いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

文字の大きさ
842 / 869

842:副隊長

しおりを挟む
「ニック!!やっとこっちに顔を出したのか!!!!
遅いよ!!
もちろん、今日はお前のおごりだよな?
なんたって、軍隊長様なんだから!!
おい!皆呼んで来い!!」
「んなわけないだろ?予算なしの貧乏軍なんだよ!
知ってんだろ?
お前たちから祝いだから
好きなだけ呑んでくれっていうのが筋だろうが!!」
「そんなことは、月が北から昇らないとありえねーな!!」


がははははは!!!!

「だろうな!だからな、今日は、
タレンテ軍副隊長ルカリと、
スダウト軍副隊長センターを連れてきた!」


資産院を出て、軍部に戻りルカリと呑みに行くぞと声を掛けると、
センターが自分も行きたいと付いてきた。

スダウト軍にはセンター、
タレンテ軍にはルカリが副隊長に就任したという。
スダウト家に引き抜かれたブックナは護衛のままだ。




「大丈夫か?ルカリはいまさらだが、
下町だぞ?」
「いえ、大丈夫です!」
「そうか?」



ルカリ、センター、ブックナとそれぞれで秀でたところはある。
センターは上位の貴族で、あまり真面目ではない。
のらりくらりと鍛錬はさぼるので、
センターに役をつけることはなかった。

ブラス狩りの件を聞けば、すぐにしてませんと、
悪びれることなく報告してきたのはセンターだ。
なぜしないのかと問いただせば、
誰も見ていないし、金もいりませんから、と。

ニックがわたしの補佐時代は、
彼の呑みの誘いに付いてきたこともない。
たいていの者は1度は来るのだが、頑なに断った。
2度目以降はルカリ以外は全員断る。

マティスにあこがれてはいたが、
本人はもちろん、あの剣技をはじめて見たといい、
マティスと話すルカリがうらやましいと話す声が聞こえていた。

ルカリを先にタレント家が指名したようだ。
我々以外に一番モウに近い軍人だからだ。
遅れてスダウト家がセンターを指名。
セサミナ殿が軍部に来た時に名指しで呼び出したとか。
甘味を食べた、タオルをもらったと自慢していたらしいから、
コットワッツとつながりがあると思われたんだろう。




「就任祝いだ!
2人がきっと振舞ってくれるぞ!!
あるだけの酒をもって来い!!!」


うぉぉぉぉおおおおおおお!!!!



(2人とも震えてるではないか)
(大丈夫だって!)
(そうか?)
(ここにいる奴らは酒が楽しく飲めればいいんだから)
(それはそうだな)



下町の奥の奥、ニックが懇意にしていた酒場に、
4人で向かう。後ろに3人ほどついてきているが、いつものことだ。
とにかく、ニックの歓迎ぶりがすごい。
20年の不在だったのに、関係がないようだ。
ただ、かなり高齢な仲間が石になったという話は、
奢ってもらう約束だったのにと、嘆き、そして笑った。
子供が成人になったと言えば、連れてこいといい、
結婚したとなれば、それはおかしい!嫁を連れてこい、
軍隊長として騙されていると忠告してやろうという。

酒は下町が作った酒、ビールがうまいという話から、
それに合う肴だと、コリコリやプカプカ、川ナマコ、
ミーキの骨を油で揚げたもの、
赤根の豆ソース漬けなどを背負子から出して振舞った。

コットワッツの標準装備だいう背負子だが、
同じ形は問題だろうと、少し大きめで作ってもらい、
それはわたしが背負ってる。

本当に中に入っているものが大半だが、
二重底に手を入れれば、呼び寄せで取り寄せられる。
手を入れることはできるのはニックとわたしだけだ。

どう考えても入るはずのない量だが、
これも誰も疑問に思わない。
いや、ひとり、ふたりと凝視しているな。
どこの手のものだ?
石を飛ばしてみるか?

あれがルカリ先生なのか?と奥方連中が集まってきている。
下町の奥方たちは都下まで来ることができないが、
話は聞いているのだろう。
先生!先生!と話をしてくれと頼んでいる。

あの女は?

