いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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710:大団円

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「やはりこの2人のことは
詳しく話しておこう。
この国の統治者はかなり間抜けで有名だ。
なにか政策を掲げても、
なかなかに良き政策だとしても、どこかに抜け道がある。
その良き政策というのは誰にとって?
民か貴族か?
どちらかを優遇すれば、どちらかが不平を言う。
そして彼の政策には必ず抜け道がある。
だから逆にみなが必死で政治にかかわった。
貴族も民も。
お任せにしていれば、どんな不利益を被るかわからない。
民が被るか、貴族が被るか、
確立は半々だ。不利があれば、それをできるだけ是正してもらう。
そんな話し合いは毎度のことだった。
逆にそれがあるからこそ、この国は成り立っていた。
皆が言う、この国の統治者は間抜けだが、
それを支える者たちが素晴らしいと。
それに、貴族も民も満足していた。
が、そこに子が生まれた。
その子の母親は産後の肥立ちが悪く、
ずっと臥せっていたんだ。
子を産むのは命懸けだから。
回復したのは実に数年の歳月が経っていた。
子は話もするし、父親の仕事の内容も把握している。
雨の日が来ればからだは大人になる、
そこまで大きくなっていた。
誰が育てた?
その子は同じ妻の立場の女が育てていた。
この女も子は産んだが、悲しいかな死産だったんだよ。
だから、寝床から起き上がれない女の代わりに
その子を育てていたんだ。
はじめは、なぜ我が子にあげるはずだった乳を
別の子にあげなければならないのか、
乳があふれると同時に涙もあふれた。
が、一心に乳を含む赤子はそれはそれは、愛おしい。
自分の血肉で大きくなる子はもはや我が子だ。
ただ、ただ、愛おしい。
その子は母ではないが、その女の愛情を一心に受け育った。
言葉を理解し、自分の立場を理解すると、
次々に政策を打ち出していく。
それは、どこにも抜け道もない厳しいものだ。
民にとっても、貴族にとっても。

女は思った。
このままでは反発が来る。
ただ、厳しいだけでは国を納めることなぞ出来ない。
それはわかるのだが、どうすればいいか迄は分からない。
とにかく、政から興味をそらさなくては!
だから、その子を甘やかした。

ほら、この甘いものはまだどこにも手に入らないものですよ?
さぁ、今日は庭に水を流して遊びましょう。
いくら賢い子供だと言っても、子供は子供だ。
時々、父の仕事場に顔を出し、
恐ろしい政策を発言していくが、
女の誘導にのって遊びに行ってしまう。
父親も子の提案したものをそのまま使うわけも行かないから、
すこし変更して政を行なう。それが精一杯だ。
それほどに、子が提案したものは完璧なものだった。
が、それは民と貴族に反発が出なければだ。
そう、父親は間抜けでも何でもない。
わざと抜け道を作って、
皆で考えることを促していたんだ。
己で決めたことは多少辛くても、頑張れるからだ。
そういう手法だと子に説明すればいいものを、
父親というものはなかなかに子供と接するのが苦手だ。
これは一概には言えないけどね。
しかも変なところで意地を張る。
自分がしていたこの手法は間違っているのか?
いままでは、もめにもめて決まりごとができてきたが、
この発言で全てが決まる。
きっちりと何もかも決めてしまったほうがいいのか?
政治というのは揺らいだらいけない。
筋だけは通さないと。
それがブレブレになったら、
良き政策でも破滅へ一直線だ。
それを体力が少し回復した産みの親が見てしまう。
それにはどう見える?
余りにも厳しい政策、それに追従しているかのように見える夫の政策、
そして我が子を甘やかすだけの女。
会議の後の貴族と民の不平の言葉。
ああ、早く手を打たなければ、この国が滅びてしまう。
病み上がりだ。
気持ちに余裕もない。
悪い方に悪い方に考えてしまう。

みながみな、国を民を思っていることは間違いがない。
それを一部だけ見て決めつけて、悪い方に取ってしまった。


この場にはいなかった父親、この国の統治者が呼ばれる。
そこでここでのいきさつを説明された。

老人は言う、

そなた、これはなんとする?

平伏する父親。

ただただ、わたくしめ力量不足。

ハンナ、よく元気になってくれた。だが、まだ無理はするな。
ミリクス、お前も苦労を掛けていた、ありがとう。
2人の妻たちよ、すまない。
もっと話し合えばよかった。
そして我が息子、グイン。
お前は賢い子だ。が、まだ子供だ。
わたしの傍で政治を勉強しよう。
わたしもまだまだ勉強しなければならない。
お前の気付きは素晴らしいものが有る。
それは素直に認められなかった。
わたしもまだまだ勉強の途中だ。
政の勉強に終わりはない。
刻一刻と変わっていくからだ。


息子グインはここに来てから、
いや、2人の女に連れられて来るときから、
ガタガタと震えていたんだ。
いくら賢い子だと言われようが、
まだ10にも手が届かない幼い子。
父の政策を怒号混じりに罵倒する民たち。
そんないいとこどりばかり要求してはダメだということがなぜわからない?
なぜ、父はこれを押さえきれない?
いつも最後には言うのだ、

なるほど、良き考えだな。
そなたたちが考えたことだ、間違いはないだろう、
がんばってくれ、と。

それに満足げに頷く民たち。
我らがいないと何もできないんですからと笑う貴族たち。

なにをいうか!
最初の提案すら思いつかないくせに!
父が提案して初めて思いつく癖に!!
何もないところから産みだすことの苦労を知らず、
出来たものに文句を言うのなら誰だってできる!
父もなぜそこで笑うんだ!!
ぼくが最初から決めてやる!!

