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しおりを挟む「モウ殿?」
わたしが見えぬようにマティスが前に立つ。
「マティス殿!具合は?」
「静かに!いま寝ている。後ろのは?」
エデトと一緒に息子たちではない男が2人。
「我が国の医家だ。」
「愛しい人の肌を医家といえど見せることはできない!」
「しかし!それでは治療ができない!」
「お前の傷はその医家で治ったのか?
結局は愛しい人の曾祖父が治したんだろ?
その彼を呼ぶ方法を聞きに来たんだ。」
「?」
そりゃおかしいとおもうわな。
赤い塊がわたしだって、テルマもエデトも知ってるもん。
(エデト?そういう設定なの。撃たれてないからね)
(モウ!)
(ごめんね。心配かけたね。ちょっと聞きたいことと話したい事があって)
(よ、よかった!)
(心配してくれてありがとね)
(いや確認をとることもできなかったから)
(うん。でさ、その医家、最近雇ったの?)
(ええ。銃でのけがが増えると思ったので)
(そうか、そうだよね。外科専門?)
(?)
(あー、病気も見る人?)
(ええ)
(どこから来た人?)
(?リリクです)
(ちょっと、話そうか。後ろの人たちは出ていってもらって)
「エデト殿?」
はかなげに体を起す。
小声でね。
「モウ!」
「・・・少しお話よろしいですか?
けがはひどくはないのですよ。」
「そうか。安心した。
2人とも下がってくれ。会話はできるようだ。
が、人がいれば気疲れするから。」
いえ、念のため診たほうがいい、という医家を、
マティスがにらみつける。
緑目に気付いたのか、小さく息を吸って、
慌てて出ていった。
扉の向こうから視線を感じる。
あ、奥さんもいる。ピヨピヨ兄弟、
パルパーさんとミルーナさん、アイス大好きの人たちと、
飴を喜んでくれた人、ライガーもか。
みんな心配してくれたんだ。申し訳ない。
はかなく笑っておこう。
それで、よよよ、と手を小さく振る。
髪が頬にかかって、はかないよね。
バン!!
おじい様が扉を乱暴に閉じた。
またかよ!
物理で強制終了だ。
もういいよ!笑わないよ!!
「エデト殿?改めて、申し訳ない。」
衝立を設置してそこでいつもの服に着替えた。
メイクも落として、髪もくくるよ。
こちらの部屋にある大きなテーブルで、
またお茶の用意もし、
今回のあらましを簡単に説明。
わたしの緑目には驚いていたけど、
緑目の匂いがマティスと同じだということに驚いていた。
それぞれで違うのか?
エデトしかわからない話なので、何とも言えないな。
しかし、わたしの匂いもするという。
だからどんな匂いなんだ?
メガネを掛けたり外したりで聞くエデト。
目がほぼ見えないエデトは、
匂いで状況を把握する。
人の気持ちもだ。
銃で撃たれた傷を治すのにもらった報酬が、
多すぎると思ったので、大サービスで、
砂漠石大先生に頼み込んでメガネを作った。
レンズに映る状態を掛けている本人に届ける仕組み。
仕組みというが実際はどうなっているかわからない。
砂漠石大先生だからできることだ。
おそらく電波を脳に届けているか、超近視で
レンズに映ってるのが見えてるとか。
ピントの問題?
それを付けたり外したり。
目で見た状態と、匂いでわかる状態とを
常に比較しているようだ。
ちょっと落ち着きのないおっさんになっている。
「そのリリクの名の守り?というのを父上に聞きたいと。」
「ええ。それとリリクと取引すると聞いていたので、
ちょっとその関連と、ネウロカートが今売り出しているザスについて。」
「父上?リリクの名の守りというのをご存じなのですか?」
「ああ。これは、お前には話せないな。
知らなくていい事柄だ。」
「それをモウ殿に話すのは?」
「取引するからだ。」
「父上?砂漠石のことは、いまどうのということではないのですよ?」
「わかっている!!」
砂漠石の取引はテルマ主導のようだ。
しかし、きむずか爺さんになってるね。
病気の影響かな?
なんだろ?首が太くなるって、甲状腺?
ホルモンのバランスが崩れているとか?
リンパの流れが悪いとか?
ああ!男の人にもあるという更年期障害!
