武神大公は元妻のストーカーがやめられない。〜元夫に敵視されていると思っている元妻の令嬢と、その元妻をストーキングしている元夫の大公のお話〜

百百百百

文字の大きさ
21 / 78
新しいお家はストーカー邸

4

しおりを挟む
 黙々と晩飯をむさぼる俺と、小さな口でケーキを食べるモモラ。
 昔は甘い物はあまり好きじゃなかったが、今は好みも変わったらしい。

 
「お前、そんなに甘いもの好きだったか?」
「昔はあんまり好きじゃなかったけど、ここ数年でよく食べるようになったかも。」


 豚にならないように気をつけないとと、茶化して笑う姿は相変わらずらしい。
 そうかと呟けば、変わったのは貴方もよとモモラは笑った。


「とても昔、下品な男No. 1って言われてた人とは思えない。」
「俺も大公だからな。礼儀ぐらい身につける。」
「そう……なんだか残念ね。」


 残念?
 モモラの言葉に、思わず言葉を繰り返した。
 俺の記憶では、モモラに礼儀作法で怒られたことはないにしろ、当時作法のなっていない俺の代わりに、行事ごとでは神経すり減らしてフォローしてくれていたはずだ……。


「だって、すごく貴方らしかったから。」
「下品で、卑劣なのが俺か?」
「いやそこまで言ってないけど、いい意味でだよ。今は、前よりずっとお上品。」


 フォークで苺のトッピングを刺しながら、自分の口周りを指差した。


「昔は、ご飯いっぱい付けてたのに、食べ方も綺麗になってる。」


 モモラは褒めると言うよりも、残念だと言う声色を含んでいて、俺は眉を寄せた。
 どの貴族の女も、男のやれ食べ方が綺麗だとか話し方が上手いだとかそう言うところを褒めていることが多かった。
 だが、モモラは昔からどこか普通の貴族とは違っていたし、そもそも取り繕った事が嫌いそうだ。


「はっ、お上品ぶった俺は気持ち悪いってか?」
「うーん。違和感って言い方の方が正しいかも。何より、前の貴方の方が私は素敵だと思うけど?」


 自分の家なんだし、外じゃ体裁があるけどねぇ?と、また茶化すように首を左右に倒して俺を見る。
 やはり、こいつは何も変わっていない。
 貴族らしくない変な女のままだ。


「なら、望みの通り今までみたいな下品な話し方にしてやるよ。」
「めちゃめちゃ下品って言ったこと根に持ってるね。貴方らしい話し方でいいって事を言いたかったんだけど……。」


 呆れたようにため息を吐くと、最後の一口を堪能するモモラ。
 要するに自分に気を使った話し方をしなくていいという事なのだろう。
 モモラらしい。
 夫婦として外面では俺に従順な形を取っていたが、よく俺の揚げ足を取っては楽しそうにしていた。
 そういう点では、王である弟ハロルドと気が合っていた。


「皇帝にお前の処刑について、連絡した。」
「あ、そう。ハロルドはなんて?」
「今は反逆者と繋がってるで連行するつもりらしいが……。」
「なるほど、一度監獄に入ったら生きて出さないつもりね。」


 全くハリーらしいと、クスクス笑っている。
 全然笑えんのだが……。
 モモラは、昔のように優雅に茶を啜ると、ニヤニヤした目で俺を見た。


「なぁに?そんなに私が心配?」
「当然だ。無実の人間が、捌かれてたら明日は我が身だぜ。」
「案外、無実でもないかもよ。」


 心底楽しいと言うように、俺をニヤニヤと見るモモラ。
 その笑みは、いつも何か企んでいた時と変わらない。
 思わず背筋がゾワゾワとして、なにかの暗示かと眉を寄せた。


「何やったんだお前。」
「別に。ただ貴方と離婚する前、ちょっと足しになるお金が欲しかったから、契約を交わしたの。」
「……金なら請求すればよかっただろ。」
「貴方から?嫌よ。あの守銭奴からお金を取るから楽しいんじゃないの。」


