いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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444:反乱

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「こちらをお使いください。」


少し離れたところだ。
黒馬用だから大きいのか?
1つの房というのだろうか、そこに3頭入っても余裕だ。

「テン、チャー、ロク?
ここに水とカンラン出しとく。これ以外は食べないで。
お茶葉もね。ちょっとずつよ?
膜を張っておく。悪意のある人は来た道を戻る。
それでも、指示されたお仕事の人は来ちゃうからね。
それで、誰か来てもいうことを聞かなくてもいい。
連れ出そうとすれば呼んでね。」


荷車もここに置いておこう。
荷物は2人で運べる。
砂漠の民は力持ち。問題は無い。


(ドーガー?これ繋げとくから)
(モウ様?問題なのでしょうか?)
(手紙のやり取りはお約束を忘れただけかもしれないけどね。
わたしは、知っている顔が迎えに来ると思っていたんだ。
ペリフロがダメなら、フック殿、もしくはあの時来ていた5人か。)
(それは忙しいとか?)
(そうかもしれない。でも、逆だったら?出迎えるだろ?
わたしたちが来ることは先にセサミンが知らせている)

なのにペリーヌとフローネがここにいない。
コクもいない。
それがおかしい。

わたしは門が開くとイスナ殿が待っていて、
そこで、お嬢さんたちを僕にください的な展開が待ってると思っていた。

「お待たせしました。」
「その荷物は?」
「納品の品ですよ。布ですから、かさばりますが重さはさほど。」
「そうですか。それはこちらで預かりましょう。」
「いえ、検品を。イスナ殿が自らなさると知らせが来ていましたから。
そのとき商品の説明も致します。」
「・・・では、こちらに。」

謁見の間。
王様ですね。セサミンは執務室か、応接室だもの。
少し待つように言われる。



(いつもこんなの?)
(いえ、前回はもっとにぎやかで)
(街はこの奥?)
(いえ。この館自体が街ですね)
(領民の出入りは?)
(別にあるそうです。ただ、それはわたしたち外部のものは知りません)
(へー、おもしろいね)


館全体が街ってすごいな。
あとで上から見てみよう。

「待たせたな、ドーガー殿。」
「いえ。お時間頂きありがとうございます。
追加のご注文の品はここに。
お忙しいとは思いますが、検品していただけますでしょうか?」
「ああ、それはいい。間違いはないとわかっているからな。
後ろの2人は従者か?隣の部屋に持っていってくれ。」

わたしとマティスは砂漠の民の服を着ている。
この姿はイスナさんは知っている。
だれだ?

(愛しい人、糸だ。匂いもする)
(え?見えないよ?匂いって?)
(香木と妖精の匂いか、少し膜を外したが、
長時間は無理だ、気分が悪い)
(ちょっと無理しないで!)

3人とも蜘蛛の糸で作った飾りをつけている。
触ると少し、ざらりとした。

(モウ様?マティス様?)
(ドーガー?大丈夫だね?)
(はい、なんとも)
(コクの気配がするから悪いけど暴れてもらおう。で、換気だ)


『コク!そこからここに向かって来い!
壁は砕ける!お前に怪我はない!ぶち破ってこい!』


ヒヒヒーーーン
うわーー!!
押さえろ!!
無理だ!
ぶつかる!!

ドゴン!バキン!!バリリ!!
コクが暴れいく。





「きゃー!!」
「え?」
「え?」
「・・・驚くの!あんたたも!!」
「ああ、うーわー!」
「うーん、いまいち。次!」
「う、うわーーーー!!」
「お!ドーガー!うまい!」
「ありがとうございます!」


(コク!ありがとう!あとで行くから!)


ヒヒヒーーーン


スッチャカメッチャクになってる間に
イスナさんの傍に。

誰も付いていないのはどうなの?
フックさんは?

