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857:現実逃避
しおりを挟むテルマが吹き飛ぶが、壁に当たらず、
大型クッションにうずもれた。
最近大活躍だな。
マティスの施した防音膜だ。
この激しい気も漏れないだろう。
マティスは別に怒ってない。
もちろんわたしも怒ってない。
怒ってなくても言葉遣いは荒くなるし、気も出せる。
当然だ。
「オーロラ!体に異常は?」
「ない!モウは?」
「ん?ないよ?
マティス?あれテルマの最大の何パーセントだろ?」
「わからんな。最大限のものを受けたことはないし、
殺意もなかったしな。
テルマは?あ、起きたか。」
はぁぁぁ。
と、深いため息をつくテルマ。
クッションに気付くと頭から突っ込んでうずもれていく。
「さ!おじい様!
取引は成立しましたよ?くわしく教えてくださいな!」
あの言葉で石を呑込んだものを
操るのか?
どちらにしろ詳しく知っているようだ。
テルマはこちらを見るとまたため息をだした。
「・・・・。遠くに行きたい。」
えー。
なにそれ。物理な現実逃避?
絶賛凹ミングだ。
こういうときって、その場所から離れるのがいいのかな?
職場とか、家庭とか。
そこでいやなことにあってるんだから、そこで頑張るよりも、
一時的にでも離れるのがいいと思う。
うーん。
どうする?
おかみさんのところに行くのがわたし的に最優先なんだけど。
2手に分かれるか?
「マティス?」
「愛しい人はネリー殿のところに行ってこい。
私たちはルンバのところに行こう。」
「へ?なぜにルンバ?」
「発散すれば問題ないだろう?
鍛錬してもいいんだな?オーロラ?」
「え?疲れやすいからすぐにへばるぞ?」
「それで、悪化することは?」
「いや、ないと思う。」
「土蜜とモクヘビ、クマと調達してこよう。」
「そ、そうなん。うん。お願いね。
風壁の上の家で待ってて?」
「そうか。では、ミーキも獲ってこようか。」
「お!それはいいね。
うん。じゃ、テルマの案内で赤い塊を探す旅に行くってことにしたらいいかな?
心当たりを尋ねるって設定で。
わたしの祖父と知り合いだったていう設定が生きるね。
良し!」
じゃ、もう一度けが人の装いを。
「おじい様!プチ旅行じゃないな?
鍛錬の旅?
いや、やっぱり食料調達の旅に出発ですよ!!
マティスたちといってきてください!!」
「・・・なんで?」
「なんでもいいから!2日ぐらい出かけても大丈夫よね?
緊急時はわかるからって!
ほれ!とっととエデトに話してこい!!」
「・・・モウは?」
「あとで合流するから!」
「モウと一緒がいい。」
「大事な用事があるの!マティスも一緒に行かないんだから!
マティスと一緒に遊んどいで!!」
「・・・・。」
「10数えるうちに決めて? いーち、にー、さー
「行く。」
「ん。」
友人の孫が負傷した。
話すことはできるし、傷も良くなっていくだろう。
が、傷が残る。
エデトを治した赤い塊に連絡を取りたいが今だ取れず。
ならばモウの祖父を尋ねることになった。
テルマもどこにいるかはわからないが思い当たるところを
尋ねてみようということになった。
と、いう設定。
「ほんとうに100の言い訳ができるんだな。」
「当然。」
今度はマティスに完全だっこで、外に出ます。
「おじい様?
オーロラの傷、隠したほうがいい?
もしくは治しちゃう?」
「隠すだけでいい。雨の日が終われば消えているさ。」
髪が耳にかかって、普段は見えないのだが、
最初にぶっ飛ばした時に見えたそうだ。
気を付けよう。
ああ、商売ができなかったな。
ルンバ相手に売ってもらおうか。
部屋を出ると、迎えに来てくれたテルマと一緒にいた従者がまだいた。
テルマを守るつもりもない従者だ。
テルマが強いから必要ないとでも思ったのだろうか?
だったら従者ではないな。もどきと呼ぼう。
「テルマ様!どちらに?」
「2日ほど外に出る。」
決めた設定をエデトに伝えてくれといっても、
2人はそれを拒否した。
「我々も同行します。」
「なぜ?」
「あなたが、そのまま逃亡する恐れがあるからです。」
「わしがか?ははははははは!!
