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第92話:ハネムーンは鉱山へ
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「……あの、お嬢様。いえ、奥様」
ガタゴトと山道を登る馬車の中で、ロッテが不満げに口を尖らせました。
「普通、新婚旅行といったら南の島のビーチとか高原の避暑地とかじゃないんですか? なんで私たちは、作業着を着て、ツルハシを持っているんですか?」
ロッテの指摘はごもっともです。
私たちの馬車の荷台には、ピクニックバスケットの代わりに、測量機器、地質ハンマー、そしてヘルメットが積まれています。
「ロッテ。リゾート地の白い砂浜も素敵ですが、あれはただの珊瑚の死骸や岩石の風化物です」
私は窓の外に広がる、荒々しい岩肌を見上げました。
「対して、ここは地球の鼓動が直接聞こえる場所。……アイゼンガルド領の北端、未踏の鉱山地帯です。これ以上の絶景があって?」
「うぅ……。絶対、マックス様はビーチでカクテルを飲みたかったと思いますぅ」
ロッテがチラリと向かいの席を見ます。
しかし、新郎であるマックス様は、苦笑しながらも私の肩を抱いていました。
「諦めろ、ロッテ。俺の妻は、宝石店で加工されたダイヤよりも、泥にまみれた原石に興奮する女性なんだ。……俺はそんな彼女が見たくて、ここを選んだんだよ」
「マックス様……! 理解力のある旦那様で幸せですわ!」
私はマックス様に抱きつきました。
そうです。
私たちの愛の巣(国)をさらに強固にするためには、新しいマテリアル(素材)が必要なのです。
馬車を降りた私たちは、坑道の入り口に立ちました。
ひんやりとした冷気と、土の匂いが漂ってきます。
「さあ、行きますよ! 事前調査では、この奥にレアメタルの反応がありました!」
私はドレスの裾をたくし上げ(下に作業ズボンを履いています)、ヘルメットを装着して先頭を切って歩き出しました。
「足元に気をつけろよ。……全く、新婚初夜の翌日に洞窟探検とはな」
マックス様がランタンを掲げ、呆れつつも楽しそうについてきます。
坑道の奥深く。
そこは、何億年もの地層が積み重なり、圧力によって捻じ曲げられた地球の美術館でした。
「素晴らしい……! 見てください、マックス様! あそこの断層!」
私は岩壁を指差し、うっとりとため息をつきました。
「見事な逆断層(リバース・フォルト)ですわ! 左右からの強い圧縮力によって、古い地層が新しい地層の上に乗り上げています。……なんてダイナミックで、力強いエネルギーの痕跡でしょう!」
「……ああ。俺にはヒビ割れた岩にしか見えんが、君が目を輝かせているなら、それは名画よりも美しいものなんだろうな」
マックス様は、岩よりも、岩を見つめる私の横顔を熱心に見つめています。
「それに、このキラキラ光る脈……。間違いありません。リチウム輝石(スポジュメン)です!」
私はハンマーで岩の一部を慎重に削り取りました。
白く、少しピンクがかった結晶。
「リチウム? 何に使うんだ?」
「蓄電池(バッテリー)の材料になります。……これがあれば、昼間に作った電気や熱を溜めておき、夜間に使うシステムが構築できます。エネルギー革命の要ですわ!」
私は興奮して解説をまくし立てました。
王都の復興は終わりましたが、私の頭の中にはすでに次世代エネルギー網の構想があるのです。
「君の頭の中は、百年先を見ているんだな」
マックス様が、私の手についた泥をハンカチで拭ってくれました。
「だが、今は俺のことも見てくれないか? ……電池の話ばかりでは、夫として少し寂しいぞ」
「あ……」
不意に距離が縮まり、私は言葉を失いました。
薄暗い坑道の中で、ランタンの灯りが彼の瞳を揺らしています。
「マ、マックス様。ここは神聖な地質調査の現場で……」
「誰も見ていないさ。……ロッテは入り口でお弁当の番をしている」
彼は私の腰を引き寄せ、壁――一億年前の地層に私を押し付けました(壁ドンです)。
「……頑丈な壁だな。これなら崩れない」
「え、ええ。硬度7の石英脈ですから……、んっ」
私の地質学的解説は、彼の唇によって塞がれました。
ひんやりとした洞窟の中で、互いの体温だけが熱く燃え上がります。
それは、リチウムイオンの化学反応よりも激しく、マグマのように情熱的なエネルギー交換でした。
「……ふぅ」
唇が離れた時、私は顔を真っ赤にして、眼鏡の位置を直しました。
「……計算外です。酸素濃度が薄い場所でのキスは、動悸を加速させますわ」
「ハハッ。なら、次は酸素の濃い山の麓でするか?」
マックス様が意地悪く笑います。
「もう……! からかわないでください!」
私たちは手をつなぎ、坑道を出ました。
外の世界は眩しく、私たちの未来のように輝いていました。
バスケットを抱えたロッテが、「おそーい! サンドイッチ乾いちゃいますよ!」とぷんすか怒っています。
「ごめんなさい、ロッテ。……でも、素晴らしい収穫(レアメタルと愛)がありましたわ」
私はリュックに入った鉱石の重みと、左手の薬指に嵌められた指輪の感触を確かめました。
これぞ、私たちらしいハネムーン。
愛も国も、見えない地下深くにこそ、本当の宝物が眠っているのです。