『イスナ!目を覚ませ!
ボルタオネ国、イスナ!』
「え?あ!モウ殿!いらっしゃいましたか!
え?ペリーヌ!フローネ!どこだ?フック!!」

『イスナが呼びし者!イスナの傍に来い!』

あ!そばはまずい!

ドサ!ドサ!ドサ!

人間クッションになりました。

「ペリ!フーネ!」
「「ドーガー様!!」」

ドーガーが素早く助けあげるんだけど、
イスナさん、フックさんの下敷きです。

「フック!死ぬ!」
「ああ、イスナ様!ご無事で!」
「無事じゃない!死ぬ!」

この圧死は嫌だろう。

「イスナ様!」

やっと何人かの従者がやってくる。
カーチもだ。

「・・・・。」
「カーチ!これはどういうことだ!」
「あの黒馬が暴れたようですね。早急に処分いたしましょう。」
「ならん!あれは香馬。神聖な馬だ。」
「しかし、その肝心な香木が探せない以上意味がない。」
「それは黒馬のせいではないだろう?
マーロから連絡は?」
「なにも来ておりませんね。」
「・・・・。」
「さて、ここは当分使えません。別室を用意しましょう。」
「この者たちはわたしの客だ。一等来賓だと言ったはずだぞ?」
「ええ、ですので、こちらにお通ししたのですよ。」
「・・・下がれ。」
「はい、仰せのままに。」



カーチとその取り巻きが下がっていくが、
おいおい、領主さん一人でいいの?
フックさんはいるけど。


「お見苦しいところを。」
「イスナ殿?先にコクのところに行ってもいいですか?
処分されたら困る。あれはわたしが頼んだんですよ。」
「え?ああ、申し訳ない。では、どこか、どこに?
ああ、どうする。」
「イスナ様、八の森は?あそこの小屋はだれも行きませんから。」
「そうだな。フック頼めるか?」
「その何とかの森の小屋は遠い?コクは場所知っていますか?」
「コク?あの黒馬のことですか?名を付けれたのですか?
それは、いえ。はい、場所は知っていますが?少し遠い。」
「コクに直接行ってもらいます。着いたらわたしたちもそこに行きましょう。」

(コク?八の森の小屋って知ってる?そこに避難して?
着いたら呼んで?大丈夫、気配は分からないようにするから)


『漆黒の馬、コクよ!闇となりて八の森に駆けつけろ!
そなたは闇!誰もその姿は捕らえられない!!
着いたらわたしを呼んで!』


コクが移動するのが分かる。
ここの空気が悪い。膜は張ってるいるのに。

待っている間に、各自の荷物を場所を教えてもらって、
その部屋の荷物ごと移動する。

「愛しい人。かなり人数がこちらに向かっている。
殺気もあるな。
イスナ殿?反乱か?」
「・・・・・。」


コクが呼んでる。着いたと。

「マティス!コクだ。
イスナ殿、奥方と御子息は?」

イスナさんが首を横に振る。

連れていかなくてもいいってこと?



『コクのいるところへ。八の森へ!!』

「モ、モウ殿?これは?」
「まずは中に。コク?テンたちをお願い。
テンたち、びっくりしたね。ちょっとここで落ち着こう。」


「コク!ありがとう!!」


暴れたときに傷がついてないか確かめる。
ほんとビロード。きれいだ。
で、ここは、小さな館の前。年季物ですな。
”きれいに”すれば大丈夫。


荷をすべて館に運び込み、
持ってきた椅子にみな、沈むように座って息を吐く。

(反乱?)
(わからんな。セサミナには連絡しているが、イスナ殿が許可すれば
同席したいと言っている)
(なるほど。そっちの方がいいね。
わたしたちじゃ、ニントモカントモ、困ったでござるだもんね)
(にん?ござる?)
(!流すのだよ、そういうときは!!)
(ああ、そういう類なんだな?)
(そうでござる、ニンニン)
(かわいいな!!)
(もう!)




