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新しいお家はストーカー邸
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しおりを挟む大公が、帰宅したのはつい先程のことだった。
私が元自室でゴロゴロしていると、昔と変わらぬ制服姿の大公が入ってきた。
結婚当時とは違って、随分早く帰ってくるようになった。
見てごらんなさい、まだ日を跨いでいない。
かなり働き方改革をしたらしいと、感心の目を大公に向けた。
「なんだよ?」
「いえ、すごい早く帰ってくるようになったなと。」
「持ち帰ってるからな。」
あぁテイクアウトねと、相槌を打つと、手に書類を抱えた大公は不審そうに眉を潜めた。
こうやって、私の前世の言葉を怪訝な顔で聞く姿も随分懐かしい。
大公は細めの眉を元の位置に戻すと、私に手を差し出した。
「今日は、変わりなかったか?」
こういう会話をするのも懐かしい。
まるで夫婦の時に戻ったみたいで、まじまじと大公の顔を見ると、気まずそうに目をそらされた。
「特になかったかな。」
「そうか……。」
彼の手を掴んで立ち上がると、食事は?と私を見下ろしている。
「商会のお店から届けてもらった。私とハジメ、後ここの使用人の人達の分も。」
貴方の分はコックが用意してくれてるそうよと、笑ってみせる。
少し厳しい表情をした大公は、またそうかと言って、扉の方へと歩いていく。
どうしたのだろう、もしかして一人で食べるのが寂しいとか?
あの武神様が?
「……でも小腹が空いたから、コックさんに何か作って貰おうかな。」
「そうか。」
今度は、少しホッとしたような声に、何故か逆に私の方がホッとした。
どうやら、私の知らぬ間に彼はかなり変わってしまったらしい。
良い方なのか悪い方なのかはわからないが、口調といい、行動といい、まさしく大公と言ったふるまいだ。
再度手をこちらに出して、エスコートしてくれようとする。
ほらね、とてもお行儀が良くなってる。
一体誰の影響なのかは追究すまい。
「そういえば、あの男はどこ行ったんだ?」
「ハジメは、この家探索に行ったよ。初めての場所は、見て回らないと落ち着かないタチらしい。」
「職業病みたいなもんだな。」
「貴方も、隣に人がいると眠れなかったものね。」
クスクスと笑いながら言うと、目を向いてこちらを見ていた。
「なぁに?気付いてないと思った?私が襲ってこないか、一晩中見てたくせに。」
「狸寝入りしてたのか。」
大公の言葉に返事をする代わりに、にこりと微笑んだ。
忙しかった彼とは、寝食はほとんど別であったが、もちろんたまには共にすることもあった。
その時は決まって、彼は私が不審な動きをしないか、自分の首に刃を突き立てまいかと、一晩中見張っていたのだ。
安らかな眠りにつきたいのに、そんな怖い目で見られていたら、眠れるものも眠れない。
思い出しただけでも笑いが止まらない。
あまりに笑う私に、大公は咎めるようにおいと呟いた。
「だっておかしいんだもん。私みたいな女に、貴方がやられるわけないのに。」
「別にお前に刺されるのが怖くて、一晩中見てたわけじゃねぇ。」
まるで昔のような口調に戻って言う大公に、じゃあどうしてと純粋な疑問をぶつけた。
だって、彼が不定期に帰ってきたり、私の元へ来たのも、私を疑ってのことだろうし。
それとも、私を反対に始末しようとしていたのだろうか。
……この男なら大いにありうる。
ふと、彼の残虐さを思い出して、持っていた手を離した。
大公はチラリとこちらを見ると、大きな身体を軽く曲げて私の瞳を覗き込んだ。
「わからねぇならわからんでいい。」
今度は、私の腰を掴むと力強く自分の方に引き寄せた。
軽く目を細める表情は、いつしか彼が私に唇を重ねた時の表情と一緒で、思わず息が止まった。
さっさと行くぞと、私の腰を引き寄せたまま、いつもより狭い歩幅で食事の間へ向かった。
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