いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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431:叔父貴

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マティスとトックスさんは刺繍布の刺繍がほどけないという前提で
意匠を考えている。
わたしもだ。ちょっと寝たり、巾着作ったり。
スカーフをトックスさんに見せて、
その間にマティスがコーヒーを入れて。

「ああ、そうだ。男の姿。結構なるのか?」
「いまはね。例のアガッターさんかその姉さんのミフェルさんかどっちか、
もしくは両方が探してるみたい、夫婦の行商を。
だから兄弟の行商なんだ。」
「あのクジラの皮な。あれで下着を作ってやろう。
さらしだろ?それ?伸縮があるから上から着るだけで、胸を押さえられるぞ?」
「お願いしまっす!!」

すごいな!クジラ!!
後はスカーフ・ストールの話。

おしゃれだけに巻くのではなくて、
本来はコートの襟もとの劣化を抑えるものだ。
そう考えればもっと売れるかな?

「難しいな。色を手軽に差せるってことはいいんだがな。」

実用性が乏しいとのこと。
地道に普及していこう。

「あ!風呂敷は?」
「風呂?」
「語源はいろいろあるけど、お風呂に入るときに
自分が脱いだものを包んだりしたとからとか?ああこれもまさしくたぶんだよ。」
「どんなものなんだ?」
「正方形で。えーと。これぐらいかな?」

一束の一辺が120cmぐらいなので、
60cmを2枚作る。端はもうお願いでまつる。

「こんな感じで物を包むの。
持ち運びも便利。もう少し小さくしてお弁当を包むとかね。
かばんにもなる。
スカーフも正方形の方が多いのかな?
こんな感じで首に巻く。」
「なるほどな。あんたの故郷じゃ、布が余ってるってことだ。
しかも安いんだろ?」
「そっか。天然素材は高いよ?けど、工場で作れる布がある。
それはうん、大量生産だ。1銅貨で端切れなら買える。」
「だろうな。あれだぞ?絹の端切れをもらっただろ?
あれはあんだけ買ったからだからな。普通ならやらないし、売り物だ。」
「やっぱり。うん。大事に使ってるよ。」

月が沈むまでの時間は、
トックス倉庫の整理だ。
容赦なくこき使われる。
棚を作り、材料を並べ、見やすく。
金と銀も置いておこう。
布が多いが、素材そのものも多い。骨と皮。何屋だ?


そして月が沈み、刺繍布はそのままだった。


「まずは持ち出せる。それはわかってる。
それで丁寧に扱えば?大丈夫だ!
よし、次だ。
もったいないが、見てろ?」

トックスさんは布の端を20cmほど切る。
そのままだ。

それから無造作に裁つ。
布は半分になり、刺繍糸ははらりとほどけた。

「うわ!本当にほどけた。
穴だらけ。ん?大きくなってるよね?」

持ち上げようとすると、細切れだ。糸くずになった。

「王様すごいね。愛だね。
片りんも残さぬわ!!っていうのがあるんだね。うん。すごい!!」
「奥さんよ、それを説得したほうがすごいんだよ。」
「そう?うふふふふ。マティス褒めて?」
「ああ、すごいぞ!さすが私の愛しい人だ。好き好き大好きだ。」
「!!ここではそれはいいの!!」

トックスさんの前で何を言ってるんだ?

「ああ、かまわんよ。そうなんだから。
しかし、欲が出るな。
あんたたち、もう一度タトートに行かねえか?
その青い刺繍も見たいし、やっぱり仕入れは少ないだろ?
で、悪いが偏ってる。旦那の趣味ばかりだ。
他の物も見たい。連れていってくれねえか?今回だけだ。」
「マティス?」
「もちろん。」
「よかった。今回だけと言わず、いつでも。
フレシアにもいきますか?もう補充されてると思うから。」
「いいのか!フレシアとタトート。何十年ぶりだろうか。
準備するから。待ってくれ。」
「愛しい人?寝なくても大丈夫か?」
「うん。ちょっとは寝たしね。
いま、一日20時間ぐらい?これぐらいだったら、3時間ぐらい寝れば大丈夫。」
「そうか。では、セサミナに話をしておこう。
ふふ。きっと悔しがる。」
「どうして?」
「先に私たちと同行するからな。」
「あはははは。買い付けなんだから。」

(セサミナ?)
(兄さん!姉さんは?)
(おはよう、セサミン)
(おはようございます!どうでしたか?)
(大丈夫だったよ。でも、考えなしに鋏を入れたら粉々になった)
(ああ。王の願いですね)
(そうなるね)
(捕らえた2人はどうなった?)
(何かの間違いだの一点張りです。わたしがその場にいたといっても、
知らないの一点張り)
(どうしようもないね)
(かまわんさ。今からトックスを連れて、仕入れに行く)
(え?3人で?)
(そうだ、フレシア、タトートだな)
(うらやましい!!)
(次は一緒だから。1日は泊るよ。トックスさんの工房も収納していくから)
(!わかりました。半分まで、あの2人は引き留めておきましょう)
(ふふ。そうだね。館もなければどうしようもない)