マティス?少し待て。」
「ゆっくりでいいぞ?」
「ん?」
「愛しい人を抱きしめていられるからな。」
「・・・・。」
早く終わらせてくれ、テルマよ。
「キャシールを呼んでくれ。」
「・・・・。」
答えない2人。
なんなんだ。
「すぐだ!!」
「キャシール様は今忙しい。我々が同行するからこそ、
自由に動けるんですよ?
それとも、我が国に不都合なことでもするのですか?」
(なに?この2人?)
(テルマの見張りなんだろうな)
(んー。テルマが凹んでたら友人として助けたいけど、
国の問題っぽいものまでは関わりたくないな)
(エデトは関係なさそうだが)
(だったら元老院の問題?)
「テルマ?先に砂漠の入り口で待っていようか?
それとも、エデトを呼ぶか?」
「いや、この2人も連れて行っていいか?」
(?いいけど、余計につかれない?)
(愛しい人がかまわないのならいいぞ?)
(移動できることはみなが知ってるけど、2人はテルマに抱えてもらおう)
(テルマは?愛しているわけではないぞ?)
(ぷ!テルマを愛しているわけではないけど、愛する愛しい人の為だから運べるということで)
(なるほど!)
「お前が抱えるのならな。」
(モウ!)
(なに?オーロラ?)
(連れていくのか?)
(一応)
(さっきから俺たちに殺気を送ってるぞ?)
(いつものことだからいいよ)
(ヤルの?)
(あー、応対してもいいけど、殺さずで)
(承知!)
(ふふ。ちゃんと事前に指示を仰げたし、返事もいいね。
さっきのご挨拶もきちんとできていた。ルグもよろこぶね)
オーロラはちょっとうれしそう。
(ジャカマシワは故郷の技?教えてくれる?)
(・・・うん。地元の方だけどね?)
(いいな!)
殺伐とした地元になっていってる。
気を付けないと。
2人を伴ってルンバのところに行くことになる。
おそらくえげつない鍛錬が待っているのだが、
いいのだろうか?
いいよね。責任者はいるんだし。
わたしが離脱しても、どこかに行ったとしても、
けがはしてないんだってわかっても、
うーん、ま、いっか。
しかし、一応、また抱えて、馬車に。
砂漠まではこのまま抱っこちゃん状態。
結局、エデトには連絡なしなの?
用件は話したが、まさか、テルマと一緒に出かけるとは思ってもいないだろう。
あとで、連絡が来ると思っているはず。
話しておこうか?
あ!御者に伝達。
従者もどきは2日間の荷物を用意させている。
その準備ができるまで、待機だそうだ。
テルマが黙っているから、こちらも何も言うことはない。
頭の中で会話すればいいが、いまはいいな。
馬さんは心配そうにしている。
アズレのことを頼みますといった駱駝馬だ。
(大丈夫よん。演技だから!)
嘶く、馬さん。
安心した、皆にいっとくよと。
そうか、本当に心配させているんだな。
くれぐれも皆によろしくと伝えてもらう。
少しすると大量の荷物と、
パルパーさんがやってきた。
布団を抱えている。
「モウ様!抱えられての移動はお辛いですから、
これにもたれかかってください。
あと、お気に召したぶとうの甘味も。
どうぞ、お食べください!」
心配ないと言われても、けが人で、
馬車で移動は辛かろうと思ったんだな。
あー、ほんと申し訳ない。
(マティス?)
(そうだな。アイスは出したし、焼き菓子でいいか?)
(彼女、パルパーさんね)
「パルパー殿といったか?気遣いありがとう。」
パルパーさんは、はじめてマティスと目線を合せ、
即座に礼を取った。
「前回も大変世話になった。これは、私からの礼だ。
その愛しい人が好きな甘味は頂こう。
愛しい人は私が抱えるから問題はない。」
うわー、って顔したと思う。
それから、マティスに甘味を、
そしてマティスから恭しく焼き菓子を受け取った。
「テルマ?2人を抱えろ。
移動で動くから、馬車には乗らない。
荷物はもてるだけにしろ?」
「「え?」」
もどき2人が驚いている。
「荷はいらん。
パルパー?エデトに問題はないと伝えてくれ。」
「畏まりました。」
まだ、どういう状況になったかわからない2人を
すばやく抱えるテルマ。
「行くぞ。」
「では。」
厨二病的な言葉を言わずにルンバの村まで移動した。
わたしもこれからそうしようと思う。
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