「さて、イスナ殿。
おそらくいま、コットワッツ領、ドーガー以下3人は、
誘拐犯だ。イスナ殿のね。
もしくは、わたしたちも一緒に何者かにさらわれたか、殺されたか、だ。」
「殺されたようだぞ?
コットワッツ領からの使者を騙ってということだな。
さすがにコットワッツともめたくはないようだ。」
「ん?どこ情報?」
「月無しと音石だ。」
「む、また新しいことしたね?あとで教えて?」
「もちろん。そのことは各国に飛ばしているな。
もうすぐ、3人から連絡が来るぞ?」

リーンリーンリーンリーンリーン


なるほど。皆が呼べばそうなるな。

(セサミナ?)
(兄さん!ドーガーは?すぐに王都から使者が来ます。
殺人容疑ですよ!いないとなるとそのまま確定する。
戻って!トックスさんのところに行ってることにしますから!)

「ドーガー、いったん戻れ。トックスのところだ。」
「え?」
「お前がいないと殺人容疑が確定だそうだ。」
「いや、もう、みんなで戻ろう。」
「ここは?」
「んー、きれいにしたから目くらましだけかけようかな。」

(ガイライ?師匠?)
((モウ!今どこに?))
(うん、いまからコットワッツに戻る。お家騒動っぽいよ?みんな無事)
(急いで戻って。ドーガーだけでも)
(うん。セサミンに聞いたから。王都から来るわけじゃないんだね)
(コットワッツは常に監視されています。
ティータイにはいませんが、4半分もしないうちに
近くの街からくるでしょう)
(ん、わかった。セサミンが領主の力で移動できるという話は?)
(王都中央は把握している。セサミナ殿だけができると)
(なら、いいか。セサミンが派遣したなんて言われたら、
ややこしい)
(大丈夫ですよ。石を使っていると思われていますから)
(了解)


月無し石と音石は居残り。よろしくね。

一端トックスさんのところに。
近くの空き家に、ボルタオネ組と荷物も。
コクもここで待機だ。
テンたちもトックスさんのところに来てました風。
荷物を運ぶ準備をしていたと。
出発は2日前だが、荷を検品して遅くなったことに。
ちょっとのんびりしていました。
これでどうだ?

「そうだな。まずは、コットワッツの服を着ることだな。
ボルタオネはまた独特だ。
うちの工房の手伝いで一家で働いてもらっているということだな。
実際、手伝ってくれればうれしいがよ。」

トックスさんがすぐに服を用意してくれた。
父親と息子、娘2人。


「「父さま。」」
「父上?親父?」

何と呼ぶか確認しているようだ。

「ああ、ペリーヌ、フローネ。父さまと呼んでくれるか。
フックからの父上はなんだろうか?笑いがこみ上げる。」
「わたしもです。」
「じゃ、お弟子さんとか?」
「ああ!それがいい。実際そうですから。」
「木工の?」
「ええ。」
「じゃ、親方だね。」
「親方!いいですね。」

とりあえずその設定で。

「フック殿のお身内は?」
「わたしは独り者ですし、親兄弟は健在ですが、
この騒動には関わらないほうがいい。」
「呼べますよ?」
「いや、わたしたちが殺されたということになっているのですか?
その知らせを聞いたとしても、納得せざる得ない状況なら、
受け入れるでしょう。筆頭となった時から、
その心づもりは常にあるのですよ。」

そうなんだ。
ドーガーを見ると頷いている。
おお、命懸けなんだね。



しかし、もう半分だ。
こういうときは甘いもの。
アップルパイとお高い紅茶だ。
これはペリーヌに入れてもらおう。
フローネも手伝ってくれる。
だって、ティーセットを持ってきているからね。
生クリームとアイスも添えよう。
そこに土蜜。


「イスナ殿?まずは甘いものを頂きましょう。
土蜜ってご存じですか?ちょっと贅沢な蜜です。
アイスもどうぞ?
紅茶はペリーヌに入れてもらいましたよ。
わたしが入れるとどうしても渋くなります。
香が違いますね。これはデルサトールで仕入れてきました。
さ、フック殿も。ペリーヌ、フローネ、お手伝いありがとうね。
頂こう。」