いないか。下町に近い場所に住んでいるなら、
この様子は聞こえてくるはず。

ほら、都下のルカリの生徒たちがやってきた。
最初の4人と、さっきの集まりに来た女たちもだ。
その女性陣に囲まれ、センターが逃ないようにルカリが紹介し、
一緒に盛り上がっているな。

センターも催促され、
体つくりの話を披露している。
ああ、なるほど。
簡単で効果が出るものを披露して喜ばれている。
センターは鍛錬をさぼっていたのではなく、
効率よく体を作っているということか。
では、あとは経験と実戦だけだな。




軍隊長と言えど、踏み込めない領域はある。
いや、軍だからだ。
旧下町の市場と同じだ。
あの場所のことはベースが教えてくれる。

「ガイライ!ここまで来るのは珍しいな!」
「ああ。ニックがいるからな。
お前の無理難題に応えなくていいからな!」
「あはははは!そうなるか!」

バッチだ。
都下に住んでるが、下町のものを仕入れて、
都下で売っている商人だ。
都下でも世話になっていた。いいも悪いも。


下町に住んでいるものは、
気軽に話しかけてくれるが、軍部が動くと
別の住人から、どうしても反発が出る。

どうしてあいつらだけ?
こっちのほうがひどい有様なのに?
贔屓をしているのか?
それが軍のやり方か?

全ての要望に応えることはできない。
必要なことだけだ。

なので、
これに動いてもらうことしかできなかった。


給金はこれらにすべて使っていたと言っていいだろう。


「よ!バッチ!!俺がいない間、
ずいぶん儲けていたらしいじゃないか?」
「よく言う!!その分資産院に持っていかれとるわ!」
「お?本当か?軍権限で調べようか?」
「・・・・呑むか?」
「はははははは!もちろん!!」



ニックのようにはいかなかったな。
これがニックのやり方だから。
わたしはわたしのやり方をするだけだ。




!!

モウの言霊!

「おい?ニックもガイライも?おい!」
「え?ど、どうした?」

ニックのにらみとわたしの気で皆が黙ってしまった。



モウの宣言だ。
ああ、まさしく!まさしく我らは守られている。

わたしたちの様子にみなが騒ぎ出した。

(ニック!)

「!いやいや!すまん!!なんか俺が持ってきたツマミが
まずいって誰か言ってない?ひどいよな!!」
「な!なんだよ!!おどろくじゃねぇか!!
だれだ?そんなこと言う奴は?」
「向こうから聞こえたぞ?」
「誰だぁ!?」

(ニック?)
(ああ、大丈夫だ。先に守りをもらってる。大丈夫だ)

モウの力は偉大だ。
神聖視するなとマティスは言うが無理だろう。
ニックはモウとのつながりは薄い。
わたしとセサミナ殿は主と臣だ。
ルグとドーガーも同じ。
ワイプは弟子と師だ。
ツイミたちは言葉が悪いがモウの信者だ。
これをモウは許している。

ニックは?
槍の師だとしてもワイプとはまた違う。
不安だったろう。
あの言葉がニックの守りになっている。
求めたものを与えることができる、
それができるものは少ない。



またモウだ。
さっきの言霊の説明か?
皆にも聞こえたのだろう。
理解していないものがいるのか?

(重さって言ったの、ドーガーだよな?)
(だろうな)
(はははは!)
(ちょっと流れが変わったぞ?どうする?)
(任せとけ!)




「おい!なんか面白いことやって見せろよ!
ルカリ!!お前なんかやってみろ!
センターもだ!」
「え?我々がですか?」
「そうだよ?副隊長なんだから!やらないと!」
「え?では、ガイライ殿も?」


センターはいらぬことを言うな!!

「そ、そうですよ。まずはガイライ殿から!!」

ルカリ・・・。
以前のルカリなら率先して動いていたのに!!

「お!そうだな!ガイライ!!
やってくれ!!」

ニックまで!!
なにが任せろだ!
が、いい機会だ。
皆、笑い死にすればいい!!

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

 社畜のおじさん過労で死に、異世界でダンジョンマスターと なり自由に行動し、それを脅かす人間には容赦しません。

本条蒼依
ファンタジー
 山本優(やまもとまさる)45歳はブラック企業に勤め、 残業、休日出勤は当たり前で、連続出勤30日目にして 遂に過労死をしてしまい、女神に異世界転移をはたす。  そして、あまりな強大な力を得て、貴族達にその身柄を 拘束させられ、地球のように束縛をされそうになり、 町から逃げ出すところから始まる。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...