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番外編 元妻とストーカーの馴れ初め。
終わりと書いて始まりと読む end
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暗い宮までの道のり、いつもならあいつの一日の行動の報告も含めてビーが俺を迎えるが、代役のババロが俺の馬を制止した。
「お疲れ様です。」
「あいつは?」
お部屋で休んでらっしゃいます。
そう返したババロは、俺が下りた馬の手綱をクイっと引っ張った。
特に報告がないということは、あいつ自身はそう気に病んでいないということか。
ガチャリと、屋内への扉を開けばひんやりした空気が漂っている。
ここはいつも肌寒いが今日は一段とそう感じられる。
そういえばもうすぐ冬だなと、ふと頭をよぎった。
寒暖差の激しい土地で過ごしたせいか、俺やババロたちにとって寒さや暑さというのはとりとめて気にすることでもない。
しかし、今はあいつがいる。
病弱の設定がどうのと言っていたが、本当にかかる必要はないだろう。
何枚か暖かい毛皮を用意するかと、あいつの顔を思い浮かべる。
厨房の酒でも取ろうと向かっていた先のドアノブに手をかけた。
公爵の屋敷を出るときに、暗い顔をしていたように思ったが、あのタフさなら今頃阿保面かいて……。
手にかけた扉を開けば、薄いオレンジの光が俺の目の前で輝いている。
そしてその中心にある背中から、啜るような音に思わず息をのんだ。
何が休んでいるだ、ババロの野郎。
黒い髪がさらさらと揺れ、下を向いた頭がぽたぽたと音を立てた。
こいつとビーはとても親しくしていたと報告では上がっていた。
仲間を失ったことが一度や二度じゃない俺たちとでは、この女の気持ちは比較しようもない。
少しお灸を据えるつもりだったが、こんな姿を見せられては叱る気にもなれなかった。
ぐっと強張っている肩に手を添えて、できるだけ威圧しない声色発した。
「ビーは近日中に釈放される。心配するな。」
さらに力の入った肩は、俺のほうに翻ることなく、またじゅるりと啜る音が響く。
こういう時、女はどう言われれば安心するのか……。
いつも縋り付いてきた女を歯牙にもかけなかった自分が恨めしい。
「何も問題ない、すべてまる、く……。」
じゅるじゅると盛大咀嚼音を立てた女は、頬を大きく膨らませて俺に振り返った。
両手にはリンゴを一つずつ、さらにそばにはリンゴが大量に入った籠。
黒い小さ目な瞳をパチクリさせると、口をしゃりしゃりとうごかしごくりと喉を上下させた。
「おかえりなさい。」
「……何してる。」
「作戦会議。」
またか、懲りないやつだと呆れながらもどこか安堵を覚えた。
しかし、これ以上何かされては俺もフォローできなくなる。
眉毛を寄せて見下ろせば、いつもと変わらぬ企み顔を見せた。
「安心して、もう一人で動かないから。」
「お前は本当に……。」
「懲りない?当然よ、失敗こそが成功の母よ。」
ふんと鼻を鳴らすと、自分の隣の椅子をトントンと叩いた。
「で、ビーくんは釈放。その対価は?」
「幸いにも、身柄を確保したのは弟だったからな。軽い対価だった。」
「宮から出て行けとか?」
確信ありげなその顔に、ふっと今度は俺が鼻を鳴らした。
「お前がつるんでるのは、王妃じゃなく第二王子のほうか。」
「やーね、利害の一致よ。」
「たとえそうでも、あいつは俺に王位を与えて何の得がある。」
「さあ、お互いに腹の探り合いだし。そこまで私にも知りえないわ。」
残念ながらね。
そう薄く笑って見せると、モモラは片手のリンゴにかじりついた。
「なんでリンゴ?」
「リンゴは始まりの果実なのよ、無知な人間に知恵を与えた。」