「モウ様・・・。」
「ん?甘いものは元気になるよ?
ドーガー?2人が不安がっている。大丈夫なんだろ?
いわなきゃわからんよ?」
「ペリ、フーネ。大丈夫なんだ。なにも心配いらない。
わたしがいるからと言いたいが、マティス様、モウ様、セサミナ様もいる。
大丈夫なんだ。」
「「はい。」」


「・・・・うまい!」

フックさんが喜んでいる。

「ね?蜜がお酒になったようで、これを温めたお酒に入れてもおいしい。」
「・・・土蜜。ピクトの山に入られたんですか?」
「あの山は修行者がよく入るそうですよ?
修業ができて、このご褒美があれば頑張れますよね。」
「めったに生きて出てこれると聞きました。」
「ではこれは貴重ですね。でも、食べないとその貴重さもない。
道具もそうでしょ?貴重な木材も。使えばこそです。
食は食べてこそ。」


アップルパイをひと切れ、紅茶を1杯。
食べ終わるのにそんな時間はかからない。


「ドーガー!まだここにいたのか!!」
「え?セサミナさま?明日の出発の予定ですよ?
ここで、最後の検品をしてから行こうと。」
「そうなのか?また、トックス殿のところでさぼっていたのではあるまいな?」
「さぼるなんて!人聞きの悪い!
トックス殿はわたしの師匠でもあるんですから、こうして、ここにお邪魔することは
さぼりでも何でもありません!!」
「なるほどな。では、また成果は見せてもらおう。
使者殿?やはり、人違いですね。」
「彼がドーガーだという証拠は?」
「石に誓ってもいい。その石はそちらで用意してください。」
「・・・コットワッツ領主がいうのなら間違いはないな。」
「ええ。しかし、ドーガーは確かにボルタオネに出発の予定ですが、
まだここにいる。その情報を手にした輩が名を騙ったとしか。
それで?本当にボルタオネ領主殿は?」
「くわしくはまだ。ドーガーがここにいるいう確認ができればいいとのことだから、
我々はこれで引き上げる。
ボルタオネに出発するのは延期された方がいいだろう。
領主の代替わりがあるということだ。」
「イスナ殿は?」
「わからない。では、失礼する。あ!」
「なにか?」
「街で売っているのか?タオルというものは?」
「ああ、そうです。ルグ、案内して差し上げろ。
手土産もお渡しして。日持ちのする焼き菓子も。」
「わかりました。では、こちらに。」


手土産セットがあるようだ。
小さなハンカチサイズのタオル。それとクッキー。
もっと欲しい人は買ってもらうという形。
土産でもらったと自慢しても、なんで、もっと買てこないと、廻りに責められる。
タダで寄こせというものには二度と売らない。
ここで買うのが一番安いんだ。みなケチらずに買っていく。
染のタオルも出だしたので、コットワッツ土産にタオルは人気らしい。


「セサミナ殿。」
「イスナ殿、どうか頭をお上げください。
ドーガーがそちらに行くということの情報が洩れてのこの騒動でしょう?
申し訳ない。」
「いえ、そうではない。ただ、この時だっただけだ。
たまたま、ドーガー殿の到着に合わせただけのこと。
このことはいつか起きるとわかっていたことなのですよ。」
「・・・そのお話、我らが聞いてよいことですか?」
「もちろん。・・・・その前に、モウ殿は石使い?
異国の石使い、赤い塊?」
「ああ、異国の石使い、赤い塊と呼ばれるのはわたしの曾祖父です。
わたしの一族が赤い塊と呼ばれるもの。名はないのですよ。
皆が赤い塊と名乗る。名があるのは一族を出ているからです。
石使いの才はないので。それでも、一般の方々よりはうまく使えるようですね。
石はかなり消費してしまいましたが。」
「そうでしたか。申し訳なかった。その石代はこちらで。」
「いえ、勝手に動いてしまったのは、かえって大事になったようだ。
しかし、あの場にいることはできなかった。お許し願いたい。」
「いえ、あの場を離れなければ、本当に殺されていたでしょう。
あなたが方も無事ではすまない。
そうなれば、コットワッツとの争いも起きる。
セサミナ殿はそんなことをされて黙ってはいまい。」
「もちろんですよ。動くのはコットワッツだけではないというのはお分かりか?」
「ええ、重々。軍部と資産院も動く。そんなことはカーチといえどできない。
だから、行方をくらますのが一番よかった。」

