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何も知らないストーカー、ショートケーキを食べる
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とても美味しいです、初めて知りましたと称賛の声が飛び交う中、一人の男が集団から離れて建物に向かって走っている。
「ハジメ!」
私が叫ぶより早くその男を追いかけたハジメは、綺麗なタックルを決めると馬乗りになって押さえつけた。
驚いた顔でハジメを見る団員達に、ちょっと失礼と微笑みかけて寝そべった男に歩み寄る。
ハジメから逃れようと激しく暴れる彼は、嗚咽をしながら顔を真っ赤にさせている。
「可哀想に、まんまと毒入りカップケーキ食べちゃったのね。」
吐きたいんでしょうと私が問いかけると、彼はさらに何度も嗚咽を繰り返す。
助けてくれと大声で命乞いをする彼に、団員達も近づいて来た。
「ケーキに!ど、毒が入ってる!」
彼が必死に団員達に伝えると、皆がどよめいた。
アダムとハジメ以外が、恐怖の色で染まった目で私を見ている。
何度も助けてくれと頼む彼に、なんだかおかしくなってきた私は笑みをこぼした。
まるで友人に冗談を言われた時のように笑って、持っていた茶葉の箱を見せた。
「どうして私が毒を入れたなんて思うの?これは大公のお屋敷にあったものだし、熱すると酸味が強くなって毒と勘違いすることもあるって、きちんと説明したでしょう。」
やれやれと首を振って、彼の上から退けるよう指で合図を送った。
アダムが私を守るように、彼との間に立った。
ハジメは彼の肩を掴むと無理やり座らせ、懐から折り畳みナイフを取り出した。
「答えなさい。どうして、私が毒を入れたなんて思うの?言わないと、もう一口お茶っぱ突っ込んでやる。」
ハジメが髪を掴んで上を向かせると、わかったと声を荒立てた。
「それに毒を入れたのは俺だ。」
「正直でよろしい。では次、何のために?」
「……アンタを、殺すためだ。」
私達を取り囲む団員達の空気が、さっきよりも息を飲んだものに変わった。
何人かは腰の剣に手をかけ、彼を捕らえる腹づもりのようだ。
いや、もしかしたらケーキに茶葉を入れた私かも。
でもどっちにしろ、そうは問屋が卸さない。
「では、最後の質問です。誰が、貴方に頼んだの?」
私の言葉にグッと喉を鳴らした彼は、涙を目に浮かべて天をじっと仰いだ。
鼻息を荒くして、まるで死を待つような姿に私は今度こそ吹き出した。
「あのねぇ、大事な手がかりをそう簡単に手放すと思う?嘘よ嘘。」
毒なんて入れてないからと、私は箱から茶葉を出して一枚かじった。
唖然としたような、安堵したような顔で私を見た彼は、大きく何度も息を吐いている。
額にかいた大粒の汗を垂らしながら、神様と、彼は感謝の意を込めて呟いていた。
どうやら、随分おめでたい脳味噌をしているらしい。
私はハジメが持っていたナイフを手に取って、彼の首に食い込ませるように強く押し当てた。
「いやいやいや、だからと言って殺さないとは言ってないからね。」
「引くならゆっくりですよ。素早く引くと服が汚れます。」
冷静にそうアドバイスするハジメを見て、ジョーくんが私を止めようと肩を掴んだ。
すぐ様アダムが凄い形相でジョーくんの首を掴むと、大柄のジョーくんが軽々と天を舞った。
「最後にチャンスをあげる。犯人の名前を言わずに私に殺されるか、犯人の名前を吐いてその犯人に殺されるか。」
つまり、騎士として死ぬか、反逆者として死ぬか。
言わなければ始末する他ない。
でなければ私の身が危ないのだ。
仮に彼が言ったとしても、きっと犯人は彼を始末することだろう。
どちらも物語の結末は同じ。
だが、運が良ければ外伝があるかもしれないでしょう?
