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ストーカー激怒
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しおりを挟む外に出られない私に変わり、知人の屋敷に滞在しているレイをハジメが呼びに行った後。
外出禁止を言い渡された私は、久しぶりに大公や団員達に夕食を振る舞おうと、調理場に立っていた。
「ビャクが完治してたら、新鮮なお肉取ってきてもらうのにね。」
「万全だわ。食いきれねぇほど獲ってきてやる。」
「いや、まだ安静って言われてるでしょ。」
大人しく座っていなさいと、杖を持たなくなった手にフォークを握らせる。
取り出した豚肉を見せて、よく刺すようにと指示を出した。
「今日はみんな大好き、カツにしましょう。」
ビャクやアダム達はもちろん、うちの商会でも一番人気の料理である。
何より、大公はこの料理をいたく気に入っていた。
随分と怒っていたから、ハロルドのために少々のご機嫌とりくらいはしといてやろう。
私は、おやつのためにケーキを調理中。
大公の好物は、ショートケーキとチーズケーキなのだ。
焼き上がるのをオーブンの前で待ちながら、お供の飲み物は何にするか思案する。
そう言えば、彼は食べ物には好き嫌いをはっきり言っていたが、飲み物に関しては聞いたことがない。
いや、お酒が大好物なのはわかっているが、紅茶の好みなどである。
コーヒーは最近よく飲んでいるようだけど……。
思い耽る中、いい香りが漂いオーブンを開けた。
粗熱を取るために調理台の上に置く。
やはり飲み物は何がいいか聞くべきだろうと、ビャクにその場を任せて書斎に向かった。
書斎までの廊下をとぼとぼと一人歩いていると、リビングの扉の前にジョーくんが立ち尽くしていた。
どうしたのかと声をかける前に、私に気づいたジョーくんが慌てて扉を閉めようと手を伸ばす。
それを止めるように扉を手で押して中を覗くと、大公がこちらに背を向けて立っていた。
「何かあったの?」
「いえ、何もっ!」
明らかにおかしな態度をするジョーくんに、そんなんじゃ騎士は務まらんぞと笑いながら肩を叩いた。
少し身体をずらしたことで見えたのは、大公の足元で額を地面につけて座る男達だった。
かなり、タイミングの悪い時に来てしまったらしい。
よく見ると室内には、古参の団員達が立ち並んでいる。
その面持ちは、なんとも言えぬ表情だ。
大公の傍若無人さをよく知る、ビーくんやババロくんですら青ざめている。
知らぬが仏だと判断して扉を閉めようとする。
が、ささやかな扉の軋みによって、大公が顔半分を向けて振り返った。
「何してる。」
「……よかったらお茶でもどうかと思ったんだけど。」
タイミング悪かったねとこの場にそぐわない笑いを見せる。
大公は一言あぁと告げると、また地面の男達に向き直った。
退散しようと足を一歩交代させれば、ピーくんとババロくんが首を横に振っている。
おそらく止めて欲しいと言うことなんだろうが、あきらめてくれ。
さらに一歩下がろうとすれば、ジョーくんが私の袖を掴んでいる。
「一応聞きたいんだけど、その男の人達は何したの?」
私の問いかけに大公は黙ったまま、背中だけが私に早く去れと語っている。
その沈黙がしばらく続いて、平伏す男達はどうか許して欲しいと懇願を始めた。
「我々は決して、大公陛下を脅かすようなマネはしておりません!」
「大公陛下の使いというものが、取り付けるようにと持ってきたのです!」
どうか信じてくださいと、泣き顔で大公を見上げる彼らの瞳はどんな大公が映っているのやら。
おそらく彼らの言っていることは本当だろう。
だが、この状況はどうも深刻すぎる。
これはまるで、彼がよくやっていた罪人の処刑とよく似ていた。
まさか、盗撮程度で処刑、ましてや彼らはただ取り付けただけだ。
「それで、彼らはどうなるの?」
やはり大公は答えない。
きっと処刑なのだろう。
腰の剣に手を添えてあるし、何よりいつも人を殺してきた時と同じ圧がある。
「どうか!ご慈悲を!」
「……一度裏切ったものは、また必ず裏切る。」
そう言って剣を抜く大公に、私は思わず駆け寄った。
「なら、私もこの人達と同じくそこに平伏さないとね。」
彼の剣を持つ手を軽く掴んで、顔の見えない大公にそういうと、ぴくりと指が動いた。
「お前は裏切ってねぇだろ。」
「貴方がそう思ってても、みんながそうじゃないでしょう。」
肩をすくめながらそう言って、彼の手に自分の手を重ねる。
「貴方が何に怒ってるかわからないけど、一時の感情で行動すべきじゃない。」
「お前はいつだって冷静だ。だが、その冷静さが俺には理解できん。」
「よかった。私も貴方のこと理解できない時があるから。」
それじゃあ、お互いの理解を深めにお茶でもしに行こうかと、彼の手を引いた。
一瞬、動かないよう足に力を込めた大公。
「もちろん、彼らが処刑されるようなことをしたのなら別よ。終わるまで見てるから、さっさとやって。」
あくまで、私の見ているまでやりなさいという言葉に、大公は静かに息を吐いて私の手を掴み返した。
「貴方の好きなチーズケーキを焼いたんだ。」
安堵する人々を背に、私たちは部屋を後にした。
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