるのが困りものだと)
(海には捨てないのね)
(そうだな。ああ、臭いが上がるか禁止されているようだ)

それはいいことだな。
だからまだましなんだ、臭いが。
そうだろう、化粧水を売る街が臭かったら売れないものね。

男が戻ってきた。
小声でマティスに言う。先に金を寄こせと。
あいつには言うなと。
「それもそうだな。あんたが交渉してくれたんだから。」
「そういうことよ。」

2リングを手に握らせた。

背負子にセットした袋にあふれるまで入れてもらう。
それも込みだ。当然。

「おい、持てるのか?」
「問題ない。」

上に一応フタもする。

「いいな、その袋。魚の皮だな?水も漏れない。
それをくれたんならエビなんか譲ってやるのに。」
「袋は2リングするぞ?」
「そうか。でもいいな。」
「おい!早くいかないとすぐに痛むぞ!」
「そうだな。ありがとう。」


綿の布地を使ったもので魚は運べないし、わたしが嫌だ。
魚の皮は防水性があるから、それをに合わせればいいのでは考え、
毛を取り除き、袋にした。
化粧水のフタに使ているのはもとから毛の短いところなのだろう。
魚の袋は需要がありそうだ。






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