武神大公は元妻のストーカーがやめられない。〜元夫に敵視されていると思っている元妻の令嬢と、その元妻をストーキングしている元夫の大公のお話〜

百百百百

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心配症なストーカー

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 今度はお行儀良く扉が叩かれて、きっとビーくんかハジメだろうと返事を返せば、憎たらしい声が笑っている。


「お二人は相変わらず仲がいいね。」


 声のする方も見向きもせず、私はため息を吐いた。
 大公は小さく鼻で笑うと、皇帝を机を挟む自分の前のソファーに促した。


「兄上は取り柄の元気が健在で何より。君は無茶をする癖が抜けないようだね。少しは淑女らしさを身につけることを、お勧めするよ。特に慎しさをね。君の商会は随分手広くやっているようだ。」
「皇帝陛下におかれましては、ますますの饒舌。流石は口から先に生まれてきただけのことはあります。」


 私達の言葉の決闘に、大公は相変わらずだとポツリ。
 

「ところで例のものはどこにあるのかな?」


 そう言って差し出した手を見た大公は、懐から取り出した今回の騒動の棒を取り出した。


「結構。ちなみに聞くが、開けたりはしてないかい?」
「これ以上、あなたのゴタゴタに首を突っ込む気はないわ。」


 私の言葉につまらなそうな顔をするハロルド。
 大公からそれを受け取ると、ポンっと音を立てて棒の栓を抜いた。
 じっとその中を眺めて数秒、ハロルドは薄く笑って息を吐くと、私達の方にそれを見せた。


「空だ。どうやらただの噂だったようだ。」
「噂って?」


 私が眉をしかめてそう問うと、持っていた棒を閉めてそれを机に置いた。


「クイーン家が、王妃の秘密を握っていたと言うものだ。」


 君何か知らないかと、私を疑うような口振りで首を傾げるハロルド。
 この男は、確証もないことを口にしたりはしない。
 母は王妃の秘密を何か握っていたのだろう。
 もしものために。
 そのもしもに使えてなければ、意味はないが。
 私は考えるように顎を手にやってみせる。


「知らない。そんな噂も、秘密も。」
「やばいことに加担してたんだ。弱みの一つも握ってて当然だろうな。」


 大公が、そんなこと知ってどうするとハロルドに問いかける。
 少し気まずそうに眉を下げたハロルドは、ゆっくりと口を開いた。


「母上と取引しようと思う。今後反逆を企てる者が出ないように。」


 前王妃と、その秘密の保持を約束するのと引き換えに、残りの反逆者の名前を聞き出すとハロルドは言った。
 だが、肝心の秘密が無いのでは交渉のしようがない。
 どうしたものかなと、どこか楽しそうに笑ったハロルド。
 なんで態々私の前で、こんな話をしたのか分かった気がする。


「王都にある宿場町の質屋。そこなら何かあるかも。」
「母上と何か関係が?」
「うちの母は、大事なものは質屋の担保に入れて保管させてた。あそこは王妃から貰ったものを買えるような、お金持ちも滅多にいないし。」


 私の言葉に、大公は心配そうな目を向けた。
 きっとまた、あらぬ誤解を招かぬかと不安なのだろう。
 その代わりと、私は口を開く。


「私の身の安全を保証して。そうしてくれれば他にも思い出せるかも。」
「なんだ、契約書読んでないのか?」


 はぁ?と声が漏れれば、ハロルドはニヤニヤと笑って私がさっき書いた権利書を手に取った。
 書いてるじゃないか、一言嬉しそうに呟くと私にそれを見せつける。
 そこにはこうあった。
 ”モモラ•クイーンの無実、および帝国での滞在を認める。“


「何よこれ。」


 “なお、皇帝侮辱罪として公国で無期限の奉仕を命じる。半年以上公国を離れた場合、即刻死刑。“


「私、侮辱なんてしてない!」
「しただろう、僕がまだ第二王子の時。」
「ハロルド。」


 咎めようとする大公にも、ハロルドは薄く笑ってよかったじゃないかと言い返す。
 鼻息荒くハロルドにガミガミ文句を言う私を見かねたのか、私の肩を掴むと落ち着くように言い聞かせる。


「お前が、褒美に使ってない俺の屋敷をやれと言ったからそうしたが、どうやら間違いだったようだ。」
「兄さんは、ほんとモモラに甘いよね。」
「モモラは自由が好きだ。こいつへの拘束は俺が許さん。」


 そう言った大公は悪魔と呼ばれているが、今の私には神に見える。
 めんどくさそうに鼻をかいたハロルドは、分かったよと私を指さした。


「無期限ではなく、三年だ。」
「なんでよ!攻めて一年!」
「では五年だ。交渉が下手だなモモラは。それに君が、知ってること全部を話すような馬鹿じゃないのは、僕が一番わかっている。」


 何故か、五年も延びた。
 嘘でしょう。
 どうやら、私はまだまだこの男から逃げられそうにない。
 この男はそう言う奴なのだ。
 きっと大公を通じて私を監視して、また何か企んでいるに違いない。
 加えて大公だ。
 いくら私に多少同情してるとはいえ、皇帝の勅命を受けたのだ。
 半年以上離れれば、何が何でも追ってくるだろう。
 走り書いた自分のサインを見て、私は頭を抱えた。
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