武神大公は元妻のストーカーがやめられない。〜元夫に敵視されていると思っている元妻の令嬢と、その元妻をストーキングしている元夫の大公のお話〜

百百百百

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ストーカーのストーカー

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 俺が大公として仕事をしている騎士団の駐屯所の庭で、モモラは呑気にピクニックを開いていた。
 俺はその姿が見える窓に佇むと、笑うモモラを眺めた。
 約束通り俺を誘うつもりだったらしいが、残念なことにこれから王都の近衛団長との会合だった。
 昼過ぎには終わるはずだと伝えると、なら待っていると乗馬用の草原に敷物を敷いている。


「モモラ嬢は、ピクニックですか?楽しそうだ。」


 ビーがそう言って、俺の隣に立った。
 手元には何枚かの書類が。
 またかと、ため息を吐くとビーが口角を上げた。


「タイガーさんが嫌なものじゃありませんよ。」


 モモラ嬢に関する事ですと、ビーが言うのが早いか俺はそれを奪い取った。
 ビーが呆れて肩を竦めるのを横目に、書類に目を通す。


「学無し曰く、レイザーのヤツはモモラ嬢の護衛に連れて行かれたそうです。」
「モモラのことだ、相応の報復をするつもりなんだろ。」


 モモラは自分が毒殺されかけたのを、俺には黙っているようその場にいた団員達に口止めをしたそうだ。
 しかし残念なことに、こと忠誠心に関しては一流の学無しによってその企みは破られた。
 学無しの報告を受ける限り、モモラは最後までレイザーに名誉回復のチャンスを与えていたようだ。

 本来なら、俺が処罰を与えるのが妥当であり、毒殺を目論んだとなれば騎士剥奪は免ない。 
 俺もモモラを狙ったやつに、軽い処罰を与えるつもりはない。
 だがそこまでの重罪ではないと、モモラは判断したのだろう。
 実際は重罪なんだが……。
 モモラが連れて行ったことで、犯行の理由は闇の中。
 

「自分のせいで、誰かが露頭に迷うのが嫌なんだろ。甘いやつだ。」
「モモラ嬢らしいですね。」


 はっと笑うと、一昨日モモラは珍しく一人で外出し、公園で人と会っていたと言う記載が目に留まった。
 名前は、カール•トンプソン。
 この国で一世を風靡している紅茶産業のドンだ。
 こいつは確か、結婚していた頃モモラがよく贔屓にして、特注のブレンド茶を頼んでいた。
 今や、一大商会の会長であるあいつにとって、商売敵だろう。
 果たして、かつての知人にただ会っただけだろうか。
 フローレンス曰く、モモラはいつだって意味のないことはしないと言った。
 ハロルド曰く、この世で自分を脅かすのはモモラだと言った。
 
 
「カール•トンプソン。」
「王都に拠点を置いている産業主。わかっているのはそれだけで、何かと裏の取れない人物です。」
「生い立ち、年齢、家族、ほとんど全てが空白の男か。」


 文字通り真白な男の資料は、怪しいと言う他なかった。
 昔、モモラにトンプソンについて問い詰めたことがあったが、あいつ自身よく分からないと笑っていた。
 よくもまぁ、そんな詳細の知れぬ男と交流を持ったものだ。
 その男についてだけは、付き合い方を考えろと珍しく注意したこともある。
 それ以来、トンプソンとは商品を取引する手紙だけの接点だと思っていたが……。
 
 
「これが、王都のネズミか?」


 窓から見えるモモラに、問いかけるようにそう呟いた。
 俺の言葉に、ビーが小さく息を飲む。
 国賓といえど、いまだ疑いのあるモモラ。
 俺はモモラを信じているが、全員がそうだとは限らない。
 ビーやババロは、モモラと付き合いも深い。
 故に、あいつのことを多少なりとも理解しているだろう。
 しかし、他の団員達がまたレイザーのようにモモラを狙うかも知れない。
 やはり屋敷の部屋に閉じ込めて、ビーやババロに護衛させるべきかと考える。
 隣から軽く溜息を吐くのを聞いて、ビーの方を見た。


「ご心配は無用です。モモラ嬢はタイガーさんが思うより、人の心を掴むのが上手い方ですよ。」


 モモラ嬢のことになると頭に血が上りますねと、呆れた声で言いながらビーは窓の外のモモラを指さした。
 さっきまでいつもの三人がモモラを囲んでいたが、それが三人から四人、四人から五人に増え、団員達は自分たち用の敷物を敷き始めた。
 いや仕事しろよ。
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