34 / 78
何も知らないストーカー、ショートケーキを食べる
4
しおりを挟む
扉がノックされ返事をすれば、やけにご機嫌そうなモモラが、手に持ったバスケットを見せびらかした。
中身は匂いからしてケーキだろうか。
同じくバスケットを持ったモモラの護衛達が入ると、モモラは俺が座る椅子の向かいに腰を下ろした。
「会議、ずいぶん長かったね。」
「待ってたのか?」
「うん。でも他の団員さん達に先に配ってたから、気に病むほど退屈はしなかったよ。」
そうだろうなと、嬉しそうな表情と頭についた落ち葉で確信していた。
気に入ったのなら何より。
モモラは他人を差別することはないが、どこか気を許している人間とそうじゃない人間を区別しているところがある。
どこが境界線なのか、誰が気を許せて誰がそうじゃないのか。
ハロルドも俺も、もちろんビーやババロにもわからない。
はたして、今側にいるこの護衛達も、モモラにとって気を許せる人間なのか……。
俺がじっと顔を見ていることを不思議に感じたのか、アダムは首を傾げてバスケットから取り出した袋を見せた。
「今回、新商品を作ったんだ。」
名付けてインスタントコーヒー。
粉末状にしたコーヒーにお湯を注ぐだけで、家でもカフェのコーヒーを楽しめる代物らしい。
ほぅと、俺が感嘆の声を出すと、アダムは銀色の筒を取り出して、カップに入った粉のコーヒーに注いだ。
「そりゃあ湯か?」
「ご名答。こちらはアイン商会で絶賛発売中、お湯が水にならない魔法のビンでござーい。」
ケーキをさらに乗せフォークを取り出しながらそう言うと、モモラは俺の目の前にそれを並べた。
「これはショートケーキ。前に貴方がうちの店に来た時、珍しく二個も食べていったから。」
その言葉に、一瞬肩が跳ねてチラリとモモラの顔を伺うと、ニヤニヤと挑発的な笑みを浮かべている。
「あんなに図体の大きい人、貴方以外にいるの?」
「気づいてたんなら言えよ。」
恥ずかしいだろと、ため息を吐けばモモラは歯を見せて笑って、新商品のインスタントコーヒーの袋を俺の机に置いた。
「コーヒーも気に入ってたでしょ?また飲みたくなったら、これで飲んでね。しばらく店は出来そうにない。」
モモラの言葉に眉を寄せて険しい顔をすれば、大丈夫だからと鼻で笑われた。
「あの大公が店に来たって言うんで噂になってるだけ。今は、いろいろ危険な時期だし、営業はしばらく見合わせるわ。」
モモラの言葉に、そうだなと頷いた。
自由にさせてやれないことへの謝罪を飲み込むため、コーヒーを一口飲む。
確かに、店には劣るがそれでも美味いコーヒーに舌鼓を打つ。
「それ、気に入ったのならまた作るから。なくなったら言ってね。」
「あぁ、いくらだ?」
新商品を買い取ると暗に伝えれば、お金はいらないよと微笑まれた。
「私は、アイン商会の会長として国賓になったんだよ?貴方がうちの商品持ってなかったら怪しまれる。」
発売前の新商品を特別に手に入れられると言うのは、確かに誰が見ても良好な友好関係を意味しているだろう。
相も変わらず用意周到なやつだと称賛の意味を込めて言うと、肩をすくめて照れ隠しをするモモラ。
「社交界や公式の場は出来るだけ避けてきたけど、必要なら私が会長だって発表してもいい。」
貴方が私に配慮して、初めから国賓にしなかったのはわかっていると、聡明なモモラは言った。
ハロルドはモモラのこういうところを尊敬し、恐れていた。
そして、俺もまたそうだった。
「出来るだけ貴方の立場を考慮して、私も譲歩するから。」
「俺も同意見だ。出来るだけお前の行動に制限はかけない。」
その言葉にホッとしたような顔をしたモモラは、俺の手を取ってありがとうと微笑んだ。
その仕草に顔が熱くなったのがわかり、慌てて手を離そうとした。
名残惜しさもなく離れたその手は、早々に入ってきた扉のノブを握る。
未練なんて微塵もない彼女の背を見送って、俺は出されたケーキを静かに頬張った。
中身は匂いからしてケーキだろうか。
同じくバスケットを持ったモモラの護衛達が入ると、モモラは俺が座る椅子の向かいに腰を下ろした。
「会議、ずいぶん長かったね。」
「待ってたのか?」
「うん。でも他の団員さん達に先に配ってたから、気に病むほど退屈はしなかったよ。」
そうだろうなと、嬉しそうな表情と頭についた落ち葉で確信していた。
気に入ったのなら何より。
モモラは他人を差別することはないが、どこか気を許している人間とそうじゃない人間を区別しているところがある。
どこが境界線なのか、誰が気を許せて誰がそうじゃないのか。
ハロルドも俺も、もちろんビーやババロにもわからない。
はたして、今側にいるこの護衛達も、モモラにとって気を許せる人間なのか……。
俺がじっと顔を見ていることを不思議に感じたのか、アダムは首を傾げてバスケットから取り出した袋を見せた。
「今回、新商品を作ったんだ。」
名付けてインスタントコーヒー。
粉末状にしたコーヒーにお湯を注ぐだけで、家でもカフェのコーヒーを楽しめる代物らしい。
ほぅと、俺が感嘆の声を出すと、アダムは銀色の筒を取り出して、カップに入った粉のコーヒーに注いだ。
「そりゃあ湯か?」
「ご名答。こちらはアイン商会で絶賛発売中、お湯が水にならない魔法のビンでござーい。」
ケーキをさらに乗せフォークを取り出しながらそう言うと、モモラは俺の目の前にそれを並べた。
「これはショートケーキ。前に貴方がうちの店に来た時、珍しく二個も食べていったから。」
その言葉に、一瞬肩が跳ねてチラリとモモラの顔を伺うと、ニヤニヤと挑発的な笑みを浮かべている。
「あんなに図体の大きい人、貴方以外にいるの?」
「気づいてたんなら言えよ。」
恥ずかしいだろと、ため息を吐けばモモラは歯を見せて笑って、新商品のインスタントコーヒーの袋を俺の机に置いた。
「コーヒーも気に入ってたでしょ?また飲みたくなったら、これで飲んでね。しばらく店は出来そうにない。」
モモラの言葉に眉を寄せて険しい顔をすれば、大丈夫だからと鼻で笑われた。
「あの大公が店に来たって言うんで噂になってるだけ。今は、いろいろ危険な時期だし、営業はしばらく見合わせるわ。」