彼は迷うように、目を右往左往させている。
「……慈悲はない。だが、同情はしている。だからチャンスをあげているの。」
犯人の名前なんてものは、おおよそ見当が付いている。
だが、答え合わせしたいわけじゃない。
私がさらに強くナイフを押し当てると、彼は声にならない悲鳴をあげた。
どんな経緯で、彼がこの犯行に及んだかは知らない。
このまま私が腕を引けば、その理由も闇の中。
「教訓を一つ教えよう。誠実さこそが身を救う。」
皆にカップケーキを配った時と変わらぬ声色と笑顔で言うと、彼は目を静かに瞑って一言呟いた。
彼の目から涙が一筋溢れたのを見て、私は彼の髪を掴んでナイフを引いた。
「ハジメ!」
私が叫ぶより早くその男を追いかけたハジメは、綺麗なタックルを決めると馬乗りになって押さえつけた。
驚いた顔でハジメを見る団員達に、ちょっと失礼と微笑みかけて寝そべった男に歩み寄る。
ハジメから逃れようと激しく暴れる彼は、嗚咽をしながら顔を真っ赤にさせている。
「可哀想に、まんまと毒入りカップケーキ食べちゃったのね。」
吐きたいんでしょうと私が問いかけると、彼はさらに何度も嗚咽を繰り返す。
助けてくれと大声で命乞いをする彼に、団員達も近づいて来た。
「ケーキに!ど、毒が入ってる!」
彼が必死に団員達に伝えると、皆がどよめいた。
アダムとハジメ以外が、恐怖の色で染まった目で私を見ている。
何度も助けてくれと頼む彼に、なんだかおかしくなってきた私は笑みをこぼした。
まるで友人に冗談を言われた時のように笑って、持っていた茶葉の箱を見せた。
「どうして私が毒を入れたなんて思うの?これは大公のお屋敷にあったものだし、熱すると酸味が強くなって毒と勘違いすることもあるって、きちんと説明したでしょう。」
やれやれと首を振って、彼の上から退けるよう指で合図を送った。
アダムが私を守るように、彼との間に立った。
ハジメは彼の肩を掴むと無理やり座らせ、懐から折り畳みナイフを取り出した。
「答えなさい。どうして、私が毒を入れたなんて思うの?言わないと、もう一口お茶っぱ突っ込んでやる。」
ハジメが髪を掴んで上を向かせると、わかったと声を荒立てた。
「それに毒を入れたのは俺だ。」
「正直でよろしい。では次、何のために?」
「……アンタを、殺すためだ。」
私達を取り囲む団員達の空気が、さっきよりも息を飲んだものに変わった。
何人かは腰の剣に手をかけ、彼を捕らえる腹づもりのようだ。
いや、もしかしたらケーキに茶葉を入れた私かも。
でもどっちにしろ、そうは問屋が卸さない。
「では、最後の質問です。誰が、貴方に頼んだの?」
私の言葉にグッと喉を鳴らした彼は、涙を目に浮かべて天をじっと仰いだ。
鼻息を荒くして、まるで死を待つような姿に私は今度こそ吹き出した。
「あのねぇ、大事な手がかりをそう簡単に手放すと思う?嘘よ嘘。」
毒なんて入れてないからと、私は箱から茶葉を出して一枚かじった。
唖然としたような、安堵したような顔で私を見た彼は、大きく何度も息を吐いている。
額にかいた大粒の汗を垂らしながら、神様と、彼は感謝の意を込めて呟いていた。
どうやら、随分おめでたい脳味噌をしているらしい。
私はハジメが持っていたナイフを手に取って、彼の首に食い込ませるように強く押し当てた。
「いやいやいや、だからと言って殺さないとは言ってないからね。」
「引くならゆっくりですよ。素早く引くと服が汚れます。」
冷静にそうアドバイスするハジメを見て、ジョーくんが私を止めようと肩を掴んだ。
すぐ様アダムが凄い形相でジョーくんの首を掴むと、大柄のジョーくんが軽々と天を舞った。
「最後にチャンスをあげる。犯人の名前を言わずに私に殺されるか、犯人の名前を吐いてその犯人に殺されるか。」
つまり、騎士として死ぬか、反逆者として死ぬか。
言わなければ始末する他ない。
でなければ私の身が危ないのだ。
仮に彼が言ったとしても、きっと犯人は彼を始末することだろう。
どちらも物語の結末は同じ。
だが、運が良ければ外伝があるかもしれないでしょう?
彼は迷うように、目を右往左往させている。
「……慈悲はない。だが、同情はしている。だからチャンスをあげているの。」
犯人の名前なんてものは、おおよそ見当が付いている。
だが、答え合わせしたいわけじゃない。
私がさらに強くナイフを押し当てると、彼は声にならない悲鳴をあげた。
どんな経緯で、彼がこの犯行に及んだかは知らない。
このまま私が腕を引けば、その理由も闇の中。
「教訓を一つ教えよう。誠実さこそが身を救う。」
皆にカップケーキを配った時と変わらぬ声色と笑顔で言うと、彼は目を静かに瞑って一言呟いた。
彼の目から涙が一筋溢れたのを見て、私は彼の髪を掴んでナイフを引いた。
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