 弟は大層なケチで、よく騎士団の新米からイカサマで金を巻き上げていた。
 モモラはそのイカサマの原理を知っていたようで、ほぼモモラの完全勝利だったらしい。
 楽しげにその時の事を話すと、忌々しそうに最後の勝負で大負けした事を告白した。


「全く、あれがなければきっとハロルドを泣かせられた。」
「……で、契約ってのは?」
「あぁ、うん。負けて渋々帰ろうとしたんだけど、ハロルドが契約するならお金を全部あげるって言い出したの。」


 正直、簡単な契約だったし、やれると思って結んだんだけど……とバツが悪そうに言葉尻を濁した。
 いったい何を契約したんだと、問い詰めるように見つめればモモラは面白そうに笑った。


「言わないからね。守秘義務あるし、言ったらハロルドが本当に殺しにくる。」
「あいつの秘密か何かか?」
「そうね。だから、多分バラさない限り、本当に処刑なんて事はないわ。」
「俺に知られちゃ嫌なことか?」
「うん。だから、私を貴方から引き離したいの。」


 言えるのはここまでですと締めくくると、またカップの茶を一口飲んだ。
 これでハロルドがモモラを狙う理由がなんとなく分かったが、どんなに拒もうとハロルドは確実にモモラを連れ去りに来るだろう。
 昔から執念深いやつだったし、用心深いやつでもある。
 モモラはこう言っているが、ハロルドなら決して生かしておくようなマネはしないはずだ。
 思っていたよりも厄介なことに首を突っ込んだなと、ため息を吐いた。
 あの弟相手にモモラを守るのは、この俺でも難しいことだ。
 できることなら、この屋敷で荒らしが過ぎ去るのを待っていてほしいが、モモラの性格上それはできないだろう。
 ともかくしばらくの間は、以前通り俺が店に行って見張ってるのが一番だ。
 明日のオススメはなんだろうかと考えながら、茶を啜るモモラを見つめた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜

具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、 前世の記憶を取り戻す。 前世は日本の女子学生。 家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、 息苦しい毎日を過ごしていた。 ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。 転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。 女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。 だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、 横暴さを誇るのが「普通」だった。 けれどベアトリーチェは違う。 前世で身につけた「空気を読む力」と、 本を愛する静かな心を持っていた。 そんな彼女には二人の婚約者がいる。 ――父違いの、血を分けた兄たち。 彼らは溺愛どころではなく、 「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。 ベアトリーチェは戸惑いながらも、 この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。 ※表紙はAI画像です

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

うっかり結婚を承諾したら……。

翠月るるな
恋愛
「結婚しようよ」 なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。 相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。 白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。 実際は思った感じではなくて──?

結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた

夏菜しの
恋愛
 幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。  彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。  そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。  彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。  いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。  のらりくらりと躱すがもう限界。  いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。  彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。  これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?  エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!

木風
恋愛
婚約者に裏切られ、成金伯爵令嬢の仕掛けに嵌められた私は、あっけなく「悪役令嬢」として婚約を破棄された。 胸に広がるのは、悔しさと戸惑いと、まるで物語の中に迷い込んだような不思議な感覚。 けれど、この身に宿るのは、かつて過労に倒れた29歳の女医の記憶。 勉強も社交も面倒で、ただ静かに部屋に籠もっていたかったのに…… 『神に愛された強運チート』という名の不思議な加護が、私を思いもよらぬ未来へと連れ出していく。 子供部屋の安らぎを夢見たはずが、待っていたのは次期国王……王太子殿下のまなざし。 逃れられない運命と、抗いようのない溺愛に、私の物語は静かに色を変えていく。 時に笑い、時に泣き、時に振り回されながらも、私は今日を生きている。 これは、婚約破棄から始まる、転生令嬢のちぐはぐで胸の騒がしい物語。 ※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」にて同時掲載しております。 表紙イラストは、Wednesday (Xアカウント:@wednesday1029)さんに描いていただきました。 ※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。 ©︎子供部屋悪役令嬢 / 木風 Wednesday

処理中です...