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番外編 元妻とストーカーの馴れ初め。
取引と書いて、お願いと読む
しおりを挟む「それで?私に何かご用?」
王子様?とわざとらしいお辞儀をすると、王子は大変不機嫌そうに前の椅子に腰掛けた。
「どう言うつもりだ。」
「なんのことでしょう?」
「惚けるな、毒の件だ。」
あぁ、とつい数時間ほど前の出来事を思い出す。
しっかりと報連相の行き届いた体系である。
私はゆっくり、目を通していた書類を机に置いて淑女らしからぬ、足を組む姿勢をとった。
「お前は何がしたい。」
「だから、あなたを皇帝にしたい。」
「それなら、見返りはなんだ。皇后になるつもりがないなら、金か?」
チッと舌を打って、私を睨み上げる姿はさすが歴戦の騎士様だ。
私が慄くことなく鼻を鳴らしてみせると、その眉間のシワはますます濃くなっていく。
「それも悪くない報酬ですね。」
私の返答にそうかよと王子は答えると、忌々しそうに何かを投げて寄越した。
それは、結婚式で私が結婚指輪として嵌めていたものだった。
確か結婚式後、王子に取り上げられ何処かに保管されていたはずだ。
「代々歴代の皇太子妃がつけていたものだ。」
売れば一生困らずに暮らせる額になる。
そう言うと、王子が身体を前のめりにさせ私を覗き込んだ。
「それをやる代わりに、お前は金輪際俺に関わるな。俺の浮気が原因ってことで、離婚もしてやる。」
「まぁ、そんな寂しいことおっしゃらないで。」
戯けたようにそう言えば、めんどくさそうに舌をまた打って、今度は背もたれに勢いよく身を倒した。
「正直、お前のような女は初めてだ。たかが十四の子娘に煩わされるほど、俺も暇じゃねぇ。」
「なるほど、ではあなたを煩わせなければお側にいてもよろしいのかしら。」
私の言葉に王子が一瞬耳を赤く染めるのを見て、さすがに頭にきたかと怒鳴られる心構えを整える。
「……お前の言動一つ一つが、煩わしい。」
「では出来るだけ、あなたの視界に入らないように致しましょう。必要最低限、あなたと会話しないことも約束します。」
そう淡々と述べて、ニコリと微笑みかければ王子のシワがまた濃くなった。
まだ納得いかないのか、頑固な王子だと私は内心笑い飛ばす。
「私はあなたを皇帝にしたい。そのためならなんだってするつもりです。」
「どんなことでもか?」
「……できれば、痛いことや苦しいこと、後は死んでしまうことは避けたいですね。」
あははと誤魔化すように笑うと、少しだけ王子の口端が上がった。
それに気を良くした私。
一気に畳み込むように、王子の手を握りしめた。
「私の身を王子様に捧げます。」
どんな酷い罰も受け入れますと言う意味を込めて、王子の手にキスを落とした。
「ですから、私が話した件をもう一度考えていただけないでしょうか。視察が難しいならば、私の我が儘で旅行に行くと言うことにでもしてしまいましょう。」
「お、い。何やってんだ。」
両膝をついて彼を見上げれば、さらに顔を赤くして怒る王子。
「私が、持っているのはこの身しかありません。私のような誇りのない生まれの人間が、王子様のお気に召すとは思っていません。」
ですがどうか、私を信じて。
思わず溢れた涙を浮かべながら彼を見つめれば、少しまだ明らんだ顔のまま王子がため息を吐いた。
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