ガタゴトと山道を登る馬車の中で、ロッテが不満げに口を尖らせました。
「普通、新婚旅行といったら南の島のビーチとか高原の避暑地とかじゃないんですか? なんで私たちは、作業着を着て、ツルハシを持っているんですか?」
ロッテの指摘はごもっともです。
私たちの馬車の荷台には、ピクニックバスケットの代わりに、測量機器、地質ハンマー、そしてヘルメットが積まれています。
「ロッテ。リゾート地の白い砂浜も素敵ですが、あれはただの珊瑚の死骸や岩石の風化物です」
私は窓の外に広がる、荒々しい岩肌を見上げました。
「対して、ここは地球の鼓動が直接聞こえる場所。……アイゼンガルド領の北端、未踏の鉱山地帯です。これ以上の絶景があって?」
「うぅ……。絶対、マックス様はビーチでカクテルを飲みたかったと思いますぅ」
ロッテがチラリと向かいの席を見ます。
しかし、新郎であるマックス様は、苦笑しながらも私の肩を抱いていました。
「諦めろ、ロッテ。俺の妻は、宝石店で加工されたダイヤよりも、泥にまみれた原石に興奮する女性なんだ。……俺はそんな彼女が見たくて、ここを選んだんだよ」
「マックス様……! 理解力のある旦那様で幸せですわ!」
私はマックス様に抱きつきました。
そうです。
私たちの愛の巣(国)をさらに強固にするためには、新しいマテリアル(素材)が必要なのです。
馬車を降りた私たちは、坑道の入り口に立ちました。
ひんやりとした冷気と、土の匂いが漂ってきます。
「さあ、行きますよ! 事前調査では、この奥にレアメタルの反応がありました!」
私はドレスの裾をたくし上げ(下に作業ズボンを履いています)、ヘルメットを装着して先頭を切って歩き出しました。
「足元に気をつけろよ。……全く、新婚初夜の翌日に洞窟探検とはな」
マックス様がランタンを掲げ、呆れつつも楽しそうについてきます。
坑道の奥深く。
そこは、何億年もの地層が積み重なり、圧力によって捻じ曲げられた地球の美術館でした。
「素晴らしい……! 見てください、マックス様! あそこの断層!」
私は岩壁を指差し、うっとりとため息をつきました。
「見事な逆断層(リバース・フォルト)ですわ! 左右からの強い圧縮力によって、古い地層が新しい地層の上に乗り上げています。……なんてダイナミックで、力強いエネルギーの痕跡でしょう!」
「……ああ。俺にはヒビ割れた岩にしか見えんが、君が目を輝かせているなら、それは名画よりも美しいものなんだろうな」
マックス様は、岩よりも、岩を見つめる私の横顔を熱心に見つめています。
「それに、このキラキラ光る脈……。間違いありません。リチウム輝石(スポジュメン)です!」
私はハンマーで岩の一部を慎重に削り取りました。
白く、少しピンクがかった結晶。
「リチウム? 何に使うんだ?」
「蓄電池(バッテリー)の材料になります。……これがあれば、昼間に作った電気や熱を溜めておき、夜間に使うシステムが構築できます。エネルギー革命の要ですわ!」
私は興奮して解説をまくし立てました。
王都の復興は終わりましたが、私の頭の中にはすでに次世代エネルギー網の構想があるのです。
「君の頭の中は、百年先を見ているんだな」
マックス様が、私の手についた泥をハンカチで拭ってくれました。
「だが、今は俺のことも見てくれないか? ……電池の話ばかりでは、夫として少し寂しいぞ」
「あ……」
不意に距離が縮まり、私は言葉を失いました。
薄暗い坑道の中で、ランタンの灯りが彼の瞳を揺らしています。
「マ、マックス様。ここは神聖な地質調査の現場で……」
「誰も見ていないさ。……ロッテは入り口でお弁当の番をしている」
彼は私の腰を引き寄せ、壁――一億年前の地層に私を押し付けました(壁ドンです)。
「……頑丈な壁だな。これなら崩れない」
「え、ええ。硬度7の石英脈ですから……、んっ」
私の地質学的解説は、彼の唇によって塞がれました。
ひんやりとした洞窟の中で、互いの体温だけが熱く燃え上がります。
それは、リチウムイオンの化学反応よりも激しく、マグマのように情熱的なエネルギー交換でした。
「……ふぅ」
唇が離れた時、私は顔を真っ赤にして、眼鏡の位置を直しました。
「……計算外です。酸素濃度が薄い場所でのキスは、動悸を加速させますわ」
「ハハッ。なら、次は酸素の濃い山の麓でするか?」
マックス様が意地悪く笑います。
「もう……! からかわないでください!」
私たちは手をつなぎ、坑道を出ました。
外の世界は眩しく、私たちの未来のように輝いていました。
バスケットを抱えたロッテが、「おそーい! サンドイッチ乾いちゃいますよ!」とぷんすか怒っています。
「ごめんなさい、ロッテ。……でも、素晴らしい収穫(レアメタルと愛)がありましたわ」
私はリュックに入った鉱石の重みと、左手の薬指に嵌められた指輪の感触を確かめました。
これぞ、私たちらしいハネムーン。
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追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
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