モモラの言葉に、そうだなと頷いた。
自由にさせてやれないことへの謝罪を飲み込むため、コーヒーを一口飲む。
確かに、店には劣るがそれでも美味いコーヒーに舌鼓を打つ。
「それ、気に入ったのならまた作るから。なくなったら言ってね。」
「あぁ、いくらだ?」
新商品を買い取ると暗に伝えれば、お金はいらないよと微笑まれた。
「私は、アイン商会の会長として国賓になったんだよ?貴方がうちの商品持ってなかったら怪しまれる。」
発売前の新商品を特別に手に入れられると言うのは、確かに誰が見ても良好な友好関係を意味しているだろう。
相も変わらず用意周到なやつだと称賛の意味を込めて言うと、肩をすくめて照れ隠しをするモモラ。
「社交界や公式の場は出来るだけ避けてきたけど、必要なら私が会長だって発表してもいい。」
貴方が私に配慮して、初めから国賓にしなかったのはわかっていると、聡明なモモラは言った。
ハロルドはモモラのこういうところを尊敬し、恐れていた。
そして、俺もまたそうだった。
「出来るだけ貴方の立場を考慮して、私も譲歩するから。」
「俺も同意見だ。出来るだけお前の行動に制限はかけない。」
その言葉にホッとしたような顔をしたモモラは、俺の手を取ってありがとうと微笑んだ。
その仕草に顔が熱くなったのがわかり、慌てて手を離そうとした。
名残惜しさもなく離れたその手は、早々に入ってきた扉のノブを握る。
未練なんて微塵もない彼女の背を見送って、俺は出されたケーキを静かに頬張った。
0
あなたにおすすめの小説
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
悪役令嬢だったので、身の振り方を考えたい。
しぎ
恋愛
カーティア・メラーニはある日、自分が悪役令嬢であることに気づいた。
断罪イベントまではあと数ヶ月、ヒロインへのざまぁ返しを計画…せずに、カーティアは大好きな読書を楽しみながら、修道院のパンフレットを取り寄せるのだった。悪役令嬢としての日々をカーティアがのんびり過ごしていると、不仲だったはずの婚約者との距離がだんだんおかしくなってきて…。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
白い結婚のはずでしたが、幼馴染の夫が離してくれません!
妄夢【ピッコマノベルズ連載中】
恋愛
外観は赤髪で派手で美人なアーシュレイ。
同世代の女の子とはうまく接しられず、幼馴染のディートハルトとばかり遊んでいた。
おかげで男をたぶらかす悪女と言われてきた。しかし中身はただの魔道具オタク。
幼なじみの二人は親が決めた政略結婚。義両親からの圧力もあり、妊活をすることに。
しかしいざ夜に挑めばあの手この手で拒否する夫。そして『もう、女性を愛することは出来ない!』とベットの上で謝られる。
実家の援助をしてもらってる手前、離婚をこちらから申し込めないアーシュレイ。夫も誰かとは結婚してなきゃいけないなら、君がいいと訳の分からないことを言う。
それなら、愛人探しをすることに。そして、出会いの場の夜会にも何故か、毎回追いかけてきてつきまとってくる。いったいどういうつもりですか!?そして、男性のライバル出現!? やっぱり男色になっちゃたの!?
モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまで
ChaCha
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したことに気づいたアイナ・ネルケ。
だが彼女はヒロインではない――ただの“モブ令嬢”。
「私は観る側。恋はヒロインのもの」
そう決めて、治癒魔術科で必死に学び、気合いと根性で仲間を癒し続けていた。
筋肉とビンタと回復の日々。
それなのに――
「大丈夫だ。俺が必ず君を守る」
野外訓練で命を救った騎士、エルンスト・トゥルぺ。
彼の瞳と声が、治癒と共に魂に触れた瞬間から、世界が静かに変わり始める。
幼馴染ヴィルの揺れる視線。
家族の温かな歓迎。
辺境伯領と学園という“日常の戦場”。
「……好き」
「これは恋だ。もう、モブではいたくない」
守られるだけの存在ではなく、選ばれる覚悟を決めたモブ令嬢と、
現実しか知らない騎士の、静かで激しい溺愛の始まり。
これは――
モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまでの物語。
※溺愛表現は後半からです。のんびり更新します。
※作者の好みにより筋肉と気合い…ヤンデレ落ち掛けが踊りながらやって来ます。
※これは恋愛ファンタジーです。ヒロインと違ってモブは本当に大変なんです。みんなアイナを応援してあげて下さい!!
悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?
いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー
これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。
「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」
「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」
冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。
あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。
ショックで熱をだし寝込むこと1週間。
目覚めると夫がなぜか豹変していて…!?
「君から話し掛けてくれないのか?」
「もう君が隣にいないのは考えられない」
無口不器用夫×優しい鈍感妻
すれ違いから始まる両片思いストーリー
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる