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見張りたちは報告に行ったのか離れていった。
1人でいいのに、6人いたのだ。
2人一組ということではなく、
6組のご令嬢、それぞれの見張りなのだろう。
その証拠に、テントは6つ。
わたしたちが進んでいくと、
おめかししたお嬢さんたちがテントから出てきた。
あら、3人娘もいる。アガッターはいないのね。
ドロインさんとの会談はどうなったのかな?
ニバーセル組も出てくる。
スダウト家のココエート嬢、ルリチ嬢、シルト嬢。
タレンテ家のトウキ嬢、ルパラ嬢、
ダクツ家のカミツ嬢、
イボン家のデンプ嬢
で、3人組が、
ダカルナ国、アートル
ピクト国 ベビエ
デルサートル国 イント
覚えられないので紙に書いてもらっている。
だが、だれがだれやら。
「・・・・参考にならんな。」
「うん、ちょっとそうだね。でも、これが流行りなんだよ。
こう、ぶわぶわって、袖口が広いのが。」
みんな似たようなドレスだった。
色はさすがに違う。
3人娘も違うドレスだ。今度もお揃い。
目は緑のまま。
ニバーセル組はそれを見て驚いているようだ。
が、それも一瞬だけ。
お互いがドレス出来を睨みつけるように見ている。
青いドレスブームは終わったのかな?
「マティス殿だな?わたしは、スダウト家の護衛、
ブックナという。」
「マティスだ。スダウト家の?当主が来ているのか?
ん?当主はもう決まったのか?」
「・・・・当主はまだだ。嬢たちのだ。」
「そうか、それで?」
「館に案内していただきたい。」
「?どこの?」
「この領地のだ。建物は見えた。遠く過ぎて全体は分からなかったが。
そこまでたどり着くことができない。
案内がいるのだろ?だから待っていたんだ。」
「そうか。しかし、この地は不思議でな、
管理者しか入れないようなんだが?」
「そんなことはないだろ!!」
「そうだよな。不思議だな。」
護衛同士だ、普通にやり取りしている。
が、糠に釘だ。
攻撃的になるわけでもなく、親切に説明するわけでもない。
境界石はきっちりお仕事をしてくれている。
しかし、本当に不思議なのだ。
崖から、海から風が吹いている。
それが境界石まで来ると、その風は草原中央に向かってしまう。
それに乗れば、あっという間に中央に。
砂漠との境界、砂漠際は上空に上がっているのに。
風の壁がある。風壁ってなんかいいよね。
風壁の草原?いいねー。
いい名前ができたと考えながら、
ふと思いついた。
これ、袋ごと、ぽいって領地にいれれば、
自動で中央に運んでくれるんじゃない?
実験したい!!
それと、口を開けて風壁にいれれば、
こう、パラパラーって数個づつ流れていくとか?
回収は後で呼び寄せればいい。
まずは袋ごと!!
「ん?どうした?愛しい人?ものすごく楽しいそうだな?」
なるほど、こういう心の動きは筒抜けだと。
気を付けよう。
が、マティスが愛しい人と呼んだ瞬間、ザワリと空気が動いた。
「こちらがその?」
愛しい人と呼ばなくて正解。
マティスがわたしの名前を呼んで、初めて
隣にいる女の存在に気付く。
砂漠の砂のように目立たなくしているのだ。
お嬢たちはわたしを見たが、それだけ。
横に誰がいようと関係がないのだ。
「ああ、紹介しよう。私の唯一の伴侶、愛しい人だ。
彼女も護衛だ。」
「どうぞ、モウとお呼び下さい。ブックナ殿。」
「ああ、モウ殿。あの歌の?」
「あはははは!あれは余興ですよ!」
あの場所にいたんだ。恥ずかしい。
「ブックナ殿。領地に入れる入れないは私にはわからない話だ。
王都の裏の森と同じなのだろ。
聞けば、ボルタオネ領主とその関係者のみ入れるとか。
それと同じと考えてほしい。
では、我らはこれで。」
「それでは困るのだ!」
「ブックナ下がりなさい。」
おお!お嬢だ!お嬢の登場だ!
「マティス様、ルリチと申します。此度は、、、
「あなたたちこそ下がりなさい!
マティス様は我が夫。
勝手に声をかけないでいただきたい、わたしの大伯父は、
ダルカナ国国王の義弟ですよ!」
うん、遠い親戚だね。
「マティス様!先日は驚きました。
飛んでいってしまわれるんですもの!
あれからずっとお持ちしていたんですのよ?」
「それ、他人じゃありませこと?
わたしの父はスダウト家当主がほぼ確定しています。
スダウト家はいずれはニバーセルを背負う血筋、あなた、失礼ですよ!!」
「ルチリ様!その話は今はいけません!!」
傍にいたこれは従者だろうか、お嬢をたしなめる。
「あら?そうなの?王家というのは決まりが多いので困りますわ。」
ここから、お嬢たちのお家自慢だ。
3人娘とニバーセル国のような対立だが、
ニバーセル組もそれぞれでけなしあってる。
「どうした?」
マティスはそんなことは無視だ。
無視というより、目に映らないし、声も聞こえない。
無いものたちなのだ。
お嬢たちにわたしが映らないと同じように。
先ほど思いついた話をしてみる。
「・・・・・それを実験する前に話してくれたのはうれしいが、
なるほど、幼少のころはそれを思いつくままにしていたということか。
母君が心配なさるのもわかるな。」
「失礼な!マティスだって、いまワクワクしているくせに!!」
「それはそうだろ?では、1袋試しでいれてみよう。」
ファーーーーーーーーー!!!!!
そんな声が上がってしまう。
入れた瞬間に、袋の口がほどけ、
黄色い玉が、空一面に広がり、遠くに旅立っていった。
大きな麻袋も上空の風に翻弄されている。
やがて、中央に向かって、彼もまた旅立っていった。
「あははははははは!!!!」
「あ、集めるの大変だね!あはははははは!!!!!」
「これはダメだな!あははははは!!!」
「いや、口の縛りが緩かったんだよ!
もっとしっかり結べばいいんじゃないの?」
「うむ。固く縛ろう。」
これが面白い。次々に向こうに消えていく。
荷車は?
これも回転しながら遠くに。
落下したときに壊れるかもしれない。
貴重な木材だ。使い道はたくさんある。
そういえば白石を積んだ荷車も置きっぱなしだ。
こういうの、景観的に良くないよね。
「マティス殿!!」
「なんだ?」
「い、今のは?」
「2番街でカメリを仕入れたのだ。行商だからな、我らは。」
「行商?」
「稼がないといけないだろ?この土地の税を納めないと。」
「行商?行商ですって!!」
キャットファイトも終わり、
麻袋の旅立ちを見送り、我に返ったお嬢たちが騒ぎ出した。
「平民じゃないの!剣のマティスはコットワッツ領主の兄ではないの?
もうじき、コットワッツの領主になるんでしょ?」
「領主でなくても、あの資産の半分以上は兄の物なんでしょ?」
「あなた方は所詮、資産目当てだったってことですね?
なんてはしたないこと!」
「では、あなたは?
剣のマティスっていう名前だけ名乗りを上げたって聞きましたけど?
そのお人柄も知らないくせに!」
「ではあなたは?マティス様のことをご存じだと?」
「ええ、大陸に剣のマティスありと
呼ばれていたころからのあこがれの方ですわ。」
「あら!結構なお年なのですね?」
「なんですって!!」
第2弾が始まったので、
今のうちに帰ろう。
今度は奴凧にならないように、熊の着ぐるみをここで着る。
背負子も背負うしね。
「あんた!あの上着を出しな!!」
アガッターだ。
髪を振り乱し、お嬢様方の間をずんずん割り込んできた。
下がれと言われ、一歩引いていたブックナが、
お嬢さんの前に立つ。
ちょっと怖い雰囲気だから。
この人はキャットファイトの仲裁には参加していない。
というか、廻りの従者は、いらぬことを言った場合だけ注意をするだけで、
黙ってみているだけだ。
護衛はそもそもそんなことはしない。
「さぁ!あの上着だ!だせと言っているだろ!!」
「アガッターだったな。まだ、あなたからの謝罪は聞いていないんだが?
ツイン殿?捕縛命令の手違いの話は、セペナ殿から聞いた。
こちらの件は?」
「アガッター先に謝罪を。」
「・・・・申し訳ない。」
世界一の棒読みセリフだ。
「確かに。だが、この件はセサミナ様に既に報告している。
謝罪があったことはまた近いうちに連絡をしておこう。
で?上着か?裏庭で出した?あれは今は持っていないな。」
「あの時見たものと全く違った!あれ以上のものができたんだろ?
それを出すんだよ!このわたしが着てやるよ!!」
「着てやる?買い取るの間違いだろ?
あれは手軽な値段の物だったんだ。商談がまとまれば、もっと素晴らしいものを
出せたのに。それのことか?まだ、どこにも出回ってはいないのにな。
どちらにしろ、商談はできなかったんだ。
次回、機会があればな。」
「このアガッターが着てやると言っているんだ!すぐにダカルナに届けるんだ!」
「注文か?コットワッツに直接言ってもらえるか?
あなたからの注文を受けるかどうかわからないが。
では、失礼しよう。」
ひょいと境界石を超える。
おお!風が懐かしく感じる。
わたしたちを掴もうとして、
アガッターが手を伸ばしたが風壁にはじかれ、
べしゃんとこけてしまった。
「なに見てるんだい!!あいつらが手を出したんだよ!
捕まえなよ!」
「アガッター見苦しいぞ。」
「なんだって!?」
ここで、噴き出してしまうのはダメだ。
「マティス様!館に戻られるのですか?
ここで待っていればよろしいのですか?」
「アガッターがお話になっている上着というのは?
それはもちろん、届けてくださるですよね?」
「コットワッツは最近、素敵なものばかり扱っていると聞きますわ。
ガラスよりも輝く石があるんですね。
ほらこれ!これは、武の大会後にの懇談会で
お配りしたものなんですって。
とっても素敵!わたくし、もっと大きいものをいただきたいの。」
セサミンが配っていた奴だ。
お嬢達がそれを見せびらかしたお嬢に群がる。
ほんと、だれがだれなのか?
「アガッター!私も欲しいわ!3人分よ。
もちろん、一番大きいもの!!
すぐに用意して!もちろん、あなたが言った上着もね。」
「あら?では、ニバーセルにいらっしゃるのね。
自国にはないものをお買いに。
その時はぜひお声をかけてくださいな。お茶ぐらいごちそうしますわよ?」
「アガッターの裏庭にいらっしゃったことは有りませんよね?
大陸中のとても素敵なものが集まる裏庭に。
本来なら先に持ってくるのが礼儀なのに。何も知らないんですね。」
「あはははは!何も知らないのはあなたたちなのよ?
アガッターの裏庭。ええ。知っていますわ。
昔々に聞いたことがあるぐらいですけど。
通っていたのはかなりご年配なかたではなくて?
何もかも古臭いのよ。今はタフトに行けばなんでも揃うわ。」
「あなたこそ何も知らないのね。化粧水も髪油も使ったことないのかしら?
あれはアガッターのお店しか売っていないものよ?
材料はデルサートルとピクトのみで作るのはダカルナ。
あなたはいらないってことね。」
「アガッターの店?ミフィルの店よ?今は。
ふふふ。姉妹なのに、喧嘩したそうね。
ミフィル本人が言っていたわ。アガッターの店の商品は
これからミフィルが取り扱うって。」
「アガッター?ほんとなの?ミフィルって?」
「ほほほ!姉ですよ。すこし行き違いがあったようですね。
ささ、戻りましょうか?
邪魔な女どもがいるから、マティス殿は帰ってしまいましたからね。」
「あら、いつの間に。
そうね、戻りましょうか?ねぇ、刺繍布は?」
「もちろん。それで、ドレスをしたてましょう。
バザールのほとんどの物を買ってきましたからね。
もう、売ってないんじゃないかしら?」
「!早く!馬車を出して!!」
わたしたち?
ダイヤの小物を見せびらかしている間に気配を消した。
そのまま、皆さんのやり取りを見学だ。
あっという間にテントは撤収。
監視小屋にも人の気配はなくなった。
「面白いね。喧嘩しちゃってるんだ。」
「ミフィルがニバーセルに来たということだな。
ワイプに話しておこう。セサミナにもな。」
「お客さん、いっぱい来るかな?」
「来るだろう。
ミンクも売れてくれなければ頑張ったかいがないからな。」
「そうだね。じゃ、カメリ拾いに行こうか?」
袋は同じ場所に到着していた。荷車は壊れることもなく、
カメリの山の手前に着地していた。
問題は最初にぶちまけたカメリだ。
袋は見つかった。
後は、そのまま、砂漠の方まで転がっている。
「砂に埋もれてるよね。
このままほっといたら芽が出るかな?」
「試してみよう。うまく芽がでたらいいな。」
ちょっと疲れてしまったのは内緒だ。
おなかもすいたし。
また、見つめる仕事をして、
へちま水を取るように、
青い花の茎と、香種の草の茎に樽をはめておく。
化粧水になるものを探してみよう。
日本酒にハト麦を付けるのもいいらしいからね。それも試しておく。
ベッカンコのお酒で作るのもいいかもしれないな。
1人でいいのに、6人いたのだ。
2人一組ということではなく、
6組のご令嬢、それぞれの見張りなのだろう。
その証拠に、テントは6つ。
わたしたちが進んでいくと、
おめかししたお嬢さんたちがテントから出てきた。
あら、3人娘もいる。アガッターはいないのね。
ドロインさんとの会談はどうなったのかな?
ニバーセル組も出てくる。
スダウト家のココエート嬢、ルリチ嬢、シルト嬢。
タレンテ家のトウキ嬢、ルパラ嬢、
ダクツ家のカミツ嬢、
イボン家のデンプ嬢
で、3人組が、
ダカルナ国、アートル
ピクト国 ベビエ
デルサートル国 イント
覚えられないので紙に書いてもらっている。
だが、だれがだれやら。
「・・・・参考にならんな。」
「うん、ちょっとそうだね。でも、これが流行りなんだよ。
こう、ぶわぶわって、袖口が広いのが。」
みんな似たようなドレスだった。
色はさすがに違う。
3人娘も違うドレスだ。今度もお揃い。
目は緑のまま。
ニバーセル組はそれを見て驚いているようだ。
が、それも一瞬だけ。
お互いがドレス出来を睨みつけるように見ている。
青いドレスブームは終わったのかな?
「マティス殿だな?わたしは、スダウト家の護衛、
ブックナという。」
「マティスだ。スダウト家の?当主が来ているのか?