ガイライと師匠のことも把握済みか。
が、殺される前に、全滅してそうだけどなにかとっておきの手があるのか?
糸はいいとして、香り?

「カーチ?はじめ聞く名前です。側近?」
「わたしの兄弟です。マーロはその下。カーチは同い年です。
母が違います。わたしのほうが1日早かった。
産気づいたのは向こうが先だったんですが、
難産だったようで、わたしが先に。まる一日たってからカーチが生まれました。
その時母親はなくなっています。」

医療が発達している現代でもそういうことはあるんだから、
ここではそういうことも結構あるんだろうな。

「それから、カーチはわたしの予備です。
第一子は同時期に作る。そして最初の子が次期だ。次に生まれ子は、
表に出ることはない。2年たってうまれたマーロの方が補佐役として
名が知れ渡っている。カーチが表に出だしたのは、次期領主として
男子が生まれたからですよ。」
「?」
「あの子はカーチの息子です。わたしの子ではない。
男子継承なのですよ、ここは。だから、わたしの子でも、
カーチの子でも構わない。もちろん、マーロの子でもね。
しかし、男子継承の上に長子が優遇される。
マローよりもわたしたちのどちらかだ。
わたしとカーチでは?向こうが難産だっただけだ。
どこに差があるのかということですよ。
2人の子が女だった。そうなるともう、
わたしには新たに妻を迎えることをしなかった。
ああ、同じ女性に2人子を産ますことはない。
2人も子をなせば、その女性の一族に権力がいく。
一妻一子です。
2人の娘が成人するまで、のらりくらりとかわしましたよ。
わたしもただの親だ。娘になに不自由なく育ってほしかった。
次期が生まれると、扱いが格段に変わりますから。
しかし、いつかは館街をを出ていく身、厳しくも育てたつもりです。
娘が成人したときにカーチとマーロに領主を下りると宣言しました。
マーロが止めましてね。
男子というのにこだわるのがおかしいとね。
あれが一番この国の先行きを考えている。
男ができないから領主を下りるなぞ、おかしいとね。
他の国では女性が領主の国もあると。
カーチはすぐに子を作りました。今3歳ですよ。
表立ってはわたしの妻で、わたしの息子です。
対外的にはそれが一番問題がない。
これから継承権のことを変えていけばいいと、
マーロがそれで納得しました。
カーチも領主の父親となる。公表できなくても、
いつまでもわたしのの予備というわけにもいかない。
まずは領内で、そしてニバーセルへとわたしの代理として
表に出ていくはずだった。次期任命は5歳になったときだ。
そのときわたしは、引退ですよ。
2人に言い寄る不届き物もかわすために、そばにも置きました。
この3年は充実したものだった。
2人の嫁入りが決まりそうだったんで、なにもかも順調だ。
なんだったらそれを期に引退しても構わない。
なのに、この前の会わずの月の日から、
カーチの様子がおかしい。なにもかもを把握しようとする。
それは当然のことだ。だが、娘の嫁入り先のことは、把握する必要がない。
叔父として?そうではない。嫁入り先を指定してきた。
そんなことはできない。マーロに嫁入りに持たすために
香木を調達するようにルポイドに旅立ったもらった。
これは古いしきたりです。ここではもう香木が取れないので。
セサミナ殿からの連絡もあり、
返事を書いていたところから記憶があやふやだ。
マーロからの返事もない。」

