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第4話:奪われた手柄と微笑む泥棒
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王宮のきらびやかな大広間は、幾千の蝋燭の光と、着飾った貴族たちの熱気でむせ返るようだった。
ヴァレンティン伯爵家が主催する新作香水の発表会。
それは、今や社交界の時代の寵児としてもてはやされるアーサーの事業の集大成であり、王家をも唸らせるための重要な式典だった。
クロエは広間の隅で、壁際の花瓶の隣に静かに佇んでいた。
彼女が身につけているのは、実用性と気品を兼ね備えた、深い海を思わせるネイビーブルーのドレスだ。
派手な装飾は一切ないが、凛とした清潔感があり、彼女の知的な翡翠の瞳を際立たせている。
本来ならば、事業を黒字化に導き、この新作香水を文字通り身を削って開発した功労者として、彼女は夫の隣で堂々と胸を張るべき立場だった。
しかし、人々の視線と称賛の中心にいるのは、クロエではない。
「皆様、本日はヴァレンティン商会の新作発表にお集まりいただき、誠にありがとうございます!」
アーサーの軽やかで自信に満ちた声が広間に響き渡る。
光を孕んだ金髪と甘いブルーの瞳は、スポットライトを浴びたように輝き、周囲の令嬢たちから熱を帯びたため息が漏れていた。
そして、彼の隣で誇らしげに腕を組んでいるのは、モンゴメリ公爵家の次女、イザベラだった。
ふわふわに巻かれたブロンドの髪に、うるうるとした大きなアメジストの瞳。
男性の庇護欲を掻き立てるような愛らしい童顔の彼女は、甘いピンクのフリルとレースをふんだんに使ったドレスを着こなし、まるで自分がおとぎ話のお姫様であるかのように振る舞っている。
「今回発表する新作、ネロリの夜明けは、私が特別顧問として迎え入れた、イザベラ嬢の素晴らしい感性によって生まれました」
アーサーの言葉に、広間がどよめいた。
クロエは無表情のまま、その光景を見つめていた。
(……イザベラ様が?)
三日間、一睡もせずに蒸留器と向き合い、秒単位の温度管理で一滴の精油を絞り出したのは誰だったか。
香りの階層を計算し、ネロリの清らかさにわずかなベルガモットの爽やかさを加え、最後はシダーウッドの落ち着きでまとめるという、化学理論に基づいた複雑な処方を組んだのは誰だったか。
「ええ、そうですの!」
イザベラは小鳥のように甲高い、甘ったるい声で答えた。
「私、この香りを考案するのに、とっても苦労したんですのよ~。何度も何度も調香をやり直して……、でも、アーサー様が『君の感性を信じている』って励ましてくださったから、こんなに素晴らしい香水が完成したんです。皆様に喜んでいただけて、私、本当に幸せです!」
イザベラはアーサーの腕にすり寄り、上目遣いで微笑みながら、彼を見つめる。
アーサーもまた、愛おしそうに彼女に微笑み返した。
「彼女の繊細なアイデアがなければ、この香りは生まれなかった。私のプロデュースと彼女の才能の賜物です」
堂々とした手柄の横取り。
息を吐くように嘘をつき、他人の血と汗の結晶を自分のものとして発表する二人の姿に、クロエの胸の奥で、冷たい何かがスッと通り抜けた。
ヴァレンティン伯爵家が主催する新作香水の発表会。
それは、今や社交界の時代の寵児としてもてはやされるアーサーの事業の集大成であり、王家をも唸らせるための重要な式典だった。
クロエは広間の隅で、壁際の花瓶の隣に静かに佇んでいた。
彼女が身につけているのは、実用性と気品を兼ね備えた、深い海を思わせるネイビーブルーのドレスだ。
派手な装飾は一切ないが、凛とした清潔感があり、彼女の知的な翡翠の瞳を際立たせている。
本来ならば、事業を黒字化に導き、この新作香水を文字通り身を削って開発した功労者として、彼女は夫の隣で堂々と胸を張るべき立場だった。
しかし、人々の視線と称賛の中心にいるのは、クロエではない。
「皆様、本日はヴァレンティン商会の新作発表にお集まりいただき、誠にありがとうございます!」
アーサーの軽やかで自信に満ちた声が広間に響き渡る。
光を孕んだ金髪と甘いブルーの瞳は、スポットライトを浴びたように輝き、周囲の令嬢たちから熱を帯びたため息が漏れていた。
そして、彼の隣で誇らしげに腕を組んでいるのは、モンゴメリ公爵家の次女、イザベラだった。
ふわふわに巻かれたブロンドの髪に、うるうるとした大きなアメジストの瞳。
男性の庇護欲を掻き立てるような愛らしい童顔の彼女は、甘いピンクのフリルとレースをふんだんに使ったドレスを着こなし、まるで自分がおとぎ話のお姫様であるかのように振る舞っている。
「今回発表する新作、ネロリの夜明けは、私が特別顧問として迎え入れた、イザベラ嬢の素晴らしい感性によって生まれました」
アーサーの言葉に、広間がどよめいた。
クロエは無表情のまま、その光景を見つめていた。
(……イザベラ様が?)
三日間、一睡もせずに蒸留器と向き合い、秒単位の温度管理で一滴の精油を絞り出したのは誰だったか。
香りの階層を計算し、ネロリの清らかさにわずかなベルガモットの爽やかさを加え、最後はシダーウッドの落ち着きでまとめるという、化学理論に基づいた複雑な処方を組んだのは誰だったか。
「ええ、そうですの!」
イザベラは小鳥のように甲高い、甘ったるい声で答えた。
「私、この香りを考案するのに、とっても苦労したんですのよ~。何度も何度も調香をやり直して……、でも、アーサー様が『君の感性を信じている』って励ましてくださったから、こんなに素晴らしい香水が完成したんです。皆様に喜んでいただけて、私、本当に幸せです!」
イザベラはアーサーの腕にすり寄り、上目遣いで微笑みながら、彼を見つめる。
アーサーもまた、愛おしそうに彼女に微笑み返した。
「彼女の繊細なアイデアがなければ、この香りは生まれなかった。私のプロデュースと彼女の才能の賜物です」
堂々とした手柄の横取り。
息を吐くように嘘をつき、他人の血と汗の結晶を自分のものとして発表する二人の姿に、クロエの胸の奥で、冷たい何かがスッと通り抜けた。
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