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番外編 元妻とストーカーの馴れ初め。
恐い人と書いて、味方と読む
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久々に失敗した。
何年ぶりだろう……。
もしかしたら、ここまでの被害は初めてかもしれない。
動く馬車の窓から見える景色に、小さく息が漏れた。
前から後ろへと流れていく絵は、帰りの方がずっと早く感じられる。
話しかけてくれる相手が、いないからだろうか……。
ビーくんが捕まった。
そう王子に伝えた時、彼の眉が珍しく悲しげに下がっていた。
偽物の玉璽も、あのバカに奪われた。
いっそのこと私が捕まれば、まだ勝算はあったのかもしれない。
しかし私が第二王子の前に跪くより先に、ビーくんが彼の顔を殴ってしまった。
彼が珍しく怒ってたのは笑えたけど、ビーくんが捕まっては冗談にもできない。
いつもどんな時でも、私は切り抜けてきた。
だが今回ばかりは、切れるカードも底を尽きている。
そもそも、王宮と言うフィールドが悪かったのだ。
慣れない場所、少ない人脈、全体図が見えない状況。
全てが私にとって不利だった。
こんな頼み聞くんじゃなかった。
勝てる見込みなんて最初からなかった。
あぁ、もう嫌だ嫌だ。
今みたいに腐る自分も、弟みたいと思ってたビーくん見捨てて、心の隅で自分の身の安全策を思案してることも。
現実を拒否するように瞼を閉じて、息を吐いた。
「奥様大丈夫だろうか?」
「随分と落ち込んでいたようだからな……。」
外の団員たちの声が聞こえる。
きっと、今回のことについてまたあらぬ誤解が生まれているのだろう。
あの家に生まれ、王妃の子飼いになるべくして育てられた時から、覚悟してきた。
一人でも問題ない、むしろ一人のほうがいい。
大丈夫、私ならばきっとこの状況も切り抜けられる。
拳を作って、気を紛らわすように掌に爪を立てた。
「やっぱり……。」
今回の件、奥様の仕業じゃ……。
そう一人の団員が言い終える前に、鈍い音が周辺に響いた。
「くだらない話しかできないなら、馬下りて歩いて帰れ。」
馬の鳴き声とともにガシャリと大きな荷物が落ちるような音がして、それ以降誰の声もしなくなった。
ババロくん……私別に大丈夫だよと、声をかけようと重い窓少しを上げる。
「ビーのやつがいなくてよかったです。あいつがいたら、きっとこんなんじゃすまなかった。」
あいつ、奥様大好きですからね。
いつもの笑みを浮かべているババロくんは、はっとしたようにつづけた。
「も、もちろん変な意味じゃありませんよ!あいつにとって姉というか、いや!姉じゃなくて……。」
「うん、わかってるよ。」
弁解を繰り返す彼に、ちゃんと伝わっていると薄く笑みを見せれば、ババロくんは顔を険しくしかめた。
「俺やビーは奥様の味方ってこともわかっておいて下さい。」
「……うん。」
「あと王子も。」
「はい、わかりました。」
「それとビーが、奥様はお転婆通り越して暴れん坊だから、また二階から飛び降りないように見張れって。」
「そ、そんなことしないよ!」
なんてことばらしてくれてんのあの子は……。
慌てて否定してババロくんを見れば、そっちのほうがいいですよと重い窓を一番上まで持ち上げた。
「上品な奥様より、そうやって奥様らしくいるのが一番です。」
「お望み道理、馬車から飛び降りましょうか?」
グイっと上半身を窓から出せば、ババロくんは慌てて私の肩を馬車の中に押し込めた。
勘弁してくださいと額に汗かく彼が面白くて、さっきまでの考えも忘れてけらけらと笑った。
「ところで、王子は?」
「……直談判に行かれました。」
「そう、私の独断のせいで……。」
「いえ、今回は奥様だけの責任ではありません。ビーのやつも本来なら止めるべき立場の人間です。」
「怒ってた?」