ん?当主はもう決まったのか?」
「・・・・当主はまだだ。嬢たちのだ。」
「そうか、それで?」
「館に案内していただきたい。」
「?どこの?」
「この領地のだ。建物は見えた。遠く過ぎて全体は分からなかったが。
そこまでたどり着くことができない。
案内がいるのだろ?だから待っていたんだ。」
「そうか。しかし、この地は不思議でな、
管理者しか入れないようなんだが?」
「そんなことはないだろ!!」
「そうだよな。不思議だな。」
護衛同士だ、普通にやり取りしている。
が、糠に釘だ。
攻撃的になるわけでもなく、親切に説明するわけでもない。
境界石はきっちりお仕事をしてくれている。
しかし、本当に不思議なのだ。
崖から、海から風が吹いている。
それが境界石まで来ると、その風は草原中央に向かってしまう。
それに乗れば、あっという間に中央に。
砂漠との境界、砂漠際は上空に上がっているのに。
風の壁がある。風壁ってなんかいいよね。
風壁の草原?いいねー。
いい名前ができたと考えながら、
ふと思いついた。
これ、袋ごと、ぽいって領地にいれれば、
自動で中央に運んでくれるんじゃない?
実験したい!!
それと、口を開けて風壁にいれれば、
こう、パラパラーって数個づつ流れていくとか?
回収は後で呼び寄せればいい。
まずは袋ごと!!
「ん?どうした?愛しい人?ものすごく楽しいそうだな?」
なるほど、こういう心の動きは筒抜けだと。
気を付けよう。
が、マティスが愛しい人と呼んだ瞬間、ザワリと空気が動いた。
「こちらがその?」
愛しい人と呼ばなくて正解。
マティスがわたしの名前を呼んで、初めて
隣にいる女の存在に気付く。
砂漠の砂のように目立たなくしているのだ。
お嬢たちはわたしを見たが、それだけ。
横に誰がいようと関係がないのだ。
「ああ、紹介しよう。私の唯一の伴侶、愛しい人だ。
彼女も護衛だ。」
「どうぞ、モウとお呼び下さい。ブックナ殿。」
「ああ、モウ殿。あの歌の?」
「あはははは!あれは余興ですよ!」
あの場所にいたんだ。恥ずかしい。
「ブックナ殿。領地に入れる入れないは私にはわからない話だ。
王都の裏の森と同じなのだろ。
聞けば、ボルタオネ領主とその関係者のみ入れるとか。
それと同じと考えてほしい。
では、我らはこれで。」
「それでは困るのだ!」
「ブックナ下がりなさい。」
おお!お嬢だ!お嬢の登場だ!
「マティス様、ルリチと申します。此度は、、、
「あなたたちこそ下がりなさい!
マティス様は我が夫。
勝手に声をかけないでいただきたい、わたしの大伯父は、
ダルカナ国国王の義弟ですよ!」
うん、遠い親戚だね。
「マティス様!先日は驚きました。
飛んでいってしまわれるんですもの!
あれからずっとお持ちしていたんですのよ?」
「それ、他人じゃありませこと?
わたしの父はスダウト家当主がほぼ確定しています。
スダウト家はいずれはニバーセルを背負う血筋、あなた、失礼ですよ!!」
「ルチリ様!その話は今はいけません!!」
傍にいたこれは従者だろうか、お嬢をたしなめる。
「あら?そうなの?王家というのは決まりが多いので困りますわ。」
ここから、お嬢たちのお家自慢だ。
3人娘とニバーセル国のような対立だが、
ニバーセル組もそれぞれでけなしあってる。
「どうした?」
マティスはそんなことは無視だ。
無視というより、目に映らないし、声も聞こえない。
無いものたちなのだ。
お嬢たちにわたしが映らないと同じように。
先ほど思いついた話をしてみる。
「・・・・・それを実験する前に話してくれたのはうれしいが、
なるほど、幼少のころはそれを思いつくままにしていたということか。
母君が心配なさるのもわかるな。」
「失礼な!マティスだって、いまワクワクしているくせに!!」
「それはそうだろ?では、1袋試しでいれてみよう。」
ファーーーーーーーーー!!!!!
そんな声が上がってしまう。
入れた瞬間に、袋の口がほどけ、
黄色い玉が、空一面に広がり、遠くに旅立っていった。
大きな麻袋も上空の風に翻弄されている。
やがて、中央に向かって、彼もまた旅立っていった。
「あははははははは!!!!」
「あ、集めるの大変だね!あはははははは!!!!!」
「これはダメだな!あははははは!!!」
「いや、口の縛りが緩かったんだよ!
