436 / 869
436:2つの祭り
しおりを挟む「誰だい?まだ月は沈んでいないよ?」
中庭が見える部屋からドロインが声を掛ける。
「・・・わかるだろ?
青い布を出してもらおう。それと金だ。」
「なんだい?結局買うのかい?1000だと言いたいが、
買い手が見つかったからね。悪いが一足遅かったと伝えてくれるかい?」
「だれも鋏を入れることのできない布だ。
どうするんだ?壁にでも飾るのか?」
「それでも十分価値があるね。しかし、あれは、ふふ。
恥ずかしながらわたしのドレスになるのさ。」
「ぶははは!それはいい!それは伝えておこう。
では金だな。1万せしめたそうだな?」
「人聞きの悪い。わたしを指名したんだ。金がおしけりゃしなければいい。
そもそも、向こうが出したんだよ?」
「そりゃ、そうだ。ここに布ができるまで置いておくだけの話なんだから。」
「なるほど。預かっていただけなのかい?ではその預かり賃に
もう、1万持っておいで?そうすれば返してやろうかね。」
「・・・死にたいのか?」
「石になるには早いよ。あんたたちよりね。」
「・・・あんたの死衣裳になるってことだな。」
「・・・・もういいか?」
「あんた、せっかちだね。しかし、すごくいい匂いがしている。
かまわないよ。ここでわたしに手を出すことがどういうことか、
よく覚えておくんだね。」
「どこまで?」
「報告してもらわないといけないし、また来られても面倒だ。」
「では、自力で何とか戻れるぐらいだな。」
「はは!それで頼むよ。」
少し難しいが、これも鍛錬。
拳術で行こう。
蹴りと拳で。
しまった。皆寝てしまったか。
「やるね。いいさ。そこに重ねておけば。
勝手に帰るだろう。」
「次の手は?」
「来ないね。それこそ恥の上塗りだ。
この話はすぐに広まる。
この1回で片を付けなきゃいけなかったのさ。」
「だから孫たちが来たのか?帰っていったが?」
「あんたがいればいいだろ?」
「なるほど。」
もっと気を調整しないといけないということだ。
「青のドレスの話がここまで聞こえてくる。
それに別荘地の貴族は噂好き。剣のマティスの話も出てるんだよ。」
「どのように?」
「剣のマティスは青のドレスが好みだと。
だから、皆がこぞって青のドレスを着たがるんだ。
今度の夜会で招待される。そこで伴侶が決まるそうだよ。」
「?剣のマティスはその夜会に招待されていないし、
伴侶はもう唯一がいる。なにを言ってるんだ?」
「知らないよ。そう聞いてるだけだ。
ここは大陸中の貴族の別荘地。
雨の日前の夜会は伴侶のお披露目も兼ねている。
ニバーセルだけの話じゃないんだよ?
なにがなんでも夜会には呼ばれるだろうね。」
「・・・呼ばれたとして、伴侶はすでに唯一、ほかにはいらない。」
「それこそ知らないよ。それを奪うだけの
力があるってことだろ?娘の為、いや、己の権力の為。
なんでも、剣のマティスには優秀な石使いがついているとか。
一気に剣と石が手に入る。」
「・・・くだらない。」
「そのくだらないことで世の中は回っているんだ。
あんたも行商だと名乗るならうまく利用することだね。」
「・・・。そうしよう。」
「ドロインさん!ティス!できた!」
「ああ、いい匂いだ。」
「そこで悲しいお知らせですよ?」
「ここでか?」
「そうそう。スープだけです。後は何もない。パン焼いて?」
「なるほど。悲しいな。すぐに焼こう。」
「うん!トックスさん、起こしてくるね。」
「いや、いい。できてから私が呼ぶから。もう少し寝かしておけ。」
「そう?」
・・・起こしに行くという行為は、
私もしてもらっていない。いつもは私が起こすか、
横にいるか。私が台所に行くかだ。
飯の支度をした後に、起こしに来るなんて!
是非ともしてもらわねば!
「あんた、相当だね。」
ドロインがそういうが何がだ?
焼くだけの状態のパンを窯に入れる。
横で愛しい人がコーヒーを。
卵も焼こう。塩漬けの肉もだ。
野菜がないというので、カンランの千切りだ。
「トックス!飯だ!」
「んー?おー。お!飯か!いいな!