一気に話すとイスナさんは息をついた。
ドーガーが話を続ける。

「イスナ様?その2人のご息女は?
それとペリーヌとフローネの家族も保護しなければ。
セサミナ様、わたしは一度ボルタオネに戻ります。
あの八の森に匿います。フック殿の家族と違って、
館勤めの娘2人がこんなことに巻きこまれては、
家族は不安に思っているに違いない。
もちろん、ご息女2人もそうでしょ。保護してまいります。」
「「ドーガー様。」」
「フーネもペリも。大丈夫。すぐに連れてくるから。」
「ドーガー?わたしはイスナ殿にもフック殿にも
家族のことは聞いたよ?ペリフロの家族のことを
聞きそびれたわけじゃない。」
「しかし!ここにいないではないですか!」

おお!ドーガーが怒ってる。

「いや、いるから。いいんだよ。」
「え?フック殿が御父上?」
「いや、それはさすがに若いよ。
マティスの見習い時代の伝説よりすごいよ。
フック伝説だよ?12,3で子持ちになるのはないわー。」
「え?フック殿お若いんですね。」
「ドーガー殿。わたしは今年、30です。」
「あ、失礼しました。じゃあ?あれ?」
「ドーガー落ち着け。」
「セサミナ様?あれ?」
「「ドーガー様?」」
「えっと、フーネ?ペリ?その御父上はお亡くなりになったのか?」
「現実を見ないタイプだね、ドーガーは?
選択肢がそれしかなければ、9割それだよ?」
「・・・あとの1割は?」
「父上と思っていたが実は母上だったとか、
そういう別の問題が発生するパターンだ。
それはそれで楽しいけどね。」
「・・・9割がいいです。」
「だろ?」

「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


ドーガーが壊れた。
そりゃそうだ。
紅を渡したときに、もちろん、イスナさんもいたんだ。
父親の前であいさつもなくいきなりプロポーズはどうなの?
恥ずかしさ満載だな。
いや、それをやられた2人の方がこっぱずかしいか。

部外者はいそいそとテーブルに座る。
ルグも戻ってきた。
使者として一度王都に戻るらしく、
大量にタオルを買っていったくれたそうだ。
ゴムと歯ブラシも。
急ぎのはずだが、ラーメンも食べてから帰るとか。
そこも案内して、ラーメン代は払ってきたとか。
ささやかな接待だな。

甘いものは食べたけど、セサミンとルグは食べていない。
2人にアップルパイをだす。
紅茶はルグが入れてくれる。うまいなー。
わたしたちのお茶請けはクッキーだ。
フックさんも気に入っている。

それを食べながら、嫁取り物語を鑑賞した。


イスナさんはどっしりと一人掛けソファに座っている。
急遽ご用意いたしました。
その両隣にペリフロの2人。

2人が嬉しそうにニコニコしているので、
わたしたちは安心してみてられるのだ。
が、イスナさんは、笑いをこらえているのか、
なかなかに渋みを出している。
ドーガーは初めて見るぐらいに緊張している。