もっとしっかり結べばいいんじゃないの?」
「うむ。固く縛ろう。」
これが面白い。次々に向こうに消えていく。
荷車は?
これも回転しながら遠くに。
落下したときに壊れるかもしれない。
貴重な木材だ。使い道はたくさんある。
そういえば白石を積んだ荷車も置きっぱなしだ。
こういうの、景観的に良くないよね。
「マティス殿!!」
「なんだ?」
「い、今のは?」
「2番街でカメリを仕入れたのだ。行商だからな、我らは。」
「行商?」
「稼がないといけないだろ?この土地の税を納めないと。」
「行商?行商ですって!!」
キャットファイトも終わり、
麻袋の旅立ちを見送り、我に返ったお嬢たちが騒ぎ出した。
「平民じゃないの!剣のマティスはコットワッツ領主の兄ではないの?
もうじき、コットワッツの領主になるんでしょ?」
「領主でなくても、あの資産の半分以上は兄の物なんでしょ?」
「あなた方は所詮、資産目当てだったってことですね?
なんてはしたないこと!」
「では、あなたは?
剣のマティスっていう名前だけ名乗りを上げたって聞きましたけど?
そのお人柄も知らないくせに!」
「ではあなたは?マティス様のことをご存じだと?」
「ええ、大陸に剣のマティスありと
呼ばれていたころからのあこがれの方ですわ。」
「あら!結構なお年なのですね?」
「なんですって!!」
第2弾が始まったので、
今のうちに帰ろう。
今度は奴凧にならないように、熊の着ぐるみをここで着る。
背負子も背負うしね。
「あんた!あの上着を出しな!!」
アガッターだ。
髪を振り乱し、お嬢様方の間をずんずん割り込んできた。
下がれと言われ、一歩引いていたブックナが、
お嬢さんの前に立つ。
ちょっと怖い雰囲気だから。
この人はキャットファイトの仲裁には参加していない。
というか、廻りの従者は、いらぬことを言った場合だけ注意をするだけで、
黙ってみているだけだ。
護衛はそもそもそんなことはしない。
「さぁ!あの上着だ!だせと言っているだろ!!」
「アガッターだったな。まだ、あなたからの謝罪は聞いていないんだが?
ツイン殿?捕縛命令の手違いの話は、セペナ殿から聞いた。
こちらの件は?」
「アガッター先に謝罪を。」
「・・・・申し訳ない。」
世界一の棒読みセリフだ。
「確かに。だが、この件はセサミナ様に既に報告している。
謝罪があったことはまた近いうちに連絡をしておこう。
で?上着か?裏庭で出した?あれは今は持っていないな。」
「あの時見たものと全く違った!あれ以上のものができたんだろ?
それを出すんだよ!このわたしが着てやるよ!!」
「着てやる?買い取るの間違いだろ?
あれは手軽な値段の物だったんだ。商談がまとまれば、もっと素晴らしいものを
出せたのに。それのことか?まだ、どこにも出回ってはいないのにな。
どちらにしろ、商談はできなかったんだ。
次回、機会があればな。」
「このアガッターが着てやると言っているんだ!すぐにダカルナに届けるんだ!」
「注文か?コットワッツに直接言ってもらえるか?
あなたからの注文を受けるかどうかわからないが。
では、失礼しよう。」
ひょいと境界石を超える。
おお!風が懐かしく感じる。
わたしたちを掴もうとして、
アガッターが手を伸ばしたが風壁にはじかれ、
べしゃんとこけてしまった。
「なに見てるんだい!!あいつらが手を出したんだよ!
捕まえなよ!」
「アガッター見苦しいぞ。」
「なんだって!?」
ここで、噴き出してしまうのはダメだ。
「マティス様!館に戻られるのですか?
