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4章 皇国
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しおりを挟む俺は、今幻覚を見ているのだろうか? だって、この人がこんなところにいるはずがない。
「どうして、ここに?」
「本当に?
本当に、あなたはスーベルハーニ皇子、なのですか?」
信じられない、と目を見はるその人。ああ、一体いつぶりだろうか。その名を人の口から聞いたのは。俺の口は自然とその人の名をつぶやいていた。
「リヒト……?」
「はい、はい……。
ああ、本当に……」
一緒に入ってきた人たちの間を抜けて、リヒトがこちらにやってくる。そして俺に抱き着くと、無事でよかった、と小さくつぶやいだ。
「リヒトも……」
「言いたいこともお話したいこともたくさんありますが、それはまた後でですね」
そういうと深呼吸をする。それで気持ちを整えたのか、扉の方を見てすみません、と謝った。
「いいえ。
では、本当にその方は……?」
「はい。
アナベルク皇国の皇子、です」
「では、あとは話し合った通りに」
「はい」
すでに何か話がなされていたのだろう。それだけ話してほかの人はいなくなっていった。そしてリヒトと俺、そしてシャリラントだけとなった。
「本当に、お久しぶりです。
ずいぶんと見た目が変わりましたね」
「そう、かな?
自分ではよくわからないや」
「変わられましたよ。
立派に、なられました」
立派、か。中身はずいぶんとだめになってしまった気がするけれど。
「本当に、驚きました。
オースラン王国から、皇家のものと思われる人がここにいると聞いたときは」
「ご、ごめんなさい」
「いいえ、謝られる必要はございません。
正直生きてはいないのでは、とも思っていたので安心しました」
確かにそう思われても仕方がない。リヒトもなんだか疲れている気がするな。
「スーベルハーニ皇子だと確認ができたところで、私がここに来た目的を果たしましょう」
「目的?」
「はい。
私はあなたに選択をしてもらうために来ました。
このまま国に帰らずに自由に暮らすか、それとも国に帰るか……」
「ど、どういうこと?
俺は、国に帰ろうとそう思って……」
そう口にした俺を、リヒトはそっと止めた。まずは話を聞いてほしいと言われてはさすがに黙るしかない。でも、俺に選択してもらうってどういうことだ?
「きっと今の皇国のことをほとんどご存じないと思いますので、わからないことは聞いてください。
今、皇国は内部から腐敗していっています。
第一皇子はそれをどうにかしようとしている」
「どうにか……?」
「ええ。
端的に言うと、クーデターを起こそうとしています」
クーデター。その言葉だけをささやくように、リヒトが言う。クーデター……、クーデター!?
「え!?」
第一皇子なんて、正当な王座に一番近い存在だ。そのまま引き継ぐのが一番平和で安全な方法。それなのにわざわざクーデター……? それほどまでに皇后の勢力が強いのか。いや、でも第二皇子に皇帝が務まるとは思えない。8年ほど前、といえどもあの時すでに成人していた。そこからそうそう変われるとは思わないんだけれど。
「理由はいろいろとありますが、それは後程。
あなたの立場からすると、おそらく国に帰ると否応なくこれに巻き込まれます。
それも第一皇子側として」
皇后側につくのは嫌でしょう? そう付け加えるリヒト。当たり前だ。あいつの味方は絶対にない。それにしても、そうか、クーデター……。
「詳しい話はあとでって?」
「あなたが皇国に帰ると決心されたら話します。
あまり話していて気分がいいものではありませんから」
なるほど。まあ、おいそれと内部情報を口にはできないか。あれ? でも自由に選べるのか? 神剣を持っている俺はそれなりに脅威になるだろう。それなのに国に帰らないならば放置する? あの皇后がそんな態度をとるとは思えないが……。
「リヒト、君は一体誰に派遣された……?
それに君一人で来たのか?」
「それは……。
私をこちらに派遣したのは、第一皇子です。
両陛下はそもそもあなたが見つかったこともご存じありません。
気づかれることなく国を出るため、私一人で来ました」
「両陛下が、知らない!?」
とうとう完全に仕事放棄したか? そこまで実権を第一皇子に渡しているなら、もうクーデター必要なくないか? 突っ込みどころ多すぎてどうしたらいいかわからない。
「ええ。
そして第一皇子としてはあなたが味方になるなら、喉から手が出るほどに欲しがっている。
でも敵になるなら絶対に国に入れたくない。
だから初めからこうして確認しているというわけです」
「な、なるほど……?
確かに味方は多い方がいいだろうけれど」
「それだけではないですが、まあそれもまた後程でいいでしょう。
第一皇子がやりたいことが終わった後は、確かな地位を約束してくださるようですよ。
ですが途中で降りることはできません」
どうしますか? と聞いてくるリヒト。いや、どうって言われても……。かなり面倒なことに巻き込まれることはわかった。でも決めたから、もう。俺は堂々と二人に向き合えるようになりたいし、そのためには皇国から逃げているだけではいけない。
それにクーデターなら堂々とあいつらと敵対できるし、そのあとの基盤はきっと第一皇子がどうにかしてくれる。これ、俺にとっては渡りに船では?
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