すみっこ転生 ～悪役令嬢のいるあの世界でモブですらない異世界ぐらし～

２話

　「貴方がセイジュなのでしょ！？」

　あっけにとられていた俺にびしっと指をさし胸を張ってお嬢様なその子が言ってきた。

　「は、はい。僕がセイジュですが…あの失礼ですが…」

　「こちらのお方はハスク＝ホルマトロ公爵様のご息女様アンジェリーナ＝ホルマトロ様にございます」

　「え！？そのようなお方が僕なんかに何の御用が…」

　俺の心境を察したのか執事が恭しく一礼をしながら教えてくれたが俺はその言葉にさらに混乱した。

　「あなた！」

　「は、はい！」

　「幼少のころ、私をかばい大けがをなさったそうですわね！」

　「え？あ、はい。でももう元気です。公爵様にはお助けいただき感謝しております」

　俺が驚いていると指を指したままのアンジェリーナが大きな声で尋ねてきたが、正直前世の記憶を取り戻した時だったので断片的にしか覚えていなかったため気まずそうに当たり障りなく答えた。

　「そうなんですの？お父様から聞いた限りではあなた右腕が不自由になってしまわれたと伺いましたが？」

　「あぁ…公爵様が治療院の費用も出してくださってるおかげで少し動く様になってきてますし大丈夫です」

　「少し？では今はまだまともに動かないということでしょう？」

　「え、えぇ…そうですが」

　「ふむ」

　アンジェリーナの意図がわからず混乱する俺の言葉に少し何かを考えはじめた。

　「あの、失礼ですがアンジェリーナ様はあの時ケガなどは…申し訳ありませんが飛び出した後の記憶が曖昧で…」

　「多少の擦り傷をお負いになられましたが今では痕も残らず完治しております」

　「あぁ…それは良かったです。…女の子ですもんね…痕がのこるような怪我がなく…本当に大事がなくてよかったです」

　周りにいたいじめっ子すら驚いたまま硬直している中、アンジェリーナが考え込むことで生まれた沈黙に耐え切れず尋ねた俺に執事が答え俺は自分があの時ヘマして傷が残ってしまってお咎めを言い渡しに来たわけじゃなかったのかと心からの安堵の息を吐いて言った。

　「女の子！？私が？私は公爵令嬢ですわよっ！？」

　「え？あっ、失礼な事を言い申し訳ありません！ただ…」

　俺の言葉に考えんでいたアンジェリーナが目を見開き驚いた表情をしたあと興奮したように言ってきたのでさすがに公爵令嬢を女の子扱いしたのは不敬すぎると思い、刑を食らうかと焦りながら謝罪し言い訳しようとした。

　「ただ？なんですの？」

　「あ、いえ…」

　「いいから正直にいいなさい！」

　アンジェリーナが嘘をつくなよと威圧しながら俺へ答える様に命令してきたので俺はどのみちもうダメだと思い素直に思ったことを答えることにした。

　「はい…では、失礼ながらお答えいたします…アンジェリーナ様はたしかに公爵令嬢様ですが…その…あの…」

　「なんですのっ！？はっきりおっしゃりなさいなっ！！」

　「はっはい！公爵令嬢様でも、アンジェリーナ様はキラキラして可愛い女の子なので！…その、あの…痕が残る傷がなくてよかったなぁと…申し訳ありません！」

　言いよどむ俺にイライラしたアンジェリーナの声にビビった俺がやけくそ気味に勢いだけで言った…最後はしりすぼみして小声になってしまったけど…とりあえず言い切った俺の言葉に目を丸くしていたあと、顔を真っ赤にしプルプル震えだしたので焦って謝罪したが、人生終わったとせっかく転生したのに短い人生だったと生をあきらめた。

　「お嬢様？」

　「ふぅ…ふぅ…だ、大丈夫よ。と、ところでセイジュ」

　「は、はい」

　「貴方まわりの方にはなんて呼ばれておりますの？」

　「へ？」

　「親しい方々にはなんと呼ばれておりますの！」

　「え？あの、父や母など親しい方々にはセイと呼ばれております！」

　「そ、そう…」

　心配した執事が声をかけるとアンジェリーナは荒い呼吸を整え意味が分からないけど突然俺の愛称を訪ねてきた。
　
　「で、では！私も今後あなたをセイと呼びますわ！それで先ほどの不敬を不問にいたすますわ！」

　「え？」

　「よ、よろしいですわね！」

　「え？それは構いませんが…アンジェリーナ様と僕なんかはあまりお会いになることもましてや直接お話をしていただく場もないかと」

　「うっ！…いいですわねっ！それとも不敬に？」

　「い、いえ！どうぞお呼びになってください！」

　「よろしい！」

　俺の言葉に顔を赤くしたアンジェリーナは満足げに頷いた。

　「そ、それでセ、セイは本日はどちらに？」

　「は、はい。治療院に向かう途中でした」

　「そう…」

　「はい。リハビリのため治療院にいきます。あとリハビリのあと治療院にある色々な本も読ませていただけるんで…ちょっと得しております…はは…」

　急に話題を替るようにわざとらしく咳をし尋ねたアンジェリーナに公爵様から直々に俺のリハビリを言い渡された治療院が対応よくしてくれ興味のあった本などをタダで見せてくれているので多少気まずそうに答え笑ってごまかした。
　
　「ふふっ、本を…セイは読書がお好きなんですの？」

　「本を読むのは好きですが、高価なのでつい…治療院の方々に甘えてしまってます」

　「そうですか、それでリハビリとは週にどれほどやらなければならないのですか？」

　「毎日です。毎日この時間に行ってお昼までリハビリをしその後夕方まで本をお借りしております」

　「ま、毎日？そんなにやらなければならないのですか」

　「動かさないと固くなってなお動かなくなるそうで…なのでおかげで毎日本を読めてます」

　「まぁ！セイったら意外とげんきんなのですわね！」

　「あはは…申し訳ありません」

　俺の顔を見たアンジェリーナが柔らかく笑い笑みを浮かべた。正直くっそ可愛いとおもった。

　「お嬢様、そろそろお時間が。それにセイジュ様もリハビリがおありになられますので」

　「え？もうそんな時間？…わかりました。それではセイ名残惜しいですが私はこの辺でおいとまさせていただきますわ」

　「いえ、お声をかけて頂き嬉しかったです。ありがとうございました」

　「え？そ、そう？本当にうれしかったですか？」

　「？。もちろんです！貴重なお時間をいただきありがとうございました」

　「そ、そう…そ、それではごきげんよう」

　アンジェリーナはいそいそと馬車に乗り込むと、執事がこちらに深々と一礼するとドアをしめ馬車は何事もなく走り去っていった。