『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio

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3章 冒険者養成校

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「それにしてもハールがサーグリア商会と知り合いだったは……」

「隠していたわけではないんだけどね。
 俺が一緒に旅してた頃は、移動商会だったし」

「ああ、僕も最初は移動商会だって思ってたんだ。
 初めて見た時、馬車の荷台のところをつかって商売していてさ。
 小さいけれど、いろんなものを売っていて」

「へー。
 それっていつくらいのこと?」

「そんなに前じゃないかな?
 えっと、2、3年前?」

 俺が分かれた後か。そういえば、引きこもっていたとはいえ、ある程度お客さんは把握していた。その中に貴族っぽい人いなかったし、それはそうか。

「ダンジョン行くようになったら、ダンジョンの素材買い取るって言ってくれた」

「え!? 
 ほんと?」

「うん」

 ありがたい、と喜んでもらえたからよかった。少しだけ、昔の伝手は頼らない、といわれるかもしれないと思ったのだ。これで卒業後の心配をする必要はなくなった。


 ここでもリキートは同室。フェリラは別の女子と同室らしい。ここでは二人一部屋が基本、そしてフェリラも相手の子も快く同意したということで、そうなっている。毎年男女比が変わるから、男子寮女子寮なんてなくて、俺たちの部屋はここでも隣同士だった。

 そしてリキートが寝静まったことを確認した後、そっと外に出る。シャリラントが外がいい、といったのだ。

「それで?
 なんの話だ?」

 さすがにいろいろとありすぎて疲れた。できれば早く休みたいところだが。

『そんなに急がないでください。
 ほら、今日は月がきれいですよ』

 月……。確かにきれいだ。どこで見ても変わらない。ふと、サランと酒を飲み、ミーヤと話したあの日のことを思い出した。時計、のことも。

「で?」

『せっかちですね。
 まあいいでしょう。
 ずっと気になっていたことがあったんです。
 試験も終わったようですし、もういいかと思いまして』

「いいって……、何が?」

『ねえ、ハール。
 あなたは本当に生きているんですか』

 ……、……はぁ!? いや、え、俺死んでないよな。いや、確かに一回死んだ。でも、今は生きている。心臓、うん、動いている。

『生きているならば、なぜあなたは感情を動かさないのですか?』

 感情、を? そんなことは、ない。だって、今日だって懐かしいって思った。楽しいって思ったこともある。

『確かに表層では何かを感じていることがあります。
 でも、心の一番奥で、あなたは何も感じていない。
 人間が、当たり前のように感じる恐怖も、怒りも、あなたは感じない』

「恐怖や、怒り?」

 そんなもの感じてしまったら、だめだ。

『ダンジョンに行った時、初めて出会う魔獣、満足な武器も、満足な鍛錬もない。
 それなのにあんなにも冷静だったこと、異常だと思わなかったんですね』

 なあ、どうして、そんなにつらそうな顔をする? 俺に感情があろうがあるまいが、シャリラントには関係がないのに。

『あなたの中にいたとき、少しだけ過去を覗きました。
 だから、この国に来る前のことも知っています』

「なっ!?
 そんな勝手な!」

『あなたの決意は、早々できることではない。
 それもたった8つの少年が。
 世の中が、あなたみたいな人ばかりだったら、もっと世界は平和でしょうね』

「それはどういう意味だ?」

『そうやって、憎しみにうまく蓋をできるんですから。
 上手に、歳を経るごとに頑丈に鍵をかけて』
 
 憎しみに蓋……。だって、そうしないと立ち止まると思った。そうしないと、今すぐにでもあいつらを殺しに行こうと、殴りこんでいた。俺は、どうして、こんなところにいるんだろうかって……。

『でも、あなたがその感情に蓋をしている限り、あなたが本当に意味で生きることはできない。
 あなたがきちんと死者を悼むこともできない。
 感情はね、生者の特権なんですよ。
 それなのに、生きながら自らを殺してどうするんですか』

 生きながら、殺す? だって、仕方ないじゃないか……。

 あのとき、あいつらを、殺しに行こうと思った。そう思って、皇宮に戻ろうと。でも、でも……、声がしたんだ。二人の。こんな俺のことを、『愛している』って言ってくれる声が。

 それなのに。

「それなのに、戻ることなんてできるわけ、ないだろ……。
 俺にできることが、逃げることだけだって、わかっていたのに。
 二人のために……」

『ねえ、これはあなたの人生です。
 あなたの母上の人生でも、兄上の人生でもない。
 それなのに、あなたはそのお二人のために生きるのですか?』
 
 だって、二人は俺のために命を懸けてくれた。それなのに、俺だけがのうのうと生きる? そんなの無理に決まっている。

『あなたは力を手に入れた。
 ミベラの神剣という、強力な力を。
 それでもまだ逃げるのですか?』

 ちから……。あの時は、なかった力。俺は、何のためにそれを使いたい? ああ、でも。

「こわい……。
 ずっと、蓋をしてきた。
 蓋をするのは得意なんだ、ずっと。
 でも、蓋を開けたことはない……。
 こわい、怖いよ」

『私は、支えます。
 ハール、まずは力を付ければいい。
 闇から、目をそらさなくて済む、それくらいの力を』

 ちから。

『本当は少し迷いました、この話をするのを。
 あなたがどれほど必死に目をそらしていたか、感じましたから。
  もしも、目をそらしてすっかり過去を忘れて、生きていけるならば、それでも良かった。
  でも、あなたは優しすぎる。
  忘れることができなくて、だから目をそらすことしかできなかったんでしょう?
 それに、今日他人の口から皇国の名が出て反応したとき、思ったんです。
 あなたはこれに向き合わねば、いつまでも皇国の影におびえて生きるのか、と。
 いつまでも、大切な人と向き合うことができないのか、と』
 
 それは、不幸ではないですか? そう問いかけるシャリラント。どうして、この神使はこんなにも繊細な表情をするのだろう。人間の些細な雑事、関係ないはずなのに。どうして、俺個人のことにこうも必死になる?

『だから、お願いだから、あなたはあの人のようにはならないで』

 あの人? 疑問に思ったときにはシャリラントは消えていて、なんて勝手な、そんな風に思った。

   時計と剣。ずっと大切に、大切にして、僕が目を逸らしていたもの。

 時計の蓋を開ける。その中でほほ笑む母上、そしてまっすぐにこちらを見る兄上。じっくり見たの、いつぶりだろうか。

「僕はどうしたらいいの……?」

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