いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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702:毒見

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王の斜め前にいたもう一人が聞いてくる。

「モウだな?
王が呼んだのはお前だけなのだが?
横の男はだれだ?」

応えずにロセツさんを見る。

「アグナ殿。モウ殿の夫ですよ。
正式な呼び出しではないので、女性が単独で我らが王の呼び出し
応じることは名誉にかかわると。」
「それは我らが王に対する不敬では?」
「モウ殿?」

めんどくさくなってこっちに振ったのか?
あまりわたしをかばうこともできない立場ということか?
庇う必要もないか。

「ダクツ殿?何度もいいますが、正式な呼び出しでしたら、
もちろん、単独で伺うことでしょう。
それがないのに、こうしてここに参上したのは、
ダクツ殿のお声がかかりだっただけ。
やはり、夫、マティスと同席してよかった。
なぜなら、わたしの鍛錬服をみなの面前で奪い取った方や、
名乗りもせずに、王の呼び出しだと連れ去ろうとした
誘拐犯にそっくりな方々がいます。
単独でここに来ればどうなっていたか。
しかし、王は我ら2人に、お声を掛けてくださいました。
王も認めたということ。違いますか?」

「・・・・。
モウ殿、王がそなたを呼んだのではない。
我らが呼んだのだ。」


ばかか、こいつは。
今のやり取りを聞いていなかったのか?
我らって誰よ?


「何度もいうが、衛生部ダクツ殿の出迎えで、
我らが王が呼んでいるということで、我らが主の護衛を配下に任せ、
ここに馳せ参じたのだ。
王以外の誰かが、呼び出したいということなら正式な手続きを。
その前に、ダクツ殿が嘘を言ったことになり、
いま、この場でお声をかけてくださった王に対する、それこそ不敬だ。
ダクツ殿?説明いただけますか?」
「アグナ殿?これは非公式だが、王の求めた面談だ。
あなたが、王のようにふるまうことは許されない。」
「ダクツ!!」
「なにか?」
「・・・・。」

ちゃっちゃと済ましてしまおう。


「我らが王よ、我らが唯一の王。
こうしてお声をかけていただけたのは、
我らの誉れになりましょう。
我らは領地開拓はもちろん、他の地を廻り、ニバーセルでは、
手に入らない商品を入手したり、またその品から、
他にもない商品の開発をする行商も生業としております。
まだまだ、開発の余地はございますが、
ぜひ私ども、モウモウ商会の一押しの商品をご賞味ください。
ダクツ殿、お渡し願います。」

やはり手土産は必要だと思う。
ロセツさんには銀細工の箱を渡してあるのだ。
中身は土蜜のお菓子だ。
そして、2つだけチョコがある。
毒見をするのならこれを。
王に渡すのもこれ。
説明はしている。

「モウ殿?指定されれば毒見にならないのでは?」
「ん?でも、これを食べる機会は新年までないよ?
それは王もご存じのはずだ。
食べ損ねたら恨まれるよ?」
「・・・・・。」


毒見はロセツさんがするはず。
カニの時もそうだったから。
そして廻りは何も言えない。

王が毒にやられるなんてありえないから。
ここで騒げば王の力を信じていないということだ。

でも、それってちょっと怖いよね。
毒は効かないって常に念じているの?
それともそういうもの?

そんなこと関係なくおなかいっぱい食べたいよね。


というか、毒見係りって結構辛いよね。
あれか、ダクツ家はそういう家柄なんだろうか?
阿部頼母?



ロセツさんの懐に入れても、溶けないようになっている。
内側に砂漠石を張って、ほんのり冷やしているから。
冷やしたほうがいい中身が無くなれば、冷気を出さない。
銀細工もイスナさんにアドバイスをもらった、
マティス渾身の作だ。
もちろん、ダイヤやルビー、各宝石が品よく散りばめてある。
箱代の方が高いという奴だ。


それを取り出すと、鶏の動きをしていたディープはやっと動きを止めた。
捕らえよという自ら発した命令より、
箱をもっと見たいという欲が勝ったようだ。
アグナもそれを凝視し、すぐ後ろの傍付きに何かを命令している。

悪いけど、それはラーフィングへのプレゼントだ。
ん?横の女性はもしかして奥方か?
それにあげたりするのかな?


(ラーフィングって奥さんいるの?)
(いないな)
(なんで?)
(前王から引継ぎ無しで王になったといっただろ?)
(うん、暗殺者に賞金1億リングだったっけ?)
(そうだ。だから、王の血筋になんの力もない。
前王の血筋の方が有利だ。だから、奥方も子もない)
(んん?なにそれ?100年前だよね?
ニックさんは王暗殺のことは知ってるんだよね?)
(そうだな)
(あとで詳しく聞くわ)
(気になるか?)
(ちょっとね。名付け親としては気になるな)
(ははは!あれも息子になるのか?)
(息子ではないんだけどね。名前を付けるってことは
その子の幸せを願って付けるもんだからね)
(あなたに名をつけてもらった私たちは皆幸せ者だな)
(ふふ、そう?わたしも幸せだよ?)
(それはうれしいな)
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