おひとつどうぞと、俺の前にそれを置くと、またシャリっと口に含んだ。
「さささ、それじゃ私”達”のこれからについて、じっっくり話し合いましょう。」
「お疲れ様です。」
「あいつは?」
お部屋で休んでらっしゃいます。
そう返したババロは、俺が下りた馬の手綱をクイっと引っ張った。
特に報告がないということは、あいつ自身はそう気に病んでいないということか。
ガチャリと、屋内への扉を開けばひんやりした空気が漂っている。
ここはいつも肌寒いが今日は一段とそう感じられる。
そういえばもうすぐ冬だなと、ふと頭をよぎった。
寒暖差の激しい土地で過ごしたせいか、俺やババロたちにとって寒さや暑さというのはとりとめて気にすることでもない。
しかし、今はあいつがいる。
病弱の設定がどうのと言っていたが、本当にかかる必要はないだろう。
何枚か暖かい毛皮を用意するかと、あいつの顔を思い浮かべる。
厨房の酒でも取ろうと向かっていた先のドアノブに手をかけた。
公爵の屋敷を出るときに、暗い顔をしていたように思ったが、あのタフさなら今頃阿保面かいて……。
手にかけた扉を開けば、薄いオレンジの光が俺の目の前で輝いている。
そしてその中心にある背中から、啜るような音に思わず息をのんだ。
何が休んでいるだ、ババロの野郎。
黒い髪がさらさらと揺れ、下を向いた頭がぽたぽたと音を立てた。
こいつとビーはとても親しくしていたと報告では上がっていた。
仲間を失ったことが一度や二度じゃない俺たちとでは、この女の気持ちは比較しようもない。
少しお灸を据えるつもりだったが、こんな姿を見せられては叱る気にもなれなかった。
ぐっと強張っている肩に手を添えて、できるだけ威圧しない声色発した。
「ビーは近日中に釈放される。心配するな。」
さらに力の入った肩は、俺のほうに翻ることなく、またじゅるりと啜る音が響く。
こういう時、女はどう言われれば安心するのか……。
いつも縋り付いてきた女を歯牙にもかけなかった自分が恨めしい。
「何も問題ない、すべてまる、く……。」
じゅるじゅると盛大咀嚼音を立てた女は、頬を大きく膨らませて俺に振り返った。
両手にはリンゴを一つずつ、さらにそばにはリンゴが大量に入った籠。
黒い小さ目な瞳をパチクリさせると、口をしゃりしゃりとうごかしごくりと喉を上下させた。
「おかえりなさい。」
「……何してる。」
「作戦会議。」
またか、懲りないやつだと呆れながらもどこか安堵を覚えた。
しかし、これ以上何かされては俺もフォローできなくなる。
眉毛を寄せて見下ろせば、いつもと変わらぬ企み顔を見せた。
「安心して、もう一人で動かないから。」
「お前は本当に……。」
「懲りない?当然よ、失敗こそが成功の母よ。」
ふんと鼻を鳴らすと、自分の隣の椅子をトントンと叩いた。
「で、ビーくんは釈放。その対価は?」
「幸いにも、身柄を確保したのは弟だったからな。軽い対価だった。」
「宮から出て行けとか?」
確信ありげなその顔に、ふっと今度は俺が鼻を鳴らした。
「お前がつるんでるのは、王妃じゃなく第二王子のほうか。」
「やーね、利害の一致よ。」
「たとえそうでも、あいつは俺に王位を与えて何の得がある。」
「さあ、お互いに腹の探り合いだし。そこまで私にも知りえないわ。」
残念ながらね。
そう薄く笑って見せると、モモラは片手のリンゴにかじりついた。
「なんでリンゴ?」
「リンゴは始まりの果実なのよ、無知な人間に知恵を与えた。」
おひとつどうぞと、俺の前にそれを置くと、またシャリっと口に含んだ。
「さささ、それじゃ私”達”のこれからについて、じっっくり話し合いましょう。」
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