武神大公は元妻のストーカーがやめられない。〜元夫に敵視されていると思っている元妻の令嬢と、その元妻をストーキングしている元夫の大公のお話〜

百百百百

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心配症なストーカー

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 ハロルドのせいで余計痛むような気がする肩に、ハジメが薬を優しく塗り込む。
 そんな私を見て、鼻で笑い飛ばすビャク。 
 このやろう、減給のこと忘れてないからな。
 ちょうど、東の国特産の薬を貰うからと、商会は本部にやってきた私達。
 もちろん、大公直々に監視付きだ。
 塗り終えたところに包帯を巻き直して、服のボタンを止めた。


「君の商会は、随分といろんなものを扱っているね。」


 そして何故か付いてきた皇帝は、興味深そうに商品のカタログを見ている。
 態々出向かんでも、貴族たちの間では訪問販売が主流だろう。


「たまにはこうして、市井の光景を見ておかないとな。訪問販売だけじゃ、参考にならない。」


 やばい、声に出てた。
 そんな私を嘲笑して、ハロルドはさてと浅く座り直した。


「僕との契約のことを、忘れていないみたいで安心したよ。」
「あなたが兄を死ぬほど好きだってこと?言ったらあなた、本気で私を死刑にするでしょ。」
「やっぱり、僕を一番理解しているのは君だね。」


 嬉しそうに笑ったハロルドは、持っていた金の棒を投げてよこした。


「それを君にあげよう。手付金だと思ってくれ。」
「何の?」
「君のアイン商会を、王室御用達にする。」


 その契約金だと言うハロルド。
 なるほど、王室御用達すればより私達の監視もしやすくなる、私達も王都で幅を利かせやすくなるだろう。
 やや窮屈になるが、見返りは大きい。
 だが、どんなに美味しい提案でもこの男が絡んでいることを忘れてはならない。


「あなたは、大好きな兄上の領地が栄えるよう、私をここに置いておきたいと思ったんだけど。」
「流石は僕の良き理解者だ。よく分かっているね。君も、兄さんには借りがあるはずだ。」


 その借りを返したいだろうと言う意味だろう。
 だが、それとどうして王都での取引が関係するのか。
 この領地より商人が多い王都に行けば、自然とそっちで商売は繁盛するだろう。
 読み取りきれぬ彼の考えに、受け取った棒をどうしたものかと頭を悩ませる。


「僕が、自分の王都を栄えさせるのがそんなに変?」
「何でだろう、良き理解者だからかな。それだけじゃない気がする。」


 その言葉に気持ち悪い笑い方をしたハロルドは、私の隣に座り直した。


「やっぱり、君は僕の親友だ。」


 だから特別に教えてあげよう。
 そう言ったハロルドは、金の棒を指差してこう言った。


「僕は兄と本当の兄弟じゃない。」


 聞いちゃいけないことを聞いた気がする。
 私が耳を塞ごうと、手を顔の横に持っていけば、まあまあとハロルドがそれを妨げる。


「本当はその金の棒に、僕の父親が母と交わした権利書が入っていたはずだ。僕の父親だと名乗らないものが。」
「もういいって、みんな耳閉じて!」


 同席しているハジメ達にもそう言うが、ハロルド気にするなと私の抵抗も意に返さない。


「なんとなく、前皇帝が僕の父じゃないことはわかってた。君なら理解できるだろう?」
「私の場合、そんな国を揺るがすほどのことじゃない。」


 いきなりの暴露に、もうやばいことに両足突っ込んだ気分になる。
 はぁとため息を吐いて、ハロルドが大公に武器を見てくるよう促した時に気づくべきだったと後悔した。


「その反応じゃ、本当に知らないのか?」
「まだ、疑ってたの。」
「僕には、兄さんみたいに嘘を見破る能力はないからね。実際今も、君は嘘ついてると思ってる。」


 覚えてないかい?と首を傾げるハロルド。


「あの薄暗い地下室に閉じ込められたのを見つけたのは、たまたま君の家に遊びに行ってた僕だよ?」
「恥ずかしいことは覚えてるのね。」
「間抜けだよね君は。」


 私の顔覗き込んでそう言ったハロルドは、知らないならもういいやとまたカタログに目を戻した。
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