武神大公は元妻のストーカーがやめられない。〜元夫に敵視されていると思っている元妻の令嬢と、その元妻をストーキングしている元夫の大公のお話〜

百百百百

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ストーカーは今日も続く

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 店の前でホウキを使うアダムと目があって、おはようと声をかけた。
 昨日は、大公ハウスへの移動で1日費やしたから、会うのは1日ぶりだ。
 ここ数年、毎日一緒にいた私達にとっては珍しいことである。


「いつも通り、お店の準備は順調?」


 アダムにそう問いかけると、なんともバツが悪そうな顔で目を逸らした。
 これは何かやらかしたなとハジメと目を合わせて、店の中のビャクを探した。
 なんとまぁおったまげ。
 そこには、右足に包帯を巻きつけたビャクが座っている。
 右手には杖。
 

「何やってるんだ。」
「……転んだ。」
「転んだだけで、そんなことにはならんだろう。」


 骨は?骨折か?と問い詰められるビャクは、気まずそうに俯いた。
 ビャクは幼い頃に両親を亡くしたからか、他人に対する甘えがなく自立心がとても強い。
 故に大した怪我でも隠して、仕事をこなそうとする癖があった。
 ハジメはそれを知っているし理解しているが、だが怪我人を働かせるほど鬼ではない。


「今日はもう帰れ。」
「はっ、骨が折れたぐらいで帰るかよ。芋でも剥いてる。」


 ワガママを言う子供のようにそっぽを向くと、裏の出口に向かって歩き出した。
 腕組みをして険しい顔をするハジメは、さすがの私でも説得できそうにない。
 可哀想だが、今日はお外で芋を剥く以外の仕事はさせてあげられそうにない。
 あとで、こっそりお菓子持っていってあげるからね。
 私がそっと心の中で囁くと、アダムが気まずそうにこちらを見ていた。


「ビャクちゃん、昨日は何してたの?」
「銃の掃除。でも、夜主人あるじの部屋から物音がした。」
「私の部屋?」


 こくこくと頷くと、アダムがハンカチに包んだ鉄の塊を見せた。
 先が尖った黒い鉄。
 おそらく、こっちの世界には馴染みのないクナイという者だろう。
 それに、この界隈で売っているような代物ではない。


「多分人だってビャクは言ってた。」
「多分?」
「追ったけど姿を確認できなかった。深追いすべきじゃないと思って止めようとしたら、ビャクは屋根から落ちた。」
「臭いや、ほかの痕跡は?」


 ハジメの言葉に、フルフルと首を振るとクナイを手渡した。


「俺も見たことのない武器ですね。」
「昔何かの本で読んだことあるけど、クナイとか言う武器よ。」


 私の前世の記憶は、混乱を防ぐためどこかの国から輸入した本からと言ったり、前に旅の商人に聞いた話だと誤魔化している。
 非常に便利。
 私の言葉にクナイを見せると、どう使うんですかと首を傾げた。


「もちろん形通り、人を刺したり何かを切ったり、人を貼り付けにしたりもできるわね。」


 私の説明になるほどと頷くと、ハジメはそれをハンカチで包み直すと自分の懐にしまった。


「鍛冶屋を何軒かあたって聞いてみます。」
「随分直接的に私を狙いに来たね。今まで盗み見てたのもその人かな。」
「王都のネズミがやってきたのかもしれませんね。」
「あるいは別の誰かかも。」

  
 とにかく用心に越した事はないと、この事は大公様にも話すようハジメが言った。
 もちろん言うつもりではあったけど、あの人は豪快のように見えて、意外と心配症だから……。
 監視が強化されて、動きづらくなるのは避けたい。
 どうか穏便に済みますようにと、心から願う私であった。
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