そりゃ、ゆっくりするのが治療法だね。
「では、テルマ殿?
こちらが提示した対価でいかがですか?」
「もう少し考えさせてくれ。」
「わかりました。
エデト殿?今回の件はわたしとテルマ殿との取引だ。
なのでこの後の話は外してください。」
「あ、あの、シモーネが話を聞いてほしいと言っているんだが。」
「ええ。テルマ殿からも聞いています。
それも、わたしだけでは心もとないので、
わたしの妹たち同席でたのしくおしゃべりしましょう?
これ、セサミナ様にも話を通しますので、
詳しくは後日連絡します。それでよろしいですね?」
「ああ!そう言っておこう。」
「それと、彼なんですが、今回、わたしがけが人をよそっているので、
なにかと不便であろうとセサミナ様が付けてくれました、傍付き見習いです。
挨拶させていただいてもよろしいですか?」
「もちろん。」
「オーロラ?挨拶を。セサミナ様とニバーセル国王と同等に。」
「はい!」
後ろに控えていたオーロラが前に出る。
「ニバーセルがコットワッツ領国、領主セサミナ様がお傍付き見習い、
オーロラと申します。
見習い故、ご無礼があるかもしれませんが、
どうぞその時は勉強の機会をお与えくださりますよう、よろしくお願いいたします。
これは、主セサミナ様よりお預かりしたもの。
どうぞ、お納めください。」
わたしが、横に用意した。
かっこ悪いが、台車に冷凍寸胴。
2重になっていて氷と塩を入れる。
砂漠石の温度調整版を使うことができないからだ。
これが普及したら冷蔵庫が売れなくなる?
そんなことはない。だって、氷を調達しないといけないし、
面倒だ。
中にはかなり完成されたバニラアイスとプニカ入りアイス。
あとは、カレーの元。箱に入って、作り方が書いてある。
もちろん、お米も。炊き方イラスト入り。
元気なら売り出すが、
こちらはけが人。今回は紹介だけすることにした。
やはりメガネをかけたり外したりで、
オーロラの挨拶を聞いたエデトは満足そうに笑った。
「はははは。いいな。
わたしはルポイド国元首、エデトだ。
善きものを頂いた。喜んでいたと伝えてくれ。
しかし、良い従者が入ったな。セサミナ殿がうらやましい。」
「ありがとうございます。」
「では、わたしは戻ります。これは、さっそく皆でいただこう。
オーロラ?セサミナ殿にまた、こちらに来てほしいと。
ああ、そちらに行くのもいいな。そう伝えてくれるか?」
「はい!確かに承りました!!」
「では、また後程。」
初々しい従者に元首のほほえみを与えて、
台車を押して出ていった。
傷はそれほど心配しなくていい、ということ。
赤い塊との連絡方法は自分よりテルマの方が分かるのではないか?
なにせ、モウの祖父の友人だから、あとはテルマに任せる、
という設定を皆に説明してくれるだろう。
なかなかに良い挨拶だったと思う。
しかし、テルマは深いため息をついた。
だって、目で見ても、匂いでも、
オーロラの実力に気付かなかった。
わたしは当然わからんけど、
師匠たちは警戒はしていた。
テルマも気付く。
子供なのに?と。
だから気合せで確かめたのだ。
それがわからなかった、エデト。
「おじい様?エデトの鍛錬の方は?」
「見たとおりだ。」
「そうかー。ま、ゆっくりとね。ゆっくりと。
はぁー、と息を吐くテルマ。
ん?
ドン!!
テルマがオーロラを標的にした!!
余波が来る。
冷房が効いたオフィスビルから外に出るときに感じる熱波のよう。
オーロラが片膝を付き、テルマを睨みつけた。
それをかばうマティス。
「耐えるか!やはり、欲しいな。オーロラと言ったな?
寄こせ!!」
「それは彼が決めること!
その前に彼はわたしのものだといったぞ!」
「ははは!その小僧がリリクの名の守りを持っているのだろう?
その傷!!見せるべきではなかったな!
わたしのオーロラ!
宿りし肉体を支配せよ!
その血潮一滴までもが我のもの!!
我が生涯の糧となれ!!
」
Gの上位版、ジョージ?
んなもん、関係なしだ!
「じゃかましぃわ!!!クソジジィ!!」
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