ここで待っていればよろしいのですか?」
「アガッターがお話になっている上着というのは?
それはもちろん、届けてくださるですよね?」
「コットワッツは最近、素敵なものばかり扱っていると聞きますわ。
ガラスよりも輝く石があるんですね。
ほらこれ!これは、武の大会後にの懇談会で
お配りしたものなんですって。
とっても素敵!わたくし、もっと大きいものをいただきたいの。」
セサミンが配っていた奴だ。
お嬢達がそれを見せびらかしたお嬢に群がる。
ほんと、だれがだれなのか?
「アガッター!私も欲しいわ!3人分よ。
もちろん、一番大きいもの!!
すぐに用意して!もちろん、あなたが言った上着もね。」
「あら?では、ニバーセルにいらっしゃるのね。
自国にはないものをお買いに。
その時はぜひお声をかけてくださいな。お茶ぐらいごちそうしますわよ?」
「アガッターの裏庭にいらっしゃったことは有りませんよね?
大陸中のとても素敵なものが集まる裏庭に。
本来なら先に持ってくるのが礼儀なのに。何も知らないんですね。」
「あはははは!何も知らないのはあなたたちなのよ?
アガッターの裏庭。ええ。知っていますわ。
昔々に聞いたことがあるぐらいですけど。
通っていたのはかなりご年配なかたではなくて?
何もかも古臭いのよ。今はタフトに行けばなんでも揃うわ。」
「あなたこそ何も知らないのね。化粧水も髪油も使ったことないのかしら?
あれはアガッターのお店しか売っていないものよ?
材料はデルサートルとピクトのみで作るのはダカルナ。
あなたはいらないってことね。」
「アガッターの店?ミフィルの店よ?今は。
ふふふ。姉妹なのに、喧嘩したそうね。
ミフィル本人が言っていたわ。アガッターの店の商品は
これからミフィルが取り扱うって。」
「アガッター?ほんとなの?ミフィルって?」
「ほほほ!姉ですよ。すこし行き違いがあったようですね。
ささ、戻りましょうか?
邪魔な女どもがいるから、マティス殿は帰ってしまいましたからね。」
「あら、いつの間に。
そうね、戻りましょうか?ねぇ、刺繍布は?」
「もちろん。それで、ドレスをしたてましょう。
バザールのほとんどの物を買ってきましたからね。
もう、売ってないんじゃないかしら?」
「!早く!馬車を出して!!」
わたしたち?
ダイヤの小物を見せびらかしている間に気配を消した。
そのまま、皆さんのやり取りを見学だ。
あっという間にテントは撤収。
監視小屋にも人の気配はなくなった。
「面白いね。喧嘩しちゃってるんだ。」
「ミフィルがニバーセルに来たということだな。
ワイプに話しておこう。セサミナにもな。」
「お客さん、いっぱい来るかな?」
「来るだろう。
ミンクも売れてくれなければ頑張ったかいがないからな。」
「そうだね。じゃ、カメリ拾いに行こうか?」
袋は同じ場所に到着していた。荷車は壊れることもなく、
カメリの山の手前に着地していた。
問題は最初にぶちまけたカメリだ。
袋は見つかった。
後は、そのまま、砂漠の方まで転がっている。
「砂に埋もれてるよね。
このままほっといたら芽が出るかな?」
「試してみよう。うまく芽がでたらいいな。」
ちょっと疲れてしまったのは内緒だ。
おなかもすいたし。
また、見つめる仕事をして、
へちま水を取るように、
青い花の茎と、香種の草の茎に樽をはめておく。
化粧水になるものを探してみよう。
日本酒にハト麦を付けるのもいいらしいからね。それも試しておく。
ベッカンコのお酒で作るのもいいかもしれないな。
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「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。
※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。
文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~
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高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。
気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。
だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう――
――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。
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【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
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2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
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気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
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