そうしているうちにミリクスが呼びに来る。
甘い菓子だ、水遊びだと。
あまりここで出しゃばるものでもないということなのだろうか?
彼女が母ではないことは知っている。
ぼくの母はずっと寝たきりだ。
毎日様子を見に行く。
ミリクスがいう。
命の削ってあなたをお産みになったのです。
時間がかかりますが、きっと元気になりますよ。
それまで見守って行きましょう。
ミリクスの子は死んだと聞いた。
だから代わりにぼくを育てているのかと直接聞いたこともある。

いいえ、代わりなんてだれにもなれないんですよ。
あなたの母上はハンナ殿ですし、わたしの息子は、石になっています。
だけど、あなたはわたしのもう一人の息子なのです。

では、ぼくには母が2人いるということだな?

そう思っていただけるのでしたら、
うれしいです。



ハンナは目覚めた後、真っ先に息子に会いに行った。
ただ、その時、この2人がまるで親子のように笑い合っていた。
自分が臥せっている間、ミリクスが育てたということは聞いていた。
2人を見て思った。
わたしはもういらないんだ、と。

声を掛ければそれで何もかもうまく言ったはずなのに。
どこかで遠慮してしまう、お互いがだ。
陰から見守ることしかできなくなったハンナ。
それを気付いても、もう少しこの子の傍にいたいと黙っていたミリクス。
傍に来てくれないのは自分が立派な人ではないからと
勉強に励むグイン。
ただ、自分が寝たふりをしているときにそっと頬を撫ででくれる
母の優しい手を握りしめたいと頑張っていた。


グインが泣き叫ぶ!

父さま!ぼくが間違っていたのですか!!
だから、母さまに切り裂かれるのですか!!


なにも事情が分からないグイン。

父が、駆け寄って抱きしめる。
父が違うのだと、間違っていたのは自分なのだという。

母2人はお互いの涙と少しの言葉だけで、
理解する。
もっと早く話し合えばよかったと。

見物していた者たちの頬にも涙が流れる。

これで大団円か?
そんなわけがない。
なぜここまでこじらせた?
それこそ、時間を作って話し合えばいい。
誰かがなにかを吹き込んだんだ。


だれが、だれになにを言ったんだ?
そしてそれは何のために?


この様子を見ていたものの中で1人だけ
ギリリと歯ぎしりを噛む男が一人。


なにをやっている!
さっさとその子供の身を切り裂くんだ!!

その男へと視線が動く!
誰だ!
なっ!あの男は!!!」



・・・・・・。
・・・・・・。




あれだよね、即興でやるとここまで引っ張るのが限界だよね。
しかもツッコミどころ満載だ。
第一言いたかったことは、
自分がそうだと思えば、そうだということを言いたかっただけだ。
相手が迷惑だからといって引けるならそれでいいし、
引けなくても思うだけは自由だと思うのよ。
それが、ストーカー行為になって犯罪になっても。
じゃ、被害者はやられ損か?となるけど、
それを守るために集団生活社会には、
警察があり、法がある。
訴えていけばいい。
だから大岡越前なりソロモン王なりに訴えたんだ。
その采配に納得すれば良し、納得できなければ、
んー、どうすればいいんだろう?
思うだけなら許されるか?
心の内までは法も裁けない。

そして、そんなつもりじゃなかったっていう輩がいちばん最悪だ。
どんなつもりだったんだ?
なにもかも自分のいい様になるとでも思っていたんだろうか?
人の心はその心の持ち主以外どうすることもできない。
持ち主に変化が訪れるように廻りは努力するだけだ。

いつかきっと変わってくれると思うのは
やはり自分本位だな。
自分に対していい様に思ってくれないと
自分が嫌だからだ。
んー?
マティスに対しては?
わたしの気持ちが優先だ。
うん。
それで、マティスも幸せならうれしい。
うん。
わたしの気持ちがあって、次にマティスだ。
マティスがうれしいなら、
わたしもうれしい。
だから、マティスがうれしい気持ちになるように、
努力する。
それはやはり自分の為だ。



「・・・・。
次回解決編。
”名探偵登場!犯人はお前だ!”
乞うご期待!!
ババン!!!」


「「「またかっ!!!!」」」
「え?おわり?」




あ、みんな怒ってる?






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