と、そうか、ここは風呂がないのか。いや、それが普通だな。
起き抜けは風呂に入っていたんだよ。
贅沢はすぐに慣れてしまうな。」
「ここを出て、砂漠で少し鍛錬をする。
その時に露天風呂を作ろう。」
「そいつは豪勢だ!」
彼女が作ったスープはうまい。
何とも言えない濃厚さがあった。
パンを拭って食べる。
皆の皿が洗ったようにきれいだ。
「どうどう?」
「うまい。昨日のスープが元なのはわかるが。
なんだ?乳、乳酪?それと?」
「海老!!」
「エビか!!うまいな!」
「へへへ。よかった。昨日使った香草の束がいいんだよ。
東のバザールで売ってるんだって。今度行こうね。
たくさんもらったから今はいいよ。」
「そうか。東だな。次はそこだな。」
「そうだね。でも、雨の日以降だね。茸祭りと筍祭りの後だ。
2つの祭り?
ぶ!!怖い!すごい一致だ!故郷でこれいったら戦争だよ!」
「なに!!」
「いや、大丈夫!ぶ!あ、大丈夫じゃない!ぶひゃひゃひゃ!!!」
「・・・・。」
しばらくはこのままだろう。
片付けを済まして、出発の準備をする。
窯焼きがうまかったと言ってくれたので、それも作り置きだ。
冷めてもうまいだろう。
トックスはドロインの服の意匠を考えていた。
もちろん、ドロインを交えてだ。
「わかった。
・・・しかし、小さくなったな。布が余る。
なにか小物も作ろう。」
「それは任せるよ。また来れるのかい?」
「そうだな。」
トックスは私を見るのでいつでもいいと、うなずいた。
「ああ、また邪魔をさせてもらうよ。」
「そうかい!!」
「愛しい人?落ち着いたか?」
「ふー。はい。落ち着きました。
そう言えば、お客さんは帰ったね。ぼくたちは?」
「少し鍛練がしたい。拳術だ。」
「珍しいね。」
「手加減が分からない。」
「なるほど。それは難しい。」
また来ると簡単な挨拶をするトックス。
前回の別れではそれもしなかったそうだ。
さっそくに移動し鍛錬だ。
トックスは砂漠風呂を満喫している。
もちろん囲いはしている。
すぐに送り返せばいいのだが、
戻ればセサミナのところにも顔を出すだろう。
今この感覚をものにしたい。
塩袋に砂を詰め、打つ。
「いや、それじゃ、内臓破裂だよ?
急所はわかるでしょ?
そこをトンって感じ?気は失う程度でいいんじゃないの?」
難しい。
愛しい人相手に練習するわけもいかない。
ワイプかガイライに相手をしてもらうか。
だれか襲ってこないものか。
─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘
鍛練が終わったあと、
先にトックスさんを送る。
工房もすべて元通り。
わたしは、お風呂に入ってから。
セサミンに連絡して、夕飯時に合流することになった。
念のためドーガーが付く。
荷物整理もあるからね。
カレーがいいかな?
明日はいよいよボルタオネに出発だ。
「ワイプとガイライも呼ぶか?
なにか情報が入ってるかもしれんから。」
「そうだね。じゃ、やっぱりカレーにしよう。
ここで作ろうか?匂いがすごいと思うから。」
ボット肉ゴロゴロカレーだ。
香辛料も適当に。香草もだ。
あのカレーの香りのする葉っぱを入れればまさしくカレー!
「おなかすく匂いだね!」
「そうだな。腹が鳴りそうだ。」
スープはブイヨンスープで。
ごはんもたくさん焚いた。
サラダも。サボテンとじゃがいも。
月が昇る頃に、師匠もガイライもトックスさんの家に来るだろう。
あまり大人数になると入れないので、
4兄弟とニックさんは無しだ。お土産は作っておく。
同じカレーだが。
大きな鍋12コでカレーだ。
1つは皆で食べる分。
3つはコットワッツの皆で。
2つは師匠のとこ。
4つはニックさんたちに。
軍部に振る舞いだ。
のこり2つはわたしたちの予備。
いつでも食べることが出来るカレー!
「カレーうどんとかできるよ?」
「米の代わりにうどん?」
「お出汁で伸ばすの。白い服は着れない。飛び散るから!」
「おお!」
「シーフードもいい!海の幸だね!」
「おお!」
「でも一番おいしいのはすじ肉!ちょっと固い筋あるでしょ?お肉で。
それをトロトロになるまで煮るのね。で、いれる。うまい!!
とんかつもいい!なんでも合う!唐揚げも!!」
「おお!!」
2人でもう一度お風呂に入る。なんとなくカレー臭がするのだ。
白い砂を見てお風呂。
贅沢だけど、まわりはカレーの匂い。
匂いには風に乗せて霧散してもらった。
13
あなたにおすすめの小説
唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~
専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。
ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~
みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】
事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。
神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。
作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。
「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。
※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。
文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~
カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。
気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。
だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう――
――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる