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68話

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 「……なんでございますか?これは……」

 「え?工房と家ですが」

 せっかくアンジェリーナやセルジュと設計した改装がおわりそうだったところにメリダとマーリンも同居することになり新たに設計をみなおしたセイジュが完成した家にセルジュとリコーをつれてきてリコーが放った最初の一言がこれだった。

 「リコー言いたいことはわかりますがセイジュ様の感性ゆえ…」

 「外から見たらただの巨木ですよ!?意味が分かりません!」

 セイジュが賜った土地はエスメラルダの実家が収める領地内にあり、そこは険しい山で人がおおよそ入ってくる場所ではなく全く人の手がはいっていない山の頂上付近は原生林と化し見たこともない巨木が立ち並ぶ場所で、セイジュはその木をつかい家にしていた。

 「中は立派な塔のような作りで地下が広くなっていてなぜあんなに明るいのかとおもっていたら採光する木々まであるのですか!」

 「ええ、それは私も驚きを隠せませんでしたな」

 「とりあえずお二人の部屋にご案内しますので……」

 驚きワナワナ震えるリコーをともはや慣れているセルジュを引き連れ家の中に戻っていった。

 「こちらがリコーさんのお部屋です、となりは家事室になっておりますのでご安心ください」

 「へ?セ、セイジュ様こちらは誰のお部屋でしょう」

 「え?リコーさんの部屋ですが気に入らなかったですか?」

 「いえ!逆にございます!このような広い部屋など不要にございます!」

 「え?しかしもう作ってしまいましたし」

 リコーが案内された部屋はリビングルームに簡易キッチンがついておりドアが3つついていた。

 「リコー、セイジュ様の心遣いですありがたく使わせていただきなさい」

 「しかしセルジュ様!」

 「一応説明させてもらいますね、右の扉は先ほど言った家事室に、奥の扉は寝室、そして左の扉は浴室とトイレです。スペースの関係でトイレと兼用になってしまって申し訳ないですがお使い下さい」

 「……セイジュ様さすがに豪華すぎでは……」

 「そうですか?しかしセルジュさんのお部屋も同じ間取りですよ?」

 「そ、そうにございますか…ありがとうございます」

 リコーとさすがのセルジュも呆気にとられながらセイジュへ礼をした。

 「では、こちらを各家におまとめしてお渡しいたします」

 「よろしくお願いいたします」

 家を見て必要なものをリストアップしていった二人をホルマトロ家に送り届けセイジュが工房へ戻っていった。

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 「メリダ様!アンジェリーナ様!マーリン様!!」

 「あら?カリン様ごきげんよう」

 「ごきげんよう…ではありません!!」

 「どうなさったの?そのように取り乱して珍しいですわね」

 「ご婚約のお話は本当なんですのっ!?」

 セイジュとの婚約を王家、ホルマトロ家、教皇が同時に発表してから初めての学園にいった3人に血相を変えたカリンが不敬ともとられかねない勢いで3人に尋ねてきた。

 「はい!」

 「本当だったのでございますね…それでお一つお伺いいたしますが…知らせではお三方が正室となっておりましたが」

 「その通りです。セイジュ様を他国に渡さぬようにという理由と」

 「セイジュ様は政治や権力に疎い純真で愛らしいお方ですので教会がスカラーとしてのセイジュ様をお守りするためです」

 「そ、そうなんですか…」

 各貴族の家にも婚約を伝える封書が届きホマス家では騒然となっていた。

 「婚約をしましたがその後セイは旅にでておりますから実感はわきませんわ」

 「は?へ?た、旅をお許しになられたのですか?」

 「ええ、各国にあるマリアンヌ教会すべてがセイジュ様のお味方ですので」

 「それでも危険では?」

 「まぁその辺はそれぞれが対応なさりフォローしておりますので大丈夫です」

 「そうですか」
 
 どこか納得いかない顔をしていたカリンだったが一応の祝福の言葉をもらった。その後マチルダには3人とも心からの祝福を受け3人はマチルダの純真無垢な心に救われ、あちこちからヒソヒソと噂されているのも気にせず学園生活を送った。

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 「ドラルがよく認めましたね」

 「エスメラルダに捨てられたら終わりだからな」

 「ご隠居なさったとはいえ未だ影響力はそれなりにお持ちですからな」

 ホルマトロ家に来たブルリックとダンが婚約のことで話を聞きに来ていた。

 「それで?あのセイジュ様をよくご説得できましたね」

 「それはわからん、アンジェがセイと結婚したいと申してな、それを聞いたハンスがセイと話し合って納得したからな」

 「ほぅ、それで?」

 「メリダとマーリンについてはエスメラルダと教皇が押し切ったのだ」

 「なるほど…しかし3人とも正室とは思いきりましたね」

 「エスメラルダとカリーナの案を教皇が後押ししたのだ」

 「そうなのですね」

 「ブルリック、ダンやめておけよ?」

 「何をおっしゃられているかわかりません」

 「お前ならわかるであろう?西がどういつ動くのかわからんのだ、わざわざ娘を危険にさらすな」

 「アンジェリーナ様は危険にさらしてよかったので?」

 「しかたあるまい」

 ハスクがセイジュと結婚することと圧力で結婚を強いられることのリスクについて語った。

 「はぁ~…色々考えねばなりませんね…とりあえず今後、当家もご協力いたしますよ」

 「当然我が家も協力は惜しみません」

 「二人ともすまんな」

 「いえいえ、ことが落ち着いたらカリンを側室にしていただくつもりですからお気になさらず」

 「マチルダもです」

 「それはセイとそちらが決めることだ俺は何も言えん」

 「そのお言葉だけで充分ですよ」

 ブルリックとダンは自身の娘をセイジュの側室にする際、ホルマトロ家が干渉はしないという言葉を引き出し満足げに帰っていった。

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 「はぁ~…セイジュ様とアンジェリーナ様にお仕えできるなんてうらやましいわ」

 「ふふっ、幸せです」

 「まぁ!でも日に日にあなたも綺麗になっているし、そのメイド服も綺麗よね」

 「ありがとうございます。セイジュ様ですから、それにアンジェリーナ様に恥をかかせるわけにはまいりませんので身だしなみにもきをつけております」

 ホルマトロ家でアンジェリーナの引っ越し準備をしているリコーにほかのメイドがうらやましそうにしていた。

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 「セ!セイジュ様!」

 「はい?なんですか?」

 「私にあてがってくださった部屋の浴場にサウナまで!それにコンディショナーや垢すり、パックまで常備されていたのですが!」

 「???それがなにか?」

 「私はメイドでございますよ!?」

 「はい、そうですね。リコーさんとセルジュさんが来てくださって本当に助かっております」

 「おほめ頂きありがとうございます!ってそうではなくですね?メイドにあのような高価なものは!」

 「高価も何も僕がこの工房で作っているものなので販売しているもののように高価ではありませんよ。それにお二人のお給金はホルマトロ家で持ってくださるといってくださって、なので僕はこれくらいしかできませんよ」

 「それはそうですが…そうですか…ありがとうございます」

 「僕が使ってほしいと思って勝手に置いてあるので使ってください、リコーさんせっかくお綺麗なんですから」

 「ふぁ!?」

 「あ、そうだ!メイド服も作ってありますので…あったあった!これです!これを着てくださいね」

 「綺麗なメイド服にございますね」

 「エプロンとカチューシャは金属糸をつかっているので切られたり刺されたりもしませんし燃えません。黒い部分は燃えにくい素材なので安心してお使いください、それとシューズですがつま先部分は硬質となっているので重いものを落としても大丈夫ですよ」

 「あ、ありがとうございます」

  リコーの私室にはセイジュ制作の様々な家具などが設置されており浴室にはセイジュがこれまでに制作してきた美容品の数々がおかれていた。

 「セイジュ様にお仕えできて本当に幸せです」

 満面の笑みでいうリコーにほかのメイドたちは目を奪われ、リコーが立ち去ると羨ましそうに深いため息をついた。

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 「ふぅ~!やっと落ち着きましたわ」

 「アンジェリーナ様お疲れ様にございます」

 「リコーが居てくれて本当に助かりましたわ!」

 セイジュから家が完成したときいたアンジェリーナが一番先に引っ越しをおえ、かたずけ終わった自室でお茶を一口飲んでほっと息を吐いた。

 「ホルマトロ家の自室より広いですわ……」

 「メゾネットとなっておりますので2階を寝室とさせて頂きました」

 初めて自室をみたアンジェリーナが呆れたようにつぶやき、事前にセイジュが作り設置した家具や寝具、ホルマトロ家から運び込まれた家具、衣類や小物などリコーとセルジュがせっせと設置と収納をしアンジェリーナも進んで手伝った。

 「景色は見渡すかぎり森ですが空気もよいですしとても魔の山とよばれているところだとは思えませんわね」

 「アンジェリーナ様、メリダ様、マーリン様の自室からは朝日も夕日もご覧になることができるとセイジュ様がおっしゃられておりました」

 「そうなの?それは綺麗でしょうねぇ」

 「はい、そして湖にそれぞれ映るそうにございます」

 「まぁ!セイったらそんな気を遣わずともよいのに…ふふふ」

 自分だけが特別だといわれているようでアンジェリーナは嬉しそうに笑った。

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 「お引越しお疲れさまでした」

 「セルジュとリコーがほぼやってくださったのですぐに終わりましたわ」

 「お部屋のほうにお気に召さないところなどはございましたか?」

 「ありませんわ!」

 「アンジェリーナ様のお部屋に隣接するように専用の家事室などを設置していただけ我々もうれしく思います」

 「それでお二人はいつから寝室を共になさいますか?」

 「え!?」

 「ふぇぇぇ!?ま、まだ心の準備がぁぁ!!」

 この日は3人で引っ越しをしていたためセイジュが料理を作ると進言し、アンジェリーナもそれでいいといったことからセルジュとリコーがセイジュに作らせることに恐縮する中、次々とセイジュが料理をだし豪華な夕食をとりながらリコーの言葉にアンジェリーナは初日から顔を真っ赤にし動揺しまくった。
 
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 「セイジュ様、トイレなのですが汲み取りはいかがなさいますか?」

 「必要ありませんよ?」

 「へ?」

 「水で流していただくのはご説明しましたよね」

 「はい、すばらしいです」

 「ありがとうございます。それで水で流れたものは生活排水もすべてナラクと呼ばれている谷の下にため池のようなものを作ったのでそちらに流れ出るようになっているんですよ」

 「な…なんと…井戸もなくレバーを上下すると水がどこでも出ますし驚くことばかりにございますな」

 「まだまだ改善の余地は沢山あるんですがおいおいやっていきたいなと思ってます」

 「さ、さようにございますか…」

 工房でなにかを一生懸命作成していたセイジュに申し訳なさそうに声をかけたセルジュに対し淡々と説明するセイジュを見て今後も驚かされることばかりなのだろうなと一抹の不安とワクワクする高揚感を同時にあじわったセルジュであった。
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