「おい!行くぞ!」

(ああ、もう釈放していいぞ?)
(分かりました)
(じゃあ、行ってくるね)


「この工房も収納していくから。」
「そうか!」

トックスさんは旅慣れているのか、
小さな鞄だけだ。
荷物はわたしたちが持つ前提なんだけどね。



まずはフレシア。
ここは夫婦になるから、直接店の近くに移動。

「新しいの入ってますか~?」
「おや!また買いに来てくれたんだね。
もちろん、入ってるよ。一切合切なくなったからね。
どれも新織、柄物なんだ。見て行っておくれ。
ん?その人は?」
「エリングか?はは!年取ったな!」
「?・・・トックス!トックス!!あんたも!あははははは!!」


トックスさんの女たらし伝説か?

「え?この2人はあんたの息子か娘?」
「そんなようなもんだ。仕入れでな、いい布を持ってきたんだが、
こいつの趣味ばかりでな。それで連れて来てもらたんだ。
そうか、エリングの店か。なら納得だな。」

昔、大陸を廻った時に来たことのある店らしい。

「おふくろさんは?」
「もうとっくに石すらなくなってるよ。」
「そうか、そりゃそうだな、あんたがいまあの時のおふくろさんぐらいか?」
「失礼だわ!もっと若いわよ!!」

そこからは、社交辞令から始まって、最近の流行、
若い織子の仕事のダメさ加減、近所の店の、
色恋沙汰など。トックスさんは合いの手をいれ、共感し、
その間に次々布を選んでいく。綿もだ。
そこからだ。

クスナさんが言うところの命の危険が危ない。
口を出してはいけません。

値引き交渉が始まったのだ。

トックスさんは大量購入と商品のほんの小さな不備を指摘して
安く買おうとする。
店の主、エリングさんはそんなことは当たり前で、商品の良さをアピールし、
上乗せしてもいいくらいだという。

これが商売。

(マティス、わたしたちのってあそびだね)
(そうだな。殺気がある)
(ね)


「わかったよ。その金額で。」
「そうだろ?あんたも損はしてない。むしろ儲かってるはずだ?な?」
「あー、いやだ、いやだ。
あんたたち、こんな行商人になるんじゃないよ?」
「なにをいう?俺は行商でも何でもない。服飾屋だ。
その材料の価値を知ってるだけだ。」
「なんとでも!!」
「トックスおじさん?せめてあの中コート、お裾分けしたら?
ここの布を使ってるんだし。もってきてるよ?ミンクも。ね?ティス?」
「そうだ。モウの言うとおりだ。叔父貴。」

名前をわざと言っておく。
旦那と奥さんじゃ、おかしいから。

「ん?・・・ティスとモウがいうなら。」

トックスさんはすぐに気づく。
それからエリングさんを上から下まで見てこう言った。

「淡い緑、それと首に巻く、赤黄色。
ミンクもか?ああ、薄い茶色だ。宣伝だな。」
「うん。」
「なんだい?」

あっという間にマダムです。
色遣いがいいね。


「もらってくれよ。
いまはコットワッツ、ティータイに店を出している。
買いに来てくれよ?」
「なんて素敵なんだろう!ほんと素敵!
あのニバーセルの青のドレスのトックスって
あんたのことだったんだ。同じ名前でまさかとはおもったのさ。
ジットカーフにいるって聞いてたからね。」

ミンクをスリスリしながらミンクに話しかけている。

「いまはコットワッツだ。モ、モウ?
ほれ、タオルも売りつけてやんな。割りが合わないぜ?」
「はい!」

タオルも10枚ほど。ゴムと、歯ブラシも。
ゴムはここに置いてもらうといいのでは?とおもう。

「これ、この大きさだけ?
もっと大判だったら、ここに置くよ?」
「大判でつくった湯あみ後のローブはもうすぐ売り出す。
そうだな、その後ここに入れてもいいな。
真似て作るものもいるだろうが、
買うほうがいいってことになろうさ。
何といってもトックス監修だからな。」
「あー、いやだ、いやだ。
あんたたち、こんな行商人になるんじゃないよ?」

それをミンクのコートに言っていた。


今回の仕入れは柄物中心だ。
よかった。その柄どこに使いますのん?というものばかりだった。
が、トックスさんに掛かれば、センス良くまとまるのだろう。
そろそろ半分だ。
エスワさんの店に行こう。やってるかな?
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