「フック殿?これはどのように解釈すればいいのでしょうか?」
「イスナ様は食の祭りから戻られてすぐに、
ひとり祭りを開催されたのかというほど浮かれておりました。」
「ほう!ひとり祭り?」
「そうです。何かにつけて笑いをこみ上げる、それを押さえる。
その繰り返しです。それを我が領ではひとり祭りと言います。」
「すばらしい祭りですね!その名前も!これから使わしていただいても?」
「ええ、もちろん。使い方といたしましては、
 あいつなんだ?
 ああ、ひとり祭りをしているな?
 そうか、ではそっとしておこうか?
こういった使い方です。決して褒められるような状態で使うことはないのですが、
イスナ様の場合は、それはそれは、嬉しそうで、
こちらまでも見ているだけでうれしくなる、そんなひとり祭りでした。」
「なるほど。では、概ね、ドーガーは受け入れられていると?」
「もちろん。鶏館でのあのとらんぽりん。3人で飛んでいましたよね?
その様子を帰りの道中ずっと聞いていましたから。
しかし、返ってくる答えは、マティス殿とモウ殿のすばらしきことばかり。
我らもため息がつくほどに聞かされました。いや、うらやましい。」
「あはははは!そうでしたか。それで?」
「ええ。なので2人の姫、ああ、姫なのですよ、2人は。
側近はみな、姫と呼んでいます。いずれ、館を出る身。
それまではお心穏やかにとみなが愛しておりました。
館街を出ても生きていけるようにと。」
「不思議なのですが、この館街というのですか?
それ以外の街で暮らすというのはなかなかに厳しいというのでしょうか?」
「ああ、どこの街でも同じでしょう。
ただ、姫として育てばどこへでても厳しい。そう思っております。」
「ははは!それはまさしく過保護というもの。
みながみなそうだと言いませんが、女はしたたかだ。
その街に、そこの暮らしになじんでいきますよ。
愛し、愛されるものがいればなんのことはない。」
「それはモウ殿?あなたのご経験か?」
「うふふふ。ええ。生きるのに嘆き悲しむ余裕何ぞないんですよ。
生きねばなりません。それがつとめなのですよ。
そのつとめをよりよくする、欲が出るのが人です。
嘆く暇もない。」
「重き言葉ですね。しかし、心になじむ。」
「あくまでもわたしの自論です。それで?」
「ああ、姫2人は、いままでは結婚というか、
嫁ぐことに興味をもっていなかったのですが、
お二人にあこがれたのでしょうか?男性と祭りを見て回るなど、
とても考えられなかった。
もちろん、今まででも引く手あまたですよ?
しかし、お立場上お断りになるか、
使用人としての仕事を優先していました。
あの祭りはとても楽しかったのでしょう。
親子ですね、イスナ様だけではなく、姫2人もひとり祭りですよ。」
「ああ、それはよかった。しかし、ドーガーからはそれ以降連絡がない?」
「ええ。ひとり祭りからひとり悲しみになりましたよ。
みな、ドーガー殿のことを恨んでしまいました。」
「では?街に入る前に向かった者たちは?」
「え?なにかしましたか?6人?申し訳ない。
おそらくは姫たちの信望者です。わたしは前日から、
なぜか、倉庫の整理を命じられていて。ええ、2人の姫もです。
イスナ様からのご指示だったので。」
「セサミナ様からの手紙はご存じ?」
「ええ。手紙が届いたのは知っています。
ドーガー殿が来るとおっしゃいまして、それを2人に話しました。
そのあとすぐの指示です。
おそらくはドーガー殿に、歴史ある資料をお見せするのではと。」
「で、翌日まで?」
「資料室は泊り込みもできるように台所も便所もあるので、
月が沈むまでかかりましたからね。
ドーガー殿はどのようにしてやってくるのか、イスナ様になんというのか、
それを想像しながら。今度は3人で祭り状態でしたので、
時間はあっという間です。しかし、一区切り終えまして、
出ようとしても扉が開かないので、焦りました。なにかがあったのだと。
浮かれていた自分がお恥ずかしい。
わたしも姫たちのことは妹のように思っています。
それがあんなに嬉しそうに。油断しました。
カーチ殿のこともあったというのに。」


うん、とりあえず、ボルタオネはブラックだということが分かった。
寝泊まり施設が普通にあるというのが恐ろしい。

ちなみに嫁取り物語はただいま、TAKE3。
ドーガーが噛みまくり、受けるイスナさんも声が裏返る。
2人の姫は笑い上戸。
外野はやんややんやとヤジを飛ばす。
トックスさんとセサミン、フックさんもだ。
マティスは晩御飯の用意をしている。
さっきまでのごたごたがなかったようだ。
いや、一瞬を楽しんでいるだけ。

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