そりゃもう。
あのただでさえ恐ろしい顔が、さらに怒りで恐ろしくなるかと思うと思わず肩が震えた。
何年ぶりだろう……。
もしかしたら、ここまでの被害は初めてかもしれない。
動く馬車の窓から見える景色に、小さく息が漏れた。
前から後ろへと流れていく絵は、帰りの方がずっと早く感じられる。
話しかけてくれる相手が、いないからだろうか……。
ビーくんが捕まった。
そう王子に伝えた時、彼の眉が珍しく悲しげに下がっていた。
偽物の玉璽も、あのバカに奪われた。
いっそのこと私が捕まれば、まだ勝算はあったのかもしれない。
しかし私が第二王子の前に跪くより先に、ビーくんが彼の顔を殴ってしまった。
彼が珍しく怒ってたのは笑えたけど、ビーくんが捕まっては冗談にもできない。
いつもどんな時でも、私は切り抜けてきた。
だが今回ばかりは、切れるカードも底を尽きている。
そもそも、王宮と言うフィールドが悪かったのだ。
慣れない場所、少ない人脈、全体図が見えない状況。
全てが私にとって不利だった。
こんな頼み聞くんじゃなかった。
勝てる見込みなんて最初からなかった。
あぁ、もう嫌だ嫌だ。
今みたいに腐る自分も、弟みたいと思ってたビーくん見捨てて、心の隅で自分の身の安全策を思案してることも。
現実を拒否するように瞼を閉じて、息を吐いた。
「奥様大丈夫だろうか?」
「随分と落ち込んでいたようだからな……。」
外の団員たちの声が聞こえる。
きっと、今回のことについてまたあらぬ誤解が生まれているのだろう。
あの家に生まれ、王妃の子飼いになるべくして育てられた時から、覚悟してきた。
一人でも問題ない、むしろ一人のほうがいい。
大丈夫、私ならばきっとこの状況も切り抜けられる。
拳を作って、気を紛らわすように掌に爪を立てた。
「やっぱり……。」
今回の件、奥様の仕業じゃ……。
そう一人の団員が言い終える前に、鈍い音が周辺に響いた。
「くだらない話しかできないなら、馬下りて歩いて帰れ。」
馬の鳴き声とともにガシャリと大きな荷物が落ちるような音がして、それ以降誰の声もしなくなった。
ババロくん……私別に大丈夫だよと、声をかけようと重い窓少しを上げる。
「ビーのやつがいなくてよかったです。あいつがいたら、きっとこんなんじゃすまなかった。」
あいつ、奥様大好きですからね。
いつもの笑みを浮かべているババロくんは、はっとしたようにつづけた。
「も、もちろん変な意味じゃありませんよ!あいつにとって姉というか、いや!姉じゃなくて……。」
「うん、わかってるよ。」
弁解を繰り返す彼に、ちゃんと伝わっていると薄く笑みを見せれば、ババロくんは顔を険しくしかめた。
「俺やビーは奥様の味方ってこともわかっておいて下さい。」
「……うん。」
「あと王子も。」
「はい、わかりました。」
「それとビーが、奥様はお転婆通り越して暴れん坊だから、また二階から飛び降りないように見張れって。」
「そ、そんなことしないよ!」
なんてことばらしてくれてんのあの子は……。
慌てて否定してババロくんを見れば、そっちのほうがいいですよと重い窓を一番上まで持ち上げた。
「上品な奥様より、そうやって奥様らしくいるのが一番です。」
「お望み道理、馬車から飛び降りましょうか?」
グイっと上半身を窓から出せば、ババロくんは慌てて私の肩を馬車の中に押し込めた。
勘弁してくださいと額に汗かく彼が面白くて、さっきまでの考えも忘れてけらけらと笑った。
「ところで、王子は?」
「……直談判に行かれました。」
「そう、私の独断のせいで……。」
「いえ、今回は奥様だけの責任ではありません。ビーのやつも本来なら止めるべき立場の人間です。」
「怒ってた?」
そりゃもう。
あのただでさえ恐ろしい顔が、さらに怒りで恐ろしくなるかと思うと思わず肩が震えた。
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