『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

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2章 孤児院と旅立ち

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「さあ、ここが我が家よ」

 ……え、でかい。明らかにほかの家よりも大きい。いや、確かにお風呂って言っていた時点であれ? とは思っていたが、まさかここまで大きいとは。

「え、あの、本当に?」

 こちらが言葉を失っているのを気づいていないのか、気にしていないのか、にこにこと家に誘ってくる。いや、本当に場違い、という言葉がぴったりだ。こんな格好の俺たちが入っていい家ではない。どうしよう、とリキートと顔を見合わせる中、フェリラだけは何も気にせず家の中へと入っていてしまった。なんだか振り回されていないか?

「おかえりなさいませ、大奥様。
 そちらの方々は?」

「ただいま、アリー。
 この方たちはね、町中で私のことを助けてくれたのよ」

 しぶしぶと一緒に家の中に入る。すると、一番前で迎えてくれた女性は無表情のままだが、後ろの人たちは明らかに顔を引きつらせている。まあ、こういう反応が普通だよな。それにおばあさんが追った傷を見て大慌てだ。

「ど、どうされたのですか!?
 いえ、まずはお客様をご案内することが先ですね」

 おばあさんを部屋に連れていく人と、いやいやなんだろうが、俺らを部屋に連れていく人で別れる。おばあさんが助けてくれた、と言っていたのが効いたのか、特に不当な扱いをされることもなく大きな部屋に通される。うーん、でもこの高そうなソファーに座って汚したくない。

 何となく座ることもできなくて、どうしようかと戸惑っていると、きれいなドレスに身を包んだ女性がやってきた。えーっと?

「あら、あなた方がお義母様を助けたという? 
 なんだか汚らしいわね」

 なんなんだ、この人。ものすごく失礼だ。お義母様ということは、先ほどのおばあさんの娘、ということだろうか。というか、そんなに嫌そうな顔をするならここに来なければいいのに。

「どんな見返りを求めてお義母様を助けたのか知りませんが、あなた方に渡すものは何もありません。
 早くお引き取り願えませんか?」

「あの、あたしたち別に見返りがほしくて、助けたわけではありません。
 たまたま柄が悪い人たちに絡まれているのを見て、それで助けただけです」

「あら、見返りが欲しかったわけではないなら、いいじゃない。
 すぐに出ていきなさい」

「でも!」
 
「フェリラ」

 確かにこの女性はかなり失礼だけど、フェリラも今のままでは感情的すぎる。話が進むわけがない。そう思って名前を呼ぶと、ぐっと黙ってくれた。さて、どうするか。こういうのイメージとしてはリキートの方が穏便にできそうだけど……。うん、いいや。

「あの、俺たちはおば、大奥様に招待されてこちらにいます。
 何か文句があるならば、俺たちではなく大奥様にお願いします。 
 俺たちも招待してくださった大奥様が、ここを出て行けというならば素直に出ていきましょう」

 まっすぐに目を見て伝えと、一歩女性が下がる。よし、勝った。いや勝ち負けではないんだけれど。さてこの後どう出るか。どちらもそれ以上反応しないでいると、ノックの音が聞こえてくる。そして、先ほどアリィーと呼ばれた女性がやってきた。

「失礼いたします。
 大奥様より、お三方をお風呂にお連れするように、と承りました。
 ご案内いたします」

「あ、ありがとうございます」

「おや、奥様。
 こちらでいかがされましたか?」

「あ、アリー。
 いえ、何でもありませんわ!」

 あ、去っていった。本当になんだったんだ、あの人。

「申し訳ございません。
 ではこちらへどうぞ」

 お、おお、きっちりと頭を下げてそのあとは何もなかったかのように案内し始めた。この女性強い。案内された浴場はとても大きいところだった。ちなみにちゃんと男女別れている。

「す、すごい!
 何これ、こんなに大きいの初めて見た!」

 あー、なんかすごい大きな声が聞こえてくる。壁があるのに、それすら超えてフェリラの声聞こえるよ。いや、確かに個人の家でこの大きさすごいけれどさ……。

 さてリキートはどうだろうか、と見てみると特に反応はない。そういえばもともと貴族の出って言っていたから、この大きさもそこまで感動するものではないのかも。

「あはは、フェリラの声すごいね」

「うん、楽しそうで何より」

 湯に入る前にしっかり体を洗う。この辺りは日本と変わらないね。本当に久しぶりに髪と体を石鹸を使ってしっかりと洗う。うーん、これだけでもだいぶさっぱりした。

「はー、でもこうやってゆっくり湯につかれるの久しぶりだ。
 うん、気持ちいい」

「そう、だね……」

「どうかした?」

「いや、ハールの髪ってそんな色だったんだ」

 そんな色? 一度髪の色が変わってからは特に変化していないかと思うけれど。それにしても伸びてきたな……。って、そうじゃなくて。

「俺、元からこんな色だぞ」

「いや、汚れてくすんでいたみたいだね。
 灰色かと思ったら、きれいな銀だ」

 銀、確かにそう見えるか。うーん、しかしすっかり髪の色落ちたな。これで、もう誰も俺とスーベルハーニを結び付けなければいいんだが。後は瞳の色を変えられれば完璧なのに。どうして、未だにあの忌々しい皇帝の色を持っているのか。

「どうかした?」

「いや、何でもない。
 それを言うならリキートもそうじゃないか?
 きれいな金髪だ」

 金と銀、正反対な色だ。

「あー、やっぱり目立つかな? 
 銀も珍しいけれど、金も平民だと珍しい色なんだよね。
 隠した方がいいかもしれないな。
 ……あのさ、前々から気になっていたんだけど、ハールの生家って貴族なの?
 孤児院の出だっていうし、こっちからこんなこと聞くのどうかと思っていたけど、神剣のこともあってやっぱり気になって……」

 うつむいて、気まずそうに話すリキート。やっぱり気になるよな。それにしても神剣、ね。あれって魔力注がないと覚醒しないみたいだし、そうなるともう魔力持っているのは隠す必要ない? って今はそういう話じゃなかった。

「俺はもう何年も前に家を出たから、もう関係ないと思っているけれど。
 でも血筋上は貴族に連なるよ。
 もう二度と戻りたいと思わないけれど」

 貴族、それを口に出しながら、あいつらのことがかすかに頭に浮かんだ。だめだ、思い出しては。もう、どうでもいいんだ、そう、思わないと……。

「そっか、うんそれを聞いてすっきりした。
 ごめんね、もう聞かない」

「あ、ううん」

 リキートの声にハッとする。俺は今一体何を考えていた。それにしても、なんだか気まずい空気になってしまった。それにしても、これでも目立つ色ならば、フードも買っておくか。

「フードが付いているものも買うか」

「あ、じゃあ、僕も買おう。
 せっかく家を出たのに見つかりたくないからね」

 お、リキートも買うのか。ならいっそ三人ともフードかぶって活動するのも面白いかもしれない。いや、逆に怪しいな。


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